B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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戦艦島での激闘

「タイガーマスク! ハインラインの予想通り、アンダーソンを狙ってきやがったんだな!?」

「くっ……潜入がバレていたというのか!?」

「あぁ! 見回りのアンドロイドたちの信号を目視で確認してたんだよ!」

 

 オリジナルのあげた驚愕の声に対し、フレデリック・キーツは得意げに自分の胸を叩きながら応えた。目視で確認とはマッチョな方法だが、ある意味ではデジタルの持つ弱みを克服しているとも言えるだろう。

 

 恐らく監視は交代制だろうと思いたいが――まさかじっとキーツ自身がアンドロイドの信号を確認していた訳でもないのだろうが、あの男ならそれくらいはやりそうだ。それは別に、彼が非効率であるということを意味するのではなく、機械と人の持つそれぞれの強みを理解しており、双方のメリットを最大限に引き出せる男という意味である。

 

 虎がスポットライトの強烈な灯りを見上げる中、船上のべスターがマイクを握った。

 

「バレてしまっては仕方が無いな。ADAMsを解禁し、早急にアンダーソンを仕留めて脱出するんだ」

「あぁ、了解……」

 

 そう言いながらスポットライトに背を向けると、ブラウン管のスピーカーから「甘いぜタイガーマスク!」というキーツの怒声が響く。

 

「アンダーソンはその建物の中にはいないぜ……この島の中でもっとも安全な場所にいるんだからな!」

「……なんだと? それはどこだ!?」

「はは、本来なら聞かれて答えるバカはいねぇが……良いだろう、教えてやる!!」

 

 虎が再度振り返ると、キーツはMFウォッチの操作をし始め――独自の改造をしているのだろう、時計から何やらアンテナのようなものが飛びだした。

 

「出でよ、堅牢たる鉄の守護者……TF19!!」

 

 熱い叫び声と共に、カメラの映像が振動しはじめた。何かが地下から上がってきているのだろう、広間の中央に真っすぐな線が入ったかと思うと、それを起点に左右に開け放たれ――そこから巨大な顔が浮上してきたかと思うと、すぐにその目線の高さに同じく巨大な銃口が現れた。

 

「チェーンガンをくらいな!」

 

 そんな露骨に攻撃を宣言されて、むざむざ当たりに行く原初の虎ではないはず――予想通りの轟音とカメラの乱れが生じ、次に映像が映った時には、地中から現れた機影の背後からの視点になっていた。

 

 オリジナルの動きに合わせて、ちょうど下からせりあがって来たモノの姿も見えてくる。それは人のシルエットを持つ巨人であり、全長は十メートルほどにも達していた。その者の規格に合わせているのだろう、銃から落ちていく薬莢のスケールも通常の五倍ほどの大きさであり、それらがコンクリートに叩きつけられる乾いた音がけたたましく鳴り響いた。

 

 薬莢の雨が降りしきると同時に、機械の巨人はゆっくりと虎の方へと振り返ってくる――強烈なスポットライトの元、青を基調にした装甲に、頭に通信を受けるためなのか一本の鋭い角をつけた、二足歩行用のロボットが姿を現した。

 

「巨大ロボットだと!?」

「アラン、あんなデカブツの相手をする必要はない。アンダーソンの暗殺を優先……」

「……なかなか格好いいじゃねぇか!」

「……はぁ?」

 

 オリジナルの感想に対し――自分としても、まさか巨大ロボットを見れるとは思っていなかったし、流石フレデリック・キーツと言わんばかりのデザインで、素直に格好いいと思う――画面内のべスターは何かスイッチが入ったのか、マイクを握りなおして前のめりになった。

 

「いいかアラン。無重力空間ならまだしも、大気中で二足歩行をする戦術的優位性なんぞまったくないんだ。要するに、アレはただの浪漫で作られた、全く非合理的な……」

「おぅ、タイガーマスク! コイツの良さが分かるとはなかなかに見どころがあるな!」

 

 早口でまくしたてるべスターの通信を、キーツの大声が遮った。パイルバンカーを却下したり、べスターは設計に関して合理的で無駄を省いていくタイプなのだろう。逆にキーツの趣味は、惑星レムで見た通り、なかなか男心というか、浪漫を分かっているタイプの設計をする――もちろんあの男は単純に浪漫だけで運用はしないタイプであることも間違いなかった。

 

「だが、ここがお前の墓標になるんだ……冥途の土産に教えてやる! アンダーソンはTF19の中だぜ!」

「なんだと!?」

「いくつかの作戦行動で、テメェに高火力の武装が無いのは織り込み済みだ! 特殊合金製のボディはテメェの攻撃に対して無敵……絶対に破れない、完全無欠の要塞ってわけだ!

