B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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古代人のモノリス

「本来なら貴重な遺産ですから、傷を着けたくはありませんが……ぶち破るしかありませんね。ソフィア、お願いします」

 

 穏かな淑女と言う様相なのに、ぶち破るとか意外とレムも口が悪い。ある意味ではアランと兄妹というのも頷ける共通点なのかもしれないが――ともかくレムの意見に同意だったのか、ソフィアは頷き魔術杖を操作し、壁の一部分に氷柱を打ち込む。もしかしたら魔術が通用しないほど固い可能性もあるかもしれないと思ったのだが、意外と簡単に壁に穴を開けることには成功した。古代人もまさか遠い未来でこの星を訪れた来訪者が、力技で壁をぶち破ることなど考えていなかったに違いない。

 

 建造物の中は意外とシンプルな構造であり、外周の通路から中心に向かう回廊がある。何かあるとするなら真ん中だろうということで、光の筋の走る細く長い通路を突き進んでいくと、徐々に道行く先が明るくなっていき、最終的にはこれまたドーム状の広間へと辿り着いた。

 

 そしてその中心には祭壇のような場所があり――階段ではなくスロープで上がる形になっているのが特徴的だ――その上には不思議な黒い板が鎮座していた。

 

「アレは……モノリス?」

 

 黒い板が視界に入ってくるのと同時に、グロリアがそう声を上げた。以前にピークォド号で見た黒い板に雰囲気が近いように見える。ともかくその物体が何かを近くで確認するためにスロープを登っていき、黒い板の目の前にソフィアと共に並び立った。

 

 改めて注視してみると、黒い物体は高さ一メートル弱、幅はその半分以下で、厚みは十センチメートルほどの大きさだった。祭壇から床に走る光の筋が走っているのを見るに、確かにこれを中心に施設内へエネルギーが供給されているようだった。

 

「……うぅん、何となくですが、これはモノリスとは違うものなような気がしますね」

 

 黒い板という共通点はあるものの、これは別物のような気がする――以前に見たモノリスはもっと神秘的な様相であり、確かに人ならざる者が作ったというのに相応しい雰囲気を纏っていたように思う。それに対してこちらはどこか人工物という印象を受ける。

 

 そう思っていると自分の肩に止まっていたレムが浮遊していき、黒い板の周りを飛び回りながら注意深くそれを観察し始めた。

 

「ナナコの言う通り、これはレプリカなのかもしれません。モノリスは完全に光を吸収してしまうので何かが映るということはありませんが、この板には非情にうっすらとではありますが、辺りの様子が反射しています。

 それに、モノリスは寸分の狂いもなく一対四対九のサイズになっていますが、これにはピコレベルの誤差があるようですから……恐らく人工物というのが正確な所でしょう」

「えぇっと……それじゃあ、これは使えないんでしょうか?」

「いいえ、そんなことはありません。億年経っても稼働し続けるだけのエネルギーを有していますし……何より、我々七柱ですら、これだけ精巧なレプリカを製造することはできません。

 そういう意味では、この遺跡を作った古代人たちは、私達よりも優れた技術を持っていたのでしょうし……もしかすると彼らなりに神に近づこうとチャレンジして、これを作ったのかもしれませんね」

 

 感心するようにレプリカを観察し続けるレムに向けて、ソフィアの肩に止まるグロリアが「それじゃあ」と嘴を動かす。

 

「そんな重大なものを古代人は置いていったってこと?」

「これは単純な予想ですが、このレプリカは彼らが宇宙に飛び立つときには最新のモデルでなくなっていたのかもしれませんね。もっと高性能なレプリカがあるのなら、わざわざこれを持っていく必要もありませんから」

「確かにね……それで? 持っていくの?」

「出来れば持っていきたいけれど、持ち出そうとしたらドカンもあり得ますから……あまり時間も掛けられないけれど。ソフィア、グロリア、調査を手伝ってくれる?」

 

 ソフィアとグロリアは頷き、レムを含め三名で黒い板を取り囲んで調査を始めた。こういう時の自分は全くの無力であり、ただ三人が頑張っている様子を眺めていることしかできない。

 

 しかし、アレを運ぶことに関しては自分の出番がある。幸いにして推定レプリカの大きさはそこまででないので、自分の身長でも横にして運ぶことはできるだろう。しかし、重さはどんなものだろうか? 見たところ、ミストルテインと同じくらいか、それより重いくらいだろうか。

 

 そんな風に思いながら作業をしばらく眺めていると、近くの操作盤らしき物を嘴でつついていたグロリアが首を横に振った。

 

「うぅん、やっぱり難しいわね。操作できるインターフェースはあるみたいだけれど、言語らしきものが見当たらない。もしかしたら古代人とやらは文字を持たなかったんじゃない?」

「その可能性はありますね。知的生命体なら何かしらの手段で知識を集積するのが常道だとは思いますが……口伝など音のみで事足りたのかもしれませんし、もしかするとテレパシーや集合知などが発達し、言語を利用しなくても問題ない所まで進化していたのかもしれません」

