B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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黄金期の終わり

 クラークとの激戦が終わり、アラン・スミスは左腕が握っていたブレードを回収して後、屋上中央にある建物にまで移動して背を預けてへたり込んだ。座った所で壊れた身体が戻る訳ではないが、ひとまずADAMsで酷使した神経を休ませる必要はある――そう思って少し休息に入ったタイミングで、ブラウン管の映像が過去のべスターの視点へと戻った。

 

「アラン、大丈夫?」

 

 不安そうに尋ねるグロリアに対し、アラン・スミスは「少し休めば動けそうだ」と返答した。本来なら痛覚を切れれば良いのだが、いつ第五世代型が屋上に来るか分からない今では、それも出来ないはずだ。

 

 ともかく、未だ整わぬ呼吸の声を聞きながら、べスターはマイクを口元へと近づけた。

 

「状況を伝えるぞ。アンノウンXの回収は失敗、既に回収班はそこから離脱している。お前も離脱するんだ……大分消耗していると思うが、いけそうか?」

「行けそうかも何も、どうにかするしかないって所だよな。ま、いつも通りだ」

「あぁ、そうだな……」

「しかし、まだ離脱する訳にはいかない……この戦いに終止符を打たないと」

 

 そう言いながら虎が建物の入口から中を見ると、そこにはエレベーターの扉らしきものがあるのがモニターに映し出される。

 

「まさか、このエレベーターは……」

「あぁ、恐らくアンノウンXへ直通だ」

「いや、待てタイガーマスク……アンノウンXの回収はお前ひとりでは不可能だ。それより外に戻って離脱をするんだ」

「俺は回収するつもりなんかないぜ。コイツ一本で出来ることをしに行くだけだ」

 

 アラン・スミスは右手に持ったブレードを見つめながらそう呟いた。それに対してべスターは慌てたように身を乗り出した。

 

「待て、流石にそれは許容されないぞ」

「まぁ、お偉いさん方は大層お怒りになるだろうな。次の世界の覇者を決定する王座を破壊しようってんだから。だがな……逆を言えば、モノリスとやらは次の戦争の火種になる」

「それはそうだが……オレが心配しているのはお前のことだ。ただでさえクラークをターゲットにするという独断で動いているのに、これ以上は……」

「庇いきれないってんだろう? まぁ、それは分かってるが……クラークに感化されたのか、俺も抗いたくなったのかもしれないな。自分の宿命って奴にさ」

 

 オリジナルの気持ちは、光の巨人に蹴りをかました自分と同じようなモノだろう。自分に上位存在の加護があるとしても、それが人の争いの火種になるのなら、何とかしなければならない――いや、それ以上に、自分が上位存在の傀儡ではないと証明したいのかもしれない。

 

 ともかく、呼吸が整い始めたのを契機に、虎は立ち上がって入口の方へと足を進める。

 

「待て……いや、これはオレからのお願いだタイガーマスク。意見を聞いてくれ」

 

 べスターが懇願するなどかなり珍しい。この男は腹の底では色々と考えているし、同時に周りに対して色々とこうして欲しいという欲求があるはずだが、シニカルな性格故になかなか本心を言い出せない性分だ。逆を言えば、願いという言葉を使ったのはそれだけ必死であることの裏返しになる――オリジナルもそう思ったのだろう、歩幅を狭めて男の言葉に耳を傾けているようだ。

 

「アンノウンXは、全部で三つあると推測されている。そのうちの二つはそこにあるようだが、一つはかなり巨大で、ブレード一本では破壊できないだろう。

 もう一つに関しても、人智を超えた技術で作られているんだ、破壊できるかも分からないし……どの道一つ破壊しても二つ残るのなら、人の争いの火種が完全に消えるわけじゃない。

 何よりも、そんなもののためにお前を失うわけにはいかない。況や破壊できたとしてもだ、建物の中に戻れば、そのダメージで脱出は不可能なんだからな。屋外にいる今が最後の脱出のチャンスなんだ」

 

 そう言って男は視線をグロリアの方へとむけると、少女も深く頷いてマイクに口を近づけた。

 

