B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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神話を終わらせる剣

「ミストルテイン!?」

 

 思わず砕けた剣の名前を叫んでしまうが、息をつく暇など全くなかった。すぐさまブラッドベリによる追撃が始まったからだ。その一撃を残った刀身で何とか受け止めるが、それを最後に魔剣の柄を完全に破壊されてしまった。

 

 それだけで攻撃の手は止まず、魔王はこちらを絶命させようと鋭い爪による連撃を仕掛けてくる。相手は利き腕を再生中であり、何とか躱せてはいるが――右腕もボコボコと音を立てて肘先から徐々に伸びてきており、完治するのも時間の問題だろう。

 

 右腕が治ってしまえば、剣無しに相手の攻撃を受けるのは厳しい。どうする、その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、大きく振り上げたブラッドベリの左腕の先が光の矢によって消し跳ぶ。魔王が唸りながら振り向くと、その先ではT3が弓を番えて鋭い目線を向けていた。

 

「貴様の相手は私だ! 魔王ブラッドベリ!」

 

 T3の挑発に乗ったのか、はたまた剣を折ったことでこちらに対する興味を失ったのか、ブラッドベリは自分にトドメを刺すのを忘れてT3の方へと駆けだした。

 

 T3とブラッドベリの勝負はよく言えば膠着状態、悪く言えば泥沼の戦いと化している。一言で言えば、互いに決定打が無い――T3側は無限に再生するブラッドベリにトドメを刺せるだけの火力がないし、ブラッドベリ側は音速を超えて移動するT3に攻撃を与えることは出来ない。T3にはADAMsが切れた瞬間に隙があるものの、そこを精霊魔法で上手くフォローし、相手から致命傷を受けないように立ちまわっているようだった。

 

 とはいえ、あまり状況が良いとは言えない。T3側は一回のミスが命取りになるのに対し、ブラッドベリ側は無限のチャンスがあるとも言えるのだから。何よりも、本来なら生体チップを破壊するという隙を自分が作らなければならないのに、今は護ってもらうことしかできない。それが歯痒い。

 

 それに、ここまで一緒に頑張ってくれたミストルテインにも申し訳ない。それだけ魔王の攻撃が苛烈だったというのも勿論だし、万全の状態であっても破壊されてしまったのだから致し方ないのかもしれないが――自分がもっとうまく攻撃をいなすことが出来れば、こんなことにはならずに済んだかもしれない。

 

 ともかく、何とかT3の援護に周らなければ。あの人は放っておくと、それこそ自分を護るために命を投げ捨てかねない。せめて砕けて飛んで行ってしまったミストルテインの刀身があれば、多少の攻撃はできるかもしれない――そう思いながら刀身に近づいていく途中で、どこからともなく自分を呼ぶ声がしたような気がした。

 

 辺りを見回すと、近くに落ちている朽ちた剣の柄があった。それは、先ほどまでブラッドベリの腹部に突き刺さっていた聖剣レヴァンテインの柄だった。

 

「……アナタは……私を知っているの?」

 

 朽ちたレヴァンテインの柄を拾い上げて声を掛けてみる。道具は生きている――それは以前、ドワーフのダンが言っていたこと。自分も何となしにだが、剣には霊的な物が宿っているという直感はあった。しかし、初めて対峙する剣が自分のことを呼ぶだなんて出来すぎだとは思う。

 

 もちろん、夢野七瀬がこの剣で魔王と戦っていたことは知っているし、レヴァンテインは自分をオリジナルと勘違いしたのかもしれない。しかしともかく、この剣の柄を握っていると――確かに懐かしい心地がするのと同時に、確かにレヴァンテインは自分に語り掛けてきているのだというそんな確信がわいてくる。

 

 同時に、ミストルテインの刀身も自分に語り掛けているような気がした。いや、これは気のせいなんかじゃない――聖剣の柄と魔剣の刀身とが共鳴しているのだ。その証拠に剣の柄は確かな熱を持ち、刀身は僅かに震えているように見えた。

 

「ミストルテイン……レヴァンテイン……分かったよ!!」

 

