B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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魔族と魔王軍について

 駐屯地で三時間ほど仮眠をとって後、少女たちと供に城壁の外に出て地下道の入口へと向かうことになった。

 

「むー……」

 

 そして案の定だが、一服盛られたソフィアはクラウに対してご立腹の様子だった。クラウもソフィアの膨れた頬と無言の抗議に、どう取り繕ったものかと悩んでいる様子だった。

 

「……私はクラウの判断、悪くなかったと思うわよ」

 

 そうフォローに入ったのは先頭を歩くエルだ。フォローしてもらったことが嬉しかったのか、クラウは後ろでそうだそうだと小声で抗議をしている。

 

「ソフィア、アナタいつ倒れてもおかしくないくらいだったのだから。それに、夜までは恐らく大丈夫よ」

「えっ、なんで?」

「まぁ、勘でしかないけれど……昨晩襲ってきたのは上級アンデッドだった。それなら、街に潜む魔族は、アンデッドがその中核を占めているかもしれない」

 

 エルの言葉に、ソフィアは少し考え込んだ後、頷いた。

 

「確かに、街を襲撃するなら、夜のほうが灯りも少なく、兵たちも全力を出しにくい。それに、アンデッドなら、レヴァルの住民をそのまま彼らの仲間に引きずり込むことも可能……アンデッドを送り込み、夜に襲撃をかけることは、合理的と言えるかもしれないね」

 

 アンデッドはアンデッドを生む、なんだかゾンビ映画みたいだ――そんなこと思っている傍で、クラウが胸を突き出してえっへん、とポーズを取っている。

 

「そ、そうなのです! 私はそこまで読んでですね……!」

「嘘だな」

「嘘ね」

 

 自分とエルの突っ込みが入ったことで、クラウはガーンとうなだれてしまう。

 

「うぅ……でもですね、私としてもソフィアちゃんが心配で……」

「あぁ、それはそうだな……俺も、クラウの判断は良かったと思うぞ」

「アラン君……!」

「ま、やり方はあったと思うがな?」

「がはっ……!」

「もちろん、ひと眠りしようと説得しても、准将殿は聞いてくれなさそうだったってのは同意だが」

 

 クラウ一人を悪者にするのも悪いか、そう思いながらソフィアの方を見ると、今度はこちらを見ながら頬を膨らませていた。

 

「むー……アランさんまで。みんな私のことをなんだと思ってるのかなぁ?」

「頑固者?」

「熟考する鉄砲玉」

「魔族絶対倒すウーマンちゃんです」

 

 自分以外のソフィア評が割とひどい。いや、頑固者もひどいのかもしれないが、しかしクラウの語彙センスに正直噴き出しそうになってしまう。三者三様の酷評を受け、ソフィアはショックだったのか、杖を両手で持って悲し気な表情を見せる。しかし、すぐに一転し、少女は笑い出した。

 

「ふふ、なんだか、こんな風にストレートに言われたのも初めて……遠慮がないってことなのかな?」

「そうですよ、ソフィアちゃん。私たちはパーティー……仲間なんですから」

「そっかぁ……ふふ、そうだね」

 

 ソフィアは仲間という響きが気に入ったのか、どうやらクラウの悪行を水に流してくれたようだった。しかし、仲間か、確かに良い響きだ――そう思っていると、ふと微笑を浮かべているエルと目があった。しかし、すぐにいつものすまし顔に戻ってしまう。

 

「おい、エル」

「……何よ」

「にやついてだろ?」

「そんなことはないわ」

「見たぞ」

「アナタの瞳が濁っているだけよ」

「まったく、素直じゃないやつだ」

「……余計なお世話よ」

 

 そう言いながら、エルは横髪を抑えて表情を隠してしまった。ここでしばらく場に沈黙が落ち、なんだか気まずいので、思いついた質問をぶつけてみることにする。

 

「そう言えば、昨日の魔族……アルカードなんちゃらさん、アレは有名な魔族なのか?」

 

