B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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クラークの罠

 アンノウンX奪還作戦については、詳細は次のようになる。まず、アラン・スミスが金字塔内に潜入し、DAPAの一角であるパラソル・バイオテクノロジー社の社長、マイケル・セルズの暗殺を実行する。陽動作戦という体裁ではあるものの、相手にそれを気とられてはならない――そう言う意味では、虎自身も普段通りの役割を演じる必要がある。

 

 もっとも攻略難易度の高い相手の牙城に潜入しようというのだから、虎の出現に敵側も何かしら深い意図があると察するかもしれないが、暗殺さえ成功すれば虎に対して追跡や防衛を割かざるを得ないのは間違いないし、幾分かの時間稼ぎには間違いなく貢献するはずだ。

 

 一方、アンノウンXを――今では母なる大地のモノリスと認識してる物体――奪取するチェン・ジュンダーの部隊は、虎が暗殺に成功しようとしまいと作戦の実行をしなければならない。

 

 アラン・スミスが「暗殺のために潜入してきた」という事実さえあれば、金字塔内部を混乱させることができる。そのため、虎の方も暗殺の成否を問わず、ともかく一定のラインで敵にその存在を露見させ、時間を稼ぐ必要がある。

 

 内部の防衛がアラン・スミスの迎撃に映されたところで、チェン・ジュンダーとホークウィンドがアンノウンXを奪取、その後は施設内にある潜水艇の一つを奪い取り、連合側が待っている深海まで移動する――以上が今回の作戦内容であり、オリジナル最後のミッションになった訳だ。

 

 内部への潜入に関して、事前にチェンから共有されていた詳細な建物の見取り図から、結局は下水道というルートが取られた。以前、戦艦島に潜入する際に下水道という選択肢が考案された際には却下されたが、その後にサイボーグ専用の被膜が考案された。下水から脱出する際にそれを捨てれば臭いを付着させずに内部に潜り込むことができるというわけだ。

 

 本来なら裏口や通風孔、または内部に物資を運んでいる船から潜入できればスマートであるのだが、何せ最高クラスのセキュリティを誇る金字塔には裏口すら存在せず、人が通れるのは正面の一つしか存在しない。また、エアダクトはサイボーグ一人が這っていけるほど広くは無いし、物資に紛れても中身のチェックで確実にばれる。そう言う意味では、下水以外の潜入経路があり得なかったというのが正確な所のようだ。

 

「どうだアラン、下水道から潜入するっていうのは」

「臭いは最悪だが……とりあえず、到着するまで楽できそうのはありがたいな」

 

 ブラウン管には、おなじみの映像――べスターが虎のカメラを追うという映像が流れている。海近くの下水処理施設より潜入したのだが、立地的に工業施設も多く、そのため下水道も広々としているため、確かに移動するには快適そうではあった。

 

「しかし、油断はするなよ。ゲンブの話では下水にまで防衛体制は敷いていないということだったが、今もそうだとは限らん」

「あぁ、もちろん敵がいないかは常に警戒しているよ……むしろ、金字塔の入り口付近に透明人間どもがたむろしていたら困るな」

「一体ならEMPナイフで良いだろうが、複数体同時にスタンしたら警戒されるだろうからな……そうでないことを祈るしかないな」

 

 二人の心配は杞憂だった。金字塔内部に続く梯子においては、第五世代型の配置は無かったようだ。オリジナルは梯子を上り切る前に被膜をナイフで切って落とし、ゆっくりと上部ある蓋をずらす――べスターが時刻を確認すると、侵入時刻はピッタリであった。そのため、第五世代の巡回をちょうどかわして中へと潜入できたようだ。

 

 本番はここからである。中へと潜入できたと言っても、そこは施設内の最下層であり、ここから上へと上がっていくにはいくつものセキュリティも存在するのだ。下水に関して防衛が行われていないのも、ここから上に上がるのが難しいからに違いない――対策が無ければの話だが。

 

 世界最大の企業のトップシークレットが眠る場所なのだから、相応の防衛対策をしているのは当然である。しかし、チェンの諜報活動による事前情報と内部工作、アラン・スミスのスニーキング能力、それに星右京が証拠を残さないよう部分的に道を作ってくれている状態であれば、その限りではない――実際、ほとんど隙間の内容な防衛の編みを切り抜け、虎は予定時刻通りに地上階まで昇ることに成功したようだった。

 

 それが可能になったのは、困難な潜入を繰り返したおかげで虎に経験が溜まっていたのもあるだろう。しかしそれ以上に、自分が気になっているのは星右京の動向だった。金字塔の防衛網を突破するには、右京の助力は必定であったと言えるのだが――事実、まだ少年もいつも通りに調子で協力してくれている――この時、少年は何を考えていたのだろうか? 