「私もべスターと同意見よ。それに、帰ってきたら迎えてくれって私に言ったのは、他の誰でもないアナタなのよ?」

「……そう言われると弱いな」

 

 少女の言葉にオリジナルは足を止めた。確かに、オリジナルもこの先まで行けば二度と戻れないことは分かっていたはずだ。それでもモノリスの元まで行こうとしたのは、やはりクラークの言葉に――上位存在の意思に操られているわけでないと証明したかったのだ。

 

 そう言う意味では、やはりデイビット・クラークは一種のカリスマだったのだろう。不俱戴天の仇でありながら、彼の言葉は無下にできない影響をオリジナルに残していたのだから。

 

 逆を言えば、破壊できるかも分からない物体と対峙するために死地を目指す理由はそれだけとも言える。自分が光の巨人に突っ込んだ時も似たような気持ちだったのだが、あの時は他に方法が無かったのに対して、モノリスの破壊は本当に無駄死にになってしまう可能性も高い。自らの我儘のためだけに、戻ってくるようにと言ってくれる二人の気持ちを無視することはオリジナルも出来ないはずだ。

 

 しかし、まだオリジナルは出口に振り返るまでには至っていない――最後の一押しをするためだろう、べスターが再びマイクを握った。

 

「それに、アンノウンX奪取のチャンスはこれが最後なわけじゃない。これ以降の任務には、脱出した二人も合流するし、オレも戦線に加われるようになる……今日よりも確実に増強した戦力で任務に当たれるんだ。

 そもそもクラークを倒したんだから、DAPA事態が瓦解したっておかしくない。確かにモノリスが次の戦争の火種になる可能性は高いと言えるが、絶対にそうなるとも限らない。それなら、撤収するのが良い判断だと思わないか?」

「そうだな……二人の言う通りだ。心配かけてすまなかったな」

 

 そこでオリジナルはやっと振り返り、出口に向けてゆっくりと歩き出した。そして再び身体を雨に晒し始めたタイミングでアラン・スミスは「そうだ」と切り出す。

 

「ついでに謝らせてくれ。この前、DAPAとの戦いが終わったらって話をした時、二人の前で拗ねちまったことをさ」

「何、そんなこと気にしてたの? 別に気にしてないわよ……でも、すぐに気を取り直してたわよね、何か心境の変化があったの?」

「あぁ、この戦いが終わったら、正義の味方でもやろうかなと思ってね」

「はぁ? サンタクロースは辞めたの?」

「あぁ、廃業だ。まぁ、似たようなもんかもしれないがな。誰かさんに言われたんだよ。俺が死にたがってるのは、戦い以外で食っていく自信が無いからだろうって……実際、その通りだと思う。絵をやりたいのは本心だけど、晴子にだって結構言われてたし、絵だけで食ってくのは難しいのは事実だ。

 対して、こっちは才能があるみたいだからな……好きなことに才能がある訳じゃないってのは、人間の悲しい所だな」

 

 オリジナルはそう言いながら投擲用の短刀を一本取り出し、片手で器用にナイフプレイをして見せた。

 

「別に戦うのが好きなつもりは無いが、誰かを助けるのは性に合ってる……なんてのも傲慢かもしれないが。

 それに、クラークが言ってた通り、誰もが救われたいわけじゃないのかもしれない……でも、きっと誰だって、好きで絶望したいわけじゃない。イヤなことがあったり、上手くいかないことがあったりして、世間に対して希望が持てない時に、自然と降りてきてしまうのが絶望というだけで……逆に何か希望があれば、きっと生きる気力だって沸いてくるはずなんだ。二人が、いや三人が俺や妹にしてくれたみたいにさ」

 

 べスターが隣を見ると、やったことが認められたことが嬉しかったのだろう、少女は穏かな表情を浮かべていた。恐らく、視線の主も同じような表情を浮かべているに違いない。

 

「……それで? それが正義の味方とどう関係するんだ?」

「まぁ、その、つまりだな……この戦いが終わっても、きっとまた次の戦いが始まる。DAPAの代わりに俺たちの雇い主が分裂して、互いに鎬《しのぎ》を削り始める。そんな時に、理不尽な暴力に立ち向かう奴が居たっていいんじゃないかなって思ってさ」

