B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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地下迷宮

 地下へと続く階段は割と長く、建物二階分ほどは降りたと思う。そして、エルが言っていたように少し広い通路へと出た。

 

「……ねぇ、ソフィア。これ、なんだったのかしら?」

「レヴナントだね。ゾンビ系としては最上位の不死系魔族、とは言っても力が強いだけで魔術も知能もないから、エルさんなら苦戦はしないと思うよ」

 

 そのような会話がすでに繰り広げられており、エルの足元には二体の亡骸が首を両断されて転がっていた。確かに、恐らく元々人だったものが魔族化したものとなると、種族は判別しにくいかも――そう思っていると、足元の亡骸が結晶と化した。やはり、元々人でも不死者となれば結晶化するということか。

 

「しかし、この剣、よく切れるわね」

「うん、業物ってわけではないけど、正規軍特注のサーベルだからね。一般的な市販品と比べれば、切れ味も耐久性もいいと思う」

「そうなの。確かに、ガランゼウスよりいいわ」

 

 ガランゼウスよりいいのか、いやガランゼウスがやっぱり言うほどたいしたことないのか。ただ、一度は強そうと思ったせいで、謎にガランゼウスに共感してしまっている自分としては、軍の支給品のほうがより良いとか言われている現実に謎に悲しみを覚えてしまった。

 

「……アラン君、来るの遅かったですね」

 

 そう、後ろから声を掛けられる。振り向くと、壁を背にこちらを見ているクラウが居た。

 

「悪いな、ちょっと大宇宙の意志と交信してたんだ」

「はぁ……良く分かりませんが。それよりも、レヴナントの気配、感じ取れました?」

「あぁ、階段を降り初めてすぐ感じ取れた。問題なく索敵できると思う。それで、この通路には、もう他に敵は居ないな」

「そうですか……凄いですね」

 

 そう言うクラウは、心底感嘆するような表情でこちらを見ている。 

 

「凄いのか?」

「はい。索敵って、敵の呼吸や臭いなどからするものだって聞いてます。まぁ、ゾンビ系は臭いもありますが……ともかく、不死者相手は索敵ってしにくいって聞いていたので」

「うーん、そうなのか……」

 

 思い返してみれば、索敵中に呼吸も臭いも拾っているが、一番注力しているのは――。

 

「……空気の流れかな」

「はっ?」

「何か存在してれば、空気が広がらず、音が跳ね返ってくるだろ?」

「それ、感じれるんです?」

「……確かに、我ながらなかなか気持ち悪いな」

 

 超音波でモノとの距離を測る蝙蝠みたいな索敵を気付かぬうちにしていた自分に対して、謎に気持ち悪さを覚えてしまう。

 

「いや、他にも殺気とか、視線とか、音の反響とか、そういうのも加味しているな」

「うん、余計に訳が分からないので、もういいです。少なくとも、アラン君の敵を感じ取るスキルは超一級品っていうのは良く分かりました」

 

 半ば気持ち悪いものを見るかのような目で、クラウは一歩、二歩と後ずさりした。

 

「……さて、入口までの案内にはなったけれど、この地図もう役に立たないかしらね」

 

 横からエルの言葉が聞こえてきて、今度はそちらへと向き直る。

 

「うん? なんでだ?」

「ここ、本来なら突き当りに階段があるはずなの。でも……」

 

 エルが親指で指さした方向は、本来なら壁があるべき方が下った。しかし、そこには石壁が崩れた後、何者かが簡易に舗装した道が続いている。

 

「……恐らく、魔族は向こうから侵入してきているんでしょう」

「なるほど……ここを塞げば、とりあえず今以上に街のほうに魔族を入れることはないわけか?」

 

 我ながらナイスアイディアとも思ったが、エルの向こうでソフィアが首を振った。

 

「うぅん、アランさん。魔族の侵入を防ぐ壁となると、厚さはかなり必要になるよ。魔術で崩落させてもいいけど、街方面にまで悪影響が出るとも限らないし……何より、侵入経路がここだけと決まったわけじゃない。ひとまず、中の調査が優先だと思う」

「あぁ、ソフィアの言う通りだな……それじゃあ、行くか……!?」

 

 最後、自分の語尾が上がったのは、壁の向こうから迫る気配を感じたからである。そしてその一番近くにはクラウが居る。

 

「おい、クラウ、壁から来るぞ、気をつけろ!」

「ほほぅ、それでは肩慣らしに……!」

 

 そう言いながら、クラウは腕を上げる。自身に補助魔法を使う気だろう。しかし、何事も起こらない。

 

「あれ、もしもし、レム神様? おーい?」

 

