B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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天使長ルシフェル

 レヴァルの様子を城壁の外から観察していたのは僥倖だったと言える。そのおかげで、音を気にせずADAMsを起動することが出来るのだから。

 

 上空から街に向かっている新型たちを視認してからすぐに救援に向かおうかとも思ったが、敵の動きが何やらきな臭いことにはすぐに気が付いていた。以前の襲撃ではすぐに攻撃を開始したのに、今回は威嚇するように上空を飛び回るのみだったからだ。

 

 ルーナがセレスティアルバスターの名を上げた瞬間、自分はすぐに赫焉の熾天使を探すために移動を開始した。有事の際に備え、この辺りの地形は把握している――あの武器ならかなり遠距離からも狙えるはずではあるが、荷電粒子砲は重力や磁場の影響を受けるし、今日は風も強く銃身もぶれやすく、百キロメートル以上の距離からの狙撃は難しいはずだ。そうなれば、自然と狙える距離から潜伏している場所は限られる。

 

 結果、レヴァルより数十キロ離れた小高い丘の上、レヴァルまでの遮蔽物のない見下ろせる場所で、身を伏せながら銃身を構える熾天使の姿を発見することに成功した。以前破壊したはずの脚部には新たなパーツが付けられており――しかし、彼女は自分の接近にも気付かず、ただスコープに目を当てて遠い城塞を見つめているようだった。

 

「……良いのかジブリール。あそこにはイスラーフィールがいるんだぞ?」

 

 すぐにでも破壊してやればよかったのに、気が付けばそんな風に声を掛けている自分が居た。ヘイムダルで見せたジブリールとイスラーフィールとのやり取りが脳裏に浮かび――彼女はルーナの命令を跳ねのけて、僚機を攻撃する手を止めて見せた。もし言葉が届くのならば、攻撃の手を止めてくれるかもしれない。そんな淡い期待から、思わず声をかけてしまったのだ。

 

 しかし、ジブリールはこちらの声など意に介さず、ただじっとスコープを見つめている。そもそも、何者かが近づいてきたのに無反応と言うこと自体がおかしい。そんな風に思っていると、岩陰の奥から何者かが近づいてくる気配を感じ、精霊弓を取り出していつでも放てるように矢を放てるように構える。

 

「……無駄ですよ、アルフレッド・セオメイル。ジブリールにはもう声も聞こえないし、周りの姿も見えていません。彼女にあるのは、女神ルーナ様の命令のみです」

 

 声と共に現れたのは、白い髪に目鼻立ちの整った青年だった。同じ優男風と言えばアズラエルに近い物もあるのだが、この男からはどこか浅薄な印象を受ける。無意識にアズラエルと比較していたが、それは彼の気配はレムリアの民のものでないからこそ、自然とそのような比較が生まれたのだろう。要するに――。

 

「貴様、第五世代だな」

「型番からすればその通りではありますが、私はこの星で生み出された至高のアンドロイド……本来ならば第五世代も第六世代も超えた、真の第七世代とも言えるべき存在です。貴方たちが創り上げた偽りの第七世代などと比較にならないほど高性能なね」

 

 青年はそこで一度言葉を切って、片手を仰々しく身体の前に添えて頭を下げてきた。こちらが矢をつがえているというのに大した余裕だが、その気になればこの距離でも躱すことが出来るという余裕の表れか。

 

「自己紹介が遅れました。私はルシフェル、天使長ルシフェルです。女神レムのAIに変わり、全ての天使を束ねるために生み出された究極のアンドロイド。アシモフ製のアンドロイドと異なり、私には揺らぎが存在しない。女神ルーナ様の最強の僕です」

「貴様になぞ興味はないが……成程、創造主にこだわりが無ければ子供もつまらない存在になるのだな。熾天使はもちろん、他の第五世代達は自らの任務に忠実であり、そこに誇りを持っている……貴様が無駄口をベラベラと叩くのは、虚栄心の塊であるルーナにそっくりだ」

 