 レヴァンテインの柄を握りしめ、地面の割れ目に刺さっているミストルテインの刀身の元へと駆けつける。彼らは互いに、足りない部分を補おうとしている。それならばと、剣の柄を刀身にぴったり合わせる。二つの剣は意外なほどにぴたりと合い――元々魔剣ミストルテインは聖剣レヴァンテインと規格を合わせて作られたものらしいから、サイズ感が合うのは必然だったのかもしれない。

 

 そして、これらの剣はナノマシンによる自己修復機能を備えている。繋ぎ合わせた部分の金属が、水泡のようにボコボコと音を立てながら繋がっていく。それだけでなく、ミストルテインの刀身に格納されているはずのワイヤーやアンカーが飛び出て柄を巻き取り、結合し、融合していき――あっという間に柄と刀身とが完全に繋がり、大地に突き刺さっていたそれを勢いよく抜き出してみせる。

 

 新しい剣の外観は、端的に表せば意外とグロテスクなものだった。間に合わせのように融合したせいかワイヤーや導線などが剥き出しであり、刀身はでこぼこしている。また、聖剣や魔剣のように衛星やモノリスからエネルギーを供給されているわけでもない、ただ柄と刀身という区分のある、剣のような形をしているガラクタのような印象すら受けた。

 

 だが、この剣からは聖剣や魔剣を超えるだけの何かがある――刀身を通じて確かに感じるのは、自分の意志や二つの剣だけのものではない。ソフィアやT3、チェン達の、この場で戦っている者たちの――さらにこの空の向こう側、まだこの星で明日を夢見るアシモフの子供たちの切実な祈りを、この剣を通じて確かに感じるのだ。

 

 そしてその想いに呼応するように、刀身から黄金色の光が立ち昇り始め――その光は剣だけでなく、自分の身体も覆い始めた。

 

「アナタの名前は、ラグナロク……」

 

 まるで剣の方から自己紹介をしてくれたかのように、その名前は自分の口から自然と出てきた。そして上空からこちらへ急接近してくる何者かを迎撃するため、剣を強く握って天へと掲げる。

 

 剣から立ち上っていた黄金色の光がより一層強くなり、そのまま暗雲すらも眩く照らした。強烈な光を発したことで自分を止めようとして来ていたのか、上空からこちらへ向かってきていたルシフェルは警戒のためか中空で制止したようだった。

 

 いや、あんな奴のことなんかどうだっていい。この剣を持って自分が為すべきことは、もっともっと大きなことだ。世界中から集まった意志の力で、あの暗雲を晴らしてみせる――!

 

「神話を……終わらせる剣!!」

 

 そう叫びながら腕を一度引き下げて、そのまま身体のバネを使って一気に剣を天へと向けて振るってみせた。

 

 ◆

 

 三体のルシフェルは互いに連携を取り、こちらに接近を許さない波状攻撃を仕掛けてきていた。奴らは時間を稼いでいる。自分たちが地上に向かえば趨勢は一気に変わる。それ故に地上で方《かた》が着くまで、自分とグロリアをこうやって空中に縛り付けているのだろう。

 

 地上の様子を眺め見ると、あまり状況は芳しくない。チェンがジブリールに足止めされている間に、クラウ達がルーナによって窮地に立たされており、ナナコは魔剣ミストルテインを失ってしまった。

 

 なればこそ、自分が早く地上に向かわなければ――そう焦るほどルシフェルの術中にはまってしまっているような印象を受ける。

 

 だが、そんな状況がある事態により一変した。地上から立ち上る光を警戒したのか、三体のルシフェルの内の一体が、そちらへと向かって行ったのだ。その先にはナナコがいる――しかし無防備な仲間への敵の接近をマズいと思ったのは一瞬であり、むしろ自分もあの場で何が起こっているのか目が離せなくなってしまう。

 

 ナナコの持つグロテスクな剣には、何やら神々しい光が集まっており、それが一気に巨大な柱と化した。あの色は、あの黄金色は、魂の光――光の巨人が放つものと同質のものだ。

 

