B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
ミストルテインを背負って階段を飛び降りると、一階に居た人々の内で戦える者は外へと飛び出した後のようだった。自分もスイングドアから外へと飛び出すと、辺りには火の手が周っており、既にそこらじゅうで戦闘が始まっていた。
冒険者風の者たちが戦火を交えているのは、魔獣でも魔族でもアンドロイドでもない、見たこともない新手の人型だ――正確に言えばだいアンドロイドの一種なのだろうが、第五世代型のように姿を隠しておらず、また完全な機械ではなく有機物と融合をしているような姿をしている。
「アイツらは!?」
「まだ、レムリア大陸の方では出ていなかったのかな……アイツらは改良型の第五世代型アンドロイド。完全迷彩の代わりに、戦闘力を増大させているんだ」
「なるほど、難しいことは分かりませんが……ともかく敵と言うことですね!」
横に並んで説明してくれたティアを残して自分は前進を始め、背から剣を引き抜いて、倒れている人にトドメを刺そうとしている新型の元へと駆けつける。そしてそのまま剣を振り抜き、一体を仕留めることに成功するが――すぐに自分を複数体が取り囲み、武器を構えて一斉に襲い掛かってきた。
視認できるようになったが故に戦いやすくなったとも言えるが、確かにティアが言っていたように性能は向上しているように感じられる。今までなら、二、三体ほど同時に相手にするなど訳ないものだったのだが――。
「くっ……やる!」
実際、今までなら力負けすることは無かったのに、新型の腕力は自分と同等程度まで引き上げられている。とはいえ第五世代型アンドロイドには技が伴わないため、一対一なら負ける事もないと思うのだが――しかし見た目の変化は中々に威圧的だ。
今までは目に見えない恐怖があったが、今は剥き出しで蠢く筋肉が――アレのおかげで柔軟性が増しているのだろうが――生理的な嫌悪感を煽ってくる。恐らく、見た目で第六世代型アンドロイドたちの恐怖感を煽り、黄金症を誘発しようとしているのだろう。
思い切って敵陣に飛び込んだのはいいものの、このままでは少々キツいかも――。
「……ナナコ!」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれた瞬間、自分の体を柔らかい白い光が覆った。補助魔法の一種のようだが、これは初めての感じがする――ともかく溢れてくる力を借りて相手の武器を弾き返し、そのまま一気に二体の新型の胴体を横薙ぎの一撃で両断する。
そして最後の一体を縦に両断してから声のしたほうを見ると、長い白髪の老婆が一人、こちらに後ろ姿を見せたまま、正門の方へと向けて機銃を構えて迫りくる新型を迎撃していた。弾幕により足止めは出来ているようだが、銃弾ではその装甲を完全に打ち抜くことは出来ないようであり――代わりに自分が魔剣を一振り、真空の刃で敵を両断し、銃口を曇天に向けながら額の汗を拭うエルフの老婆の横に自分も並んだ。
「アシモフさん!」
「貴女とも必ず合流できると思っていました。しかし、アルフレッドは……?」
「あの人は……ヘイムダルで私だけ脱出させて、そのままはぐれてしまっていて……」
「そうですか……彼に渡したいものがあったのですが」
アシモフは残念そうに瞳を伏せるが、すぐに毅然とした表情を浮かべ、今度は正門に背を向けて、大路に蔓延る敵の方へと再び銃口を向けた。
「貴女の旅路については、またあとで教えてください。今は、この街の者たちを守るのに力を貸して!」
「もちろんです! てりゃぁああああああ!」
自分の方は正門の方へと向けて走り出し、突破してくる敵の迎撃を始める。合間合間でアシモフの方を見ると、彼女は酒場の正面の建物から出てくる兵士たちに向かって手をかざしている。その手の動きに合わせて、彼らの身体をに白い光が包んでおり――どうやら精霊魔法による補助魔法をかけているようだった。