 こちらの皮肉に対し、ルシフェルと名乗った第五世代アンドロイドは無表情のまま押し黙った。意外と冷静な様子を見ると、主よりは余裕があるのかもしれないが――ともかく、すぐにでも攻撃に移るのは容易いが、ジブリールの状況は確認しておきたい。

 

「ジブリールは声が聞こえないと言ったな。どういうことだ?」

「どうもこうも、言葉通りの意味です。彼女のAIは自然言語処理アルゴリズムを排除されており、自らの意思を持たない状態……声は聞こえてもその意味を介さないし、何かが見えてもそれが自分とどのように関係しているかを考える力を喪失している。つまり、文字通りの物言わぬ、もとい考えぬ機械となり下がったのです。

 生半可に自然言語処理が出来るから、アンドロイド達は行動に迷いを生じさせ、あろうことか自らの存在意義を規定し、他者との関係性を考え始める……それならプログラムのみに反応する人形にしたほうが、確実に任務をこなしてくれるでしょう?」

「……成程、悪趣味なルーナの考えそうなことだ」

 

 もちろん、ルシフェルの言うことにも一理はあるだろう。生半可に揺らぎがあれば失敗のリスクは高まる。何より、他者との関係性を考えると言うことは、防衛本能から他者を攻撃する可能性がある訳であり――生みの親からしてみたら、子供が反抗してくると言うことに他ならないのだから。

 

 一方で、創造主に絶対服従で揺らぎが無い存在というのはつまらないものだろう。それこそ、新たな価値を生み出すことなどあり得ないのだから。それと比べれば、アシモフの子供たちの存在は上出来と言ってもいい。

 

 ファラ・アシモフは確かに、アンドロイドたちに魂を吹き込んだのだ。高次元存在に認められた第六世代は勿論、第五世代型達は肉の器が無いせいで弟と比べて情緒の発達は遅れたが――アズラエルやイスラーフィールを見れば、彼らもまた自己を探し、世界に対して意味を見出そうとしているように思える。

 

 状況の理解はできた。情緒を破壊されているというのをどの程度修復できるかは分からないが、アシモフの元に連れていけば何とかなるかもしれない――そうなればやることは決まった。ひとまず、彼女の構えている物騒な物をどうにかするのが先決だろう。

 

「ふん、それで、ジブリールの説得など不可能としって、貴方はどう……」

 

 ルシフェルの言葉を聞き終わるよりも早く、奥歯を噛んでADAMsを起動する――もちろん、奴が超音速の世界に踏み込んでくるのも織り込み済みでだ。

 

 こちらが精霊弓を放つと同時に、ルシフェルは低姿勢で光の一撃を躱し、そのまま腰に差していた剣を抜き出し凄まじい勢いでこちらへ肉薄してきた。恐らく、以前ジブリールと戦っていた時に自分が接近戦を嫌っていたのを学習していたのだろうが、こちらとしても敵に知られていない隠し玉がある。

 

 無詠唱で編み出された風の精霊魔法により、大気の断層を作って相手が振り上げてきた一撃を防ぎ――そのまま大地の精霊魔法による追撃で相手の足元に土の槍を生成して打ち出した。

 

 ルシフェルの方もたまらず上へと飛んで大地の槍を避けた。空中ではADAMsの制御は出来ないのに跳んだというのは、精霊弓を防ぐ手立てはあるのだろうが――構わず相手の方へと向けて弓を弾いて矢を撃ち出す。ルシフェルは背に光の翼を出して矢を躱し、逸れた弾道は天へと昇る雷光として雲へと引き込まれていくが――こちらとしては相手の意識を僅かに逸らせればそれでよかったのだ。

 

 すぐさま二射目を準備し、遠方を見つめるジブリールの方へと弓を向け、彼女がマイクロウェーブを受信している三対六枚の羽に向けて矢を撃ち出した。ジブリール自身を巻き込まないようにするため出力は抑えたが、あの羽のうち一枚でも破壊できればセレスティアルバスターは撃てなくなる。結果、中央の一対が破壊され、天から降り注ぐ粒子が霧散した。

 

