B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
ブラウン管の画面が急転し、視点は運転席へと切り替わった。いつものトラックではなく軍用の車両なのだろう、車内には計器や機材がゴチャゴチャと取り付けられており、運転席は左側にある。
そしていつものようにコンテナが取り付けられているわけでなく、視線をルームミラーに移すと、車の後部でアタッシュケースから武器を取り出している虎の姿があった。
「改めて、今回の作戦目標は、ジム・リーの暗殺だ。今回は最初からADAMsの利用は解禁する……潜入ミッションではないからな。
代わりに、今回はターゲットの位置が分からん。足を使って確実にリーを見つけるんだ」
「あぁ、了解だ……しかし、ジムは今日、街に現れるのか?」
「それに関しては間違いない。配信の予告がされているからな」
べスターはハンドルを左手で握りながら――DAPAと各国軍部は懇意でないせいか、はたまた互いに信用をしていないせいか、未だに軍用車は手動がメインらしい――右手で車内中央に取り付けられているモニターを覗き見た。確かに、そこにはストリーム準備中の文字が記載されている。
「ちっ……ふざけやがって。だが、ライブ中継をするなら、配信開始をしてから周りの景色を見れば確実に見つけられそうだが……可能なら事前にある程度のアタリをつけておきたいな」
「あぁ。だが、それをするならアイツの力が必要だな……おい、起きてるか?」
男がモニターしたのボタンを操作すると、配信の待機画面から切り替わり、右京の顔が映し出された。向こう側は夜なのだろう、少年の背後にある窓の外は暗い――そして先ほどまで寝ていたのか、右京はあくびをする口を手で抑えていた。
「すまないね、普段なら一番覚醒している時間なんだけど、最近は人間らしい生活をしていたからさ」
「妹とよろしくやってるらしいな?」
虎の一声に眠気が吹き飛んだのか、少年の肩に力が入ったようだ。車の後部にもモニターがあるのだろう、オリジナルはアタッシュケースから視線を離して話を続ける。
「そんな構えるなよ。どっちかって言えば感謝してるんだ……お前のおかげで、妹も前向きになってきているようだからな」
「……マチルダから聞いたのかな?」
「あぁ。まぁ、細かいことは帰ったらゆっくり聞かせてもらう。それより、ジム・リーの位置は分かりそうか?」
「先輩のご機嫌取りをしなきゃ、後で首を絞められそうだ……ちょっと待ってくれ、大体あたりはつけてるんだ」
ルームミラーから再びモニターに視線が移されると、画面がデジタルの地図へと切り替わり、その上に何個かピンが刺されていた。リーの潜伏場所の予測値点なのだろうが、そのどれもが路上や公園などではなく、建物の真ん中に建てられていた。
「今はステルスで隠れているからカメラには映ってないが、恐らく点をつけたどこかに潜伏しているはずだよ」
「どうしてわかるんだ?」
「リーの動画を何個か見て予習したのさ。ドローンを飛ばすにしても、手に持ったカメラで中継するにしても、見晴らしの良い所を確保したほうが良いからね。案の定、都市部では比較的見晴らしのいい高所にポジショニングしていることが多かったよ」
考えてみれば当たり前だけれどね、少年はそう付け足した。確かに、少し考えれば予測すること自体は簡単であっても、それを対策するのは旧政府連合としても難しかったのだろう。
ジム・リーの動画は長時間の配信がされるわけではないし、各所の監視カメラは防犯のためという建前上、軍部や警察にも共有こそされるものの、その映像を提供しているのはDAPAだ。そうなれば、DAPA側として見られたくない映像は改竄されて提供されるので、事実上監視カメラなど役には立たない。
あとは、右京が割り出したような地点に常時人員を張り付かせるという手段も考えられなくもないが、定期的でなく散発的に行われるテロ活動はいつ実行されるかの予測は立てにくく、そこに常時人材を割くのはあまりに思考がマッチョと言わざるを得ないだろう。
そんなこんなで、ステルス状態から敵を探せる虎に白羽の矢が立ったのだろうが――今回の件においては星右京の方が適任だったのかもしれない。再び少年の姿が画面に映ると、何やら不敵に笑った。
「今、各所のカメラを見て回ってみたみたんだが……やった価値はあったよ。そしてそのおかげで、十個あるピンの中から一か所に限定することもできる」
