B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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チェンとの再会

「まだ我々の居場所を教える気は無かったのですが、ナイチンゲイルが想像以上の大暴れをしてしまったので居場所が割れてしまいましたね……ともかく、お待ちしておりましたよ」

「えっ……まさかその声、ゲンブさん!?」

 

 思わず反射でそう叫んでしまうが――何というか、見慣れていたのが可愛いお人形だったので、なんだか男性から聞きなれた声が聞こえるのは違和感があった。

 

「あぁ、そう言えばこの姿を見せたことはありませんでしたね……改めまして、ゲンブことチェン・ジュンダーでございます。以後お見知りおきを、セブンス」

「ほへぇ……いや、何というか、想像してた感じと全然違ったと言いますか……」

「もしかして、女装趣味があるとでも思っていましたか?」

「い、いえいえ! まさかそんなことはぁ……」

 

 女装趣味があるとまで思っていた訳ではないが、中《あた》らずといえども遠からずであり、思わずぎくりとしてしまった。スラっと長い背に、しかし引き締まった体躯を見ると、女性的な要素はほとんどないのだが――しかし冷静に見てみれば何となく人形が放っていた独特の色香のようなものは共通しており、なんだかこの声がこの人のものであると言うのも違和感もないような気がする。

 

 そんな風に思っていると、レムが自分の顔の隣にまで飛んできて、何やら難しい表情をしながら男性の方を眺めていた。

 

「正直、私も意外でした。以前にアナタは私に対して、変わらぬ姿と言いましたが……ホログラムの私と違って、アナタこそ一万年前とほとんど変わっていないです。どんな手段を使ったんですか?」

「祖国に伝わる強力なアンチエイジングをしているんですよ」

「まぁ、素敵。DAPAのデータベースにすら無いその方法、是非とも伺いたいですわ……サイボーグな訳ではないんですよね?」

「えぇ、実際の所、特別に何かをしているわけではありません。ただ、生来より気を練って身体を健康に保っており、長い戦いに備えて宇宙船建設段階で冷凍睡眠に入ったおかけだと思います。肉体年齢的には四十五歳って所でしょうか」

「なるほど、気というもののメカニズムはDAPA側では終ぞ解明はされたなかったですが、そういったものが確かに存在するのは認めざるを得ませんね……しかし、四十五でそれは羨ましい……」

 

 何がどう羨ましいのかはよく分からなかったが、ともかくゲンブことチェンに――シモンなどもそうだが、人形でなく人の姿をしている彼のことはみなチェンと呼んでいるので、自分もそれにあやかることにする――腰かけるように促され、狭い会議室の中で簡素な椅子に各々腰かけた。

 

「しかし、こうやってアナタ達と合流できたのは怪我の功名ですね」

「あら、アナタは私たちの居場所など分かっていて、敢えて合流していなかったんじゃないですか?」

「概ねその通りなのですが……いずれかは互いの要望を上手く折衝して合流するつもりではいましたし、何よりセブンスが見つかりましたからね。

 セブンスに関しては取り付けている発信機を確認できる機材はピークォド号に格納していましたから、どこに居るか見当もつきませんでした。私はヘイムダルでの状況はアルジャーノンに遠隔操作用のチップを破壊するまでしか把握していませんでしたので、最悪の場合も考えていたのですが……」

 

 レムとチェンが会話を進めているが、自分としては少々上の空だった。先日のソフィアに加えて、チェンにシモン、テレサの安否は確認できたわけだが、あと一人だけ生存が確認できていない人がいる。もしかするとここに居るかもと思って期待をしていたのだが――確認のため、二人の会話に割り込むことにする。

 

「ゲンブさん、あの、T3さんは……?」

「いいえ、彼とも連絡は取れていません。私も、T3とは連絡を取りたいと思っていたのですが……どうやら彼の通信機もヘイムダルの一件で故障してしまったようなのです。その様子では、そちらとも合流していないようですね」

「はい、そうなんです」

「それなら、最悪の場合を想定して行動せざるを得ないでしょうが……まぁ、しぶとい彼のことです。貴女が生きているのなら、彼も間違いなく生きているでしょう」

 

 そう言うチェンの声色はあっけらかんとしたモノだったが、逆を言えば彼もT3の生存を信じて疑っていないという証左でもある。まだ実際に姿を見れていないから安心はできないものの、チェンの様子に少し不安が和らぎ――もう一つの懸念事項について質問してみることにする。

 

「それで、立て続けにすいません。ソフィアはここに居るはずですよね?」

「……あの子なら、隣の部屋にいるわよ」

 

