B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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決戦前の一幕

 アラン・スミスがデイビット・クラークと決着をつける前の一幕として、もう一度べスターの視点がブラウン管に映し出された。タイミングとしては自分が屋上を目指している間、べスターも後々から映像を共有されたという形らしいが――ともかく、モノリスを目指していたチェンたちの顛末に関する記録があるようだ。

 

 モノリスへと至る扉は、複数の厳重なセキュリティによって強固に守られているのはもちろんのことであった。普段は外から解析を続けているのであり、職員すらモノリスが鎮座されている部屋に入ることはないし、またそのロックを一般職員レベルが開けることは不可能だったようだ。

 

 そうなれば、デイビット・クラークやファラ・アシモフ、そうでなくてもDAPAを構成する企業の社長や副社長、または解析班のトップクラスの権限がなければ扉が開けないのであり、潜入工作員であるチェンの偽装IDレベルでは扉を開くことはままならない。

 

 そこで本来ならば、扉を開けるには星右京のハッキングは必須として作戦に組み込まれていた。しかし、彼の協力を仰ぐことができないのであれば力技で開けていくしかない。一応、智謀チェン・ジュンダーは様々なケースを想定しており、右京無しでも開けられるように準備は進めていたようだ。

 

 ホークウィンドが周囲を警戒し、チェンが扉を開ける作業を続け、何とか一つのロックを解除することには成功した。とはいえ、シャッターの一つを開けるだけでも大分時間が掛ったのは言うまでもなく――開かれたその先には、先ほどアラン・スミスが潜り抜けたのと同じようなレーザー網が貼られており、さらに奥のシャッターの手前に一人の男が立っているのが見えた。

 

「やっと開けてくれましたか。私の出番が無いかと思って少々ひやひやしていましたよ」

 

 丁寧な口調で話しかける男は、どこか理知的な白衣姿であるのと同時に、スキンヘッドに縫合の後を残すというどこか堅気の者でない雰囲気を感じさせる。全く見たこともない相手なのだが、自分はあの男を知っている気がする。恐らくは――。

 

「これはこれは、ダニエル・ゴードン研究室長……本国からこちらへいらしていたとは、聞いておりませんでしたよ」

 

 チェンが名前を読み上げたことで相手の身元が判明した。自分の勘も間違えてはいなかった――アレが魔術神アルジャーノンの在りし日の姿なのだ。惑星レムで見た彼は、もっと胡散臭い喋り方をしていたが、万年の時の果てに人格に変化があったのか、今のあの理知的な雰囲気が虚構なのか、恐らくは後者な気がする。

 

 その証拠に、ゴードンが両手を広げている様子はどこか芝居じみており、どこか尊大さや知的さを無理して醸し出そうとしているように見える。

 

「えぇ、スパイを相手に無駄に情報を与えることもありませんからね……魔術の実戦練習には丁度いい相手なので、クラークに招集されていたのですよ」

「実戦では、なかなかそんな風に強固に守られながら戦えるのは稀ですよ? 練習するのならば、このレーザー網を解いたらいかがでしょうか?」

「それは遠慮しておきます……私は君の後ろに構えている男ほどマッチョではないし、本当は戦いなんてしたくもないんです。ただ、魔術の優位性を証明できれば、他の研究に先行してモノリスを利用できるので、嫌々ながらにアナタ達の前に立っているだけですから」

「……嫌々ながらって点は同感ね」

 

 ゴードンに同意したのはチェンでもホークウィンドでもなかった。とはいえ、ホークウィンドはその者の気配は感じていたのだろう、通路の奥から近づいてくる靴音の方を凝視していた。

 

「リーゼロッテ・ハインライン……」

「私も、さっさとアナタ達を片づけて、虎を狩りに行きたいのよ……これを使ってね」

 

 そう言いながら、ハインラインはパワードスーツの脇から一本の短剣を取り出した。ほとんど装飾のないシンプルなデザインだが、ただ一つ、中央に赤く輝く宝石がはめ込まれている――宝剣ヘカトグラムは、この時には完成していたのだ。

 

「……ゲンブ、どうする?」

 

 ホークウィンドは後ずさり、いにしえよりの相棒に耳打ちをした。対するチェンは首を横に振りながら小さくため息を吐いた。

 

「ここで二人を倒せたとしても、その後に第五世代型に囲まれれば厳しいでしょうし、脱出するほか無いでしょうね」

「私たちを倒せるとは、思い上がりも甚だしいんじゃない!?」

 

 ハインラインが叫んだ瞬間、一触即発の雰囲気が爆発した。リーゼロッテがヘカトグラムを起動するよりも早くホークウィンドが苦無を投擲する傍らで、ゴードンが銃を――形状は銃というほかないが、銃口はない、恐らく魔術杖のプロトタイプだ――構えた。

 

「魔術弾装填……穿て、拡散する冷気の散弾【フリーズバレッタ】!」

 

 ゴードンがトリガーを引くのに合わせ、プロトタイプの先端に魔法陣が浮かび上がり、すぐに鋭い氷の散弾が打ち出された。それらはレーザーの網を掻い潜り、チェンの立つ位置へと襲い掛かってくるが――チェンが手を上げて「喝」と叫ぶと、それらの銃弾はすべからく空中で制止した。

 

「成程、サイコキネシス! 基本的な超能力だが、君のそれはなかなかに強力なようだ!」

 

 攻撃を止められたというのに、ダニエル・ゴードンは嬉しそうに声を荒げている。彼の持つ知的好奇心が刺激されたのだろうが、興奮して眼を見開く様子は自分の知るアルジャーノンがとる態度とそっくりだった。

