B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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小さな納戸にて

 ソフィア達が慰安や書類仕事をしている傍らで、自分は城塞の修復作業の手伝いをすることにした。自分には難しいことは分からないし、この街には来たばかりで知り合いもいないので、役立てることとなれば力仕事くらいの物であり、自分から立候補したのだった。

 

 身体を動かしているほうが精神的にも楽というのもある。ファラ・アシモフを失った心の痛みに対して、座り込んでいればモヤモヤとしたものも晴れないだろうという気持ちもあった。

 

 アシモフの事に関しては、各々思うところがあるのは理解しているつもりだ。T3やグロリア、それにチェンも彼女には恨みがあったことだろう。とくに彼女は自分のオリジナルである――同時に旧世界のオリジナルのクローンでもある――夢野七瀬を殺害に関与しているのであり、本来は自分も彼女に対して憎しみの感情を持つべきなのかもしれない。

 

 とはいえ、夢野七瀬の記憶を継承していない自分にとっては、ファラ・アシモフは出会った時から自分の味方であった。少々気だるげな印象は受けるが、それでもアンドロイドたちを我が子のように思う優しさがあるのは自分も見ていた。そういう意味では、自分にとってファラ・アシモフは落ち着きのあるおばあちゃんのような存在だったのだ。

 

 せめて、最後に実の娘と少し話ができて、幾分か心が通ったように見えたのが幸いだったのだろうが――しかしその代償として、自分以上に傷ついてしまっている人がいる。だからこそ自分は無理やりにでも彼の手を引いて、せめて一人にしないようにと思ったのだが――。

 

「T3さん、こちらの資材を運んでもらってもいいですか?」

「あぁ……」

「T3さん、これ持っててくれませんか?」

「あぁ……」

「T3さん、ちょっと肩車してくれませんか?」

「あぁ……」

「ちょっと、大丈夫ですか!?」

「あぁ……」

 

 こんな調子でT3はずっと上の空で、何を言っても「あぁ」としか言えなくなってしまっている。もちろん、こちらのお願いは言った通りにしてくれるし、手が止まっている訳ではないのだが。ともかく今は何でも言う通りにしてくれている状態だった。

 

「……T3さん、もっと私に優しくしてください?」

「それは断る」

「なんでそこだけ正常な判断を下すんですか!?」

 

 なんでも言うことを聞いてくれるのなら普段は出来ないお願いをしてみたのに、肝心なところは素気無く断られてしまった。そして、せっかく明確な意思をもってこちらの願いを断ったのに、T3はまたすぐにボンヤリとした様子に戻ってしまった。

 

 無理やりにでも連れ出してきたのは半分正解、半分不正解という感じだろう。独りにしないという点では良かったのだが、T3は思考を先ほどの一件に取られており、結局この作業ですらまったく気分転換にはなっていないのだから。

 

 それほどまでにファラ・アシモフをその手に掛けてしまったことは、彼にとって重大なことだったのだろう。元々彼は七柱に復讐を誓った身であり、実際に人を殺めたのは一度や二度でないはず。覚悟が無かったという訳ではないが、それでも実際に仲間を撃たなければならなかったという心理的な傷は大きいということに違いない。

 

 ともかくそんな調子で、ある意味では淡々と、ある意味ではもやもやと外壁修理の作業を続けていると、先ほどソフィアの演説に元気よく答えてくれた男性が――確かバーンズと呼ばれていた――手を振りながら近づいてきて、自分とT3の顔を交互に見比べた。

 

「お嬢ちゃんたち、ここは良いから……先日ジャンヌが泊まっていた部屋があるだろう? あそこでゆっくりしているといい」

「え、でも……」

「そんな調子で作業されてもあぶねぇし、何より……残念ながら、お前さんの相棒がやったことを快く思わない奴もいる」

 

 バーンズが目線をやると、その先ではたむろしていた男性陣が気まずそうにそそくさと解散した。T3に対して敵意を向けている者がちらほらといるのは気付いていたのだが――少しでも作業を手伝うことで彼への敵意を払しょくできると思っていたのだが、やはりそう簡単にもいかないらしい。

