B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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城塞都市への道のり

 遺跡の内部で一夜を明かし、降りてきた穴から地上へと脱出して再び山脈を推定北へと歩き続けた。中間地点でゆっくり出来たおかげで体力を取り戻し、歩くペースを上げて移動することが出来た。

 

 常人なら酸素の薄さから動けなくなるような高度であってもセブンスは元気一杯であり、移動に関してはこちらが頼ることも多かった。どんな時でもイヤな顔一つせずこちらを励まし、希望を捨てない彼女を見ていると、なんだかこちらとしても不思議と力が沸いてくる――最初は苦手なタイプとも思ったが、共に行動を続けるつれて不思議な信頼感が生まれてきたのも確かだった。

 

 まぁ、会話が少々無神経なことを差し引けば、やはり手放しに褒められるタイプでもないし、何なら剣の勇者という伝説の印象と今の彼女とでは印象が全く異なるのだが――それでも彼女が人類の希望だったということに関してはうなずけるものがある。

 

 崖を越え、谷を越え、雪原を、森林を、湖を通り過ぎ、数々の魔獣との戦闘を繰り広げ――ハインライン辺境伯領を発ってから十日ほどで、狂気山脈を超えていくことに成功したのだった。

 

 最初こそもう少し人数の多いパーティーの方が良いかと思っていたが、実際は少人数で正解だっただろう。というより正確には、セブンスが相方だったからこそ抜けられたというのが正解か。むしろ、彼女一人ならもっと早く抜けられたに違いない。実際の所、山脈を超える上で自分が貢献したことなどほとんどなく、道を選ぶのも難所を超えるのも、彼女に頼りきりだったのだから。

 

「貴女のおかげで狂気の山脈を超えることが出来たわ……ありがとう、セブンス。」

 

 山脈の麓で振り返り、改めて自分たちが踏破してきた山々を見上げる。自分だけではあの山を超えることは出来なかった――そう思って礼を述べると、セブンスの方も深々と自分に対して頭を下げてきた。

 

「私の方こそありがとうございました、ジャンヌさん!」

「でも、私は貴女に頼りっきりだった……足手まといだったんじゃない?」

「そんなことありませんよ! ジャンヌさんの作ってくれるごはん、美味しかったですし!」

「まぁ、貴女一人じゃ食料事情が不安なのも分かるけれど……でも、逆を言えば役に立ったのはそれくらいじゃないかしら?」

「そんな謙遜しないでください。補助魔法をいただいたり、結界で崖や谷を超えるのも楽々でしたし……何より私自身、誰かといるほうが力が出るんです! なので、ジャンヌさんが居てくれてありがたかったですよ!」

 

 セブンスはそう言いながら屈託なく笑う。彼女は嘘を言うタイプでもないし、心の底から自分が居てくれてよかったと思っている雰囲気だ。

 

 それに事実として、誰かが居たほうが力が出るというのも間違いでもあるまい。彼女は誰かのためにあらんと行動する――それ故に、困っている人が居るほうが何をすべきか決めやすいというのはあるのだろう。

 

 今更ながらではあるが、この少女に興味が沸いてきた。ここ一年程度の記憶しかないとなると、なぜ彼女がこのような性格になったのかは――ある種、歪んだとも言えるのだろうが――分からないだろうが、もう少しセブンスのことを知りたいという気持ちが沸いてきたのだ。

 

 もし世界に彼女のような人がもう少し多ければ、自分も違った人生を歩んでいた気がする。たらればを考えても仕方ないし、今までの選択に後悔がある訳でもないのだが、それでもどうすれば彼女のような人格が醸成されるのか気にはなる。

 

 どのみち山脈を越えた後ももうしばらく移動が必要になる。そうなれば、暇つぶしに彼女の話を聞いてみても良いだろう。しかし、何と声を掛けるのが丁度良いか――切っ掛けは何でもいいのだが、「貴女のことを知りたい」などというのも気恥ずかしいものがある。そうなれば、確か途中だった話題があったはずだ。

