B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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とある配信者の末路

「スポンサーの意向だったんだ。好きでやってたわけじゃない」

「つまり、金のために悪趣味な中継を繰り返してたってことだな?」

「いいや、金のためじゃない」

「それじゃあ、自らの意志でテロ現場を撮影していたってことになる。爆弾があるって知っていたのなら、実況なんてやらずに通報をするべきだ」

「くそっ……お前にオレの気持ちが分かるかよ!?」

 

 先ほどまでの神妙な様子はどこへやら、ジムは眼を見開きながら感情を剥き出しにし始めた。

 

「オレだって最初の頃は、真面目に動画作りをしていたさ……でも、どれだけやっても全然見向きもされない! たまたま、アパートの近くで起こったテロの現場を中継したら、初めてバズって……。

 それから現場の中継や、陰謀論を面白おかしく解説し始めたらチャンネル登録者はうなぎ上り、気が付いたらテロを実行している連中がスポンサーになって、もっと過激なヤツをやれって言い始めたんだ」

「やっぱり、金のためじゃないのか?」

「違う……オレは、オレの作品を一人でも多くの人に見て欲しかったんだ。気が付けば、全然自分のやりたいことじゃなくなってたけどな」

 

 男はどこか虚ろな目で、西海岸の晴れ渡った空と海の稜線を眺め始めた。

 

「大衆はバカばっかりなんだよ。センセーショナルなこと、エログロナンセンス、暴力にしか興味を示さない。それに、陰謀論だとか有名人の恋愛事情だとか、社会の対立構造だとか……どれだけ文明が発達しても、原始的で本能的なことにしか惹かれないんだ。

 大衆に評価されたいなら、そういった原始的な欲求に迎合するしかないんだよ。オレだって、本当ならもっと別のことで評価されたかったさ。こんなクソみたいな世の中で、少しでも楽しんでもらおうと思ってさ、そう思いながら動画投稿を始めたはずだったのによ。

 逆に、どれだけ視聴者を集めても、承認欲求が満たされるのは一瞬だ。その後には、明日には誰にも見向きをされなくなるんじゃないかという、恐怖感が待っているだけだった。

 だから、昨日より今日、もっと過激なことをせざるを得なかった……いつの間にか良心は摩耗し、気が付けばテロ活動をエンタメに仕上げるなんてクソなことをやるのに疑問をもたなくなっていき……」

 

 何か堰を切ったように溢れだす男の独白に対し、虎はナイフを握る力を弱めてしまったようだ。同情したのか――多分そうではない。この男に自分の姿を重ねたのだろう。絵を描くことで世界に対して挑戦しようとした、同じ表現者として。

 

 この男の今の言葉は、オリジナルが言う可能性だってあったのだ。自分のこだわりを表現しようとして、世間に認められず、見向きもされず――そして手段を選ばなくなり、誰かに文句を垂れながらも過激なことをやり続ける。そんな未来だってあったのかもしれない。自分がそう思ったのだ、オリジナルも同じように考えていてもおかしくなかった。

 

「……お前の動機は分かった。だが、それで悪い奴の言うことを聞く理由にはならないな」

「そういうお前は、正義の味方を気取っているつもりか? 暴力で誰かの未来を奪っているくせによ。正論をぶつけてくるなら、その手の血を洗ってからにして欲しいぜ」

 

 男は胸を逸らしながら虎を見つめ――オリジナルも言い返すことができなかったのだろう、ただ黙ったまま男を見つめ返すだけだ。

 

「はっ、ダンマリか……そうだ、この世の中なんてクソッタレだ。確かにオレのスポンサーがクソなことに間違いないが、お前を飼いならしている旧政府の亡霊たちも、そしてそいつらの言うことを聞いてその手を血で染めるお前も、世間の無知な連中も……何よりオレも、全員全部がクソッタレなんだよ。

 あぁ、そうだ。この世界に幸せなんかないんだ。あるのは無限の孤独感と、それに苦しむ自己しかない……それなら、いっそ死ぬのも悪くねぇかもしれないな?」

 

 ジムは自嘲気味に笑いながら手を首元に持っていき、親指をずらして横一文字を作って見せた。この男が今見せている希死念慮は、恐らく衝動的なものだ――だが同時に、恐ろしいほどに本質的なものであるようにも思える。

 

 本当に死にたいわけではない。それは、肉の器の持つ本能と矛盾するから。しかし彼の魂は、確かに世界に対して――何より自らに対して深い絶望に陥っている。その魂の持つ本能こそが、彼を衝動的な死へと誘っているのだろう。

 

 そして彼のその絶望が虎を動揺させているようだった。その証拠に、アラン・スミスはナイフを構えたまま動けなくなっており――車内からべスターが「タイガーマスク」と声を掛けて、ようやっと身体に力を取り戻したようだった。

 

「そいつの話を聞く必要はない。早くトドメを刺せ」

「……そうだな。ヴィクター、カメラを」

 

