B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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魔王の成り立ちについて

 ソフィア達はおおよそ定刻通りに合流地点へと戻り、ヘリはそのままチェンの隠れ家まで直行した。掘り当ててきたモノリスのレプリカについては、ヘリの中では我が主であるレムを中心に、またアジトについてからはチェン・ジュンダーを交えての解析が進められた。

 

 とりあえず分かったこととしては以下のようなことがある。一番重要なこととして、古代人のモノリスをノーチラス号の動力として活用することが可能であるということ。オリジナルのモノリスを目指して作成されただけあり、以前にピークォド号の動力として活用していたのと同じように活用が可能そうであるということだ。

 

 ただし、その出力に関しては百分の一程度であるらしい。その数を聞いた時には頼りないとも思ったのだが、人工物の方が神の創り出した物体の規格に合っておらず、ピークォド号ではモノリスの力を持てあましていたのであり、百分の一でも十分な動力として活用できるということ。また億年も前の人工物が現存しており、これだけのエネルギーを供給してくれること自体が驚くべき事実であるということだった。

 

 なお、なぜこのモノリスが永久機関として成立しているのかは不明のようだ。オリジナルのモノリスは異次元からエネルギーを抽出していたらしいのだが、古代人のモノリスはむしろ永久に三次元の檻に閉じ込められた者たちが創り出した物体であるので、他の原理で動いていることまでは推測されている。

 

 また、本来ならそのような機関を持っているのならもう少し巨大であることが自然なように思われるが、何故この程度の大きさに収まっている理由までは分からないらしい。

 

 内部のデータについては、その解析には下手をすればオリジナルのモノリス以上の時間が掛かるとレムとゲンブは試算を出した。というのも、オリジナルのモノリスは「解くべき暗号」として知的生命体の元に送られてくる。そのためその難易度が高かったとしても、様々な知的生命体が解読できるだけの手がかりを持たせて、その役目が来る時まで眠っているのだという。

 

 対して古代人のモノリスは、原種達が利用できれば良いのであり、異邦人である我々に解読させるつもりで制作されているわけではない。同じ知的生命体と言う共通点がある故に高次元存在が送り込んでくる物体よりは文字通り低次元の存在ではあることを差し引きしても、言語形態どころか生態系すらも異なる生物の創り上げた物質を解析するのには時間を要するとのことだった。

 

 まとめると、火急の要件を満たす物としては活用が出来そうではあるが、細かいことは分からない、という風になる。もちろん、解析できていないものを実戦に導入することのリスクはあるが、四の五の言っていられる状況でもないということで落ち着いた。

 

 ここまで意見がまとまるまでには、古代人のモノリスを運んでから三日ほどの時間を要した。解析はレムとチェン、ソフィア、シモン、グロリア、イスラーフィールの六名が担当している。とくにレムとイスラーフィールは昼夜問わずに作業を進め――その間、アンクは作業用の部屋に置いており、自分は雑務をして時間を過ごしていた――今しがた解析の結果を共有された形だ。

 

 内容の専門性が高くあまり理解できたわけでもないのだが、自分は幼少の頃よりレムから多少は難しい話も聞かされていたので、ティアやナナコよりは内容を咀嚼することもできた様に思う。実際、ナナコなどは内容を理解することを放棄したのか、逆に良い笑顔を浮かべている。

 

「はい、よく分かりませんでした!」

「ははは、大丈夫ですよセブンス。貴女は元気なだけで花丸です」

「えへへぇ、そうですか?」

「えぇ、えぇ……それこそ、決戦前にイレギュラーなことがあっては良くありませんから」

 

 チェン・ジュンダーの皮肉を理解できていないのだろう、ナナコは何故だか得意げに腕を組みながらうんうんと頷いている。しかしすぐに何かを思い出したかのように「あの」と声を上げた。

 

「それでですね。古代人のモノリスを活用して、ミストルテインにエネルギーを注入できないでしょうか?」

「それは少し待ってほしいですね……まず、ノーチラス号の発進を先に回したいというのがあります。ここももはや安全ではありませんし、早めに居所を移したいという意図があります。

 また、機構剣ミストルテインは、オリジナルのモノリスよりもたらされる異次元からの魔術的なエネルギーを破壊力に変換しているのです。古代人のモノリスのエネルギーが不明なものである以上、それを注入しては故障に繋がるかもしれません」

「なるほど……」

「分かってくれましたか?」

「完全には分かりませんでしたが、優先度的に今は無理と言うのは分かりました。でも、それならせめて、修理だけでもしてもらいたいのですが……」

 