 ゲンブに代わり、扉の向こうから声が聞こえた。背後の扉が開かれると、カラスと同じくらいのサイズの機械の鳥が室内へと入ってきて、器用にかぎ爪で扉を閉めてテーブルの上に止まってこちらを見た。

 

「ただ、アナタと顔を合わせるのが気まずいみたいだから、ちょっとそっとしておいてあげてくれないかしら?」

「き、機械の鳥が喋った!?」

「あのねぇ、先日普通に喋っているところを見せていたでしょう? それに、人形が喋ってたんだから、まだ機械が喋る方が真っ当でしょうよ」

 

 言われてみれば全くその通りではあるのだが、先日は緊迫した場面での邂逅だったのでそこまで違和感もなかったし、機械という割には声のトーンはまさしく人のそれだ。そう言った諸々の違和感が――先ほどは人形が生身であることに、今度は本来生身であった者が機械であると正反対な状況な訳だが――自分が驚いてしまった要因な気もする。

 

「ただ、こうした方が会話もしやすいかもしれないわね」

 

 機械の鳥が机の端まで移動して、空いている席の方を見つめると、そこに一人の女性が姿を現した。恐らく、鳥の目から照射される光によってホログラムが作られているのだろう、黒いくせ毛に気の強そうな瞳の女性であり、長い手足を綺麗に組み、微笑みを浮かべながらこちらを見てきている。

 

 同じく机上にいるレムが現れた女性の方を向いて綺麗な姿勢で深々とお辞儀をしてみせた。

 

「グロリア。久しぶりですね」

「えぇ、久しぶりね晴子。まさかお互いにこんな風になるだなんて思いもよらなかったけれど」

「それで……アナタは私のことを憎んでいますか?」

 

 質問するレムの表情は、どこか痛々しいものだった。グロリアの方も、直ぐに返答をすることはせず、何だか重々しい雰囲気を纏っている。なんだか、この二人の間には、自分があずかり知らない深い関係性がある――そんな風に思われた。

 

 しばしの間、部屋の中に沈黙が訪れ――グロリアと呼ばれたホログラムの女性はレムを無感情な目でしばらく見つめ、しかし最終的には観念したように大きなため息を吐いた。

 

「私の怒りの対象は、DAPAに与した者全員に向けられている。そういう意味では、アナタも例外では無いのだけれど……アナタはオリジナルのアランが倒れるまではDAPAの関係者ではなかったからね。

 それに、同じく右京の奴を倒してやりたいと思っているんでしょう? それなら、協力することはやぶさかではないわ」

「そうですか……でも、謝罪はさせてください。私は何も知らなかったとは言えども、兄を奪った組織に与して、知らずの内に敵対してしまっていたのですから」

「ちなみに、アナタは私たちがACOに居ることは知っていたの?」

「真相を知ったのはDAPAのデータベースに直結した時……つまり、私がこの星に辿り着いた後です。アナタ達の正体は、右京によって伏せられていましたから。

 彼は私を病院に迎えに来てくれた時、養っていけるだけの新しい職場に転職したとだけ伝えて……アナタとべスターさんのことは気にかかってましたけれど、当面の間は私もリハビリに手一杯でしたし、満足に動けるようになってからはDAPAで働くだけの猛勉強をしているうちに、次第に二人のことを次第に気にしなくなっていっていました」

「成程ね……ま、堅苦しいのは無しで良いわ。以前と同じように話して頂戴」

「えぇ、分かったわ、グロリア」

 

 先ほどまで重々しかった雰囲気が、会話を進めていくうちに氷解してきたようだ。どちらかと言えば、レム側が申し訳なく思っており、グロリア側が思ったほど気にしていなかったが故に、和解が進んだということになるのだろう。

 

 そもそも、二人のいざこざの原因は何だったのか? レムがアランの妹であるものの、右京と共にDAPAに属し、グロリアは旧世界においてアランに救われたということは聞いている。多分、その辺りが話がややこしい事の要因なのだろうが――。

 

「……そう言えば、チェンさんはアランさんとレムさんが兄妹だって知らなかったんですか?」

「えぇ、つい先日……おっと、一年前までは知りませんでした。私はアラン・スミスに直接会ったことはありませんでしたし、その死後に彼の情報はACO内で破棄されてしまいましたから。

 また、伊藤晴子……レムの本体に関しては、アーク社において情報統制アルゴリズムで頭角を現わし初めた所までは認識していましたが、旧世界が終わるまではDAPAの主要人物ではありませんでしたから、細かく情報を追ってはいませんでした。