 

「せっかくだし、この前の話の続きを聞かせてくれない? あの……無理やり脱出装置に乗せられた、だったかしら」

 

 そう言いながら隣を歩く少女の方を見ると、まるで先ほどまで同じ話題を話していたと錯覚するほど、セブンスは先日と同じように唇を尖らせた。

 

「そうなんです! T3さんっていう人が居るんですけれど、その人に無理やり脱出させられてしまったんです!」

 

 そこまで勢いよくまくしたてて後、セブンスは急にしゅんとしたように瞳を伏せた。 

 

「……確かに私があの場に残っても、出来ることは無かったと思います。せいぜい、ヘイムダルの一部を破壊するくらいで……すでに光の巨人は現れてましたし、空を飛んだり瞬間移動したりする七柱の創造神達を倒すことは出来なかったでしょう。

 よくて、ミストルテインの一撃で一柱と相打ちするくらいで……最悪の場合、ただあの場で私も死んでしまっていたと思うんです」

「それでも、そのT3とやらに対して怒っているの?」

「はい! 怒ってます!」

「貴女を生かす代わりに、その命を賭したというのに?」

 

 こちらの質問で怒気が削がれたのか、セブンスは急にしゅんとなってしまった。しかしすぐに微笑みを取り戻し、胸に手を当てながら口を開いた。

 

「この前も話しましたが、私は皆生きてるって信じてるんです。ですから、T3さんも必ず生きています。何せあの人は、海と月の塔……この一年の間に私もこの目で見ましたが……あの上層から落ちても無事だった人なんですから!」

「えっ……どういう状況よ、それ」

 

 海と月の塔は、自分も修行のために連れていかれた場所でもある。ルーナは自分が異端であるネストリウスの孫娘というのは知っていたはずだが、その気になればいつでも御せると思っていたのだろう――思考が脱線したが、天を衝くあの塔の上層から落ちて無事というのは全くイメージが沸かないどころか、そんな状況になること自体が全く見当も付かない。

 

 セブンスは「まぁ口止めされてるわけでもないですし、話しても大丈夫ですよね……?」と自問自答をしながら、T3という男について話し始めた。まさか、八代勇者ナナセを追って塔へと昇った伝説上の人物、アルフレッド・セオメイルその人だとは思わなかったが、七柱への復讐者としては、確かにこの上ない人物とも言えるだろう。

 

 その正体について話した後は、アルフレッド・セオメイルの人となりについての話が続いた。曰く、冷たいように見せかけて優しい所もあるとか、料理が上手いとか、アラン・スミスと仲が良かったとか――ナナコはアランが付けた渾名であり、セブンスはアルフレッドが自分のことをそう呼んでいたことなどを語った。

 

「それで……私が一番怒っているのは、きっと自分自身に対してなんです。私は、あの人を一人にしないって決めたはずなのに、あの人から離れてしまったから」

「でも、その肝心の彼に気絶させられて脱出させられた訳でしょう? 仕方なかったんじゃない?」

「うぅん、そうなんですよ。だから複雑なんです」

「……もしかすると、貴女は悔しいのかもしれないわね」

「悔しい、ですか?」

「えぇ。貴女はアルフレッド・セオメイルに対して一人にしないと公言したわけでしょう? でも、肝心の彼は貴女を突き放す行動に出た。それはつまり、彼は貴女との約束を覚えていなかったのか……はたまた覚えていたのだとしたら、貴女との約束を反故にしても構わないと思ったということになる。

 そうなると、貴方達の感情の間には溝があったということになる……それが悔しいんじゃないかしら」

 

 こちらとしてはただの思い付きを話しているだけなのだが、思いのほかセブンスには効いてしまったらしく、しゅんとして押し黙ってしまった。確かに、自分の言葉は少々無神経であったかもしれない。

 

