B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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金と銀の演武

 空から飛来してきたソフィア・オーウェルは、城塞に降り立って氷炎の翼を仕舞い、怒りに満ちた表情でこちらへと斬りかかってきた。彼女の怒りの原因については、鈍い自分にも心当たりはある――アランを頼むという彼女との約束を守れなかったせいだ。

 

 ソフィアは自らの命を賭して極地基地から自分たちが脱出する時間を稼ぎ、自分にアランをサポートするようにと託した。もちろん、その約束を反故したかった訳ではないのだが、彼女からして見たらアランが亡くなり、自分がのうのうと生き残っているように見えるということなのだろう。

 

 ともかく、色々な誤解を解かなければならない。いや、自分が約束を反故にしたと思われること自体は問題ない――だが、アラン・スミスは終わってなどいない。そのことを伝えなければ。

 

 そもそも、大切な友だちと刃を交えたくはない。ソフィアは少々怖い所もあるが、いつも一生懸命で、仲間想いの女の子だ。きっと話せば分かってくれる。

 

「ソフィア、止めて!」

「はぁああああああ!」

 

 こちらの言葉に気迫を返し、ソフィアはミストルテインの巨大さすらも凌駕する巨大な氷の刃による攻撃を仕掛けてくる。その動きのキレは鋭く、後方から魔術による攻撃を得意としていたのが嘘かのように素早く、強力だった。

 

 とはいえ、対応できないほどではない。金髪の少女の繰り出す斬撃を躱しながら説得を続けようとした瞬間、彼女の背後を飛ぶ機械の鳥が「ソフィア!」と大きな声をあげた。

 

「あの子の言う通りよ、馬鹿な真似は止めなさい!」

「大丈夫、命を取るまでは追い詰めないから!」

「この分からず屋! 私は力を貸さないわよ!」

「むしろ、私一人の力試しにはなるんだから!」

 

 機械の鳥とソフィアはしばし舌戦を繰り出し――喧嘩しながらもソフィアは攻撃の手を止めてくれない――しかしすぐに鳥の方が匙を投げてしまったようだ。

 

 制止する者がいなくなったソフィアは攻撃の手を緩めてくれないので、ひとまずこちらは屋根を飛び移りながら距離を取り、最終的には城壁部分に降り立った。ソフィアもグロリアの助力が無ければ飛行能力が使えないはずであり、そうなれば身体能力はこちらが上、足場の悪い崩落しつつある城壁を乗り継ぐことはソフィアには出来ないだろう。

 

 しかし、その認識は甘かったらしい。ソフィアが魔術杖のレバーを動かすと同時に、彼女の身を淡い光が包み――更に動きにキレを増してこちらへと近づいてきた。アレは補助魔法か。以前のソフィアは使えなかったはずだが、神聖魔法も魔術の延長という話は以前ゲンブがしていたことを思い出す。そうなれば、この一年の間に彼から手ほどきを受けたということなのだろう。

 

 逃げ回っても追いつかれてしまうので、こちらも背を向けるのは止めて、相手の攻撃をいなすことに集中する。何発か捌いて分かったこととして、彼女の動きは剣技というより、棒術に近いということだ。刃で斬る一撃必殺というより、演武のように流れる動き。細く長めの魔術杖を振り回すという性質上、杖を棒として扱う方が動きやすいということなのだろうが――自分がその動きに慣れていないせいか、相手の間合いが読みにくく、躱すのも簡単ではない。

 

 しかし、剣を抜く気はない。友達に武器を向けたくないから――仮に向こうが先に手を出してきたとしてもだ。そうなれば、できることは体捌きでいなすことくらい――大きく後ろに跳躍すると、ソフィアは一度追撃の手を止め、杖を振り回してから構えを取って制止し、怒りに満ちた瞳でこちらを射抜いてきた。

 

「私は本気だよナナコ……抵抗しなければ、大怪我をすることになる」

「ま、待ってよソフィア! 話を聞いて!」

「言い訳なんか聞きたくない!」

 

 怒声と共に、ソフィアは再び大きく踏み込んでこちらへと接近してきた。彼女の怒りの原因は分かっているのだし、手を止めてくれないのなら仕方がない――この猛攻を凌ぎながら会話をするのも難しいが、何とか状況を伝えようと努めることにする。

 

「約束を守れなかったことは謝るよ! でも、アランさんはまだ終わってないんだ!」

「何を言っているの!? 私はあの人の声を聞いたんだ! あの人の最後の声を……そして見たんだ、たった一人で光の巨人に飛び込んだあの人の最後の姿を! 誰もアランさんを助けてくれなかったじゃない!」

「だから、話を聞いてって言ってるの!」

「話を聞かせたいなら、力尽くで聞かせてみせなさい!」

 

 ダメだ、まったく聞く耳を持ってくれない。こうなれば、彼女の言うように力尽くで話を聞いてもらうしかないか――いや、やはりそれはしたくない。元はと言えばソフィアの言う通り、自分が至らなかった部分もあるのだから。

 

 しかし、そんな悠長なことを言っている場合でも無くなってきた。ソフィアの方がしびれを切らしたのか――攻撃をしかけてきていてしびれを切らすも何もないのだが――攻撃の仕方に変化が訪れる。詠唱無しで撃てる簡易な魔術を動きの中に組み入れだしたのだ。杖の振りに対して遅れて、または先立って射出される光の矢の連撃に、こちらもたまらず背からミストルテインを引き抜いた。

 

「くっ……アンチソーサリー!」

 