 この質問に対しては、クラウが首を振った。

 

「アルカード・シスとか偉そうに名乗ってましたけど、全然聞いたことありません。一応、ヴァンパイアロードは高位の魔族ですけど、魔将軍ほどではありませんね」

 

 そう言えば、以前にポロっとエルが魔将軍とかいう名を出していた気がする。名前からして明らかに強そうであり、恐らく四天王とかそういう系統の連中に違いない。

 

「なぁ、魔将軍について聞いてもいいか?」

「いいですけど……ソフィアちゃんのほうが詳しいですかね?」

 

 そう言いながらクラウがソフィアのほうを向き直ると、ソフィアはその視線に合わせて胸を突き出して腕を腰に当てた。

 

「任せて! ……クラウさんの真似」

「なんだか知らないけど負けました……!」

「えへへ……よく分からないけど勝ったよ!」

 

 ソフィアはすっかり機嫌を戻したようで良かった。少女二人で笑い合って後、ソフィアがこちらへ向き直ってくる。

 

「えぇっと、魔将軍に関してだね。魔将軍は、魔王の副官とも言える三人の強力な魔人だよ。一人は不死たるものの王【リッチ】、ネストリウス。ただ、ネストリウスは既に半年前に勇者様によって討伐されているね」

「ふむ。討伐されているなら深く聞く必要もないかもだが、一応どんなやつだったか聞いてもいいか?」

「うん。ネストリウスは……実は、元々人間だったみたいなの。邪神ティグリスに傾倒したとして教会を追われ、そのまま魔道に落ちたみたい……。

 ダークプリーストの異名のまま、最高位の闇魔法を使い、万の不死者を操る不死者の王。レムリアの侵攻を行っていたのがネストリウスだったんだ」

 

 なるほど、魔族に傾倒する人間が居るとは昨晩聞いたが、まさか魔将軍にまで昇り詰めているものがいたとは。ふと、一瞬クラウの横顔を見る。それは、ジャンヌとの繋がりという点ではなく、教会を追われた、という点がネストリウスとクラウとで一致していたからだ。

 

 しかし、彼女が少女を見る目は優しい。彼女は、決して人間世界に絶望などしていない、だから、大丈夫だ――そう思い、ソフィアに続きを聞くことにする。

 

「ネストリウスについてはわかった。他のやつについて教えてくれ」

「うん。二人目は、地獄の騎士【レイバーロード】、イブラヒム。イブラヒムは、バルバロッサの地を拠点としている魔族なんだ。この先に、魔王城があるから……バルバロッサは、人類と魔族の争いの最前線だったことになるね」

「そのイブラヒムってやつは強いのか?」

 

 こちらの質問に対し、ソフィアではなくクラウが呆れた顔で振り返る。

 

「アラン君、そりゃ魔将軍なんだから強いに決まってるじゃないですか」

「まぁ、それもそうだな……でも、無敵の勇者がいるバルバロッサを落とすほどなんだ、きっと相当の手練れなんだろうな」

 

 そう呟いて見せると、ソフィアの方はうーん、と首をかしげているようだった。

 

「なんだ、予想外なのか?」

「うーん、もちろんイブラヒムは強力な魔族。邪悪な亜人を統括し、自身も相当な武人だって聞いているけれど……」

「ふむ……?」

 

 ソフィアにしては、なんだか歯切れが悪い。先行するエルが振り返って

 

「無理もないわ。魔王は不変の存在だけれど、魔将軍は代ごとに入れ替わっているもの。ネストリウスは倒された魔将だから情報も多いけど、イブラヒムに関してそう情報は多くないのよ」

「なるほどな。だから、勇者を圧倒できるほどの実力があるかは誰にも分からない訳か。逆に、魔王についてもう少し詳しく聞きたいが……先に、三人目の魔将軍について教えてくれ」

 

 改めてソフィアに向き直ると、少女は頷いた。

 