「……一応言っておくと、感情に溝があったと言っても、アルフレッド・セオメイルは貴女のことを無下に思っていた訳ではないと思う。むしろ、逆かもしれない……貴女を大切に思っているからこそ、生き残って欲しかったんじゃないかしら」

「でも、それは……私だって同じです」

「貴女にとって、その男は特別なのね」

 

 思わずそんな言葉が出たのは、アルフレッド・セオメイルのことを話している間の熱量ももちろんなのだが、セブンスが様々な感情を見せていたせいだろう。

 

 セブンスと言う少女は、基本的には喜怒哀楽の内で怒りというものが抜け落ちているような印象を受ける。より正確に言えば、彼女にとって他人とは庇護対象であって、その感情は公平――よく言えば誰かを見損なったり疎んだりしないが、一方で誰かに対して特別な感情を抱くこともない。

 

 しかし、アルフレッド・セオメイルに対してだけは、セブンスは様々な感情を抱いているようだ。怒りはもちろんのこと、それ以外の感情に関しても、アルフレッドに対するその振れ幅は大きいように見える――自分が思わずアルフレッド・セオメイルをセブンスにとって特別と形容したのを言語化するとこんな所か。

 

 もっと単純に言えば、三百年前に海と月の塔まで勇者ナナセに同伴したアルフレッド・セオメイルの気持ちが一方通行でなかった、もしくはなくなったと言うべきなのだろうが――一方セブンスは意図が掴めなかったのだろう、小首をかしげながらこちらを見つめていた。

 

「えぇっと、どういうことでしょう?」

「どうもこうも、好きなんじゃないの? その男のことが」

「好き……はい、好きですよ! T3さんは大切な旅の仲間で……」

「違う違う、そういう感じじゃなくて、異性としてってことよ」

「異性として……?」

 

 セブンスはこちらの言葉を反芻して、しばらくはキョトンとした表情をしていた。しかし心当たりがあったのか、突然頬を紅潮させて、慌てたように両手と首を全力で振り始めた。

 

「ちちちち、違います! そういう感じじゃないんです!」

「それにしては、凄い慌て様じゃない」

「それはその、異性として好きっていうのは、なんだか気恥ずかしいと言いますか……そんな風に考えたこともなかったので、変に意識してしまったと言いますか!」

「変に意識する相手なら、やっぱり好きってことなんじゃないの?」

「あぅぅ……違うんです、そうじゃないんです……異性として好きって、すっごいパワーがいる行為なんですよぅ。なんというか、ソフィアは凄かったと言いますか……」

「……ソフィアって、ソフィア・オーウェルよね?」

 

 こちらの質問に対し、セブンスは首を縦に振った。曰く、ソフィアのアランに対する愛情が非常に強く、異性を好きになるというのはそれほどのパワーが必要になると言う風に錯覚しているようだ。

 

 感情など個別のモノであり、ソフィア・オーウェルと同じ様にする必要などないのだが――そんな風に思っていると、結局ソフィアはヘイムダルよりも前にその命を散らしたと語られた。ヘイムダルで散った仲間は生きていると信じているセブンスだが、ソフィアの最後は彼女自身も見たらしい。

 

 しかし、成程、自分はソフィア・オーウェルを厄介な子供だと思っていたし、吸血鬼アルカードを差し向けて暗殺しようとしたのだが――この子にとって准将殿も特別だったと言うことなのだろう。先ほどまで顔を真っ赤にしていたセブンスは、その死を悼むように悲痛な表情へと変わってしまっている。

 

「私には、ソフィアとの約束があったのに、何もできないまま脱出させられてしまったから……あの時、すでにアランさんの身体はボロボロになってしまってましたから、何かできたという訳でもないのですが……それでもヘイムダルに残っていれば、もう少し違ったんじゃないかなって思うんです」

「それはそうかもしれないけれど……逆に考えたらいいんじゃない? アラン・スミスはまだ終わっていない。まだ、彼のやることをサポートすることは出来るじゃない」

「確かに……」

 