 光の矢をミストルテインで斬り落とすと、今度はソフィアの方から攻撃の手を止めてくれた。とはいえ、決して穏やかな雰囲気ではない――氷のように冷たい殺気をこちらへぶつけてきている。

 

「やっと抜いてくれたね……少しは本気になってきてくれたかな?」

「さっきからずっと本気だよ! ソフィア、すごく強くなってるんだもん!」

 

 嘘偽りない賛辞を送ったつもりだったのだが、少女の氷のマスクはあからさまに不機嫌そうな物へと変貌する――感情を抑えているようで結構顔に出るタイプな所も可愛い所だと思っていたのだが、今の雰囲気はただひたすらに怖かった。

 

「……そうやって、いつも人をおちょくっているところ、気に食わないって思ってた」

「お、おちょくってなんか……」

「いいえ、ナナコは自分の強さにかまけて、人を見下している所がある。今だって、まだ本気を出さなくても、私をいなせると思ってる。だから、ギリギリまで剣を抜かなかったし、今もそうやってへらへらしてるんだ。

 それに、これだけ言っても……ナナコは自分が悪かったって言って態度を改めないことも分かってる……」

 

 切り出しは厳しい物だったが、ソフィアの口調は最後にどこか諦めたような、物悲しい調子へと変わっていった。今なら、話を聞いてくれるかも――そう思った瞬間、ソフィアはまた冷たい表情を浮かべてこちらを見てくる。

 

「……T3はどうしたの?」

「あの人は……私を逃すために、ヘイムダルに残って……」

「……それで、結局世界は荒廃した。T3は無駄死にだったんだ」

 

 一瞬、何を言われているのか理解が追いつかなかった。第一に、世界存続しているのはT3がヘイムダルの最下層でアランの映像を流し続けてくれたからであり、決して無駄ではなかったということ。第二に、結構きついことを言う子ではあったが、仲間の頑張りを無駄と言う子ではなかったはずだ――だからこそ、最初何を言っているのか分からなかったのだと思う。

 

「T3さんは死んでないよ。きっと、どこかで生きている」

「それなら、どうしてあの人はチェン・ジュンダーにも、ファラ・アシモフにも加担せず……もっと言えば、どうしてナナコとも合流せずにいるの?」

「それは……」

「答えは簡単、T3は死んでいるから……もしくは、もはや動けないほどの大怪我を負っているか、どちらかだよ」

「……止めて、ソフィア。私、怒るよ」

 

 自分のことを言われる分には我慢もできるが、人のことを言われると我慢できない。というよりも、彼女の指摘を認めたくないという感情が怒りに変わっているのかもしれない。実際はソフィアの言う通り、一年以上の期間があったのだし、彼が無事であるなら最低限、噂の流れているアシモフの元に合流はしているようにも思う――自分がそうしたように。

 

 つまり、ソフィアの指摘は自分も心の奥底では一つの可能性として考えていたことであり、同時に認めたくないことだった。行き場のない思考が感情へと変わり、剣を握る手に自然と力が籠る。

 

 そもそも、こちらの事情も知らないで色々と一方的に決めつけて、いい加減我慢の限界だ。力で言うことを聞かせろと言うのなら――。

 

「ソフィア! いい加減にしなさい!」

 

 一触即発の空気は、自分とソフィアの間に割り込んできた機械の鳥の影響で霧散した。暫定グロリア・アシモフは一度こちらを見て頷き、羽をはばたかせてソフィアの方へと振り返った。

 

「そうやって周りに当たり散らしたって、何も変わらないわ」

「グロリアだって、以前は周りに当たっていたじゃない」

「だからこそ、目に余るのよ……ソフィアだって分かってるんでしょう? あの子はアナタとの約束を反故にするような子じゃないって。信用しているからこそ、もう少しどうにかして欲しかったって想いが爆発して、訳の分からない勝負に持ち込んだんでしょうけど……。

 ちなみに、そんなことは無いとは言わせないわよ。アナタの思考は私には筒抜けなんだから。それに……」

 

 グロリアはそこで言葉を切って、壁の下へと視線を向けた。その先には、いつの間にか多くの人が集まっており、中にはソフィアの名をあげている人たちもいた。

 

「見ての通り、人が集まってきてる。そろそろ退かないと、アナタのママが来るわよ」

「そっちこそ、アシモフさんに会いたくないくせに」

「えぇ、その通り。だから戻るわよ」

 

 ソフィアは一度こちらを悲しそうな眼で見て、小さく頭を振り――グロリアに対して頷き返すと、再び背中に氷炎の翼をはためかせて夜の闇へと飛び立っていった。見えなくなるまでその姿を見送り、剣を背中に戻して下へと飛び降りると、すぐにジャンヌが駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様、セブンス。変な因縁をつけられて災難だったわね」

「いいえ、ソフィアの気持ち、分かりますし……まず最初に、街を守ってくれたソフィアに、お礼を言うべきでした」

 

 言いながら、彼女が飛び立っていった北東の方角をもう一度見る。事態が様々に変化していったせいで言いそびれてしまったが、第一にソフィアが来てくれなければもっと被害が拡大していたはずなのだ。

 

 それなら、最初にすべきは感謝だったはずなのに。自分は結局礼も言わないまま、アランが再起の時を待っていることもキチンと伝えられなかった。しかし、彼女が生きていたことを知れただけでも大きなプラスだ――そう思いながら、ひとまずジャンヌと共に宿へと戻ることにしたのだった。

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