 

「オレは、アンタの決断は間違ってなかったと思うぜ。レア本人の頼みだったんだ……全員それは分かってる。だが、上手く感情を処理できない奴もいるのも間違いない。冷静になるには、少し時間も要るだろう。

 何より、お前さんたちはレヴァルを護ってくれた英雄さ。やべぇ奴らと最前線で戦ってたんだ、疲れもあるだろう。今日くらいノンビリしたらどうだい?」

 

 バーンズは再度自分とT3を交互に見ながらそう提案してきた。確かに、この人の言う通りだろう――今はT3も自分から逃げたりしなさそうだし、今は人目を避けて落ち着く方がいいかもしれない。

 

「そうですね……T3さん、行きましょうか」

「……あぁ」

 

 T3は力なく頷くと、自分の隣に――と言っても妙な距離感はあるのだが――並んだ。彼の方から何か言ってくれるわけでもない。こちらも何といえばいいか分からず、所在なく周囲に視線を向ける。

 

 何となくだが、この街並みは懐かしい感じがする。道の広さであるとか、区画であるとか、建物の雰囲気だとか――夢野七瀬が見た景色だから懐かしいと思うのか、それとも自分がクローンだと自覚しているからこそ懐かしいと思い込んでいるのか、どちらかかは分からないが――ただ、第五世代型との激戦で激しい損傷が痛ましく感じられる。

 

 宿へ戻り、先日の物置部屋へと入ると、T3は腕を組みながら壁に背を預けて俯いてしまった。

 

「あの、T3さん、周りの人のことは気にしないでくださいね。そもそも、私が連れ出したのが悪いんだし……」

「……私は大丈夫だ」

「もう、全然説得力もありませんよ? ともかく、座りましょう……ほら、これなんか頑丈だと思うので」

 

 自分が平らな箱の上をぽんと叩いても、T3は変わらず立ったままの姿勢を崩さなかった。あのスタイルが落ち着くというのもあるのだろうが――壁と接していれば背中を取られないという安心感があるのと同時に、今は落ち着くことすら自省しているという雰囲気がある――立たれたままではこちらが話しにくい。そのため諦めずに箱をポンポンと叩き続けると、T3も最終的には観念したようにそこに腰かけてくれた。

 

 自分も彼の対面の荷物の上に座って落ち着き――しかし何と声を掛けたものかと悩んでいると、気が付けば視線が落ちてしまっていたようだ。納戸の小さな窓から僅かに差し込む採光が、自分と彼との間に横たわっているのが視界に入ってきて――幾許かその明かりを眺めていると、向かいから「私は」と掠れた声があがった。

 

「私には、迷わずアシモフを屠る覚悟があった……はずだった」

「それはその、一年前までは……の話ですよね? アシモフさんは味方になった訳ですし、覚悟が鈍るのも仕方ないと思います」

「……三百年だ」

「……えっ?」

 

 T3はそこで一度顔を上げた。瞳は光なく濁っており、どこか焦点があっていない。

 

「三百年の間、私は全ての七柱をこの手で葬ることばかり考えてきたのだ。母同然に慕ってきたレアですら、頭の中で何度もその首を落としてきた。現に私は、仇である自分に対しすぐにトドメを刺さなかったエリザベート・フォン・ハインラインをあざ笑ったものだが……それが、この体たらくだ」

「でも……私はT3さんがそういう人で良かったと思ってますよ」

 

 この人が無感情に他人を殺せる人でないことが分かったのは、自分にとってはポジティブであるのは間違いない。それに、今回の場合は敵を討つのとは訳が違うのだから、ショックを受けるのが当然だと思う。

 

 しかしこちらの返答が意に沿わなかったのか、T3は再び視線を落としてしまった。彼はこちらの感情を知りたかったわけでなく、三百年も恨み続けた相手を手に掛けて動揺してしまったことに対して複雑な心境でいるのだろうから、自分はとんだ見当違いのことを言ってしまった訳だ。

 

「あ、あのあのあの! ごめんなさい、また言葉を選ばずに失礼なことをば! でも、でも……やっぱり、皆それぞれの事情があるってだけなのかなぁと。七柱の創造神も何かを悩んで、苦しんで、それで高次元存在に手を伸ばそうとしているんだと思うんです」