 

「お褒めに預かり恐縮ですが……私は貴方を喜ばせるための大道芸人ではありません。ここで退かせてもらいますよ」

 

 チェンが答え終わった瞬間に、画面いっぱいに強烈な閃光が広がり、ついで破裂音がスピーカーから響き渡った。ホークウィンドがスタングレネードを使ったのだろう、第五世代型に対しては効果は無いだろうが、生身のハインラインとゴードンには有効な対抗策と言えるだろう。

 

 次に画面が移った時には、光ではなく煙の中からチェンとホークウィンドが抜け出してきた。スタングレネードに合わせて煙幕も同時に張り、二人が追いかけてこないようにしたのだろう。

 

「ハインラインとゴードンはどうしましたか?」

「投擲による攻撃は試みたが、ハインラインは謎の力場に、ゴードンはレーザーに落とされてしまったようだ」

「成程、しかし脱出が優先ですね……やはり、囲まれていますか?」

「あぁ、タイガーマスクほど正確には分からんが、おおよその位地は分かる……ゲンブ、お前は走ることに専念しろ。露払いは私が行う」

「えぇ、任せましたよ」

 

 どこに仕込んでいたのやら、ホークウィンドはスーツのあらゆるところから苦無や手裏剣、爆弾といった武器を取り出して、それを通路の至る所に向かって投げつけ始めた。そのまま二人は通路を抜けてピラミッドの一番外側に近い部分に張られているガラス部分まで駆け抜けていったようだ。

 

 あそこから脱出するとしても、DAPAが機密を守るために作られた施設の外壁なのだ、強化ガラスであることは当然だと思うのだが――ふとホークウィンドが苦無を窓ガラスへと投げつけるが、それは先端のみが突き刺さるだけでガラスを割るほどの威力にはならなかったようだ。

 

 しかし、二人は全く躊躇なく走り続け、チェンが大きく呼吸をし――。

 

「破っ!」

 

 チェンが掌で突き刺さった苦無を押し込むと、一面の強化ガラスが一斉に砕け散った。荒事は苦手とか言っていたくせに、実はこんな技も隠していたのか。もちろん人形の姿ではできなかったのだろうが、どうやらチェン・ジュンダーは功夫か何かの達人であり、生身であれば強力な接近戦もできたということなのだろう。

 

 そして二人は割れた窓から、いつの間にか振り始めていた雨の中に躊躇なく飛びだして、斜面になっている構造物を凄まじい体感で走って下り始めた。

 

「いやぁ、我ながらスマートな脱出方法ではありませんねぇ」

「ぼやくな、追手が来ているぞ!」

「うひぃ、一息つく間もありませんね!」

 

 一息つく間どころか、男は全く息切れもしていないのだが。ともかくホークウィンドは適宜後ろを向きながら追いかけてきている第五世代型の迎撃を行っているようであり、チェンも飛来してくる飛び道具をサイコキネシスで止めて自身と相棒の安全を確保しているようだった。

 

 どうやら、ピークォド号に収められていた母なる大地のモノリスは、この時に回収されたものではなかったようだ。二人は既に高層から下へと降り切っており、ここから引き返して回収というのもあり得ない話だろう。考えてみれば納得の話であり、旧世界において右京達は三つのモノリスを使って高次元存在を降ろそうとしていたのだから、この場では奪取できなかったからこそ、DAPAは計画通りに事を進めていたとも取れる。

 

 ある程度の距離を移動すると、敵からの追跡の手が止まったのか、チェンとホークウィンドは攻撃や防御の手を緩め、敷地内から離れるために走り続けた。恐らく、内部で虎がまだ暴れている影響で、金字塔内で指令系統が混乱していること、また雨のおかげで完全迷彩が機能しきらないことから追跡を諦めたのかもしれない。

 

 そして落ち着いたタイミングで、チェンは通信機を取り出してヴィクターと名を呼んだ。

 

「やはりアンノウンXの奪取は不可能でした……そちらは?」

「タイガーマスクがデイビット・クラークを追い詰めている。出来れば退かせたいんだが……」

「いえ、クラークを倒せれば、DAPAは自然と瓦解するでしょう。本来なら本国に居ると思われていた彼がこちらにいることが予想外でしたが、彼を倒せるとなればアンノウンXを奪えなかった分の帳尻合わせとしてもお釣りがくる。

 そもそも、おかしいと思っていたのです。確かに虎の暗殺のターゲットになっていたのはDAPAの要人ではありますが、この戦いに終止符を打つのであれば、最初からクラークを狙うべきだった……」

 

 チェンはそこで一度言葉を切った。おかしいと思っていた、と言語化したことから、何か思いついたのかもしれない――顔を雨に濡らして少しして、視線を戻して通信機を握った。

 

「もしかすると、クラークを倒しても、この戦いは終わらないかもしれませんね」

「……どういうことだ? さっきは、自ずと瓦解すると言ったじゃないか」

「恐らく、クラークと同じくらいか、下手すればそれ以上に厄介な者が存在するってことですよ。そうなれば、やはりアンノウンXは回収しなければなりません」

 

 ともかく詳細はまた後で、チェンはそう結んで通信を切った。

 

「次は必ず回収しますよ……必ずね」

 

 チェンが独り言のようにごちたのに合わせてブラウン管にノイズが走り――階段をゆっくりと昇るオリジナルの視点に切り替わったのだった。

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