「三人目は、奈落の君主【アーチデーモン】タルタロス。悪霊や悪魔を従え、第七階層レベルの大魔術を使う強力な悪魔と言われてるね」

「なるほどな。それで、そいつはどこにいるんだ?」

 

 こちらの質問に対しては、ソフィアは首を横に振った。

 

「タルタロスは、その居場所が分からないの。恐らく、魔王の参謀として魔王城にいるって考えるのが自然だけれど……」

 

 そこで少女は一旦言葉を切り、口元に手をあてて考え事をし始めているようだった。

 

「……もしかすると、レヴァルの地下に居る可能性があるかもしれない」

「でも、タルタロスの専門は魔術ですよね? 結界を弱めていたことと整合性が取れなくないですか?」

「ネストリウスが指揮していた不死者の軍団は、タルタロスの配下になったと聞いているよ。恐らく、昨日のヴァンパイアロードも今はタルタロスの配下。不死者の中には闇魔法の使い手も居るから、タルタロスが指揮していたと考えれば辻褄があってくる。

 それに、高位の悪魔は邪神ティグリスとも近い関係にあるはずだから、自身が結界を弱められてもおかしくはないね」

 

 先ほどから、邪神ティグリスという名前がよく出てくる。それに、最悪の場合、自分が魔将軍と戦わなければならない可能性も出てきているのだが――果たして、勝てるのだろうか。というより、三人の少女たちの役に立つのだろうか。ティグリスも気になるが、優先度が高いのは目先のことだろう、ソフィアに尋ねてみることにする。

 

「なぁ……もちろん、どれだけの強さかは未知数だと思うんだが、果たして俺たちで……俺たち四人で、魔将軍と戦えるのか?」

 

 こちらの疑問に、少女は杖を握る仕草を見せ、強い笑顔を浮かべる。

 

「あまり楽観視は出来ないけれど、私たちなら立ち向かえると思うよ。魔王は聖剣によってしか傷つけられないから勇者様しか対抗できないけれど、魔将軍は言ってみれば、最高位の魔族というだけ……私たちでも討伐することは出来る。

 元々今回、私が皆を誘ったのは、魔将軍レベルの魔族が出てきたときに、それと対抗できるようにするため。エルさんとクラウさんは、人類最高クラスの実力を持っている。だから、きっと対抗できるよ」

 

 その通り、だがそれは少女たち三人のことを言っているのであって、自分は含まれていない――こちらの不安を感じ取ったのだろう、エルとクラウもこちらに笑顔を向けてくれていた。

 

「逆に、私たちが余力を残して置かないと、魔将軍には遅れをとるかもしれない。地下通路は迷宮になっているから、無駄な戦闘を避けるのはかなり重要なことよ」

「そうですよ、頼りにしてますよ、アラン君!」

「あぁ、そうだな……皆が力を温存できるよう、頑張るよ」

 

 なんとか笑顔をこちらも作って返すと、ソフィアとクラウが「おー」と握りこぶしを上げてくれた。さて、まだまだ聞きたいことはたくさんある。よくよく考えてみれば、魔王のことも細かくは聞いていないし、邪神とやらもなんだか気になる。

 

 しかし、先導のエルがその足を止める。場所は、堀から少し離れた場所にある岩場で、確かに高さが十メートル以上は優にありそうな城壁の上からだと、夜なら死角になりそうな場所である。

 

「……ここね」

 

 エルが地面の砂を足で払うと、鉄の板のようなものが姿を表す。そして彼女がそのまま鉄の板を持ち上げると、人一人通れる、という狭さではあるものの、確かに石段がそこにあった。ここが、地下通路の入口か、気を引き締めなければならない。

 

「地図を見る限り……この地図が、今の構造をそのまま表しているかは分からないけれど……ひとまず、降りれば少し通路は広くなりそう。まずは私が先頭に立つから、皆は着いて来て。広くなったら、私とアランが先導していきましょう」