 

 いつかどこかのタイミングで、星右京はデイビット・クラークと内通していたとべスターからは聞かされている。そうなると、少年がこの時に虎を内部へ侵入するのを手助けしていたのは、クラークの指示があってのものかもしれない。要するに潜入が上手くいっていると見せかけておいて、虎に奇襲を掛ける――そういった狙いがクラーク側にはあったのかもしれないということだ。

 

 ともかく、施設内の移動は比較的スムーズだった。散発的に第五世代の対処は必要だったものの、進路に一か二体程度の配置であったため、EMPナイフでスタンさせつつ――もちろん証拠を残さないためナイフの回収も行う――進むことが出来た。それでも広大な敷地であるため、目的地に着くころにはかなりの時間を費やしていたのだが。

 

 オリジナルが扉の目前まで迫ったタイミングで、べスターは別の回線で連絡を始める。隣の喫煙者曰く、チェンも潜入工作中であり、オリジナルと連絡を取るのと別の独自回線を使わざるを得なかった。要するに、旧世界において亀と虎は一度も話すことが無かったようだ。

 

「……ゲンブ、そろそろ虎が目的地に到着する。そちらも準備を」

「えぇ、了解しました……そちらの御武運も祈っていますよ」

 

 亀への連絡が終わり、少年が扉の認証を突破して扉が横へスライドし、虎は投擲ナイフを取り出しながら室内へと侵入した。場所はピラミッド中腹の内側にある部屋なはずだが、何故か三面に窓があり、そこから外への光景が映し出されている――いや、アレは精巧なスクリーンだろう、それで外の景色を映し出しているのだ。

 

 そしてそれ以外は非常に殺風景であり、やたらと広い空間に応接用のソファーが一つ、その向こうに大きめの机が一つ、そしてその奥に豪勢なオフィスチェアが一つ、虎に背を向けてあるだけだ。オリジナルは投擲の構えを取るが――恐らく椅子を貫通させてそのままトドメを刺そうとしたのだろう――何か違和感があったらしく、そのままの姿勢で止まった。

 

「おい、べスター。アイツはターゲットじゃなさそうだぞ」

「……なんだと? 分かるのか?」

「あの人ともアンドロイドとも言えない不思議な気配、以前も感じたことがある……恐らく、あそこに居るのは……」

「……やはり、君には不思議な力があるようだね」

 

 人の耳では聞こえない程度に小さな声で話していたはずだが――少なくとも、十メートルの距離を普通の人間に聞き取るのは不可能な声量であったはずだ――椅子の向こうから何者かが会話に参加してきた。そして背後で扉が閉まる音が聞こえるのと同時に椅子が回転し、肩幅の広い偉丈夫が姿を現したのだった。

 

「やはり、デイビット・クラーク!?」

「ようこそ、タイガーマスク……流石、時刻通りだ」

「定刻通り……どういうことだ!?」

「君たちに内通者がいるのと同じように、私たちにも内通者がいるのは当たり前だろう? 先日、こちらのスパイを処断したことで安心していたようだが……まさか一人しか内通者がいないとでも思っていたのかね?」

 

 クラークの話を聞きつけ、ベスターは動揺したように周囲を見回した。

 

「くっ……まさか罠だったということか!? だが、誰が……!?」

 

 誰が内通者であったのか――未来を知る自分からすれば答えは明確だが、この時点では画面内の観測者にはその答えが分からなかったはずだ。冷静に考えれば、この時にアラン・スミスをクラークの元に運べるのは二人のうちどちらか――チェン・ジュンダーか星右京かいずれかまでは候補を絞れたはずではある。

 

 しかし、冷静さを欠いていたこのお人よしでは、全てを疑い、同時に疑いきれていなかったに違いない。一度隣に座るグロリアの方を見て――確かに彼女はアシモフの者であり父を殺されているという因縁があるのだから、動機としては十分にあるはずだ――唖然としてモニターを注視している様子から少女は違うと判断したのだろう、すぐにキーボードを叩き出した。

 

 グロリアでないのなら、チェンが怪しいかもしれない、右京が怪しいかもしれない――しかし根が善良である我が相棒は、彼らのことを根本から疑うことができなかったのだろう。

 

 もちろん、この時点では普段自分たちに接点のないACO内の第三者が――時刻など任務の詳細をクラークは言い当てたのだから、その場合は組織内でもかなり上の立場の者になる――内通者である可能性だって考慮しなければならなかったはずだ。

 

 しかし、この時にべスターが導き出さなければならなかったのは犯人ではなく、アラン・スミスに対する指示であっただろう。この場は退くべきか、それともチェンに合流すべきであるとか。だが、もしもチェン・ジュンダーが敵対者であるのならば、アンノウンXを持ち出そうという作戦すら嘘かもしれない――そんな思考がぐるぐると彼の脳内を周っていたのかもしれない。

 

 そしてべスターが諸々の答えを出せないでいるうちに、スピーカーから壮年の声が聞こえ始めたのだった。

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