 セブンスは一度静かに頷き――言葉の意味を咀嚼して心に落ちたものがあるのだろう、今度は大きく頷いて、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。

 

「確かにそうですね! アランさんが戻ってくれば、ソフィアとの約束を果たすことができます! ゲンブさんと必ず再会して、アランさんを救い出さないと……! ジャンヌさん、ありがとうございます!」

「別に礼を言われるようなことはしていないわ」

「いいえ、アナタはアランさんに実際会ってきて、私に道を示してくれましたから!」

 

 そう言いながらまた大きく頭を下げると、セブンスは前を向きながら「ふぅ」と言いつつ手の甲で額を拭った。

 

「……これでソフィアに怒られずにすむ」

「……どういうこと?」

「あ、えとえとえと! そのぉ……あのあの、こ、ここだけの話ですよ? ソフィアって怒ると怖いんです」

「あぁ……成程、わかるわ。一度相手を敵として認識すると容赦が無いのよね、あの子」

 

 自分もかつて、状況証拠から淡々と、しかし冷静に詰め寄られたことを思い返す。可憐な少女のような姿をして一見すると穏やかだが、ソフィア・オーウェルには氷のような冷たさがある。そう言う意味では、何事にもハイカロリーなセブンスをして好きというのは凄いパワーが居ると言わせしめたのだから、ソフィアもアラン・スミスに対しては氷の中に熱い情熱を秘めていたということか。

 

 若干十三歳にして最前線司令官などやっていたのだから、どちらかと言えば歪んだ感情があの男に向けられていたと言うべきなのかもしれないが――そんな風に思いながら言うことに頷いていると、セブンスは苦笑いを浮かべて頬をかき始める。

 

「そ、それもそうなんですけど……私に対しては絶氷だったと言いますか、取り付く島もないほどプイっとされちゃうと言いますか」

「ふぅん……年相応な所もあったってことかしら」

「ほぇ? どういうことですか?」

「あの子は大人に対する接し方は熟知していたけれど、同世代に対しての接し方は分からなかったってことじゃないかしら?

 そういう意味では……貴女はきっと、ソフィア・オーウェルにとって特別だったのよ。貴女がアルフレッド・セオメイルに対して感情の起伏が激しいのと同様にね」

「それって、つまり……そそそそ、ソフィアは私のことが好きだったってことですか!?」

 

 セブンスは顔を再び真っ赤にしながら手をぶんぶんと振り始めた。世の中には色々な愛の形があるのであり、そういったのも否定する気は全くないのだが――そもそもは異性としてという話だったのに対し、セブンスは壮絶な勘違いをしているようではあった。

 

 この子のオーバーな感情に逐一付き合うのも大変だ、そう思ってとくに訂正せずにいると、セブンスの表情はまた一転し、真剣な物へと変わる。

 

「でも……それだったら余計に申し訳ないです。ソフィアは私に期待して、アランさんのことをお願いしていたはずなので……」

「繰り返しだけれど、それならばこそ、アラン・スミスを救い出さないとね」

「はい! アランさんに戻ってきてもらって、今度こそソフィアとの約束を果たせるように頑張ります!」

 

 セブンスは鼻息が聞こえそうなほど気合を入れて、両手で握り拳を作りながら頷いた。まだ救い出せると決まった訳でもないし、レヴァルへと辿り着いたところでゲンブと再会できるという確証もないのだが――決意を新たに前を向いている少女のやる気にわざわざ水を差すこともあるまい。

 

 セブンスはこちらに対し、アラン・スミスのことを教えてくれたことを改めて礼を言って、後は時おり同じような話をしながら暗黒大陸の地を歩き続けた。平原へと出て、荒れ果てた農地や林を抜け、海岸線へと出てしばらく移動を続け――狂気の山脈を超えて二日後の夕暮れの中、遠景に佇む城塞都市の影が見え始めたのだった。

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