B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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シモンとの再会

 テレサに連れられて辿り着いた場所は魔王城から程離れた森林の中だった。どうやらゲンブは数年前からいざという時のために、魔王城の近くに極地基地と同じような地下網を秘密裏に作っていたようだ。連れられた場所はその地下網の入口の一つであり、中は崩落しないように最低限舗装された地下通路となっていた。

 

「改めましてテレサ様、御無事で何よりです」

「えぇ、アガタさんも……色々とご心配をおかけしましたね」

「いえ、ご状況は伺っていましたから。とはいえ、腕のことを知ったのは……」

 

 そう言いながら、アガタは視線を下ろして隣を歩くテレサの左腕を見つめた。テレサも視線に気づいたようで、左腕を上げて、仲間を心配させまいと穏かな笑みを浮かべて見せた。

 

「あぁ、これは私が我儘を言ってこうしてもらってるんです。チェンさんは生身の腕の移植も提案してくれたのですが……何の特殊能力も神器も持たない私は、戦力的にはそう役に立つわけではありませんから。せめて少しでも力が着くようにと、機械の腕を移植してもらったのですよ」

「成程、そうだったのですね」

「グロリアさんの腕をソフィアさんに譲ったのは、彼女たちがそれを望んだからです。それに……どの道、私ではグロリアさんの魂を受け止めきることが出来ませんでしたから」

 

 寂し気な微笑みを浮かべるテレサの横に、今度はティアが出てアガタと挟むように並んだ。

 

「以前のテレサ様を見ている感じだと、グロリアの腕を移植した者は精神が融合していってしまうんだよね? でも、先日のソフィアちゃんはそういう感じに見えなかった……雰囲気は結構変わっていたけれど、グロリアとは明確に人格が分かれているようだったけれど」

「はい、私と違って、ソフィアさんとグロリアさんは問題なく一つの器に同居しています。精神的な同調だとか、二重思考だとか、なんだか色々難しい要因があるようなのですが……その辺りは、私よりもチェンさんかソフィアさんに聞いた方が早くて確実だと思いますよ」

 

 テレサが言い終えたタイミングで、通路の突き当りが見えてきた。一見行き止まりのように見える場所の壁にテレサが触れると、土壁が上へとスライドし、そこから先は以前見た極地基地のように近代的な白い壁が続いていた。

 

「……ここは?」

「ここは、チェンさんが有事の際に作っていた秘密基地の一つです。その目的は……」

「アーク・レイから拝借したパーツで、もう一度宇宙船を作ろうとしている、ですよね?」

 

 アガタの肩に乗っているレムが問うと、テレサは畏まった様子で深々と頷き返した。

 

「はい、その通りですレム様」

「様なんて柄じゃないし、レムでいいですよ」

「いえ、なかなか生まれ持った慣習は捨てがたいと言いますか……七柱の創造神と戦うこと自体は覚悟しているのですが、呼び方となると様付がしっくり来てしまうと言いますか。それに、レム様は最初から私たちの味方であったわけですし」

「そんなことはありませんよ。もしアランさんがこの世界の在り方を良しとするなら、私は不承不承ながらも星右京の目的を認めようとしていました。私がこちら側に着いたのは、結果論でしかありません。

 まぁ、アランさんの性格を考えたら、百二十パーセントこうなると予測できましたけれどね」

「……あの、レム様。あの人は……星右京は何故、高次元存在を求めているのでしょうか?」

 

 アラン次第では右京の目的を認めようとしていた、というレムの言葉が気になったのだろう。自分も右京の目的とやらは共有されていないし、気になるところだが――テレサの場合は単純な興味という感じではなく、もっと深い意図がありそうな様子だ。

 

 彼女の重い雰囲気を察したのか、レムもいつもの軽い調子ではなく、咳ばらいを一つしてからアガタの肩を離れ、テレサの正面へと移動して真面目な表情を作った。

 