 

 オリジナルの続く言葉を聞いて、少女の表情は少々苦々しい物へと変貌した。

 

「うぅん、私はもうアナタにそんな無茶はして欲しくないし……何ならゆっくり絵を描いて欲しいかなって思う。何より、戦場が自分の居場所だなんて考えて欲しくないわ」

「もちろん、絵だって諦めるわけじゃないぜ。ちゃんと練習しなおして、チャレンジするつもりさ……才能が無くても、頑張ってみたいからな。

 結局、力による解決は一時凌ぎだ。根本的な解決にはならない……もっと別の方法が必要なはずなんだ。絵にそれだけの力がある、何て言うのは理想論が過ぎると思うけれど……きっと何かの一端にはなると思うんだよ。

 でも同時に、今起こっている悲劇に対しては、話し合いだとか仕組み作りだとか悠長なことは言ってられないからな……だから、俺はひとまず対処療法をしつつ、何か人の心を変えられるような作品を作ってみたいと思ってるんだ」

「なるほど……もちろん、私達の協力は必要よね?」

「俺としては皆には安全な所に居て欲しいんだが……」

「もう! 私はアナタ一人に色々と背負わせたくないの! アナタが置いて行こうったって、無理やり着いて行ってやるんだから!」

 

 グロリアが身を乗り出しながら大きな声を上げるので、オリジナルは耳を手の甲で塞いでいるようだった。もちろん、音は鼓膜に直接響いているはずなので塞いだところで意味もないはずなのだが。

 

 とはいえ、オリジナルも悪い気はしていないはずだ。一緒に暮らすという約束をしたのだから、むしろどうすればグロリアの安全を確保できるか考えているだけだろう――そう思いながらブラウン管を眺めていると、またべスターがマイクを取った。

 

「勝手にオレも巻き込むんじゃない」

「あら、アナタはその気じゃないの?」

「オレはこの戦いが終わったら、たんまり退職金をもらって、のんびり煙草を吸いながらバイオメカトロニクスの研究をしようと思ってたんだ。しかし……」

 

 べスターはグロリアから視線を外し、ゆっくりと屋上のスロープの方へと進むアイカメラの方を見る。

 

「二課ではお前に大分窮屈な思いをさせたからな……今度は、お前の正義とやらに賭けるのも、悪くはないかもしれない」

 

 そう話す男の声は穏やかであるものの、その奥に確かな覚悟が込められているようだった。お前の正義に賭ける――印象的だから覚えている。この星で男の声を初めて聞いた時にも同じ言葉を聞いたのだ。

 

 エディ・エスターはこの時の約束を――いや、約束を守れなかった後悔を、一万年も抱き続けていたのだ。この言葉の重みに関しては、画面内のオリジナルやグロリアよりも――何よりも何気なく言葉にしたべスター自身よりも、クローンである自分の方が遥かに感じるものがあるに違いない。事実、男の少々すかしたセリフに対していつも通りと思ったのだろう、グロリアは呆れたように笑っていた。

 

「まったく! 素直じゃないんだから!」

「そいつが素直じゃないのは今に始まったことじゃないさ」

「それもそうだけど……まぁ、ウチの男どもはみんな素直じゃないからね」

「女子も素直じゃないと思うがな」

 

 最後の言葉は画面内のべスターのささやかな反撃だった。まったく、確かによくもこんなに素直じゃないメンバーが揃い、おっかなびっくりに共同生活を続け、ここまで辿り着いたとも思う。

 

 同時に、べスターがこの時代を黄金期と言っていたのも頷ける。何の因果か集まった二課の面々は、素直じゃないなりに通じ合い、気の置けない関係性を築いていたのだから。渦中に身を置き、戦いの中で紡いだ絆であっても――いや、だからこそ通じ合えている部分もあるのかもしれない。この時が永遠に続けば良いと思えるほど充足した心地がする、遥かに遠い愛おしい思い出。

 

 しかし、人にはやはり永遠など存在しない。我らが黄金期は、今まさに終焉の時を迎えようとしている――それはオリジナルの発した一言から始まった。

 