 ナナコは席を立って、背後の壁に立てかけてある巨大な剣を持ち出してきた。その刀身は傷だらけであり、かなりくたびれてしまっているように見える――先日の戦闘でも問題なく利用できていたのだから故障しているわけではないのだろうが、確かにあのまま利用し続けるのもいつ折れてしまうかもしれないという不安はあるだろう。

 

 修理して欲しいというナナコに対し、チェンは少し傷だらけの刀身を見つめ、ややあってから首を横に振った。

 

「それくらいなら修理は不要かと思います。貴女には言っていませんでしたが、その剣は本来なら特別な修理は不要なんです」

「え、そうなんですか!?」

「えぇ。その剣は単純な機械という訳ではなく、有機的なナノマシンによる自己修復機能を兼ね揃えているのです。この一年間、ひとまずレーザーブレードとしては活用できたでしょう? それは、太陽光を活用してエネルギーを補填しつつ、ナノマシンが剣を修復していたからです。

 もっとも最近は雲が直射日光を遮っているので修復が遅れているようですがありますがね」

「なるほど……でも、疑問が解消されました。先日付けてしまった傷が徐々に薄くなってきていたりしていたので……」

「同時に、それだけボロボロになっているということは、貴女がこの世界で誰かを守るために常に戦い続けていたことを意味するのでしょう。お疲れ様です、セブンス」

「は、はい! ありがとうございます!?」

 

 声を上擦らせるナナコに対し、チェンは乾いた笑い声をあげる。

 

「私から労いの言葉が出るのがそんなに意外だったでしょうか?」

「あの、いえ……まぁ、その、はい」

「私とて、誰かの頑張りを素直に賞賛するくらいの度量はあるつもりです。もっと言えば、貴女が第六世代型のために戦い続けてくれたから、今日まだ世界が終わっていないという見方もできますし、そう言った意味での労いでもあります」

 

 チェンは先ほどは無味乾燥な笑みを浮かべたのに対し、今はどことなく温かい声を少女に向けている。自分の称賛を素直に受け取ってもらえなかったことに思うところがある一方で、ナナコが誰かのために戦い続けたことに対しては心からの賞賛があるのだろう。

 

 そんな風に思う傍らで、ふとティアの方へと視線を向けると、何やら所在なさげにしているのが視界に入ってきた。彼女はナナコの活躍をどうこうというより、先ほどから蚊帳の外であること――正確には、仲間たちに対してあまり貢献できていないという焦燥感があるに違いない。

 

 自分だってティアとそう貢献度は変わらないし、そんなに気に病むことでもないと思うのだが。とりあえず、いつまでも地下にいても身体がなまってしまうことも間違いない。謙虚な友に――以前はもう少し開けっ広げだったように思うが――変わって自分が話題を返ることにする。

 

「それで、次はどうするんですの?」

「今一度アーク・レイに向かうのが良いかと。ノーチラス号用のパーツを回収してきたいのもありますが……その上で一か八か、ブラッドベリを起こそうと思います」

「……理由を聞こう」

 

 横から割り込んできたのはT3だ。どうやらあまり納得いっていない様子のようだが――アルフレッド・セオメイルとしての彼は魔王と対峙していたのであり、その反応もむべなるかなと言ったところか。しかし以前の彼なら、もっと食って掛かっていたようにも思うのだが、一応チェンの真意を確認しようという落ち着きはあるようだった。

 

「以前にも言ったように、今度こそ敗北は許されません。そうなれば、打てる手は全て打っておきたい……ともなれば、一人でも強力な仲間が欲しいのは確かです」

 

 チェンはそこで言葉を切り、レムの方を見た。するとレムが頷き返し、主にT3を見ながら口を開く。

 

「魔王ブラッドベリは、DAPAの能力開発と生体開発の粋を集めて作られた第六世代型のアンドロイドです。パイロキネシスやエネルギー衝撃波、透視やサイオニックなど、開発可能だった全ての超能力を持っている上、強力な再生機能を持っています。体内のナノマシンが細胞を高速で自己修復させるため、その生命力は塵一つからでも再生できるほどです。

 魔王を倒すのに聖剣レヴァンテインが必須であったのは、マルドゥークゲイザーから放たれる一撃に、ブラッドベリのナノマシンを休眠させる効果があったからに他なりません。

 単純な攻撃力だけで言えば熾天使にこそ劣るものの、その防御力と生存能力を加味すれば熾天使と並ぶか、それ以上の戦力になってくれると言えるでしょう」

「成程……しかし、そこまで強力にする意味はあったのか?」

「ブラッドベリにこれだけの力を注ぎこんだのには理由が二つあります。一つは、レムリアの民が倒すべき存在が強大であるほど、人々の心をコントロールしやすかったから……その存在を見た者たちは後世までその恐ろしさを語り継ぎ、それ故に魔王を打倒できる勇者と、勇者に力を授ける七柱への信心を強化することができる。