「そうですね、話すと長くなるので、今はとりあえず端的に……あの人は高次元存在を欲しているわけではなく、むしろ全てを滅ぼすつもりで高次元存在を降ろそうとしているのですよ」

「何か深い意図があるのでしょうか?」

「いいえ、むしろ逆です。やれ人の絶望を終わらせるには滅びるしかないとか、良き人がこれ以上苦しまない様にとか、それらしい理由を後付けしているようですが……単純に、あの人は喜びよりも悲しみに眼が行き、生と言う重みに耐えきれなくなっているだけです。

 高次元存在がいる限り人の魂は何度も巡り、この宇宙に生を受ける……だから、あの人は高次元存在を滅ぼし、宇宙かに永遠の沈黙を降ろし、自身も消滅しようとしているのです」

 

 レムは最後に「私も状況から彼がそう考えていると判断しただけで、絶対ではないのであしからず」と付け加えた。ともあれ、右京の妻であった人物の意見なら、恐らく世界で最も右京の考えには近いはず――そんな風に思っていると、テレサは痛ましい表情を浮かべながら口を開く。

 

「……あの人はどうしてそれほどまでに世界に絶望しているのでしょう?」

「気にすることはありませんよ。誰もあの人の魂を救うことはできない……勝手に拗らせて、どんなことでも針小棒大に悩みを膨らませて、勝手に己に絶望しているだけで、元からそういう気質の人だったというだけです。

 それがなまじっか、世界を動かせるだけの才能を持ち、実際に力を持ってしまったから、話がこじれたというだけなんですから」

「でも……」

「…が人を救うのは、おとぎ話の中だけです。いいえ、確かに救うこともあるのですが、それは一時の物……その人が生来持つ気質を変えることはできません。もっと言えば、他人の気質を変えられるだなんていうのは、傲慢なことですよ」

 

 レムがぴしゃりと言い放つと、テレサの方も言い返すことが出来なくなってしまったようだ。しかし、レムとテレサの纏う雰囲気はなんだか怖いというか、どこか水面下で火花を散らしているように見えるのが気になる――そう思っていると、アガタが歩調を自分に合わせて、そっと耳打ちをしてきた。

 

「……今考えると、あの二人はちょっと複雑ですわね」

「どういうことです?」

「片や勇者シンイチを愛した王女、片や七柱の創造神である星右京の妻……一歩引いてみれば、彼女たちは同じ男を愛した女性です」

「え、えぇ!?」

「まぁ、ちょっと複雑と言うだけで、おかしなことにはならないと思いますわ。アランさんの周りの方が複雑怪奇ですから、それを思えばなんてことはありませんし」

「ほぇ? そうなんですか?」

「ふぅ……気付いていないのなら、知らない方が良いこともありますわ」

「まぁ、ナナコちゃんはアラン君側の人だからね」

 

 アガタが大きなため息を吐く後ろで、ティアが苦笑いを浮かべていた。自分とアランの共通点となると、旧世界にオリジナルを持つクローンであるという以外に思い浮かばないのだが――ちょうど長い通路が終わりを向かえて広い空間に出たためにみな話を止めた。

 

 自分たちが立っている場所は、広い空間の二階部分の連絡橋のような場所だった。手すりを握って下を見ると、そこには一隻の船が――船と言ってもそれは金属でできた船であり、かつて自分たちが乗っていた宇宙船に瓜二つの外見をしていた。

 

「アレは……ピークォド号!?」

「ナナコ、違うよ。アレはノーチラス号さ」

 

 声のした方へと振り返ると、連絡橋の向こうから背の低い男性がこちらへと歩いて来ている。作業着に身を包み、長い顎鬚を結わえたその出で立ちは、以前極地基地で別れてしまったドワーフだった。

 

「シモンさん!」

「やぁ、久しぶり……ティアさんとアガタさんも」

 

 自分の背後にいる二人にシモンが会釈すると、ティアが一歩進み出て下の船を見つめた。

 