「……しかし、それは誰だって同じだ」

「はい、そうですね……自分が苦しいからって、誰かを傷つけていい理由にはなりません。だから、私もあの人たちと戦う覚悟は決めてますけど……でも、アシモフさんに関しては、自分のやってきたことに向き合ってくれたわけですから……T3さんが傷つくのも、無理ないと思います。

 それに、T3さんが矢を放ったのは、ソフィアやグロリアさんにアシモフさんを手に掛けさせないためですよね? 何よりも、アシモフさんはT3さんに気にしない様にって言ってましたし……亡くなられたことは寂しいですけど、T3さんはアシモフさんの願いを叶えたんですから。そんなに気を落とさないでください」

 

 それに、元はと言えば、自分がアシモフを護れなかったことにだって責任はあるように思う。自分は危険にさらわれるアシモフの近くにいたのだから。いや、そもそもとして――。

 

「そもそも……私がアナタを独りにしてしまったから、今回みたいなことに……って、あぁ!」

 

 そう、自分は彼がレヴァルに来ているのも知らなかったし、行動を共にできていればもう少し違った結末になったようにも思う。しかしその原因を作ったのは他ならぬT3自身なのだ。

 

「そうだ、私怒ってるんですよ! ヘイムダルで私だけ脱出させて! この一年間ずっとT3さんを探してたんですから!」

「……私を?」

「そうです! T3さんを独りにしないって約束したじゃないですか! それなのに、なんで独りで無茶しちゃうんですか、アナタは!」

 

 荷物から降りて身を乗り出し、男の前で膝まづいてその手を両手で取る。

 

「捕まえましたから! もう離しませんよ!」

 

 そのまま強く手を握ると、T3は困惑したように瞳を揺らした。こちらとしては怒り半分、決意半分で結構な力を込めて握っているのだが、彼の手は義手であるから痛みはないはず――ともかく振りほどかれないようにと握っていると、男は視線を横へずらしながら口を開く。

 

「……この手は血で汚れている」

「それなら、私だってそうです……私も自分が正しいと思うことのために戦ってきたんですから……その分、誰かを傷つけてここまで来てるんです。そして、これからも……今度はアナタがこうやって落ち込まないように、一緒に戦っていきたいんです」

 

 この戦いは、誰か一人が背負うべきものではない。もうこの人が独りで悩まないで済むように――改めて手を握り直すと、T3はハッとしたような表情を浮かべ、今度は皮肉気な笑みを口元に浮かべながら首を横に振った。

 

「……貴様に気を使われるとはな」

「むっ……気を使っちゃダメなんですか?」

「いや、おかげで少し落ち着いた。感謝するぞセブンス」

「な、なんだかそう素直になられると、それはそれで調子が狂いますねぇ……」

 

 かつてないほどの柔らかな雰囲気に照れくさくなってしまい、思わず片手を離して頬をかいていると、T3はそのままゆっくりと手を引いてしまった。いつまでも握っているわけにもいかないし、それは自然な行為とも思われるのだが、先ほどの自虐的な表情が気にかかる。まるで、こちらの言葉で何か新たに決意したように――男はこちらから離した手を少し見つめてから、微笑みを浮かべながらこちらを見つめてきた。

 

「……大丈夫だ、もう断りも入れずにどこかに行ったりはしない。だが、同時に……今の私にはお前の手を握る資格はない」

「それは、アナタだけが決めることじゃ……」

「今は、と言っただろう?」

 

 そう言って立ち上がり、T3はいつもの仏頂面に戻ってしまう。そしてそのまま小さい窓の所まで移動して外を見つめた。

 

「ファラ・アシモフの決意は見事だった……彼女の意志を継ぐためにも、私は虎として戦い続けなければならない。そのために力を貸してくれ、セブンス」

「ほぇ……? は、はい! 喜んで!」

 

 予想外な言葉が出てきたせいで反応が遅れてしまったが、今の言葉に嘘はなさそうだ。それなら、もう一人でどこかへ行ってしまったりはしないだろう。

 