 ナナコは一度剣を振り下ろし、そして凄まじい勢いで振り上げると、魂の刃が空間を、空を割いた。その一撃は、かつて聖剣レヴァンテインが放ったマルドゥークゲイザーや魔剣ミストルテインのゴッドイーターをも遥かに凌ぐ――ルシフェルが放った巨大なレーザーなど激流に向かって放たれた水鉄砲と言わんばかりに霧散し、ついでの如く一体の天使長が少女の放った一撃に消し炭にされた。

 

 少女が振り上げた一撃は強大であり、当たりの空気を一気に振動させるほどだ。しかし、マルドゥークゲイザーのようにある種の指向性を持っているのか、無差別に破壊をもたらすのではなく、彼女が斬ると誓ったものだけを引き裂いているように見える。

 

 そして、剣の勇者はそのまま空を覆っていた暗雲を真っ二つに引き裂き――その力の余波で人口の月でコントロールしていたはずの気象すら変動させ、世界を覆っていた雲も一筋の切れ間を作って見せた。

 

『あの一撃は……ソフィア、何だと思う?』

『エネルギー源が何だって話だよね? 恐らく、トリニティ・バーストと原理は近いと思う。あの剣が感応デバイスの役割を果たして人々の意志の力を集め、それをエネルギーに置換して撃ちだしたんだ』

『はぁ、非科学的って言いたいところだけれど……実際に調停者の宝珠がある訳だし、その考察自体には異論は無いわ。でも……』

『何故、あの剣がそれを果たしたのか。そして、何故ナナコがそれを可能にしたかに関しては、これも推測の域を出ないけれど……レヴァンテインは宇宙空間からのエネルギーを傍受する力があり、ミストルテインにはモノリスからのエネルギーを蓄える力があった。

 そして、ナナコはこの一年間でレムリア大陸を旅してまわって、色々な人たちを救ってきた。この星に残る人々の祈りを受けて来たんだ。あの子に向かった人々の祈りが剣に集積され、全てを断つエネルギーとなった……そんなところじゃないかな』

 

 今の推論がある程度は正しかったとしても、説明しきれないことはたくさんある。だが、ナナコならば――人々の平穏を祈って戦い続けた剣の勇者、夢野七瀬の魂の継承者であるのならば、何故だか不思議とそんなことも出来る――そんな気がする。

 

『しかし……アナタ、あの子に喧嘩を吹っ掛けたの?』

『一番最初にこっちに攻撃してきたのはあの子だよ。でも、確かに凄いね……』

 

 あまりの凄さに、グロリアに対する語彙も思わず消失してしまった。だが、それ以外に感想が出てこなかったのだから仕方ない。彼女が扱った不思議な力に関してももちろんなのだが――ナナコが切り拓いた雲の向こうから立ち上る一年ぶりの朝日があまりにも神々しく、まるで暗黒時代の終わりを告げるように世界を明るく、赤く染めている様子が素晴らしかったのだから。

 

 

 ◆

 

 上から攻めてきていた敵を倒すことに成功した。ミストルテインはエネルギーを全力で放出した後は再装填されるまでは空っぽになってしまっていたのだが、ラグナロクに関しては問題なく戦い続けることが出来る――むしろもっと力が溢れてくるような不思議な感じがするほどだ。

 

 これなら、あの漆黒の渦の中を進むことができる。そう思って改めて剣を正段に構え、未だ正気を失っている魔王へと向き直った。

 

「もう一度……ブラッドベリさん、行きますよ!」

 

 相手の名を呼びながら全力で前進を始めると、魔王も咆哮を上げながら漆黒の球体を引き裂いた。再び辺りに黒い暴風が吹き荒れ始め――だがこちらも迷うことなく、目の前に迫る風を切り裂きながら前へ前へと進み続ける。

 

 当たれば身体が微塵に吹き飛んでしまうような衝撃波の渦の中を進んでいるのだ、その余波ですら皮膚を裂き、身体にピリピリとした痛みと緊張感が走る。敢えて前進する必要なんてないのかもしれない。それこそ、先ほどのように距離を離して光波を飛ばす方が自分の身自体は安全ではある。

 

 それでも前に進んでいるのは、あの人の怒りと悲しみを真正面から受け止めたいと思ったからだ。

 