魔法を配って終わりではなく、彼女はレムリアの民たちが戦う戦列を指揮し、兵士たちの鼓舞をしているようだ。その凛々しい様子は一年前と全く別人のようであり、また周囲の者たちもアシモフのおかげで希望を捨てず、果敢に新型との戦闘に臨んでいる。
しかし、やはり高次元存在に捧げられるために作られた第六世代と、戦闘用に作られた第五世代の中でも精鋭を相手にしているとなれば、こちらの劣勢は免れない。その証拠に、兵士たちの戦列が徐々に押され始めている。
兵士たちの援護に向かいたい所だが、こちらも正門の方から無数に沸いてくる新型相手に手が離せない。その時、闇夜に幾筋かの光が走り、アンドロイドたちの首が飛んだ。機人たちの首を飛ばした光は宙を翻り、水色髪の少女の指へと収束していった。
「イスラーフィール、助かったわ」
「……レア様、あまり無茶をしないでください」
イスラーフィールはビームチャクラムを指でクルクルと回しながらアシモフを窘め、すぐにこちらに向けてチャクラムを投げ出した。その軌跡は、自分の側に居る新型を的確に居抜き、再び円月輪は彼女の指に収束した。
「セブンス。この辺りは私に任せて、貴女は東門の方をお願いします……奴らはそこに大きな穴を開けて侵入してきているのです」
「了解です!」
イスラーフィールの言いつけ通り、今度は街の中央の方へと向けて駆けだした。途中まではイスラーフィールや他の兵士たちが何とか撃退してくれたのだろう、第五世代型の残骸が――勇敢に戦って散った者たちの亡きがらも同様に――転がっていた。
街の中央部分では、ティアやアガタ、それにジャンヌが敵の迎撃を行っていた。敵の数は先ほどの正門の比ではなく、新型たちはイスラーフィールの言っていたように東の方からなだれ込んできているようだった。
「……数が多い!」
敵を切りつけながら思わずそう叫ぶと、ティアがビームトンファーで一体の頭部を破壊しながら自分の隣に並んだ。
「今までも何度か襲撃を受けていたのだけれど、今回の敵の数はその比でないね。もしかしたら、本気で潰しに来ているのかもしれない」
「せめて、ミストルテインの全力が出せれば……!」
そもそも神殺しの一撃は街中で放つには威力がありすぎるが、非戦闘員の避難がある程度済んでいると仮定すれば、なだれ込んでくる敵軍を一掃できるはずだ――しかし、長らくモノリスに接続していないミストルテインは、落日の後の微小な日光で何とかレーザーを出すことは出来る程度のエネルギーしか充填することは出来ず、どのみち神殺しの一撃を放つことはできはしない。
そうなっては、こうやって一体一体、力技で押し返していくしかない。新型の能力は高いと言っても、自分やティアを個で上回るほどの力はないし、兵士たちもアガタの指導で連携を取って、上手く壊滅を避けながら押し返している――疲れ知らずの機械兵を相手にすれば長期戦こそ不利であるものの、敵の侵入経路に対する防衛線戦はしっかりと機能しており、少しずつだが相手のラインを押し下げることには成功していた。
何とかこのまま押しきれれば――しかし、事態はそう簡単にはいかなかった。急にあらぬ方向から殺気を感じ、そちらへ向けて視線を向ける。
「……皆さん、上です!」
周囲に異常事態を伝えるために反射的にそう叫んだ。東の空から飛来するのは、背中に有機の翼を生やした機械の兵士たちであり、それらは城塞都市の壁を超えて侵入してきているのだ。そして飛行型達は横一列に隊列を取り、上空から銃器で攻撃を開始し始めた。
「くっ……! あんな距離から攻撃されたら!」
「しかし、爆撃はしてこないようですね。奴らの狙いは第六世代型アンドロイド達の心に絶望を降ろすこと……そのため、あまりに数を減らす様な真似は避けているということでしょうか」
