B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
「……カンナギ流奥義、一の型……絶蹴」
「なに……!?」
ジャンヌの顔が驚愕に変わり、しかし直後、苦悶の表情に変わる。そして、そのままジャンヌの体はその後ろに大きく吹き飛ばされ、敬愛するティグリス神とやらの像の腕に衝突していた。どうやら、ティアはノーモーションでジャンヌに蹴りを入れたようである。
緑髪の僧侶がこちらを向き――想像通り、その瞳は赤くなっている――高速でこちらへと向かってくる。
「……アラン君から離れたまえ、下郎」
そう言いながら、ティアは吸血鬼の頭に掌底をくらわす。すると、俺の首に刺さった牙を除いて、一瞬で吸血鬼の体は全て灰へと還った。
「待たせたね、アラン君……今、治療を」
ティアが傷に手をかざすと、次第に激痛が治まってくる――痛みがなくなったと思ったら、自然と牙も抜け落ち、傷口に触れてみても痕一つない状態に戻っているようだった。
「……すまない、ティア、何もできずに……」
「いいや、いいんだ。ボクは嬉しかったよ、君がクラウの隣に立って、お前は間違ってるって、あの女に突きつけてくれてさ。胸がすく思いだった」
ティアはそう言って微笑んで立ち上がり、再び跪いている自分のほうへと手をかざした。直後、自分の体を覆うように、幾重にもなる薄い膜が出来上がった。
「な、これは……!?」
「第六天結界……アラン君、本調子ではないだろう? その結界の中で休んでいると良い……第六階層魔術くらいなら、防いでくれるはずさ」
それって、ほとんどの魔術が無効化されると同義では――クラウは振り返り、像に埋もれて苦しんでいるジャンヌの方へと向き直った。
「……ボクは今、すこぶる機嫌が悪い。さっきまで気分が良かったのを、くだらない与太話で台無しにされたからね……この償い、君たちの魂でしてもらうとしようか」
「くっ……タルタロス!!」
ジャンヌがその名を叫ぶと、祭壇の中央の魔法陣が光りだし、その下から何者かの影が徐々にその姿を現す。感じていた気配はアイツだ、まさか上でも横でもなく、下にいるとは、それは盲点だった。
現れた影は、人型の異形だった。浅黒い皮膚に魔術師のようなローブ、そして灰色の頭髪の横に生える山羊のような二本の角を生やした、まさしく悪魔というに相応しい見た目だった。
「……お初にお目にかかる。私は……」
「カンナギ流奥義、二の型、破光」
相手が名乗っている途中で、ティアは問答無用の一撃を繰り出した。それは、トンファーを十字に構えた両腕から放たれる光線であり、身構える前の悪魔に直撃する。攻撃の影響で壇上では煙が舞っており、奥の様子は見えない。だが、悪魔の気配はまだ消えていないのも確かだ。
「……流石にあんなふざけた攻撃じゃ、やられてくれるほど甘い相手ではないか」
トンファーキックときて、お次はレーザー光線、流石にふざけてる自覚はあったのか――そう心の中で突っ込みを入れた時には、すでにティアは前傾姿勢で奥へと駆けだしていた。
「……成程、その力は本物のようだ」
煙の奥から低い声がするのと、黒い稲妻が走る。その魔術が煙を一気に晴らすと同時に、ティアは稲妻の中に突っ込んでいく。彼女は手をかざすこともなく、目の前に結界を張り、その稲妻を霧散させて一気に跳び上がり、悪魔の頭上から右腕を振り下ろす。相手も負けじと左腕を上げ、トンファーによる打撃を防いでいた。
「改めて、私は魔将軍タルタロス……以後お見知りおきを」
「覚える必要もないね。何故なら、君はここで終わりだからだ」
ティアは相手を挑発するとともに、空中で体を捻じり、そのまま鋭い蹴りを悪魔の脇腹に叩きつける。先ほど吸血鬼が壁に叩きつけられたの同等――などというのは生易しいほどの勢いで悪魔の体が横に吹き飛び、壁に激突したと思えばそのまま壁にひびが入り、そのまま壁が壊れ、上部の床が崩れ落ちてきてタルタロスは瓦礫の下敷きになる。
「ほ、本当に、もう一つの魂が宿っていたのね……しかし、何故魔法を……ここは、ティグリス神の加護しか受けられないはずなのに……」
像から降り立ったジャンヌが、祭壇に着地したティアを苦々しい表情で見つめている。しかし、その顔はすぐさま狂喜へと変わる。
