B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
ヘリは直ちにチェン・ジュンダーのアジトへは向かわず、ある場所へ寄り道をすることになった。それは、レムがジャンヌから聞いた情報の真偽を確かめるため――狂気山脈で発見した地下都市の確認をするためだった。
「その都市がこの星の先住民のモノであるとするなら……もしかすると、ノーチラス号の動力に使える部品があるかもしれないですね」
レムによれば、この星には元々、七柱の創造神たちが住んでいた旧世界と同等か、それ以上の科学技術を持った知的生命体がいた。もし先住民族の都市が地下に残っていたと仮定するのなら、それはかなり進んだ科学技術で作られた都市である可能性が高く、何か使える物があったとしてもおかしくはないとのことらしい。
「……しかし、それが先住民族の遺跡とは限りませんし、仮にそうだったとしても彼らは何億年も前にこの星を発っているのですよね? それなら、機械類なんか壊れてて使い物にならないのでは……」
「いいや! きっと何かあるはずさ!」
アガタの言葉を興奮気味に遮ったのは操縦席にいるシモンだった。彼はノーチラス号の完成にこだわりがあるだけでなく、旧世界の人類すら上回る可能性のある先住民族の技術に興味があるようだ。正確に言えば、全ての先住民族が一斉に星を去ったという宇宙関係の技術に関心があるようではあったが。
さて、一抹の望みを託して自分とジャンヌが発見した遺跡に向かったのは、僅かに二名と一羽と一柱だった。というのも、計器類の狂い乱気流で荒れている狂気山脈にヘリコプターでは向かえないので、ソフィアとグロリアの飛翔能力を使って移動し、自分が道案内に彼女に抱えてもらっている形だ。ついでに、自分たちには機械の専門知識は無いので、アガタからアンクを貸してもらってレムに同行してもらっている。
「あ! あそこの岩、見覚えがある! ソフィア、あそこに降りて!」
「よく肉眼でその距離が観察できるね……というかそもそも、陸路で来たのを上から見て場所を言い当てるのも凄いと思うけれど……」
ソフィアには呆れられているが、方向感覚と空間把握には結構自信がある。それ故に、巨大な迷宮と化していた極地基地も独りで出歩けたわけだし――ともかく指さした場所は記憶通りに遺跡の入り口であり、以前に数日かけて踏破した場所までは、狂気山脈のふもとからたったの一時間ほどで到着したのだった。
以前は下に降りては戻ることが出来ないという判断から引き返したが、今回はソフィアが居るので降りても容易に戻ることができる。通路を進んで大空洞へと出ると、自分は再び浮遊しているソフィアに抱えられて下へと降り始めた。
「確かに、これを天然物というのは無理があるでしょうね」
アガタから借りたアンクからレムが飛び出てきて自分の肩に乗り、周囲を見回しながらそう呟いた。都市がその役割を果たしていた時には道路であったらしい場所へと降り立つと、ソフィアも淡く輝く古代都市を見渡しながら口を開いた。
「なぜこんな場所が残っているのでしょうか?」
「結論から言えば、たまたま浸食を免れていたということなのでしょうが……狂気山脈は、暗黒大陸とレムリア大陸が地殻移動によって衝突し、隆起してできた山脈です。もしかすると元々あった地下都市が雨風に晒されずに大陸移動に併せて保存されていたのかもしれません。
もちろん、エントロピー増大や地層の影響によって崩落しているところもありますが……ともかく、我々の調査を逃れて、かつこれほどの保存状態で古代都市が存在していたのは驚くべきことです」
レムが何を言っているのか自分にはよく分からないが、ソフィアやグロリアはなるほど、と納得しているようだった。ただ、なんとなくこの場が残っていることの凄さと、周囲の建物らしき場所の壁が剥がれ、そこら中に瓦礫が散らばっていることの理由を説明してくれているのだろうとは察せる。
自分が周囲にそびえ立つものを建物らしき場所と形容したのは、自分の知る建物とは構造そのものが違うことに起因する。道路の脇にあるとなれば普通はお店や事務所、もしくは人の住む住宅というのが自分たちの世界の常識には当てはまるのだが、周囲の建造物らしきものには窓や扉などが見受けられず、どちらかと言えば壁という方が正確だ。
崩落した壁の向こうに何某かの空間がある様子を見れば屋内という印象もあるし、しかしその中の様子も自分の知る屋内という様相でないので、アレを建物と言って良いのかは不明だが――レムとソフィアの会話を聞くに、この惑星の原生生物は自分たちと違った進化を遂げていたのだろうし、それ故にこの都市を自分たちの社会にあてはめて考えるのは難しのだそうだ。
古代人は第六世代型のようにIDのようなものが割り振られており、一見壁にしか見えない建物もID識別で開くのではないかとか、もしくはこの辺りの建物らしきものは人が内部に入ることを想定されていないのであるとか――極論を言えば自分たちからは都市のように見えるこの場所が居住地ではなかったとか、様々な憶測が目の前で飛び回っている。