 そしてヒートホークを外套から取り出し、上からの攻撃に備える。単純な力では敵わないことは分かっているが、今は精霊魔法を活用した戦術を取ることができる。上から振り下ろされた凶刃をすれすれで躱し――超音速のため、かすめただけでも恐ろしい衝撃が伝わってくるが――こちらも仕込みのために大地を踏みしめ、反撃のために刃を翻す。

 

 ルシフェルも流石の反応速度で斧を躱すが、それに気を取られてくれたおかげで他の仕込みには気付かなかったようだ。相手が着地した場所は土の精霊魔法により腐食しており、足場を取られたルシフェルはその場で姿勢を崩した。

 

 その間に距離を置き、相手が姿勢を戻すよりも早く、最大出力でエルヴンボウから光の矢を放つ。それに対し、ルシフェルは左腕を突き出しバリアを張る。音のない世界で、ただ視界には激しい閃光が舞い――光が収まり音が戻って来た時には、ルシフェルの片腕についている腕輪に稲妻が走った。

 

 青年は苦々しい表情を浮かべながら、腕輪を外し――直後、落としたそれから小さな爆発が起こった。恐らく多機能故にイスラーフィールのようにバリアに出力を回せないせいだろう、精霊弓の一撃で相手のバリアの一つを破壊することに成功したようだった。

 

「時代遅れのサイボーグ風情がどうしてこれほどの力を!?」

「他者を侮っているからそうなる!」

 

 それだけ言って再び奥歯のスイッチを入れ、残る邪魔者を排除するために音速の世界へと足を踏み入れた。

 

 

 ◆

 

 チェン・ジュンダーの秘密基地を後にし、ヘリコプターで襲撃をされているレヴァルの救援へと向かう。途中の攻撃に備えて飛行できる自分は外に出て遊撃の体制を取り、通信機によって――正確にはグロリアが仮に使っている機械の身体が受信する通信を又聞きしているのだが――シモンたちと連携を取っている形だ。

 

 途中でこちらに対する攻撃は無く、一直線にレヴァル付近まで辿り着く。すでに視界には先日のように城塞の上を舞う天使たちと、地上の舞台も外壁に向けて進軍しているのが確認できた。

 

「すでに襲撃は始まっているな……」

「えぇ、推測通りですね」

 

 ヘリ内でシモンとレムのそんなやり取りが聞こえた。そしてレムは咳ばらいを一つ、恐らく外にいる自分たちにも聞いてほしいという合図だろう。

 

「それでは、先ほどの打ち合わせ通りに行きましょう。アガタ、クラウディア、テレサ、ナナコの四名はレヴァル上空で飛び降り、すぐに現地へと合流。ソフィアとグロリアは高速艇を安全圏内まで護衛し、すぐにレヴァルへ来てください」

「えぇ、了解よ……しかし、あの病院のベッドに臥していた晴子と一緒に任務に当たるなんて、不思議な感じね」

 

 自分の翼があるのに、横着して自分の肩に乗っているグロリアがレムに対してそう返答した。グロリアの記憶は余すところなく自分にも共有されている――だから、女神レムのオリジナルが病床に臥し、世を儚んでいた姿を脳裏に思い浮かべることも可能だ。

 

「そうね……でも私は、オリジナルの記憶を継承した人工知能に過ぎません。ですから、厳密にはアナタの知る伊藤晴子では……」

「ややこしいことはなし。一緒に頑張りましょう、晴子」

「……そうですね。今の私はこうやって口を動かすことくらいしか出来ませんが、頼みますよ、グロリア。アラン・スミスのために……兄さんのために、力を貸してください」

「この戦い自体はアランの復活に寄与しないけれど……あの人が護ろうとした人々があの城塞都市に集結しているのなら、やぶさかじゃないわ」

 

 口では悪態をついているが自分には分かる。グロリアは伊藤晴子と協力することに関してポジティブな感情を抱いている。確かに彼女も創造神の一柱ではあるものの、その生い立ちと背景、何よりも彼女がアラン・スミスをこの星に一度蘇らせてくれたから、クローンと言えどもグロリアはアランに再会できた訳だから。

 

 自分としても、アランと出会えたことで再び生きる意味を見出すことが出来た。そういう意味では、自分もレムのために――いや、兄のために戦おうという伊藤晴子の人格に力を貸すことには賛成だ。