「……そういうことね! クラウディア、貴女は本物の悪魔憑きだった……そのティアとかいう人格が使う魔法、その加護は! ティグリス神のものなんだわ!!」
「ふぅん……ボクに力を貸してくれるのは、ティグリス神だったのかい。まぁ、そんなことは些末な問題さ。ボクの敵はクラウの敵、クラウの敵を滅するためならば……邪神だって利用するだけだ」
「ま、待ちなさい! 同じ神を信仰している者同士、何故争わなければならないの!? そうだわ、ティア、貴女が魔王軍に合流すれば……」
聞く耳を持たないティアに対して焦ったのか、ジャンヌは早口でまくしたてている。
「下らないね。君は子供だ、ジャンヌ。君は世界が自分に優しくないからって、周りのせいにして、安易な方に流れただけだ……自分が傷つきたくないから、誰かを傷つけてしまう道を選んだだけなんだ」
「くっ……貴女なら、貴女なら私の気持ちを分かってくれると思った、クラウディア! 迫害される惨めなさ、石を投げられる怖さ……そう、世界を怨む権利があるのに!」
憶測にはなるが、ジャンヌはもしかすると、祖父のせいで幼少期に迫害を受けていた可能性がある。そうなれば、彼女もまた、何かの犠牲者とも言えるのかもしれない。
そして同様に――友に、女神に裏切られたクラウは、世界を怨みたくもなるかもしれない。でも、アイツはそんな奴じゃない。
そんな風に考えていると、祭壇でティアは虚空を見上げて呟き始める。
「……いいや、アラン君が言ったろう? たとえ何があったって、罪もない人を殺していい理由なんかないんだと……それにはクラウも同意見なんだよ。
今のクラウは、決して力は強くないかもしれないけれど、クラウの優しさは……芯の強さは本物なんだ。それを、魔道に落ちた君なんかと一緒にしないでくれないか?」
「わ、私は貴女と話しているのよ、ティア!!」
「それなら、余計にお門違いだ。君はクラウを悲しませた。その時点で君はボクの敵なのだから」
「く、うぅ、うぅぅううううううううう!!」
ジャンヌは腰からフレイルを抜き、この世界特有の聖職者よろしくに結界を足場に跳躍した。同時に、横の瓦礫から再び黒い稲妻が走ったため、ティアは安易に避けることが出来なくなってしまった。
しかし、ティアは両手にそれぞれ陣を出し、右手でジャンヌの、左手でタルタロスの攻撃を事もなげに受け止める。そしてティアが右手の指を弾くと結界の斥力が発動し、ジャンヌの体は再び邪神像に激突した。
「……どうして、どうして私より、貴女の力が強いの!?」
「愚問だね。神は自ら助くる者を助く……ボクは自分の足でこうして世界に立っている。自分勝手な君は、そこが違うのさ」
「くっ……!」
ジャンヌは腹部を抑えながら――恐らく、自身に回復魔法をかけているのだろう――ティアから目を逸らし、同じく吹き飛ばされていたタルタロスの方を見る。
「……タルタロス! 計画を早めるわ! 時間稼ぎをして頂戴!」
「結界を解く気か? しかし、まだ夜では……」
「軍団の力は弱まるかもしれないけれど、普通の人間相手なら十分よ……レヴァルの絶望が、貴方を、ティグリスの加護を強くする!」
「……承知した」
悪魔は頷くと、右の手のひらをティアの方へと向ける。足元に巨大な魔法陣が出現し――アレは、ソフィアが第七階層を撃った時と同じ感じがする。つまり――。
「……隙だらけだよ!」
そう、詠唱に時間が取られるのだから、それ相応に隙が出来る。それに、龍さえ一撃で屠るほどのレベルの魔術を安易に撃たせれば、いくらティアとて無事ではすまないだろう。それが故だろう、ティアは一足飛びにタルタロスのほうへと詰め寄り始める。
「あぁ、これはブラフだ……貴様を祭壇から降ろすだけでいいのだからな」
「何……!?」
迫るティアを目前にして、悪魔の口元が僅かに上がった。対して、今まで魔族の幹部を二体同時に相手にして優位に立っていたティアが、初めて驚きの表情を示す。
ティアが空中で自分の目の前に結界を張ってブレーキを掛けるのと、タルタロスが魔法陣を引っ込めるのは同タイミングだった。そしてその隙に、ジャンヌが祭壇へと飛び乗る。
「何をする気……!?」
「よそ見はいかんな!」
「くっ……!」
祭壇を確認しようと振り向くティアに対して、タルタロスが突貫を仕掛ける。ティアは寸でのところで悪魔の振り下ろした爪をトンファーで受け止め、そして弾き返す。