「迷いがあるんですよね、ブラッドベリさん!」

 

 叫びながら剣を切り上げ、出来た隙間に無理やり身体をねじ込み――暴風を抜け、相手の懐に飛び込んでみせる。もちろん、相手にも迎撃の姿勢はあり、今度は四肢に漆黒のオーラを纏って接近戦に切り替えてくる。

 

 しかし、その攻撃は今の自分でもいなすことは可能だ。剣から伝わる力が自分の支えになっているのもあるのだが――ブラッドベリは本来ならトリニティ・バーストを使ってやっと相手になる程の実力者であり、安易に接近戦ができる相手ではない。

 

 それでも、近接戦闘が十分に通じるのは、単純に――。

 

「私の中の夢野七瀬は、以前のアナタはもっと強かったって言ってます! 仮にアナタが七柱の創造神達に操られていたのだとしても……アナタが同族を想い、護ろうとしていた決意は本物だったんですから!」

 

 そう、今のブラッドベリの攻撃には重みが無いのだ。剣で受ける一撃一撃は確かな衝撃があるのだが、決意が籠っていないからこそ軽い。今の彼は、操られているだけ――ただ力が強いだけだ。技の冴えは信念に宿る。刹那の極みである強者との戦闘において、思考する時間などは無いのだが――むしろだからこそ、一撃に込める意志の力が勝敗の僅かな差を決定付ける。

 

 今の彼にはこちらを倒そうという信念が無い。むしろ、迷っているようにすら見える――操られている中で僅かに覗く彼の心が、自分たちとの戦いに躊躇させているように感じられるのだ。

 

 自分の中にある戦士としての記憶が、以前の魔王はもっと強かったと告げている。夢野七瀬と魔王ブラッドベリは、DAPAの用意した盤上で戦っていただけかもしれないが、互いの信念をぶつけたという点では嘘偽りない――それと比べて今の彼の拳には固さが無い。

 

 そうなれば、より強固になった私の――いや、この剣を通して感じる私達の意志を、彼は決して折ることはできない。そして自分は、この人に思い出して欲しいのだ。彼自身の本当の強さを。

 

「本当のアナタはこんなモノじゃないでしょう!? アナタの迷い、怒り、悲しみ……全部! アナタの黒い風を私にぶつけてください! 私は、それを全部受け止めて、そしてアナタを超えて見せます!

 そして思い出してください! アナタ自身の本当の強さを!!」

 

 金色の光刃で攻め立てると、相手の連撃に隙間ができ始める。ブラッドベリが困惑しているように見えるのは、たった今振り抜いた剣によって左手の先から肘までが両断されたからではない。彼の魂が自分の言葉に反応し、自らの強さを取り戻そうとしているのだ。

 

 一瞬だけ、操られているはずのブラッドベリが笑ったように見えた。それが何かが変わったという兆候と読み取り、こちらも追撃の手を止めて少し間合いを取る。その読みは外れではなく、自分が踏み込もうとしていた場所へ岩石が無数に飛来してきた。彼は様々な超能力が使えるらしいから――もっとも破壊力があるのがエネルギー衝撃波というだけで――チェン・ジュンダーと同様にサイコキネシスを使うこともできるということなのだろう。

 

 ただ、今の攻撃は良かった。こちらが押しているという心の隙を突いた的確な攻撃だったからだ。距離を離している内に相手の腕も再生し――ブラッドベリは両腕を回し、再び目の前に暗黒の球体を創り出した。

 

 しかし、アレは嵐を巻き起こすために練り上げたモノではないような気がする――恐らく、一点突破の矛だろう。その証拠に、魔王は練り上げられた衝撃波の渦の前で腰を落とし、拳による突きを繰り出そうと構えを取っている。

 

「それが、アナタの決意ですね……」

 

 もし周囲に甚大な被害をもたらすあの漆黒の暴風の威力が一点に集中したとすれば、それは恐ろしい威力になるに違いない。それならば――こちらも負けないように、正面から迎え撃たなければならない。

 