「……本当にそうでしょうか?」

 

 グロリアとレムが話している間を別人の言葉が遮った。もちろん、今のは自分ではない――声の主の方を見ると、板の前でしゃがみ込んで調査を続けていたソフィアが二人の議論に疑問を差し挟んだのだ。

 

「もし本当にコンピューターに対して脳波や電磁波など特別な手段でもって操作していたのなら、そもそもインターフェースを作る必要は無かったはずです。それに、何となくなんですが……この星にかつて存在した知的生命体は、もう少し泥臭い存在な気がするんです」

「何故そう思うの?」

「このレプリカの存在自体がその証明だと思っています。古代人たちはモノリスを発見して技術を発達させ、永久に三次元の檻に閉じ込められた……その一方で、彼らは更なる進化を望み、高次元存在に近づいてみせようとした。

 もしテレパシーや集合知で他者と分かり合えるのなら、能力の面で言えば高次元存在には劣るものの、同時に更なる進化を望まない気がするんです。肉の器にあり、他者と分かり合えないからこそ、人は苦悩し……より優位に立つために努力しようという個体が現れ、その者が更なる力に手を伸ばそうとする。それこそが進化の動機になるんじゃないでしょうか?」

 

 ソフィアの言うことは難しいが、何となくわかる。もしもテレパシーで分かり合えるような生物であるのなら、こんな風に技術を発展させなかったのではないかと言いたいのだろう。

 

 とはいえ、自分たちは古代人ではないし、むしろ心が通じ合っているからこそ古の種族たちは共に繁栄していこうと努力をしたのかもしれないので、実際の所は分からないのだが――恐らくソフィアが古代人を泥臭い存在と形容したのは、知識の探究者として先にいる古代人に対する羨望や共感があったからこそ、自分と同じような存在と思いたかったのかもしれない。

 

 しかし、仮にソフィアの言い分が正しいとすれば、何かレプリカを操作する方法があるのかもしれない。もしかすると、聡い彼女はその糸口を既につかんでいるのかも――と思ったが、ソフィアはレムに向けて自虐的な笑みを浮かべた。

 

「だからと言って、このレプリカの操作方法が分かる訳ではないのですが。でも、本物のモノリスも言語で統制されていないけれど、解読は可能だったわけですよね?」

「そうね。しかしアレは、まず何者かに解析される前提で作られていました。それに、ダニエル・ゴードン率いる解析班とDAPAの持つ最新鋭の量子コンピューターを使って何年もの時間をかけて徐々に解析していったものですから。今の私は伊藤晴子の記憶や基本的な情報は持っていますが、未知の技術の解析となると……」

「あぁ、すいません。解析せずとも、恐らくこれを持ち帰ることは可能だと思います。もちろん、アナタの言うように警戒はすべきですし、絶対に安全とは言い切れませんが……まず、何かしら防衛システムが働いているのなら、ここに来るまでの間に何かしらの装置が働いていたと思うんです」

「それは、億年という時間の間に防衛装置が故障していただけでは?」

 

 そう口をはさんできたのはグロリアだ。ソフィアは立ち上がって機械の鳥の方へと向かい、今度は不敵な笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「逆を言えば、それはこのレプリカにも当てはまると思うんだ。もしレプリカがここから外れることで爆発が起こるような機構が設定されているのなら、この億年の間の周囲の経年劣化で作動してもおかしくない。

 同時に、億年の間この地下空洞にエネルギーを供給し続けているコレは、何かしらの永久機関である可能性も高い……それなら、持ち帰らない手はないね」

 

 なるほど、彼女の言うことが正しいとするのなら――勝手な直観だが、実際に正しいと思う――これを引き抜いても爆発などは起きない訳だ。それなら、今度こそ自分の出番だ。ここまでほとんど役に立ってなかったのだが、やっと仕事ができる。そう思ってソフィアのいた場所まで移動し、黒い板を抱きしめて思いっきり台座から引き抜くことにした。

 

「ただ、永久機関だからこそ、爆発などはしないとしても、システムを停止しないままここから動かすのは危険かもしれないです……」

「よいしょ! ……えっ?」

「えっ?」

 

 ソフィアが何か不穏なことを言ってたのだが、既に黒い板は引き抜いてしまっていた。すると辺りが真っ暗になり――照明にエネルギーを回していた物が外れたのだから当たり前にそうなるか――しかしすぐに付近を照らすだけの光源が出現した。どうやらソフィアが魔術で灯りを出してくれたようなのだが、その光のおかげで彼女の呆れ顔がバッチリと視界に入ってきた。

 

「あのねナナコ。無事だったから良いようなものだけど……人の話は最後までちゃんと聞こう?」

「あ、あははぁ……ごめんなさい。でも、何となく安全だって思ったんだよ」

「まぁ、時間もなかったし、どの道ナナコに引き抜いてもらうことになったとは思うけれど、本当は最悪の事態に備えて結界の準備もしたかったんだから」

 

 その後、レムに「まぁ結果オーライということで」と仲裁してもらい、一同古代人の集落を後にしたのだった。

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