B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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ティアとアガタの一年間

 旅の支度をすぐに整え、正午前にはティア、アガタらとともに魔王城へと向けて出発した。その度道中において、この一年の間でティアたちがどんな状況だったのか、どんな道筋を辿って再びレヴァルに辿り着いたのか聞くことができた。

 

 二人はヘイムダルから飛び降り、海面に直撃する寸前でレムの加護により難を逃れ、そのまま海に浮かぶ残骸に乗って海をさまよい、レムリア大陸へと帰還したようだ。その後は自分と同じようにしばらく大陸を周りながら仲間を探しつつ、行く先々で困っている人々の救助をしていたらしい。

 

 自分と違った点としては、旅を続ける中でレヴァルに人々が集結しているのを聞きつけ、最後の船にギリギリ乗れたという点であろうか。レヴァルに到着してもアシモフとイスラーフィールしかおらず、まさか狂気山脈を超えて合流してくるメンバーがいるとは思わなかったと、驚き半分、呆れ半分の視線をアガタから受けた。

 

 また、チェンが存命であること、並びに彼の本体がソフィア、テレサ、シモンの三名を救出していたことを、ティアはホークウィンドより聞かされていたらしい。チェンは最悪の場合に備えて戦力を分散させていたことを――ヘイムダル攻略に全力を出さなかったと言えばそれまでだが、恐らく重傷を負ったソフィアを無理やり戦線に投入しても事態は変わらなかったのは事実だろう――聞かされた。

 

「ボクは極地基地で散ったと思われていた仲間が存命であることを知っていて、君やアラン君に黙っていたんだ……すまなかったね」

 

 魔王城へと続く道すがら、ティアは申し訳なさそうに左目を伏せた。

 

「いえいえ! ホークウィンドさんに黙っておくように言われたんですよね? それに、単純な私が皆が生きているのを聞いていたら、敵にそれがバレてしまっていたかもしれませんし……何より生きていてくれたなら、それだけで十分です。ティアさんが謝ることじゃないですよ」

 

 実際、チェン自身が生きていることは七柱にもバレていただろうが、それは本体のみが生きているという風に思われていただけであり、まさかソフィアやグロリアが生きているとまでは敵側も思っていなかったに違いない。ソフィア達が身を休めて再起を図ることが出来たのだから、自分としてはそれで十分だった。

 

「でも……ソフィアは爆弾を凍結させるため、自分を巻き込む勢いでシルヴァリオン・ゼロを撃ちましたよね? 無事だったのは嬉しいですけど、どうやって生き残ったんでしょう……?」

「それは、テレサ姫が……正確には、グロリア・アシモフがソフィアちゃんを救ったんだよ。彼女の持つ炎熱の力で、ソフィアちゃんが魔術に巻き込まれるのを防いでくれたみたいだ。

 テレサ姫に関しても、僅かに心臓から攻撃が外れていたため、チェンの回復魔法で生き残れたようだね。それで、チェンが秘密の地下通路からソフィアさんとテレサ様を救い出し、ひっそりと極地を抜けた所まではホークウィンドから共有を受けていたんだ」

 

 ティアが言葉を切ったタイミングで、アガタが一歩前へと出た。

 

「その後に関しては詳細は分かりませんが、人格が融合しきってしまう前にテレサ姫からグロリアの腕を切除し、腕を失っていたソフィアさんに縫合したのでしょう……そしてこの一年間、チェンの下で回復魔術や補助魔術、それに接近戦を学んだのだと思います」

「えぇっと、ゲンブさんって格闘も出来たんですか?」

 

 自分の記憶の中にあるゲンブは、フリフリの可愛い衣裳に身を包んだ可愛いお人形だった。確かに超能力と魔法で器用に戦っていたが、あのなりで接近戦が出来るというのは皆目見当もつかない――むしろ、ソフィアの接近戦については生きていたテレサに仕込まれたという方が幾分か納得できる。

 

 しかし、ソフィアのあの動きは剣術という感じではなかったし、拳法から派生した棒術という方がしっくりとくるのも確かだ。そんな風に思っていると、アガタの周囲を浮遊しているレムが自分の近くに飛んできた。

 

「それに関しては私から答えるのが早いでしょう。旧世界においてチェン・ジュンダーは、魔術を使用できませんでした……というのも、彼がモノリスに触れたのは、旧世界が崩壊してしまった後のことですから。