 そう言えば、先ほどレムが目が届かないと言っていたか、そのせいで神聖魔法も使えないのかもしれない。壁がドン、ドンと叩かれ、その音の大きさに比例してクラウも急激に顔もどんどん青ざめて行っている。

 

「お……お助けぇ!」

 

 最後、若干涙目になって壁から離れた瞬間、煉瓦が瓦解して奥から赤い骨の不死者が一体現れる。骨の持つ刃の掛けた剣が振り下ろされるよりも早く、自分は袖に隠している短刀を投擲し、それは不死者の頭蓋にそのまま直撃した。アンデッド相手に致命傷にはならなかったが、それでも敵から見たら目の前にいるクラウから少し気を逸らすことに成功する。

 

「……ふっ!」

 

 そして、直後にエルが抜刀とともに相手の剣を持つ腕を薙ぎ払い、骨の腕が宙を待っているうちに、返す刃で脳天から一刀のもとに骸骨兵を両断した。

 

「ふぅ……クラウ、大丈夫?」

「えぇっと、体は大丈夫なんですけど……魔法のほうは、怪しいと言いますか……?」

 

 目線をクラウのほうに戻すと、逃げる際にこけたのか、クラウは床の上でへたっている。そして、その向こう側で、ソフィアが壁をじっくりと見つめているようだった。

 

「……よく見ると、壁に何か呪術式のようなものが刻まれているね。これのせいで、神の加護が届かないのかもしれない」

「がーん!? 不死者相手とか、聖職者の見せ場なのに!?」

 

 クラウは大げさに頭を抱えながら叫んだ。

 

「でもお前、別に体術も結構いけるんじゃ?」

「そ、それは、そうですけどぉ……!」

 

 緑が頭を抱えているうちに、骨が崩れてきた壁の向こうから何者かが接近してきている気配を感じる。エルに見せるように暗闇の奥を指差すと、数秒後に体表の赤い、腐敗した徘徊者が、その朽ちた体に似合わぬ速度で接近してきた。

 

「そもそも、あのぬめぬめしてるヤツ相手に、素手で立ち向かえと!?」

「あー……それは確かに、キツいかもなぁ」

 

 クラウだって女の子なのだ。トンファーなんてほぼ素手に近い、しかも身体強化もないのに、アレと戦うのははばかられるだろう。エルが敵の首を一撃で切り払った後、ソフィアが「アランさん、アレがレブナントだよ!」とかちょっと呑気な声が通路に響いて後、クラウはうなだれながら立ち上がった。

 

「ふぅ……こうなったら、アイテム係に徹するしかありませんかねぇ」

 

 それに対し、剣を鞘に収めながらエルが反応する。

 

「いえ、魔法が使えない状態で、あまり深入りしないほうがいいかもしれない……どうする、ソフィア?」

「……そうだね、クラウさんが神聖魔法を使えないのは、戦力ダウンはもちろん、不死者や悪魔に対して主導権を失うかも……。

 でも、恐らく時間はない。昨日の襲撃を考えれば、早くて今晩、遅くても明日の夜にはレヴァルの街が襲撃されるかもしれない。だから、調査だけでも進めたいのが本音だね」

 

 そこまで聞いて、何となくだが疑問が浮かんだ。ここは日も当たらないから不死者が徘徊していてもおかしくないとして、そもそも不死者も魔法で動いているのではないか?

 

「なぁソフィア、印象の話なんだが。不死者も僧侶系統の魔法で動かされてたりするんじゃないのか?」

「うん、全部が全部じゃないけれど、アランさんの言う通り。ゾンビや吸血鬼の眷属は細胞の変化だけれど、スケルトンなんかは魔法で動いてるケースが多いね。さっき動いてスケルトンが居たことを考えると、この術式は多分レム神など一部の神の加護を阻害しているんじゃないかな」

「なるほど……それこそ、邪神の加護は、この中にもあるってことか」

「恐らく、そういう事だと思う……それで、クラウさん。進んでも大丈夫そう?」

 

 ソフィアが聞くと、クラウは頷き返す。

 

「はい、さっきも言ったように、基本的にアイテム係に専念します。回復薬はありますけど、あくまでも止血と基礎代謝を上げる程度の効果なので、回復魔法ほどの治療は見込めません。だから、無茶しないでくださいね?」

 

 そう言いながら、クラウは俺を見てきた。

 

「どうしてそこで俺を見る?」

「無茶が服着て歩いてるような人ですからねぇ……でも、ホントに無茶しないでください?」

「あぁ……」

 