 さらに、TF19は対高山ゲリラ用の制圧兵器だ! コストの問題で量産こそされていないが、その戦闘能力は折り紙つき! アンダーソンを守りながらテメェを屠る、一石二鳥の策ってわけよ!」

 

 なるほど、戦車の行き来の難しい山岳地帯を制圧するために作られた兵器なのか。そうなればキャタピラーではなく二足歩行である理由も頷けるし――同時にリーゼロッテの話では山岳地帯で抵抗を続けるゲリラの制圧は難しいらしい。そういう流れで作られた兵器なのだろう。

 

 ともかく、銃口がオリジナルの方へと向けられ、再び激しい銃声がスピーカーから聞こえだした。オリジナルはADAMsを解禁しているので簡単に銃撃を浴びるようなことはしないが、上からスポットライトで虎の位置を確認しているキーツからすれば居場所は割れてしまっている。そのため、ロボットは足を動かしながら、虎を捉えようと右往左往している。

 

 すると、「キーツ、あまり動かすな……」という声がロボットの方から聞こえた。かなりしんどそうな声色から想定するに、中にいるアンダーソンはその乗り心地の悪さに振り回されて、三半規管に異常をきたしているに違いなかった。

 

「お、おぅ……すまねぇ……おい、タイガーマスク! 正々堂々と戦いやがれ!」

 

 フレデリック・キーツの挑発にわざわざ乗ったのか、アラン・スミスはあろうことかロボットの正面で――といってもチェーンガンが空転しているのを見て、ひとまず安全と判断したのだろうが――止まった。

 

「ターゲットがあの中にいるのは確からしいな……それなら一発、オッサンの言うように力比べしてみるか!?」

「おい馬鹿アラン、や……」

 

 べスターが「止めろ」と言い切った瞬間には、ロボットの顔面がモニター全体に映し出されていた。蹴りだした右足は巨人の瞳を守っている強化ガラスを的確に打ち抜き――わずかにヒビが入り、入れ替えて左足でガラスを蹴って翻り、虎はそのまま巨人の足元へと落下した。上からガラスが割れる音はするが、巨大ロボットはびくともしていないことか、今の一撃が全くの徒労であったことを証明していた。

 

「ちっ……!?」

「はは、超音速と言えども、巨大ロボの重量を脅かせるほどの衝撃は出せないようだな!」

 

 足元に居る虎を踏みつぶそうとしたのだろう、巨大ロボットはその場で地団駄を踏み出した。それに合わせて再び映像が急転し――どうやら一度呼吸を入れるためか、虎はキーツの視界に入らない物陰へと身を潜めたようだった。

 

「ちょっぴりダメージを当てることは出来なくもないが、それよりもこっちの脚がもたないだろうな」

「当たり前だろう……巨大ロボットに蹴りをかます馬鹿があるか?」

「やって無駄だということが分かっただけでも前進だろ? しかし、あのデカブツを倒すには搦手が必要になるだろうな。ケイス、あのロボットのコントロールをそっちで奪うことは出来ないか?」

 

 虎の質問が聞こえると、べスターも後ろを振り返り、真剣な表情で作業をしている右京の横顔を見た。

 

「残念ながら、アレは現在ネットを切って、フレデリック・キーツの持つ端末でコントロールをしているらしいね。外からコントロールを奪うことは不可能だ」

「なるほど、ハッキング対策をしているってわけだな。それなら、オッサンの端末を奪えばなんとかなるか?」

「いいや、恐らくは厳しいだろうね。そうしたら、コックピットのコントロールを完全に入れ替えるだけだろう……アンダーソンはパイロットじゃないから動作は鈍くなるだろうが、それでも完全無欠の鉄の箱に守られているという事実は変わらない。時間を稼がれている間に応援も駆けつけてくるだろう」