 そして、もう一つは……」

「その気になれば、勝敗は貴様らの方で如何様にもコントロールできるから、だろう?」

 

 T3が差し込んできた言葉に対し、レムは無表情のまま頷き返した。

 

「はい。ブラッドベリにも生体チップが組み込まれていますから、彼の行動を私たちの側でコントロールすることは可能でした。

 もちろん、最初から八百長では人心の掌握に寄与しませんし、勇者のお供となる実力のある者なら、下手な手心があれば微細な違和感に気付くかもしれません。それ故、魔王の行動を制限することは最後の手段でしたし、実際に戦闘において一度も彼の行動を制限したことはありません。

 直近の征伐時には右京が一度畏敬を出しましたが、それは最後の世代としての権限を行使しただけで、ブラッドベリをコントロールしたことにはなりません」

「戦闘において、というのは含みがあるな」

「思考のコントロールの方は逐次していましたからね……彼は魔族を率いるカリスマとして創造された存在であり、もちろん高い知能指数を兼ね揃えています。三千年の時があれば、必ず我々の欺瞞に気付きますから……この世界の虚構に気付きそうになった時や、またレムリアの民たちが絶対に覆せな程の謀略を張り巡らせそうになった時には、事前にそれを防ぐように調整はしていたのです」

「……奴の怒りこそむべなるかな、だな」

 

 淡々と話すレムに対し、T3はどこか吐き捨てるように返答した。自分としては、今の話はレムより事情は共有されていたのであり――そもそも彼女はこの世界の虚構に疑問を持っていたのであり、魔族に対して同情の気持ちもあったことも自分は知っている。

 

 レムが事情を冷静に話したのは、彼女達がしたことの罪を受け入れているからに他ならない。下手に悪びれた所で、何かが解消されるわけでもないのだから。

 

 一方で、T3が義憤に駆られるのも自然なことだろう。魔王ブラッドベリはその聡明な知能を制限され、滅びることも許されず、三千年ものあいだ偽りの戦争をやらされ続けたのだから。もちろん、多くの期間は封印されていると言っても、彼の王としての気質は本物であり――魔族という一族もろとも利用されていたと知れば、ブラッドベリの立場を考えれば怒りを覚えるというのも頷ける。

 

 そしてその感情は、エルフの男のみならず、周囲にも伝播しつつあるようだ。それを止めるようにチェンが咳ばらいを一つして雰囲気を仕切り直した。

 

「さて、ブラッドベリを引き込めれば強力な味方になってくれることは分かっていただけたと思います。ただし、リスクも大きい……彼を起こすとなれば、逆に右京らにコントロールされ、敵対してしまう可能性も高いのです。そうなれば……」

「奴の生体チップを右京に干渉されないように書き換えるか、摘出するか……はたまた破壊するか、いずれかが必要になるということだな?」

「はい。一応、T2を着ていた時と同様にハッキングされないように電磁パルスを展開し、その間にいずれのかの施術を行うようにしようとは思いますが……」

「星右京ならJaUNTで接近して、電磁パルスを突破してくることもあり得るだろう。それに、他の戦力を瞬時に連れてくることも可能だ」

「えぇ、貴方の言う通りです。ですから、これはかなりリスクの高い行動です。その上に、仮にブラッドベリを仲間にできたとしても、直ちに我々の勝利が確定するわけでもない……そのためリスクリターンの合う行動とは断言できない所はあります。

 また、仮に上手く彼の生体チップの対処が出来たとしても、その後ブラッドベリ自身が我々に味方をしてくれるとは断言できません。そうなると、私自身もどうするべきか……」

「……珍しく弱気だな。らしくない」

 

 先ほどまで静かな怒気を浮かべていたT3は、珍しく視線を落としているチェン・ジュンダーに対して気を使う様に小さく声をあげる。普段は皮肉ばかり言うT3が殊勝な態度を取っているせいだろう、チェンも自嘲気味に笑って首を横に振った。

 

「ははは、すいません。ただ、ここまで戦い続けてきましたが、私の策は結局、星右京とダニエル・ゴードンを上回ることはありませんでしたから。そうなれば、次も上手くいかないのではないかと……少し卑屈になっていることは否定しません」

 

 あくまでも自分の意見としては、チェンはよくやっていると思う。それは恐らく全員そう思っているはずだ。確かにチェンの策は七柱の創造神を倒すには至っていないが、彼が戦い続けたからこそ、高次元存在は未だに彼らの手中に収まっていないのだから。

 