「……アイツの協力も得られれば良いんだが」

 

 アイツと言うのが誰を指すのか、車内の二人はすぐに分かったに違いない。グロリアと眼を見合し、今のタイミングで切り出すべきと判断したのだろう、男は再びマイクを取った。

 

「アラン、残念だが、アイツは……右京は……」

「……先輩はもう頑張らなくていいんだよ」

 

 どうしてアイツの接近に気付けなかったのか。理由は色々とあった。雨と風で感覚が鈍っていたこと、極限の状態から解放されて気が緩んでいたこと――しかし一番の要因は、声の主に殺気がなかったからに他ならない。

 

 背後、つまりモノリス直行のエレベーターの方から声が聞こえた直後、車内のモニターは閃光と爆発にまみれ、スピーカーからは爆発音が響いた。爆風が消え去ると、モニターには黒く焦げたコンクリートの床が映っており――まだオリジナルにも息があるらしい、残っている右腕を支えに視線があがると、雨に濡れて近づいてくる少年の姿があった。

 

「アラン!? アラン! 何が起こったの!?」

「アレは……まさか!?」

 

 べスターの視線は、恐らく少年の握っている細長いスイッチのようなものに注がれている。アレは、オリジナルがべスターの実験室で目覚めた時に脅しに使われた爆弾のスイッチだ。要するに、星右京はオリジナルの体内に埋め込まれている爆弾を起爆させたのだ。

 

 べスターはモニターを見ながらもキーボードを叩き、サイボーグであるアラン・スミスの身体の状況をチェックしているようだ。どうやら胴体に組み込まれていた爆弾が起爆し、上半身と下半身とが真っ二つに吹き飛んだようだ。まだ首が上半身に繋がっているから息があるものの、肺や心臓へのダメージもある――長くは持たないだろう。

 

「この時をずっと待っていたんだ。デイビット・クラークを倒せるだけの力が現れるこの時を。

 より盤石を期すため、クラークの防衛プログラムに干渉しようと思ってたんだけど、モノリスを活用していてなかなか難しくてね。ただ、僕の助力なんかなしに倒せてしまったんだから……流石は先輩だ」

 

 オリジナルは何とか少年の本心を捉えようとしているらしい、上を向いて濡れた前髪の奥にある右京の瞳を覗き込もうとしているようだ。口元にはいつものようなシニカルな笑みが浮かんでおり――しかし寒空の下で身体を震わせ、頬から流れる雫が涙に見えるせいか、アレはお得意の作り笑いであり、心の奥底には確かな恐怖と悔恨がある――そんな風に見える。

 

「右京、お前、どうして……」

「許してくれとは言わないよ。僕はアナタを利用していたんだから……信じてくれるかは分からないけれど、アナタ達と過ごした時間は充実していたし、僕なりに本気で取り組んできたのも間違いない……仕事も、人間関係も。

 でも、本気だったからこそ、改めてたくさんのことに気づかされた。その気づきは、どちらかと言えばネガティブなものだったけれどね。何とか変わろうといろいろチャレンジしたつもりだけど、結局思考は一回転して、元の場所へと戻ってきてしまうんだ……だから、僕は当初の予定通りにことを運んだのさ」

 

 少年の独白は淡々としたものだったが、同時にどこか悲し気な色を帯びていた。何となく、自分には右京の真意が理解できてきてはいるのだが、他の者たちにとっては彼の独白など意味不明な物だったに違いない。

 

「おい右京、聞こえているんだろう? 頼む……お前の腹積もりはどうでもいい。アランを返してくれ……!」

 

 べスターは嘆願するように声を絞り出すが、対する右京はゆっくりと、静かに首を横に振るだけだ。

 

「それはできない。クラークを倒せる力というのは、それだけに危険だ……ついでに、DAPA要人を暗殺をして周っていた虎の首を手土産に出来れば、色々と話も早いからね」

「待って右京、待って! アランを返して!」

「先輩が二人にとって大切な人だということは重々承知だ。この先を見せるには忍びない……謝って済むとも思っていないけれど、アナタ達との生活は、僕にとっても充実したものだった。どうか、終末の時まで健やかにいてくれ」