 返答した後、一瞬思ったことがある。加護が違うのなら、ティアなら魔法が使える可能性があるのではないか――しかし、それは多分クラウも考えているだろう。それを敢えて言ってこないのは、何某か理由があるに違いない。それなら、敢えて言う事もないか。どの道、邪神以外の全ての加護が無効化されていると考えるのが普通だろうし、それならティアも魔法が使えない可能性は高いのだから。

 

「……クラウこそ、お化け相手にちびるんじゃないぞ?」

「むっ、アラン君こそ、ゾンビパニックでひよって逃げ出さないでくださいよ!?」

「さっき涙目になりながら、お助けぇってなってたやつのいう事か?」

「アレはアンデッドが怖かったんじゃなくて、魔法が使えなくて焦ったんですー!!」

 

 クラウが手をぶんぶんと振っているのを傍目に、俺はエルと並んだ。

 

「さて、それじゃあ俺とエルが先導、少し離れてソフィアとクラウが追従、エルと俺で対処できない数の敵が出たら、ソフィアも加勢。クラウはアイテムでサポートに専念……こんな感じか?」

「えぇ、それでいきましょう。ソフィアは、別に独自の判断で動いてくれて構わないわ。敵の数が少なくても、状況によっては魔術を撃った方が良いケースもあるでしょうし」

「うん、了解だよ。それじゃあ、進もうか」

 

 ソフィアは返事をしてから、右手の指で俺とエルの間をさした。すると、灯りの魔法がちょうど、自分たちの少し前を先導する形になる。

 

「アランさん、光源の強さは私に言ってくれれば変えられるから」

「あぁ、了解だ」

 

 しばらく、通路を道なりに進む。ここは元々、最後に城壁の外に出るための避難経路のようで、道は一本、とくに迷う要素もない。敵も、最初の階段の所に居たのは見張りのようなものだったのだろう、移行はしばらく何者にも接敵せずに進めている。

 

 周囲を警戒しながらゆっくりと歩いていると後ろのほうで、小さな声で話し声が聞こえる。

 

「しかし、ソフィアちゃんが言っていた通り、本当に地下通路が魔族の巣窟になっていましたね」

「うん、まだ魔王軍という確証は無いけれど……それでも、入口のレブナントは外に出ず入口を徘徊していたということは、やっぱり何者かに指揮されていると見るのが妥当だね。そうなれば、多分かなり上位のネクロマンサーが中にいるのは間違いないと思う」

 

 ネクロマンサー、死霊使いか。確かに、ゾンビ型の不死者は放っておけば外に肉を求めて出ていきそうだ。それが出ないということは、何者かの意志で制御されていると思って間違いなさそうだ。

 

 そう言えば、ジャンヌの件、ここまで来たら二人にも話したほうがいいんじゃないか――そう思って振り向こうとする前に、前方一部の壁がイヤに黒くなっているのが目につく。

 

「エル、ちょっと待て」

「……敵?」

「いや、敵の気配はないんだが……少し下がっていてくれ」

 

 壁が黒くなっている箇所にもう少し近づくと、壁の下には何個か結晶が溜まっているようだった。

 

「……なぁ、ソフィア?」

「うん、なぁに?」

「ここって、トラップとかあるのか?」

「えぇっと……確か、避難経路であると同時に、敵の侵入を防ぐ役割もあったはずだから。絶対は言えないけれど、一部にトラップはあるのかもしれない」

「なるほどな……」

 

 不死者のように知能が働かない者たちの一部が、誤ってトラップにかかってしまったのかもしれない。さらに床をよく見ると、一部分だけ埃のかぶり方が浅い部分があるのを発見した。そこを少し離れた場所から、取り出した手斧の先端で押し込んでみる。すると、頭上に鈍い音が走り――どうやら、槍が壁から突き出たようで、少しすると再びトラップは壁に引っ込んでいた。

 

「……敵以外も警戒しないとマズそうだな、こりゃ」

「アラン、トラップも警戒できる?」

「いや、今のはラッキーだ。不死者が間違って自爆してくれてたようだから気付いただけで……気配も動きも両方ないものまでは、感じ取るのは厳しいな」

「そう……それなら、トラップには全員で注意するしかないわね。今のは、壁の血で気付いたんでしょうけれど……」

「あぁ、足元は埃で気付けはした。だから、空間にある違和感というか、そういうのを気付ければ見抜けるとは思う。だからソフィアとクラウも、辺りをちょっと警戒して見てくれ」

 