「それで、ノーチラス号っていうのは?」

「オールディスの月に攻め込むための、新たな宇宙船さ。DAPAがこの星に入植する際に使った移民船、アーク・レイのパーツを拝借しながら作ってるんだ。ピークォド号と外見が似ているのは、以前チェンさんが作った設計図を元に作成しているから、自然とそうなっている形だね」

 

 シモンがそう説明していると、先ほどまでテレサと火花を散らしていたレムがスッと自分の顔の横に並んで宇宙船を眺めた。

 

「ノーチラス、良い名前ですね。少なくともピークォド号よりはずっといい」

「ほぇ、そうなんですか?」

「えぇ、ピークォド号は復讐者の船の名としてはふさわしいですが、最後には宿敵に敗れて撃沈してしまった船なんです」

「チェンさんも同じように言っていたよ……ちょっと験担《げんかつ》ぎに失敗したってさ」

 

 言いながら、シモンは苦笑を浮かべた。そして少年の様なキラキラした目で――言ったら悪いが、こんな彼を見るのは初めてだ――下で建造中の船を見つめる。

 

「……アレを建造した理由こそ乱暴極まりないけれど、宇宙船を自分の手で創り上げられたのは感無量だね」

「たった一人でアレを創り上げたんですか?」

「いいや、僕の仕事は制御系のプログラムなど、コンピューター周りだね。側を作ったのはチェンさんや……」

 

 シモンが指さした方向には、何名かの人影があった。注視してみると、そこにいるのは人間ではないようである。蝙蝠のような羽が生えている者や角の生えている者など、どうやら魔族のようだった。

 

「チェンさんは魔族たちに顔が効くし、一部の魔族たちはレムリアの民よりも高い知能指数を誇る。それで、暗黒大陸に潜伏していた者たちに協力してもらっているという訳さ」

「なるほど、共通の敵と戦っているわけだからね……それでシモン、アレはすぐに飛び立てるのかい?」

 

 ティアの質問に対し、シモンはゆっくりと首を横に振った。

 

「いや、見た目こそそれらしくなっているが、アレで宇宙に漕ぎ出すのは難しいね。僕らは宇宙ステーションを使えないし、そうなるとこの一隻だけで大気圏を振り抜け、オールディスの月まで到着しなきゃならない。

 宇宙空間に出るだけなら強力な推進力があれば可能だけれど、直進的な動きでは簡単に迎撃されてしまうからさ。敵の攻撃に備えるためには、宇宙空間で柔軟に進行方向を変えられる機動力の他に、強力なバリアや迎撃装置も欲しい。

 ピークォド号はそれをモノリスで補っていた訳だけれど、今はそれが無いからね……何か代わりになる物があれば良いんだけれど」

 

 シモンの話は難しく、自分には内容がチンプンカンプンだった。質問したティアもよく分からなかったようで、「あぁ、うん」と煮え切らない感じで頷き返している。ただ一人、レムだけが話を理解したようで、今度はシモンの前へと飛んで行った。

 

「ノーチラス号を動かすのに手っ取り早いのは、深海のモノリスを一つ拝借することでしょうか」

「あぁ、その可能性も考えられている。モノリスを回収するため、ノーチラス号には潜水艦機能も備えつけられているよ。だけど……」

「ある意味では宇宙空間よりも深海の方が圧力がかかる分、回収は難しいでしょうね」

「そうなんだよな……そうでなくとも、チェンさんが手を出さないか右京達は警戒はしているはずだからね。そう簡単にモノリスの場所までは行かせてくれないだろう。

 ともかく、チェンさんに会いに来たんだろう? あの人なら、今はブリーフィングルームにいる……テレサさん、引き続き案内を頼むよ」

 

 シモンの言葉にテレサは頷き、連絡橋を超えて細い通路を抜けて、一つの扉の前に辿り着いた。電子ロックは基地内に入った時にあったシャッターくらいで、ここは普通の扉らしい、テレサが二回ほど扉をノックすると、中から「どうぞ」と声が返ってきた。

 

 テレサが扉を開くと、中には一人の眼の細い整った顔立ちの青年が立っていた。

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