「あぁ、分かったが……松明とか使うか?」

 

 一応質問したものの、自分にはその準備はない。そこに、ソフィアが割って入ってきた。

 

「簡単な灯りの魔術があるから、それを松明代わりにしよう。松明だと明かりが強すぎて、敵にバレちゃうかもしれないから」

「しかし、魔術は弾数に限りがあるだろ? 大丈夫か?」

「灯りの術は第一階層の魔術だから、暗黒大陸レベルの魔族相手にはもてあますことが多いんだ。それに、一発で一時間程度は持つし、ある程度私の意志で明かりの強弱もつけられるよ」

「何それめっちゃ便利。それならソフィア、任せた」

「うん、任された! ……ライト!」

 

 少女がレバーを押し込んで杖を振ると、小さなビー玉サイズの球体が現れる。それが階段の少し先を行くと、確かに石段が十段奥までは見えるほどの明かりになっている。今まで攻撃の魔術ばかり見ていたせいで感覚が薄れていたが、魔術にはこういう便利な使い方もある訳だ。よくよく、十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないとか言うが、ある意味では魔術こそがこの世界における科学なのだろうし、それは一部の特権階級しか享受できていないからこそ中世風の時代が長く続いているのかもしれない。

 

 考え事をしているうちに、いつの間にかエルとソフィアは既に階段を降りて行っているようで、クラウが地下に足を踏み入れ始めていた。こちらも遅れるわけにはいかないと、少女たちを追うために小走りで階段に近づく。

 

 そして今まさに階段を降りようとしたタイミングで、唐突に頭に痛みが走る。この感覚は――。

 

『……連日の介入すいません、アランさん、聞こえますか?』

『……レムか。すまん、今ちょっと忙しいんだ。いろいろ聞きたいのは山々なんだが、後に……』

『いえ、ちょっと警告ですので聞いてください。その先は、どうやら神の目を阻害する結界が張られているようです……そのため、私の力が地下空間まで届きません』

『えぇっと、それってまずいのか?』

『端的に言えば、地下で大きなケガを負わないよう注意して欲しいのです。アナタの不死性は、私がその肉体に魂を定着させていることが由来です。

 もし私の力が干渉できないような場所でアナタが死ぬようなケガを負ってしまった場合、その魂は行き場を失い、そのまま霧散します』

 

 それを聞いても、あまりピンとは来ない。もちろん、その不死性とやらはソフィアを龍から助けた時には活用した能力ではあるのだが、別に好きで大怪我したいわけでもないし、またする前提で動く奴もいないだろう。

 

 とはいえ、保険が無いと考えれば確かに危うい――自分は戦う力が弱い分、多少は打たれ強さでカバーできていた部分もあるように思う。そのうえ、ここには魔将軍とかいう強敵がいるかもしれないのだ、そう考えれば確かに危険だし、自分はこの先にまでは足を踏み入れないほうが良いのかもしれない。

 

『……でもまぁ、行くよ』

『何故ですか? 別に、アナタに危険を侵す義務はありませんよ?』

『この前も言っただろ? 彼女たちが心配なんだ……それに、今回は頼りにしてもらってるからな。可愛い子たちに格好悪いところは見せられないだろ?』

『はぁ……まぁ、別に止めはしません。というか、言って聞く人でないことも知ってます。ただ、いつも以上には慎重にいてくださいね』

『あぁ、ありがとうレム。忠告は受け取った』

『はい、それでは頑張ってくださいね、アランさん』

 

 そこで女神の声が途切れる。俺は改めて空を一瞥する。今日は曇天、あまり良い雰囲気ではない――しばし地上とお別れする餞別に、外の空気を大きく吸い込む。

 

「……よし、行くか」

 

 誰に対してごちったわけでもない、ただなんとなく、自分に言い聞かせ――これが地獄への入口にならなきゃいいが、そう思いながら足元の暗闇に足を踏み入れた。

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