 二人が頷いたのを確認して、また少し進み始める。すると、奥からかなり多くの気配を感じ――ソフィアに手で合図して光源を弱くしてもらう。すると、通路の奥から僅かだが灯りのようなモノが差し込んでいるのが見える。それは、恐らく松明の明かり――赤々と揺らめいているので、炎によって照らされているようだった。

 

 通路の終わりまで来て、明るい方を壁に背をつけたまま覗き込む。すると、そこは地下にぽっかり空いた巨大な空間になっていた。位置的に、ここはその空間の最上部にあたる。そして、空間は何階層かに別れて下まで続いており、所々に松明の炎とが揺らめいて、徘徊する不死者が壁に影を作っていた。

 

 幸い、何者にもまだ気付かれていないようで、数歩後ずさりエルの居る位置まで戻る。

 

「……なんか滅茶苦茶広い空間があったぞ」

「どんな感じだった?」

「さらに下のほうまで続いている、複数階層になってた」

「おかしいわね……地図で見れば、この先は、確かに外に出るための道が合流する広い空間みたいだけれど。地下まで続いている、なんてことはないわ」

「なるほど、つまりこの空間、魔族によって拡張されたってことかな」

 

 要するに、もう地図は全くあてにならないことを意味する。少女を頼りにするのも少し違うような気もするが、我らの中で最も賢い准将殿に、今後のお伺いを立てることにするか。

 

「さて、ソフィア、どうする?」

「しらみつぶしに探してたら、余計な消耗は避けられないね。大きな空間で大太刀回りをしたら、一気に気づかれちゃうだろうし……ひとまず、大聖堂に通じている道を探せたらいいかな。そうすれば……」

 

 そこまで言うと、ソフィアはハッとした表情をする。無論、それに対してクラウが訝しい表情をしている。しかし、先に進む前にソフィアの仮説は言っておくべきだったとも思うので、これはいいチャンスだろう。

 

「ソフィア、二人にも言っておいた方がいい」

「うん、そうだね……」

 

 大空洞から少し離れて、昨晩の推理をソフィアはエルとクラウに聞かせた。エルは無表情で、俺と同じような腹持ち――ソフィアの推理に矛盾を感じないから、その可能性は考慮して動くべき――という風だった。

 

 一方、クラウのほうは、落ち着いた風は装っているものの、やはり動揺は隠しきれていないように見える。

 

「……クラウさん、私のはあくまでも推測だから。でも、ジャンヌさん、何か最近おかしな動きとかなかったかな?」

「うぅん、少なくとも、朝は普通だったと思います。でも、日中は私が外に出てますし、夜は調合の勉強で部屋に籠っていたので、午後にジャンヌさんが何かしていたとするなら、気付けなかったかもしれません……」

 

 話が終わったタイミングを見計らって、俺はエルから渡されていた地図を丸めて立ち上がった。

 

「さて、話は終わったし、ここからどうするかだが……一応、地図とさっきの空間を見比べて見たところ、下に降りずにある近くの通路から、迂回して大聖堂のほうへ向かっていけるみたいだ。問題は、あの広い空間を、敵にバレずに進めるかだが……」

 

 しかし、あの空間に四人が行くとなれば、バレずに進むのはほぼ不可能――そう思っていると、ソフィアがこちらに一歩近づいてくる。

 

「敵から認識されにくくなる魔術があるよ。さすがに、近くで視認されたらバレるけど……それを使っていけないかな?」

「いや、この階層はそんなに敵も徘徊していないみたいだし、それを使えばいけそうだな。ソフィア、頼む」

「うん、分かった! 第三階層構築、風、光、屈折、認識阻害【インビジブル】!」

 

 ソフィアが魔術を使うと、全員の体が薄い風の膜で覆われる。確かに、少し離れていれば、人がいるとは認識できなさそうになっている。

 

「よし、それじゃあ行こう」

 

 ソフィアの魔術のおかげで、次の通路までは敵にバレることなく移動できた。しかし、空間に出た時、遥か下層から、何か強大な気配と、呪文のようなものが詠唱されているのを微かに感じ取ることが出来た。

 

 恐らく、あの最下層にこそ、今回の騒動の黒幕がいる。そんな風に思われたが、正面突破して行けるほどの余裕は今のメンバーにない。ひとまず、聖堂からここへ移動している形跡さえ見つかれば、ジャンヌを尋問して何が起こっているのか、構造がどうなっているのか聞くこともできるだろう。だから、今はまず、ソフィアの言うように大聖堂への道を見つけるのが最善だと思われた。

 

 次の通路までは無事にバレずに到達し、その後は何体かの不死者と遭遇した。とはいえ、一挙に何体も出てくることもないので、基本的にエルが戦えば十分、という形で進めている。トラップも今のところは、最初の槍以外には見かけていない。もちろん、単に運良くかかっていないだけ、という可能性もあるのだが。