「あの、今更ではありますけど、虎ってどういうことなんですか?」

「ADAMsを駆り、暗殺を行うものに対するコードネームだ。アラン・スミスが原初の虎、私は三番目なのだが……」

「あぁ、それでT3なんですね!」

「本当に今更だな」

「あ、あははぁ……」

「……元々はゲンブのこだわりだったのだがな。しかし、今は自分でも気に入って使っている」

「あ、分かります! 私も、最初はセブンスってちょっと格好つけてるなーって思って避けてたんですけど、T3さんに言われ続けて慣れちゃいましたから!」

 

 それが、自分が初対面の相手に二つの名を名乗る理由だ。ナナコという呼び方はどこか懐かしさがあり、セブンスという呼び名も大切な人からの呼び名だから――いつの間にかどちらも大切な名前になっていたのだ。

 

 しかし、T3についてはどうだろうか? どちらかと言えば気に入っているというより、彼は自身が虎であると暗示を掛けることで、生来持つ優しさに蓋をしているような気もする。

 

 然るべき時が来たら、彼のことも本当の名で呼びたいように思う。繊細で優しい彼に相応しい名を――ただ、きっと今はそれを彼自身が嫌がるだろうから、自分も彼のことを引き続きT3と呼ぶことにしよう。

 

 そんな風に我ながら珍しく空気を読んだ結果、静寂が部屋を支配した。T3はこちらから話さないと何も喋ってくれないのだ。とはいえ、先ほどまでと違って雰囲気も柔らかく、気まずい感じでもないのだが――せっかくならこの一年のことを共有しようと話題を切り替えることにした。

 

 しかし結局、日が暮れるまでほとんど自分が話しっぱなしで、T3は時おり相槌を――何なら皮肉なような気がしないでもない――返すだけの時間が過ぎていき、気が付けば窓の外が暗くなり始めていた。

 

「……そろそろ、他の者たちと合流したらどうだ?」

「え? 今日は私もここで寝るつもりでしたけど……」

「馬鹿なことを言うな。年頃の娘がそんなことを言うもんじゃない」

「ぶふぉ!」

「……何がおかしい?」

「いや、だって、T3さんの口から年頃の娘なんて言葉が出るとは思わなかったので……ぷくく!」

「ふぅ……だが、どの道この納戸で何人も雑魚寝は出来まい。元々ジャンヌが使っていたようだが、お前らはまた別の部屋を取ったほうが良いだろう」

「それはそうですね……あ、でも」

「もう勝手に出ていったりはしない」

「ホントですよ? 嘘ついたらハリセンボン飲んでもらいますからね?」

 

 先ほど約束もしてくれたのだし疑っているわけではないのだが、一応念には念を押しておき――ノブに手を掛けたタイミングで一つ話しておくべきことを思い出し、自分は扉を開ける前にT3の方へと振り返った。

 

「あの、グロリアさんのことですが……」

「あぁ、分かっている」

「えぇっと、本当に分かってます? その、謝ったりするのも違うと思いますけど……T3さんの場合、なんだか妙な方に思い切りそうで心配なんですが」

「一度話したほうが良いというのだろう? そこに関して異論はない」

「はぁ、それなら良いんですが……」

 

 会話を終えた後は、自分は宿の向かいの詰め所でジャンヌと同じ一室を与えられ、そこで一泊することになった。そして翌日、すぐにT3を宿に迎えに行き、彼と一緒にレヴァルの付近に着けていたヘリの場所まで移動する。

 

 搭乗員は自分にT3、ティア、アガタ、イスラーフィール、それに操縦者のシモンの五人だ。もちろん、ソフィアもこの場にいるのだが、彼女は万が一に備えた遊撃のため、ヘリの護衛に当たることになっている。そもそも五人も乗るとヘリがぎゅうぎゅうになってしまうというのも、ソフィアが外で警護を買ってくれた理由の一つだ。

 

 ジャンヌとテレサはレヴァルに残ることになった。テレサに関してはレヴァルの人々を鼓舞するのに残るという意味もあるのだが――逆に戦力の落ちてしまうレヴァルの守りを少しでも増強する意味合いもある。