 それに、グロリアとべスターも守秘義務をしっかり守っていましたから、私は伊藤晴子と原初の虎の関係性を、彼女の口から聞くまでは知らなかったのです」

「えぇっと、べスターさんって誰でしょう?」

「原初の虎の生みの親にして、ヤニ臭くお人好しな私の旧友です」

 

 また新しい情報が色々出てきたせいで頭が混乱してしまうが。ひとまずチェンはべスターという人とは仲が良かったことは分かった。今、チェンは昔を懐かしむ様な柔らかい表情を浮かべているから間違いないだろう。

 

 元々何を考えているか分からない人であったが、こうやって表情が見えるとぐっと身近に感じられる。人形姿も可愛くて惜しいなぁと思う部分もあるが、それ以上に顔が見えることの安心感が勝るか――などと思っているうちに、ゲンブが咳ばらいを一つして周囲を見回した。

 

「さて、感動の再会も済んだところですし、話を進めましょうか。私の方も予め謝っておけば、貴方達がレヴァルに集結していることは認知していました。その上で、私は貴方達を囮としていました……ノーチラス号が完成するまでの間のね」

「謝る必要はありませんよ。しかし、既にノーチラス号は概ね完成しているんですよね? むしろ、完成するのには協力したほうがスムーズだと思いますが」

「えぇ、そうですね。そういう意味でも、そろそろ貴方達にアプローチを掛けようと思っていたところです。とくに、ファラ・アシモフがやられてしまうことは避けなければなりませんから」

 

 誰もやられないのが一番だが、チェンが敢えてアシモフの名を挙げたことはなんだか気に掛かる。

 

「チェンさん、それってどういうことですか?」

「一言で言えば、敵のやりたいことを妨害するためですね。貴女も戦っている時、相手の苦手な間合いを維持したりするでしょう?」

「なるほど、そういうことですね! ……アレ? 細かいことは全然分かっていないような……?」

 

 凄く分かりやすいたとえに一瞬納得しかけたものの、自分の疑問が何一つ解消されていないことに気付いて首をかしげていると、チェンは表情を笑い声を――眼や眉はほとんど動いていないので、あれは作り笑いだ――あげた。

 

「ははは、貴女は相変わらずからかいがいがありますねぇ……つまり、敵の狙いがファラ・アシモフの命だってことです。

 彼女はこの一年間で、残っている第六世代たちを纏め上げて一大集団を形成しました。逆を言えば、今レヴァルに集っている人々は、彼女を御旗に纏まっているのです。もし、その御旗を失ってしまえば……」

「……人々の心に絶望が落ち、黄金症が一気に広がってしまうということでしょうか」

「その通りです。だから、彼らは執拗にレヴァルを襲っているのだと私は考えます。そして、敵も戦力を増強させ、その頻度は上がってきている……」

 

 チェンが言葉を続けている間に、レムが宙で少し前へと進む。

 

「それでは、早急に協力していただける、ということでよろしいでしょうか?」

「そうしたいのは山々なのですが……如何せん、ノーチラス号の調整がまだ完成していませんから、私とシモンはここから動くことはできません。それに……アナタ方は我々と合流して何を為すつもりですか?」

「私たちは、人々の黄金症を治すことを目的としています」

「……ほぅ? 何か進展があったのですか?」

 

 すぐにアラン・スミスという名を出さなかったのは、彼女なりにアシモフの助言を実行した形だろうか。確かに黄金症を治せれば海の魂が解放され、七柱の宿願を挫くことができる――チェンもそう思ったのだろう、瞼を僅かに吊り上げ、興味深そうにレムの方を眺めている。

 

「えぇ、たった一つの症例ですが、黄金症から戻ってきた者が居るのです」

「それはどのようにして寛解したのです? 何かしら貴方がたが実行した施策が功を奏した結果であり、再現性のあるものなのですか?」

「細かいことはまだ分かっていないのですが、鍵は分かっています……アラン・スミスです」

「アラン・スミスですって? 彼は光の巨人に突撃して……」

「……アランさんって、どういうことなんですか!?」

 

 扉が乱暴に開け放たれる音と、急に乱入してきたソフィアによって、チェンの言葉は遮られた。ソフィアは隣の部屋どころか、どうやら扉のすぐ近くで聞き耳を立てており、アランの名が出たことで思わず乱入してきたのだと思われる。

 

「……おやおや、思わず岩戸を開けてしまったようですね、レム」

 

 チェンは扉の方を見ながらシニカルに笑い、ソフィアはバツが悪そうに俯いてしまっている――自分が先日アランのことを言おうとした時には聞く耳を持ってくれなかったのに、レムが名を出したら食らいつくのも少々納得できないものの、ひとまずソフィアもチェンに促され、ようやっと会議の席についてくれたのだった。

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