レムが言うには、恐らく古代人は自分たちよりも――陸上で生活をしていた限りには――小さかったのではないかというのが旧世界の科学者の中では通説になっていたようだ。その理由は、そもそも七柱たちがもう一つの月を作るまではこの星の重力は旧世界よりも強く、その環境下では重心を低く保つ必要があることに起因する。もしかすると外骨格を持っていたのかもとすら推測されているらしい。
もう一つの可能性として、古代人は本来は水棲だったというのも考えられていたようだ。水中なら浮力の影響があるので身体を小さくする必要はないので、古の知的生命体はもしかしたら巨大な軟体生物だったのかもしれないとのこと。海底にモノリスがあるのがこの説の裏付けであるようだ。とはいえ、もし水棲生物であったとするのなら、この古代都市や外で見つかっている痕跡の説明がつかないとレムは付け加えた。
古代人の化石ないし、遺骨でも見つかれば古代人の生態の理解が進むのであるのだが、三千年の時間をかけてもこの星の上に痕跡を見つけることが出来なかったらしい。如何せん古代人が生息していた時代から億年の時が経過しており、風化や地層の体積が繰り返された結果、すでに地下資源と化してしまっており、その発見には至らなかったようだ。
ここならば、その最初の発見となるかも――ソフィアは知的好奇心を刺激されているのか、レムと熱心に討論を進めている。一方グロリアは議論に参加せずに、上から周囲を周囲の様子を見ており、そして自分のそばへと降りてきた。
「しかし、人っ子一人見当たらないわね」
「グロリアさん、当たり前じゃないですか! 何億年も前の遺跡なんですよ?」
「あのねぇ、私が言いたいのはそういうことじゃないわ。仮にここが高度な文明を築いていた先住民族の残した遺跡なら、旧世界と同等かそれ以上の技術が発達していたはず。それなら、防衛装置とか、機械類が動いていても良いんじゃない?」
「むむ、確かにそうかもですが……燃料切れなのでは?」
「いいえ、照明は生きている。つまり、どこかしらに動力があるのよ。晴子、これなら確かにノーチラスの課題を解決できる何かがあるかもしれない」
グロリアの声がけに対し、レムはソフィアの肩の上で振り返って頷き返した。
「しかし、それならどこにその動力はあるんでしょう?」
「まぁ、それが分かったら苦労しませんが……こういうのは中央にあるって相場が決まっているので、とりあえずは中心地を目指していってみましょうか」
「えぇと、そんなノリみたいな感じで大丈夫なんですか?」
肩に乗るレムの割と適当な言葉に対し、ソフィアがそう質問を返した。先ほどこの都市を自分たちの常識にあてはめて考えられないと考察していたのは他ならぬレムである訳で、そうなると彼女の言う「相場」というものも通用しないのではなかろうか――脳内でそんな風に突っ込んでいると、女神は微笑みを浮かべながら頷いた。
「全然根拠が無い訳じゃないのよ。一応、照明はこの地下都市全域で生きている……もし端に動力があるのなら、全域に行きわたらないか、ないしもう少し明るさがまばらになるんじゃないかしら?」
「成程、でも動力の出力やエネルギーを伝達させる導線次第では可能なんじゃないですか?」
「それは仰る通りね。古の叡智は私の創造など遥かに超えているかもしれない……そもそも、旧世界でも発電施設などは沿岸部や山間部に設置されていた訳だし。でもあまりに疑ってかかったら、どこから探せばいいか分からなくなるわ」
「確かに、それもそうですね……一旦レムの言う通り、中枢を調査してみるのが良いかもしれません」
「えぇ。それに、あまり長居もできないしね。色々と調査はしてみたいけれど」
長居が出来ないというのは、ここに居てはシモンやチェンと通信することが出来ないことに起因する。ここにどんな危険があるかもわからないので、半日ほどで戻らなければシモンたちは一度チェンのアジトに戻るようにとしているので、出来ればそれまでに退散したいというのが理由だ。
「グロリア、ナナコ、辺りの様子は?」
「さっきも言ったでしょう、人っ子一人いないって」
「私の方でも、生物の気配は感じないですね」
「それでは、先を急ぐとしましょう……ひとまずあすこへ」
手のひら大のレムが指し示す先は、古代都市の中心部に当たるドーム状の施設だった。そこからは足を速め――自分は道路を走り、ソフィアとグロリアは上から進むことにした。何かが襲撃してきた時に備え、互いにすぐに戦闘態勢に移れるようにするためだ。
とはいえ、そんな心配も杞憂だった。何物にもはばかられるわけでもなく、十分ほどの移動で目的地へと到着した。近くで見ると、その半球には光の筋が走っており、何やら神秘的な様相であるのだが、他の建物らしき物体と同様に入口が見当たらなかった。