 もちろん、それはチェン一人で成しえたものではない。ここに至るまでに散っていった仲間達が――アラン・スミスが光の巨人に飛び込み、高次元存在に人の可能性を見せたからこそ、こうやって自分たちの首の皮が繋がっている部分はある。

 

 しかし、原初の虎を復活させようとレムが思い至ったのも、チェン・ジュンダーがその執念でここまで戦い続けてきたからに他ならない。そういう意味では、この戦いはチェン・ジュンダーを中心とした戦いという側面もある。

 

 同時に、彼はその戦いの中で多くの仲間を失ってきたのも確かだ。既に「必要な犠牲だった」という範疇を超えているのも間違いなく――ややもすると、彼としてもファラ・アシモフの死が堪えているのかもしれない。

 

 正確な所は自分にも分からないが――ともかく、皆一様に黙って糸目の軍師を見つめていた。ただ一人を除いて――他の者同様に軍師を見ていることには変わりないが、彼女は一歩前へ出て、大きく息を吸い込んで男の前に立った。

 

「……チェンさん、行きましょう! ブラッドベリさんを復活させに! 大丈夫です、きっと次こそは上手くいきますよ!」

 

 そう言うナナコの瞳には、一切の迷いも見えない。そんな彼女に感化されたのか、一人と一匹が互いに顔を見合わせ――ソフィアと肩に乗るグロリアとが軍師のそばに近寄った。

 

「それに、アナタの策が上手く行ってないのではなく、実行する私達が成功させきらなかった部分はあるし……」

「何より、アナタが二重三重に策略を巡らせているおかげで、私やグロリアも救われたんです。星右京やダニエル・ゴードンを上回れていないという点はその通りとも言えますが……それを言えば、この中で誰もあの人に迫る策を出せていないんですから、そう落胆しないでください」

「ははは、ソフィアはいつも一言多いですねぇ」

 

 一言多いというのは「上回れていないという点はその通り」という部分を指すのだろう、チェンは自嘲気味な笑みを浮かべた。

 

 ソフィアは元から稀に――恐らく普段は大人を不機嫌にしないように注意しているのだろうが――他人の図星を突いて相手を黙らせてしまうところがあった。しかしチェンの「いつも」という表現から、彼に対しては正論をぶつけるのが常と言うことなのだろう。

 

 逆を言えば、ソフィアはチェンに気を使っていないとも言えるのかもしれない。それは恐らく、チェンには正論をぶつけても問題ないと思っているのだろうし、事実チェンもぐぅの音もでないという調子ではあるものの、不機嫌になっている様子ではない。むしろ、気遣ってくれたことを感謝してしている様子ですらある。

 

 そんな風に思いながら静観していると、今度はT3が真顔のまま一歩前へ進み出た。

 

「貴様が柄にもなく悄気《しょげ》ているせいだろう」

「T3、貴方も賛成で?」

「あぁ。どの道、魔王城に向かう必要はあるのだろう? ブラッドベリのことはついでに回収しに行けばいい。

 何より、お前がいなければ、私達はここまで来れていない……一万年の時を超えてお前が戦い続けてきたからこそ、今のチャンスがあるのだ」

「ふっ……まさか貴方に気を使われてしまうとは。大方この一年間、勝手に拗らせて独りで行動していたのでしょうが、これでは貴方のことを笑えませんね」

 

 チェンが自虐風の反論を返すと、図星だったのだろう、今度はT3の方が押し黙った。とはいえ、あの二人が皮肉を言い合うのは――大方T3がチェンに言い負かされて終わるのだが――以前にもよく見たし、両者とも不機嫌になっている様子もない。どちらかと言えば、以前の調子が戻った感覚がしたのだろう、両者とも不敵に口角を吊り上げている。

 

「反対意見も無いようですし、日を跨いだら行動を開始しましょう。闇に紛れて行動といってもそんなに効果はないでしょうが、気休め程度のカモフラージュにはなるでしょう。

 シモン、貴方は基地に残ってノーチラス号の最終調整をしておいてください。古代人温モノリスさえあれば、飛行自体は可能なはずですから、万が一に備えておいて欲しいのです。

 そして完成次第……海と月の塔に攻め込みます」

 

 ここで会議は終了となり、翌日の作戦に向けてこの場は解散となった。とくに明日は深夜中からの作業になるため、みな少しでも休んでおくようにと言いつけられ、一人一人と部屋を去っていく中、自分がティアと共に出て行こうとするタイミングで――。

 

「海と月の塔を制圧出来たら、アランさんが帰ってくるね!」

 

 そうナナコがソフィアに声を掛けているのを聞いた時、ティアは眉を少し潜めているのが気になったのだった。

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