 カメラが切れる直前、虎は高周波ブレードを仕舞い、投擲用ナイフを腰から抜き出したようだった。そしてべスターがモニターの隣にあるスイッチを押すと画面が暗転し、高層ビルに渦巻く強烈な風の音と、男の声だけがスピーカーから聞こえ始めた。

 

「しかし、なんで爆弾の場所がバレたんだ? そうか、オレはもう用済みってこと……」

 

 男の声はそこで途切れ、少ししてからべスターは再びカメラのスイッチを入れた。アイカメラ内には既にジムは映されておらず、代わりに屋上への出入り口部分で腰を抜かしている一人の女の姿を捉えていた。

 

「ひっ……!?」

「……ヴィクター、こいつは?」

 

 アラン・スミスの質問に対しては、べスターよりも右京が応えるのが早かった。

 

「ローザ・オールディス……ジムと同じようなストリーマーだね。しかも、ジムみたいな業務委託じゃなくてDAPAの一角、アルファの社員だ。社会心理学者の博士号を持っている」

 

 ローザ・オールディスと言えば、セレナという少女に人格を転写していたルーナ神の人格であったはずだ。オリジナルとの接点については聞かされていなかったが、こうやって対峙したこともあったのか。

 

 しかし、今の彼女は自分の知る傲慢で陰湿なルーナとは大分違う印象を受ける。分厚い眼鏡をかけて、顔にはそばかすも多く、どちらかと言えば野暮ったい雰囲気であり――神経質そうで生真面目そうで、ストリーマーというようなキラキラした職業というイメージではなかった。

 

「ストリーマー……の割には地味な奴だな。しかし、どうしてコイツはここに居るんだ?」

「そこまでは僕には分からないけれど……予測で言えば、影響力のあるジムの撮影の様子を見て参考にしようとしてたんじゃないかな? どうにもマーケティング理論が先行して、それっぽくしているだけで、チャンネルもあまり人気が無かったようだし」

 

 確かに、ジム・リーには良い意味でも悪い意味でも、人を引き付ける何かがあったのかもしれない。歪んだ承認欲求の慣れの果てと言えばそれまでかもしれないが、それが狂気にまで昇華されればある種のカリスマを帯びる。

 

 オリジナルも一瞬、ジム・リーの気迫には呑まれたほどだ。そう考えれば、彼のチャンネルが人気を博したのは必然だったのかもしれない。それが、本来は評価されたい部分でないところで開花したのは全くの皮肉であるという点を除けばだが。

 

 同時に、その狂気を見て学び、トレースするなどできはしないだろうが――かつてのローザ・オールディスは真面目な研究者気質であったとは聞いている。そうなれば、ジムの狂気を言語化しようという涙ぐましい努力のために、彼女はここで虎に睨まれて振るえているのかもしれない。

 

「……行けよ。俺のターゲットはお前じゃない」

「ひ、ひぃぃ……!」

 

 女は四つん這いのまま、文字通りの這う這うの体で屋内へと戻っていった。対するタイガーマスクは、屋上のある一点を見ないように周囲を見回し――恐らく脱出経路を探しているのだろう、確かに入口から出ても第五世代に囲まれる危険や、そもそもDAPAにエレベーターを止められて閉じ込められる危険性もある。

 

 しかし、ジム・リーが選んだ高層ビルは他の建物から孤立しており、乗り移りながらの脱出も難しそうだった。

 

「さてと、ここからどう帰還したものか……!?」

 

 虎は何かの気配に勘づいたのか、急に身体を捻って横へと飛んだ。すると、先ほどまでオリジナルが立っていた場所に、漆黒の電撃のようなものが走り去っていく――自分から視れば、今のは恐らく何かしらの魔術だろうというのは予測はつくが、この時のオリジナルたちは魔術に関する情報は無いはずだ。そうなると、全く未知の攻撃がどこかから発射されたように感じられたことだろう。

 

「今のはなんだ!?」

「……先輩、上からも来ている!」

「何!?」

 

 先ほどの電撃に気配を察知するのが遅れたのか、右京の声を聞いてから虎は視線をあげた。すると、上空を何かが横切り――恐らくジェット機だが、その割には低高度を突き抜け、そこから何かが落下してくるのが見えた。

 

 それは空を割いて飛ぶ一発の弾丸のようだった。次第に近づいてくると、飛来物はカプセルのような形であると分かり――そしてそれが中空で真っ二つに割れたかと思うと、中から黒いシルエットが虎を目掛けて飛びだしてきた。

 

 オリジナルはその襲撃を再び横へ飛んで躱すと、今度は先ほどまで立って居場所に赤い流線が走り――屋上のアスファルトがいとも簡単に切り裂かれるのと同時に、襲撃者が乗り捨てた鉄の箱が激突して轟音を響かせた。

 

 

「くっ……この無茶苦茶な感じ、まさか……!?」

「……今日こそ決着をつけるわよ、タイガーマスク!」

 

 声のしたほうへと視線を向けると、そこにはレーザーブレードを構えながら攻撃的な笑みを浮かべるリーゼロッテ・ハインラインの姿があった。

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