 

 逆に、イスラーフィールはこちらへの同行を強く志望してきた。護るべき主君がいなくなってしまったというのもあるのだが、僚機であるジブリールと出会える可能性が少しでも高い方に賭けたいようだ。確かにファラ・アシモフが亡き今、敵が熾天使級をレヴァルに当てる可能性は低いだろうし、ジブリールを救いたいならこちらに同行するほうが可能性は高いと言えるだろう。

 

 ジャンヌにはゲンブとも連絡を取れるように通信機は持たせているが、星右京に傍受される可能性を考えれば恐らく使用する機会は無いとのことらしく、それ故にレムが昨日のうちに色々と話を聞いておいたようだ。ジャンヌも、レヴァルの再建に意欲的なようであり――二度の襲撃で積極的に防衛に参加したことで信頼を得たおかげで、最初に自分と城門をくぐった時と比べて彼女に対する反対意見も多少落ち着いたようだ。

 

「ジャンヌさん、お世話になりました」

「えぇ、こちらこそ……貴女と過ごした時間、悪くはなかったわよ」

 

 自分がヘリの中から見送りに来てくれたジャンヌに別れの挨拶をしている傍らで、外では自分と同じようにソフィアとテレサが挨拶を交わしているようだった。そしてテレサがソフィアから離れるのと入れ替わるように、T3が少女の元へと歩み寄り――その肩に乗る機械の鳥の前で腕を組みながら止まった。

 

「……何とか言ったらどうなの?」

「……貴様の言葉を受け止めに来たんだ」

 

 男のあまりにぶっきらぼうな様子に、自分はハラハラとしながらT3とグロリアの動向を見守る。その武骨さこそ彼らしいと言えばそうだし、謝るのも違うと言ったのは自分なのだが、それでももう少し態度というか、話しやすい雰囲気を作るとか、色々努力すべきことがあると思うのだが。

 

 そもそも、あんな様子で話しかけられたら、グロリアだって困るのではないか。いやいや、もしかしたら険悪な雰囲気になる恐れだってあるのでは――しかし、そんな心配は杞憂のようだ。機械の身体ゆえに表情こそ無いのだが、グロリアから怒気は感じられないからだ。

 

「別に、アナタを恨んだりはしていないわ。確かに思う所が無い訳ではないけれど、あの時はあぁするしかなかった訳だしね。それに……私が言うのも違うと思うけれど、これで良かったのよ」

「……どういうことだ?」

 

 T3の質問に対し、グロリアは首を回して空を見上げた。

 

「私達最後の世代は、長く生き過ぎた……それに、相応の罪も背負っている。その贖罪が死であるべきだとまでは言わないけれど、本来ならこの世界の在り方に対して、もはや口出しするべきでないのは確か。

 あの人は……ファラ・アシモフはそう思って、アナタ達に未来を託したのよ」

「グロリア……」

 

 ソフィアが心配そうに名を呼ぶと、グロリアは無言のまま羽でソフィアの髪を撫でた。そして視線を男の方へと戻すと、どこかあっけらかんとした様子で話を続ける。

 

「ま、アナタに文句を言ったところであの人が戻ってくるわけでもないし、実際に戻ってこられても気まずいだろうしね。両親を別々の虎に狩られてしまったというのは、なんだか皮肉な運命のように思うけれど……ともかく、もう心の整理は済んでいるわ」

「……そうか」

「何より、そんな辛気臭い顔をされていたら怒るに怒れないわよ。強いてを言うなら……ナナコがアナタと別れてずっと心配していたようだし、せめてもうあの子に心配させないようにしてあげなさいな」

「……善処する」

 

 T3はグロリアに対して頷き返した後、ヘリの中へと移動してきて自分の隣に腰かけた。

 

「聞いてましたよ。善処してくださいね?」

「善処というのは、あくまでも努力目標を表す言葉だ」

「えぇっと……どういう意味です?」

 

 T3の言葉の真意を測りかねて質問を返すのだが、彼はもはや腕を組んだまま何も無言を貫くだけだった。

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