ブラウン管の画面が切り替わると、べスターは車の運転は止めていた。どこかしらで黒煙が上がるほどの爆発があったはずだが、外の様子は静かだ――ここが現場から距離があるというのもそうだろうが、人々が頻繁に起こるテロ活動に関して慣れてきているのかもしれない。
ともかく、男が見つめる先には配信準備中の文字が映し出されており――そしてすぐにフードを被った瘦せこけた頬の男がモニター一杯に映し出された。
「衰退する世界の終末【ウィークエンド】チャンネルへようこそ。ウィークエンドと言いながら、今は平日の真昼間……しかし、暴力は時と場所を選ばない。こちら、ジム・リーだ」
そう言いながら、ジム・リーは自撮り用のカメラを少しずらして背後に立ち昇る煙を映し出した。
「今回は路面店店でガス爆発が起こり、それに巻き込まれたタンクローリーが誘爆を起こしたらしい……と、一見するとそれらしい事故だが、今回のこれも世界の暗部のよる周到な計画の一部に過ぎないんだ」
煙の横に男のニヤけっ面が並ぶ。画面横では、様々な言語でのコメントが矢継ぎ早に流れている――読めるものを抜粋するだけでも、その内容は様々だった。男の配信を楽しみにする言葉や活動を応援する言葉、世界の未来を憂える声、ジム・リーがテロの首謀者なのだろうという推測や、その他多くの罵詈雑言――ファンもアンチも野次馬も、その多くが一緒くたに存在する混沌がそこにはある。
しかし同時に、視聴者の意見や立場はそれぞれ違っても、一つの共通点はあった。それは、この動画を見て、参加しているということ――同時視聴数は数百万を突破しており、後にアーカイブが残ることを鑑みれば、もっと多くの人々がテロの有様を見つめている。ウィークエンドというふざけたいうチャンネル名ではあるが、間違いなくそれだけ多くの人たちが、確かに近づきつつある世界の終末を見つめていることを意味しているのだ。
「今回は、確かな情報筋からすげぇ情報を掴んだんだ。見てろ、今にあそこにでかい花火が……」
「いいや、その花火はあそこでは上がらない」
「……あっ?」
男の間の抜けた声が聞こえるのと同時に、モニターの映像が乱れてストリーミングが中断された。べスターはすぐさま視線を別のモニターに移すと、そこには先ほどの実況の続きが映っている――ジムは手に持っていたカメラを投擲ナイフで吹き飛ばされており、更には置いてあった配信機材も虎のEMPナイフで使い物にならなくされているようだった。
「爆弾はあっちだ……解除方法が分からなかったから、力技での解決になったがな」
虎が指さした方向には海があり――そう言った直後、海面に巨大な水柱が立ち上がった。要するに、時限爆弾を無理やりADAMsで運び、人的被害を抑えられる場所で爆発させたということなのだろう。
「くそ、なんでこの場所がバレたんだ!?」
「偽装されている監視カメラの映像の中に爆弾が設置されているのが視えた……それで、爆発が良く見えるこの場所にお前が陣取ってるだろうと予測がついたわけだな」
「くっ……!」
「無駄だ!」
パーカーの男の周りに光の粒子のようなものが立ち上る。ステルスを起動して逃げるつもりなのだろうが、ジム・リーの姿が見えなくなるのと同時に、虎の投擲が屋上の床に突き刺さり――それに足を取られたのか、男はコケて建物の床を転がった。
「なんだお前……まさかDAPA要人を殺しまわっているっていう……どうしてお前がここに居る!?」
「おいたが過ぎるストリーマーを懲らしめるため、海を渡ってはるばる来たんだよ」
驚愕する男の方へ向かって、虎はナイフを抜き出しながら一歩前へと進んだ。
「一つ聞きたい。どうしてお前はこんなことをしていたんだ?」
「へっ……答えれば見逃してくれるのかよ?」
「いいや、ターゲットは逃さない。おかしな真似をするなよ、変な動きをしたらすぐに首を落とす」
オリジナルは珍しく、人に向けて高周波ブレードを握っている。自分も何となくそうだから分かるのだが、オリジナルはターゲットを仕留める時に、可能な限り投擲を使う癖がある。人の身を裂く感覚が苦手なのだろうが――それも恐らく、ローレンス・アシモフを仕留めた時のトラウマから避けているものと思われる。
逆に、手に持った武器を振る時は次の場合である。投擲では威力が足らないと判断した時か、確実に仕留めると腹を決めている時だ。他のDAPA幹部と違い、この男がやっていることは許せないという思いがオリジナルの中にあるのだろう。
対するジムの方も覚悟を決めたのか――いや、アレは恐らく演技だろう、なんだか神妙な様子で口を開いた。