胸のアンクを握りながら、アガタが上を見上げてそう呟いた。恐らく、今のはレムの考察と言うことなのだろうが――その考察の通りであれば相手もいたずらにこちらの数を減らすことはしないのだろうが、それでも相手が空にいて一方的に攻撃されてしまう現状を打破できるわけでもない。
こちらの視界にさえ入ってくれれば、真空の刃で飛行型を迎撃することは不可能ではないが――屋根の向こう側に身を潜められてしまえば狙うこともできない。こちらの兵士たちも銃器を持っていると言っても、上から動きながら下を撃つのと下から足を止めて狙うのでは、どちらが有利かなど目に見えている。
とはいえ、自分にできることは少しでも状況を改善するため、一体でも多くの新型を倒すことだ。こちらも高所を取れば、真空の刃もかなり狙いやすくなるはずである。
「ティアさん、アガタさん、ジャンヌさん! 地上はお任せします!」
それだけ言い残し、自分は広場の中央に鎮座する建物へと向かい――恐らく新設の教会のような施設なのだろうが、既に何度か行われているであろう戦闘で穴だらけになっている――壁の装飾などを足場に屋根の上へと飛び乗った。
改めて魔剣を両手に構えて空を巨大な羽で舞う新型達と対峙する。拓けた視界でその数を確認すると、その数はぱっと見でも数十体、もしかすると百体ほどは居るかもしれない――第五世代型は天使と呼ばれていたが、闇夜に浮かぶ異形の翼を見ていると、どちらかと言えば滅びをもたらすために地獄から現れた悪魔のようだった。
しかし、あんな数を一体一体落とすのはかなり大変だ。新型は常に動き回っており、当然反撃だってしてくる。こちらへ向けられたレーザー光線を躱し、銃弾を魔剣の刀身で受けながら、狙いを付けて真空刃を当てるだけでも一苦労である。
どうする、どうする――手を動かしながらも思考を続けていると、辺りの温度が急激に下がりだした。それどころか、辺りに霜が降りてきている。空を見たら相変わらずの曇天だが、雪が振るほど寒くなかったはずだが――辺りを見回すと、北東の空から闇夜を割くように、何者かがこちらへと飛来してきているようであり、芯から冷えるような冷気はそこから発せられているようだった。
「くっ……敵の増援……?」
あの冷気を操っている者は、確実に他の新型など比較にならないほど強い――今でさえ押され気味なのに、更に力のある敵に合流されたら敗北は必須だ。しかし、その考えはすぐに変わった。冷気を纏って飛来してくる者は、第五世代型と比較して明確な意志を持っている――凍てつくような、同時に燃え上がるような激しい殺意を持っているのだ。
そして、殺意の主から熱線のようなものが幾重にも照射されると、それらは城塞都市の建物や人々を射抜く代わりに、辺りを舞っていた新型達を正確無比に打ち抜いた。アレは味方だ――更にこちらへと接近してきたおかげで、熱線を打ち出した者のシルエットが徐々に明らかになってきた。
二対の羽を背中から生やし空を駆ける姿は、偽りの天使達と違って本物の天の御使いのようだった。その翼は左右非対称で、片方は炎の、片方は氷によって作られており、鳥の羽をかたどられた形をしている。白い外套に黒い装束を身にまとい、美しい金の髪を腰まで流し――ただ唯一、その後ろ髪をまとめる黒いリボンだけが、彼女の美しさに不釣り合いなほどボロボロにくたびれているのが気になった。
自分は、彼女のことを知っている。炎の片翼は、極地基地で散ったはずのスザクのものであり――その翼の主は、一年の間に随分と雰囲気が変わっているが、彼女は――。
「……ソフィア!?」
多少雰囲気が変わっているが、やはり間違いない。空を駆けて一瞬で敵を全滅させた彼女こそ、先ほどレムの口から出たソフィア・オーウェルに相違なかった。