 そんな彼の元々の戦闘スタイルは、超能力による機械布袋戯の操作と拳法の合わせ技です。手荒なのは苦手と豪語する彼ですが、彼の祖国における伝統的な拳法の腕は達人級、その腕は相棒のホークウィンドにも勝るとも劣らない腕前です。流派の中に棒術もあったようですから、それをソフィアに伝授したのでしょうね」

「はぁ、なるほど……魔法も超能力も使えて頭が良くて、その上拳法までできるなんて、ゲンブさんって改めてすごかったんですねぇ……」

「えぇ、だからこそ七柱の創造神たちは、チェン・ジュンダーを警戒していたのです。原初の虎の戦いぶりを間近で見ていたリーズやキーツ、右京はアラン・スミスの幻影を追っていたようですが……とくにチェンを警戒していたのはダニエル・ゴードンでした。

 ゴードンが特に評価していたのは、彼の異常とも言える生存能力です。彼はどんな戦にも退路を用意しており、必ず生き残って見せる……まさか、この星まで追ってくることまでは想定していなかったようですがね」

「そんな彼から直接手ほどきを受けたのですから、今のソフィアさんの実力は相当なものでしょう」

 

 周りを飛ぶレムに対してアガタが反応すると、その隣を歩くティアが「そうだね」と俯きながら応える。

 

「昨晩のナナコとの戦闘を見る感じだと、それこそソフィアちゃんはこの一年間でそれこそ血のにじむような努力をしたんだと思う」

「貴女も頑張っていたではないですか、ティア」

 

 アガタは励ます様にティアに声を掛けて後、こちらを見ながら微笑みを浮かべた。

 

「ナナコさん、聞いてください。ティアもあれから修練を積んで、かなりの精度で第五世代型の完全迷彩を見破れるようになっています。恐らく、アランさん並に気配を感じ取れるようになっているのではないでしょうか」

「えぇ!? それは凄いですね!」

「とは言っても、新型は姿を現わしているし、あまりこの先で役に立つイメージも沸かないけどね……」

 

 自分とアガタの賞賛にティアはまた俯いてしまう。しかしティアはすぐに顔を上げて「アガタ」と隣を歩く少女の名を呼び――名前を呼んだだけで事態を察したのか、アガタはティアに対して手をかざして補助魔法をかけたようだった。

 

 ティアが戦闘準備に入っているのだから、恐らく何かが接近してきているのだろうが、自分の方ではまだ気配を感じられない――しかし、すぐに渓谷の上から何かが接近してくる気配を感じ自分も剣の柄に手を掛けた。

 

 自分も気配に敏感な方だが、なるほど、ティアがアラン並に気配を察知できるというのは嘘ではないらしい。すぐに巨大な何者かが上から飛び降りてくると、目の前に巨大な熊のような魔獣が姿を現わし、自分たちの往く道を塞いでしまったのだった。

 

「ここは私が!」

「いや、アレくらいの大きさなら問題ない……ボクに任せてくれ、ナナコちゃん」

 

 自分よりも早く、ティアは長い後ろ髪をはためかせながら風のように前進した。魔獣により振り下ろされた前足を素早く潜り抜けて懐に潜り込み――ティアは鋭い掌底を相手の鳩尾にのめり込ませて見せた。

 

「神薙流奥義、終《つい》の型……絶影陣!」

 

 地鳴りのような低い打撃音が響くのに合わせてティアは着地し、そのまま魔獣に背を向けてこちらへとゆっくり戻ってくる。そして、すっかり動かなくなった魔獣がその場に倒れ――巨大な重量が地面にたたきつけられた衝撃で、辺りに大きな砂煙が舞った。

 

 魔獣の倒れ込んだ背中を見ると、全身の至る所から出血しているようであり――息もすでに無いようだった。恐ろしいほどの威力の衝撃が体内を駆け巡り、そのまま内臓を破壊してしまった結果だろう。

 

 魔剣の威力があればこそ魔獣を倒すのは訳ないことではあるものの、自分は素手でこの巨体を倒すことは絶対にできない。魔獣を一撃で葬れるほどなら、第五世代型アンドロイドの装甲なら容易く破るだろう。

 

「……と、これが一応のボクなりの修行の成果かな。ホークウィンドが見せてくれた技を、ボクなりに改良してはみたんだけれど、どうにも一歩足らない感じがしてね……ソフィアちゃんの鍛錬と比べたら全然だよ」