 こちらも剣を脇に構え、呼吸を整え、大地を強く踏みしめる。相手と同じく突きの姿勢を取らなかったのは、一番は立ち位置の問題だ。相手が自分よりも高所を取っているので、振り上げる攻撃の方が迎撃がしやすい。それに、互いに貫く一撃を打ち合ったら最後、結果としてはどちらか一人しか残らなくなってしまう――だから、相手の一撃を迎撃する構えを取ったのだ。

 

 何よりも、この技はもっとも手馴染みの良い技であり、一番威力が出せるという確信もある。一瞬、自分と魔王との間に僅かな静寂と莫大な緊張とが流れる。互いに僅かに笑って後、先に相手の緊張と殺気とが爆発した。後の先、相手が拳を突き出すのに合わせて、こちらも右足を上げ――。

 

「御舟流奥義! 昇り彗星縦一文字!!」

 

 思いっきり大地を踏み抜き、軸足から前進をばねにして、思いっきり剣を振り上げる。予想の通りに相手から撃ちだされた漆黒の渦を巻く巨大な槍と、立ち昇る魂の剣戟とがぶつかり合った。

 

 恐らくこの威力の攻撃がぶつかり合えば、その余波で身体が吹き飛ばされてもおかしくはないはずだ。しかし、ラグナロクから撃ちだされた一撃は単純な高威力のエネルギーではない。相手の撃ちだした強力な衝撃波を受け止め、包み込み――未来を切り拓こうという人々の意志の力は相手を打ち倒す力としてではなく、異属の王すらも包み込もうと立ち昇り、相手の攻撃を霧散させているのだ。

 

 だが、相手にも意地がある。彼はレムリアの民の思いに反発し、魔族の王たる矜持を貫こうとしているのだ。だが、もう少し、あとちょっと、あと一歩――真っすぐにぶつかれば、きっと共に歩みたいという思いは届くはず。それを、必ず彼に自分の想いを届けてみせる――!

 

「いけぇええええええええ!!」

 

 決意を声に乗せると、想いは剣へと伝わり、天を衝く巨大な光の刃は更に輝きを増した。そして金色の光が黒い風を押し込み、呑み込み――剣戟が天へと届き、全ての暗雲を晴らすのと同時に、互いの一撃は完全に消滅した。

 

 力の奔流で巻き上がった雪煙の向こうで、巨漢が膝をついた気配を感じ取る。先ほどからかなり無理をして身体を再生させつつ、同時に大技を何度も使っているのだ、流石に無限の力を持つ最強の第六世代型アンドロイドと言えども、その体力も尽きたのだろう。

 

「……私の勝ちですね」

 

 振り上げた剣をそのまま頭上で回転させ、そのまま振り下ろしてこちらも闘気を解く。恐らくルーナの命令で、無理をして立ち上がろうとしているのだろうが、無理に追い打ちをする必要はない。魔王を完全に足止めすることには成功したのだから、後は彼が終わらせてくれる。

 

「……何をしておるブラッドベリ! こちらへ援護を……!」

「いいや……終わりだ!」

 

 土煙の向こうで二つのシルエットが重なり――完全に視界が晴れると、魔王ブラッドベリの額から細い針の先端が突き出ているのが見えた。そしてすぐさまT3が針を引き抜くと、立ち上がりかけていたブラッドベリは再び膝を着いて動かなくなった。あまりに微動だにすらしないので、息絶えてしまったのではないかと思えるほどだ。

 

 確かに、脳に埋め込まれている微細なチップを正確に貫くことは難しい。そんな繊細な動作は自分には絶対にできない。だが、T3なら絶対に出来る。そう信じて待っていると、巨漢の肩が揺れ始め――ブラッドベリは俯いたままでくつくつとした笑い声をあげはじめた。

 

「……よもや、二度も貴様達に敗れることになるとはな……だが、悪くない気分だ。お前がどのようにして蘇ったのかは分からぬが、我を七柱の呪縛から解放してくれたこと……礼を言うぞ、ユメノ」

 

 ブラッドベリは膝をついたままの姿勢で顔を上げ、登り始めた朝日に穏かな顔を照らしながらこちらを見上げてきたのだった。

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