 

 右京がMFウォッチを操作すると、モニターには何も映らなくなってしまった。しかし、虎のバイタルだけは依然確認できる――徐々に弱くなっていくその鼓動を見ながら、どうやらべスターはチェンと連絡の取れる通信機を手に取ったようだ。

 

「ゲンブ、頼む、戻ってタイガーマスクを助けてくれ!」

「何やら急展開があったようですが……今どんな状態なのですか?」

「クラークは倒したが……裏切り者に体内の爆弾が起爆させられ、下半身を吹き飛ばされた」

「成程……残念ですが、諦めてください」

「そこをなんとか頼む! 頼めるのはお前しかいないんだ!」

「もちろん、アナタの気持ちは組んであげたいところですが……実際問題、私とセイリュウはあそこから逃げ出すことで手一杯でした。仮に戻って虎を回収できたとしても、自走できないものを救えるほどの余力はありませんし……何より、今から戻っても間に合わないでしょう。

 厳しいようですが、私もセイリュウも無駄死にをするつもりはありませんからね」

「くっ、しかし……!」

「貴方と私にできることは、次の戦いに備えることです。虎の犠牲は手痛いですが、クラークと刺し違えたのならお釣りがくる戦果と言えるでしょう。私たちは、彼が戦い抜いたその先を見据えなければならない……それが残った者にできる、ただ唯一のことです」

 

 チェンの声色は淡々としたものだった。しかし、自分からしてみれば、この時のチェンの判断は正しかったと思うし、またこの男が決して薄情からオリジナルを見限った訳でないことは分かる。

 

 もしもこの時、べスターやグロリアに同情し、チェンとホークウィンドが金字塔に戻っていたのなら、母なる大地のモノリスの奪取は成功しなかったに違いない。仮に三つのモノリスが揃っていてもDAPAの計画は失敗していたというのがファラ・アシモフの試算ではあったが――それでもチェン・ジュンダーが惑星レムに降りることができたのは、この後にモノリスを一つ手中に収めていたからだろう。

 

 そしてチェンが一万年の執念を見せてDAPA残党を追ってこなければ、自分が復活することもなかったし、惑星レムにおいて右京達の目論みは達成されていたはずなのだ。

 

 それに、淡々とした声の中にも、確かに熱い物が混じっていた――残った者にできること、それを冷静に考え、目標を達するために激情を抑え込んでいる。チェン・ジュンダーはそういう男だ。

 

 だが、これも結果論にしかならない。この時のべスターとグロリアの感情は別だっただろう。最後の望みを託した通信を切られ、二人は徐々に弱っていくオリジナルのバイタルを見つめ――心臓の鼓動が完全に停止したのを見届けても、しばらくは二人とも黙ったまま呆然とモニターを見続けていた。

 

「……嘘よね、アランが死んだなんて」

 

 少女がぼぅっと呟いたのを聞いて、男もやっと我に返ったのだろう。同様に、グロリアも口にしたことで何かを思ったのか、車の扉に手を掛けた。べスターの反応も早く、グロリアの腕を掴んでくれたおかげで、鳥が雨中に飛び立っていくのを止めることが出来たようだ。

 

「離して! 私がアランを迎えに行くの!」

「ダメだ。お前ひとりで行ったところで無駄死にをするだけだ。それに……アラン・スミスは死んだんだ」

「嘘よ! 機械の故障かもしれないじゃない! 自分の目で確かめるまでは、私は絶対に認めないんだから!」

「その結果が、アイツのを死を確定させるだけだとしてもか?」

「そしたら私も死んでやるわ!」

「いい加減なことを言うな!!」

 

 今まで抑えられていた男の声が一気に大きくなったせいか、少女は驚きに肩を揺らして押し黙った。

 

「お前を失ったら、それこそオレはアイツに顔向けできん……」

「べスター……うぅ……うぁぁ……!」

 

 様々な感情を表に出していた少女が最後に辿り着いたのは――正確には、最も強く出た感情は悲しみだったのだろう、グロリアは声を押し殺しながらも大粒の涙を流し続けたのだった。

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