「そんな……私だって、特別強くなってるわけじゃありませんし……」

「ナナコちゃんは十分強いよ。というか、君やアラン君の強さは腕っぷしもそうなんだけど、それ以外の部分もあると思うんだ。一緒に居ると希望が沸いてくるというか……どんな時でもあきらめず、何かをしてくれる、そんな強さがあるからね。

 結局、クラウのことも進展していないし……ボクの方はこの一年間で、あまり進展があったとは言えないね」

 

 ティアはそう言いながらため息を吐き――再び歩みを進めながら話を続ける。この一年の間で繰り返しクラウとの交信を試みたが上手くいっていないこと、同時に変わらず彼女の気配はどこかに感じているということを説明された。

 

「一つの仮説として、なんだけれど、クラウも高次元存在の庭とやらにいるんじゃないかな。クラウはピークォド号を守るために、魂を高次元存在に捧げた……そこはどこにでも繋がっている場所であり、魂の還る場所でもある訳だし……」

 

 そこで言葉を切り、ティアは長い前髪を手ではけて、僅かに金色の羽が覗く包帯をあらわにした。

 

「……この体が部分的に黄金症を発症しているのは、クラウの魂が輪廻の輪に囚われず、高次元存在の庭に留まっているからかも知れない。そうなれば、ジャンヌと同じように戻ってこれる可能性はある訳だけど……そもそもジャンヌはどうして戻ってこれたか、詳細は聞いているかい?」

「すいません、アランさんと会って戻るように頼まれて、くらいのことしか聞いていないもので……」

「ナナコちゃんが悪い訳じゃないさ。しかし、ジャンヌにもう少し細かく話を聞いておくんだったな」

 

 確かに、ジャンヌの状況を再現できれば、クラウも元に戻れるかもしれない。しかし、恐らくそれは簡単なことではないと思われる――もう少し事態が簡単であるのならば、ジャンヌ以外にもあちら側から戻ってくる人が居てもいいはずだから。

 

 唯一自分たちが分かっているのは、ジャンヌ・アウィケンナ・ネストリウスがあちらでアラン・スミスに会ったということだけだ。もしアランに会うということだけが条件なのならば、アランはきっと片っ端から人々をこちらに戻す試みをしているだろう。もちろん、戻ってきたとて厳しい状況なことは間違いないので、誰振り構わずこちらに戻すことも問題ないのかもしれないが。

 

「……もしかしたら、アランさんがクラウさんを探してくれてるかもしれませんね」

 

 自分でも思いがけず、ふとそんな言葉が出てきた。しかし、それはどこか確からしい気もする――ジャンヌをこちらへ戻したのならば、アランはきっとクラウだってこちらへ戻そうとするに違いない。

 

 こちらの言葉にティアは一瞬驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

 

「そうだね……でも、ボクらは方向音痴だからさ。あの子が迷子になって彷徨っているせいで、アラン君も探すのに手間取っているのかもしれないね」

 

 そんな会話を続けつつも足早に行程を進め、一日後にはかつて魔王城と呼ばれた宇宙船アーク・レイの見える荒れ地まで辿り着いた。魔王城の麓は魔族の集落として使われていたらしいのだが、二年前の戦争とこの一年間の混乱とでボロボロに朽ちてしまっており、生物の気配すら感じられないほど寂しい場所だった。

 

「以前ここに来た時は、もっとわちゃわちゃしてたけれど……今は閑散としているね」

「えぇ、そうですわね……ここに来たのが二年近く前ですか。なんだか、もっと時間が経っているように思えますわね」

「でも、あの時のことはよく覚えているよ。決戦前だっていうのに、クラウと君は喧嘩していたよね……と、誰か来たみたいだ。殺気は感じないけれど……」

 

 ティアの視線の先から、確かに何者かが近づいてくる気配を感じる。彼女の言うように殺気は無いし、魔獣のように大型でもない。

 

 物陰から気配の主が現れると、その人物には見覚えがあった。長かった髪はセミロングに変わっているが、亜麻色のサラサラとした綺麗な髪は見違えようもないし――何より、美しいシルエットの肢体のうち、左腕だけが無骨な義手になっているのが、自分の知る彼女であろうという確実な証拠だった。

 

「皆さん、お久しぶりですね。チェンさんの言伝でこちらで待っておりました。魔王城に彼らはいませんので、ここから先は私が案内しますね」

 

 殺風景な風景の中で、そう朗らかな声を上げて微笑む女性は、自分の記憶の中にあるスザクと名乗っていた女性――その宿主であるテレジア・エンデ・レムリアに間違いなかった。

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