「それじゃあ、なんとかコックピットを破壊するのが手っ取り早そうだな……コックピットの位置は分かるか!?」

「そういうの解析は、ヴィクターさんの方が得意だろう。二足歩行のロボットなら、設計思想にサイボーグと近しい所があるだろうからね」

 

 右京が顔を上げて視線が合うと、べスターは頷き返し、作業のために再び自分の端末の方へと戻った。その後ろで、右京が「それより」と虎との会話を続ける。

 

「先輩はTF19を倒せる武器を調達するのが良いだろう。幸い、そこはDAPAの兵器工場だ。市場には出回っていないような強力な兵器が保存されているはずだからね」

「そりゃいいな、どこへ向かえばいい?」

「最初に来た桟橋の方に、保管用の倉庫がある……対戦車ミサイルレベルの破壊力があれば、あの装甲を破ることもできるだろう」

「了解だ!」

 

 ロボットの解析を別のモニターで解析する傍ら、べスターは虎のアイカメラの様子も確認を続ける。潜入が察知されたことから、すでに身を隠す必要性もあまりないのかもしれないが、それでも虎はわざわざ迎撃体制を取る第五世代達を破壊しながら大通りを進んでいるようだった。

 

「アラン、なぜわざわざ敵に位置を知らせるようなことをしているんだ?」

「わざとだよ……良いから見てろって!」

 

 自分としては、オリジナルの考えていることは分かる――恐らく、フレデリック・キーツに自分の行く先を敢えて教えているのだ。虎が武器保管庫に到着すると、その推測は確信に変わった。あのロボットの装甲を打ち抜けるような武器は基本的にサイズが大きく、持ち運びする手間を省いたのだろう。

 

 保管されている武器の多くはアンドロイド用であった。それはつまり、メリットもデメリットもある――メリットとしては人の手で持てる規格であること。デメリットは武器の起動にアンドロイドのシリアルナンバーが必要なため、光学兵器など高等な武器は扱えないことだ。

 

 武器に関してはネットに繋がっていないため、星右京をもってしても遠隔から扱えるようにすることは不可能だ。そうなれば、実弾兵器などの比較的旧型の武装を選択する必要がある。オリジナルはその中でも二つほどチョイスして運び、武器庫の窓の方へと移動し――地響きにより振動している窓ガラスをナイフの柄で破り、オリジナルは運んできたうちの一つを構えた。

 

「おい、この辺りに居るのは分かってるんだ! 姿を現しやがれ、タイガーマスク!」

「言われなくてもな……こっちだぜ、オッサン!!」

 

 追いかけてきた巨大ロボと、ヘリから下を探し回っているフレデリック・キーツの方へと向けて、オリジナルは武器を向ける――同時に、べスターの方も解析が終わり、巨大ロボットの胸の部分が赤く点滅しているのがモニターに映し出された。

 

「アラン、コックピットは胸部中央だ!」

「王道だな……いくぜ! チェーンガンのお返しに、ロケットランチャーを食らいやがれ!」

 

 虎がトリガーを引くと、ガスと共に四連ロケットランチャーに装填されていた対戦車ロケット弾が射出され、ロボットの胸部を目掛けて弾が飛んでいく――本来なら反動の大きさのため連射は厳しいはずだが、その辺りは流石のサイボーグというところか、照準をずらさずに四発を即時に打ち切って見せた。

 

 しかし、四発の弾は中空で爆発を起こしたため、コックピットに着弾することは無かった。

 

「なっ!?」

「馬鹿野郎めが! 言っただろう、山岳ゲリラとの戦いを想定していると……ロケット弾の類はカメラで感知し、迎撃するシステムを搭載しているんだよ!」

 

 確かに先ほど見た感じだと、側頭部のバルカン砲が弾道を察知し、弾を迎撃したようだ。

 

「……やっぱり、火器の類は俺の性に合わないな」

 

 迎撃されたのは性に合う合わないの話でもないと思うが、自分もそうなので気持ちは分かる――煙が渦巻くモニターで視界は遮られているが、アラン・スミスはしゃがみ込んで何かを拾い上げた。