 

 そうでなくても、あそこは自分の想いでの場所である。自分を慕ってくれていた兵たちに、冒険者の人たち、領民――何よりも、あそこはアラン・スミスと出会った自分にとっての思い出の場所だ。だから、今回の戦いに関して自分たちの士気は高いと言えるだろう。

 

「グロリア、張り切ってるね」

「そういうアナタもね……それじゃあ、皆に良い所を見せましょうか!」

 

 グロリアは肩から離れて魔術杖の先端に張り付き、自分もレバーを操作して第六階層強化段を装填し、演算を始める――術を編み終わると目の前に煌々と光る魔法陣が浮かび上がり、左腕を突き出して陣を叩いた。

 

「ディザスター・ボルト!」

 

 叩かれた魔法陣から紅蓮の熱線が走り、城塞都市を舞う天使たちを撃ち貫く。先日見せた技だから対策されている可能性もあったのだが、恐らく完全に防ぐことは出来ないと読んでいた。魔術ならばディスペルも可能だが、この魔術は炎の魔人グロリアの怒りの炎熱もである――特に追尾部分は魔術に依拠しているが、威力部分はパイロキネシスに依拠している超高速の一撃なのだ。

 

 そう、これが自分とグロリアが編み出した答え。最強の一柱、魔術神アルジャーノンを倒すための戦術だ。彼は超高速演算でこちらの魔術をディスペルして無力化してしまうが、グロリアの能力はその限りではない。また、テレサ姫との近接戦闘において、アルジャーノンは対応こそしていたものの圧倒的な力を見せていなかった――ともなれば、無効化出来ない新しい魔術と彼の苦手とする近接戦闘のコンビネーションでの戦闘を仕掛ける、これが魔術神を倒すために編み出した戦術だった。

 

 それで腕試しにナナコに戦闘をけしかけてみたのだ。単純な接近戦の腕前に関しては、ナナコは自分が見た中でも最高位に位置する。そういう意味で力試しにもってこいの相手だったのだ。

 

 もちろん、多分に私情が含まれていたのも否定はしない。アランを支えてという約束を反故にされた怒りは間違いなくあり――逆の立場だったとして自分でも何も出来なかったと思うし、ナナコ自身も気に病んでいることは分かっていた――彼女が大事そうに髪を結っている赤い外套の切れ端を見て、情動を抑えられなくなっていたのだ。

 

「ソフィア、凄い!」

 

 先日と同じように空を飛んでいる個体のある程度の撃退は済み、魔術杖から廃莢をしている傍らで、こちらから怒りを向けられた少女は全く意に介した様子もなく、開け放たれたヘリの扉から賞賛をこちらへ向けてくれるのだった。正直、こういうところも苦手だ――彼女の寛大さは、自分が狭量な人間だという事実を突きつけてくるようだから。

 

 しかしそれ以上に、自分のように冷たい人間を見捨てないという安心感もあるから、つい甘えてしまっている部分もあるかもしれない。ある意味では、自分はナナコのことを信頼している。それは間違いない事実なのだ。

 

 ともかく、自分は移動を止めて、西の空から来襲する敵の援軍と戦うために魔術杖のレバーを引き直した。

 

「無駄口は後だよナナコ。そろそろ降下地点に着くんだから」

「了解! また後でね!」

 

 ナナコが元気にこちらに手を振り返すのを見送り、ヘリは城壁を超えていき――そしてナナコを先頭に四人の少女達がヘリから飛び降りてレヴァルの旧聖堂前へと着地した。

 

『本当は褒められてまんざらでもないくせに、クールぶっちゃって』

『うぅん、私一人の力じゃないから……アナタの力があってこそだよ、グロリア』

『……そう素直に褒められると調子が狂うわね。ともかく、私たちは私たちの仕事をこなすわよ、ソフィア!』

 

 頭の中でやり取りを済ませてすぐにもう一度杖を振り回し、こちらへ戻ってくるヘリを援護するため、自分は飛来する敵の増援を撃ち倒すために再び魔術を編み始めたのだった。

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