 

 そして、今度は最初の通路と違って少し入り組んでいる。地図を見た上だと、細い通路があるのは織り込み済み、それらはかつては街の至る所から地下に降りて、この主要な通路に来るための側道だったはず。かつての構造と大きく変わっていないのであれば、このまま進めば良いはずなのだが、如何せんあの大空洞を見た後だと、この辺りも変わっている可能性はある。

 

「……というか、側道に宝箱とかあったりするんじゃなかろうか?」

「はぁ? 何くだらないこと言っているの。避難経路に宝を置く馬鹿がいる?」

 

 エルからあまりにも的確な突っ込みが入る。確かに、言われてみればその通り。王の墓所などなら副葬品とかもあるだろうが、普通のダンジョンには宝箱なんて現実的には無くて当たり前か。

 

 ふと、ソフィアの魔術による光が突き当りの壁を照らす。どうやら、T字路になっているらしいが、元々は左に曲がる道しかなかったはず。ひとまず敵の気配が無いのを確認してから、突き当りまで移動し、ソフィアとクラウが合流するのを待つ。

 

「……さて、どっちに進む? 進行方向的には左なはずだが」

「そうね、右は新しく作られた道でしょう……恐らく、外から魔族が侵入するためにね。だから、左で……」

 

 エルが言いかけているうちに、何か妙な音がし始めていることに気づく。その音は、上から聞こえているようだった。見上げてみると――天井に淡く光りを放つ紫色の魔法陣が生成されており、辺りの壁が少し振動しているようだった。

 

 魔術的なトラップか、それは予測しようがなかった。この後に起こる事態は何となく予想できている。早くこの場を動かなければならない。

 

「……エル! ソフィアを抱えて通路に跳べ!」

 

 エルも気付き始めていたようで、その動きは早かった。エルは隣にいたソフィアを抱えて、すぐに近くの通路――先ほど、新しく開通したと言っていたほうに跳んだ。そして、こちらもクラウを抱えて、進行しようとしていた方向へと跳んだ。

 

「あ、アラン君!? 何を……おぉ!?」

 

 直後、T字路の天井が勢いよく落ちてきた。それは、崩落したのと違い、天井は綺麗な直方体となって、こちらとエルたちとを分断した。そして、分断されたと同時に、ソフィアが照らしていた光が無くなり、辺りが真っ暗に包まれる。

 

「……おい、クラウ、大丈夫か?」

「え、えぇ……大丈夫なような、大丈夫じゃないような……」

 

 煮え切らない答えだが、その理由もすぐに分かった。がむしゃらに行動していたせいで、気が付けば、クラウの体を思いっきり抱きしめていたせいだろう。うん、細いけど柔らかい、あと、一部が凄く柔らかい。

 

 しかし、いつまでもその感触を楽しんでいるわけにもいかない。何せ真っ暗、まず灯りを用意しなくては。

 

「すまん、助けるのに必死でな……ところで、何か灯りになるものはあるか?」

「は、はい、少々お待ちを……荷物の中に、カンテラがありますので」

 

 クラウの体を離すと、恐らく手探りで探し始めたのだろう、ゴソゴソと音がし始める。しかし、恐らく先ほどのトラップは、何者かが遠隔で発動させたものだろう。冷静に考えれば、魔法で動いている配下の数が減っていっていたのだ、こちらが侵入していたことには気付かれていたのだ。

 

 そう考えれば、追撃の手を休めないのは当たり前。正面から、徐々に敵の気配が近づいてくる。数にして三、恐らくレヴナントが二、スケルトンが一。これは分断された後のメンバーが、エルとクラウでなくて良かった――俺なら、目で見えなくても気配で分かる。

 

 段々と、亡者どもが近づいてくる。この世を怨む、呻き声とともに。

 

「あ、アラン君、まさか……!?」

「大丈夫だ! クラウは灯りを探しておけ!」

 

 ポケットから、クラウ特性の聖水の瓶を出し、左手に持つ。もう少し引き付けて――距離にして十メートル、そこで瓶を放り投げ、すぐに右手からナイフを放つ。真っ暗な通路に乾いた音が響き渡り、直後、亡者どもの呻き声が止まった。

 

 そして、その少しあと、後ろから明かりが灯る。

 

「……お前の聖水、やっぱり効果てき面だな」

 

 クラウが灯した先には、水溜まりで煙を巻き上げて倒れる三体の亡者の姿がある。そしてそれらは、次第に結晶と化し、後には静寂だけが残った。

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