 

 最初からもう一つの武器を使えば話も早かったはずだが、恐らくのところはロケットランチャーをただ単にぶっ放してみたかったというのが正直なところだろう――ともかく、虎は機械についている紐を引っ張りながら窓から離れた。

 

 ADAMs起動後の独特なカメラのブレが起こった後、TF19の胸部装甲から激しく火花が散っているのが映し出される――虎が両手で振りかざしているその先には、けたたましく鳴り響きながら動く刃が見えた。

 

「……ダイアモンドチェーンソーだとぉ!?」

 

 チェーンソーが装甲にぶつかっている音が大きく、キーツの驚愕の声は僅かに聞こえただけだ。しかし、流石特殊合金で作られた戦艦島における最高の防御を誇る砦、簡単には切り裂けはしないようだった。

 

 しかし同時に、懐に潜り込んでいるのだから、ロボ自身の迎撃もままならない訳だ。結局、デカブツは懐に潜り込まれると弱い。それも音速を超える虎なら、飛び込むこと事態は容易。あとはこのように通用する武器さえあれば、活路を拓くことができる。

 

 チェーンソーの刃が折れるのと、コックピットを守る装甲部分に確かな亀裂が入ったのは同タイミングだった。その隙間から、僅かに老年の男が泡を吹いて気絶しているのが見える――恐らく、TF19の無茶な動きにアンダーソンは気を失ってしまっていたのだろう。

 

「アンタに恨みは無いが……そのまま目覚めることなく、永久の眠りについてもらう」

 

 虎は腰から一本の短剣を取り出し、僅かな隙間からそれを投げ入れ、男の眉間に深々とそれを突き立ててみせた。アラン・スミスはすぐさまその場を離れてアスファルトへ着地し、上空でヘリの壁を叩いている白衣の男を見上げた。

 

「アンダーソン! 守れなかったか……!」

 

 恐らく、キーツとアンダーソンは旧友か、ないし親しい関係にあったのだろう。僅かなやり取りを見ただけだが、二人は悪友というか、気心の知れている雰囲気があった――フレデリック・キーツの性格を考えれば、味方の中で誰が亡くなってもあのように死を悼むだろう。

 

「アンタの策、攻守一体で悪くなかったが……場所と相手が悪かったな」

 

 山岳ゲリラを想定して作られた機動兵器を用いたとしても、虎がチェーンソーを持って襲い掛かってくることまでは想定できる訳が無い。虎はそのまま踵を返して移動を始めると、その背中にはキーツの怒声がぶつけられた。

 

「おい、逃げる気か!? オレと戦え、タイガーマスク!」

「俺はターゲット以外は殺さない主義なんだ……そう言うアンタこそ、DAPAを抜ける気は無いのか? 人体実験だの武器製造だの、碌なことをしてないだろう」

 

 アラン・スミスは振り返り、ヘリの上で神妙な表情を浮かべている男の顔を見つめた。

 

「乗りかかった船なんだ……仮に船頭が間違えているとしても……それを見過ごしてきたオレは、誰かに裁かれるその日まで……最後まで戦い続ける義務がある」

「……不器用なオッサンだな。だけどそういうの、嫌いじゃないぜ……長生きしてくれよ」

 

 長生きしてくれと言ったオリジナルも、ましてやキーツ自身も、まさか実際に万年を生きることになるとは思ってもいなかっただろうが――ともかく虎はヘリに向かって手を振り、後は音速を超えて脱出用の潜水艇のある区画の方へと一機に移動を始めた。建物の中にさえ入ってしまえば上から見つかる心配もないし、同時にタイガーマスクを迎え撃つために第五世代型も出払ってしまったようだから、道中での戦闘も無かったようだ。

 

「なぁ」

「ダメだ。あんな携帯性の悪い武装の追加は認められない」

「はぁ……相変わらず浪漫がねぇな、お前はさ」

 

 オリジナルとしては、先ほどのチェーンソーがなかなか派手で手馴染みが良かったということなのだろうが――べスターといつも通りの軽口をかわしあい、戦艦島を後にしたのだった。

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