魔族の魔術師は人間のそれと違い、肉体も強靭らしい。ティアとタルタロスの鈍器と爪の打ち合いは、鋭い音を広間に響かせている。もし自分があの間に挟まったら、秒と持たないだろう。
しかし、ティアのほうが若干やりにくそうな表情をしているのが気になる――注視してみると、恐らく原因は間合いだ。タルタロスのほうが体躯が大きく、自然と手足のリーチが長くなる。そして、安易な踏み込みはせず、ティアが踏み込みにくい距離で攻撃をしかけているのだ。
「認めよう、ティアとやら。貴様は私より強い。だが、圧倒的というほどではない……この間合いならば、必殺の一撃は出せまい」
「ふっ……ボクからは謝罪を、タルタロス。吸血鬼や大司教様があまりにおちゃらけだったから、魔族なんぞこんなものかと侮っていた。しかし、君はなかなか隙が無い」
先ほどまで不敵に笑っていたティアの顔に焦りが見える。その視線の先には祭壇があり――膝をつき、邪神像に向けて祈りを捧げるジャンヌの姿があった。
「……我が神、御名を忌避する我が主、迷える我に、力を与えたまえ……」
邪神に捧げる祈りが紡がれると、祭壇の上に陣が現れる。何が起こるかは分からないが、確かにアレをあのまま放っておくとマズそうだ。しかし、ティアは魔将軍の猛攻を防ぐのに手一杯、ここは自分がなんとかしなければ。
一瞬だけ、ティアと目が合う――彼女が何を言いたいのかを瞬時に察し、こちらは合図の代わりに頷き返す。単純な仕掛けでは防がれる、それならば――ポケットから瓶を取り出し、仕掛けをすることにする。
直後、自分の周りを護っていた結界が弱まる。そして、目の前には僅かな隙間、ここから短剣を通せば良い。右手に仕掛けの済んだナイフを持ち、しゃがんだままの姿勢で、横から薙ぐように短剣を放つ。
「ネストリウス!」
こちらの攻撃が、大悪魔には読まれていた。その声に反応して、ジャンヌは振り返り、こちらが投げたナイフを先ほどと同じ要領で掴もうとする。しかし、振り返りざまで若干焦りもあったのだろう、今度は僅かにだが、手の皮膚を切ることに成功した。
今回はそれだけでいい。僅かでも傷つけることが出来れば、この奇襲は成功である。それとも知らず、ジャンヌは憎々し気にこちらを見つめている。
「邪魔をして…………か、体が……!?」
忌まわし気な表情のまま、ジャンヌの顔が硬直してきている。その形相は、元々の美しい顔立ちなど面影がなく、悪魔の使途と言っても差し支えのないものだった。
「……悪いが、毒を仕込ませてもらった。しかし、お前も散々なことをしたんだ、卑怯とは言わせないぞ」
「ぐぅ……あ、甘く見るなぁああああ!!」
女の低い声が響く。まだ、彼女の意志は折れていない――そう、陣は維持されたまま、つまり詠唱もそのまま中断されていなかった。
「我が主! 其に仇なすものの護りを払いたまえ!!」
こちらが二の矢を撃つよりも早く、事は終わってしまったらしい。ジャンヌの下にある陣から禍々しい黒い光が一気に噴き出し、それらは収縮して、広間の天井を目指して遥か上へと飛んで行った。
同時にティアとタルタロスの方でも動きがある。ティアの拳が宙を切っている――タルタロスが、また床下へと沈んで行っているのだ。そして、すぐさま祭壇の下から悪魔が再び現れたかと思うと、左腕でジャンヌを抱え、右腕を上へと伸ばす。
「……この女には、まだ使い道がある。この場は退かせてもらうよ……」
タルタロスの右の手のひらに小さな陣が出来ると同時に、遥か上空から大きな物音が鳴り響きだした。上を見上げると、僅かだが光りが差し込み――アレは、天井が空いたのだろう、この地下空間に入った時に見た、曇天が微かに見えた。
成程、迷宮内の構造を変えていたのは悪魔の方だったのか。視線を下に戻すと、タルタロスはぐったりしているジャンヌを抱えたまま跳び、邪神像の取っ掛かりを足場に消えていった。この場に残るのは、自分と、そして上を見上げて呆然としているティアだけだった。
「……すまない、俺がきちんと止められていれば……」
声を掛けると、ティアはこちらを向いて微笑みながら首を振った。
「アラン君、謝ってばかりだね……君は最善を尽くした。むしろ、悪いのはボクさ。彼女をあまりにも挑発しすぎたせいで、怒りからか火事場の馬鹿力を発揮させてしまったようだからね。大見得切った割に仕留め損ねたのだから、こちらこそすまなかった」
ティアはベルトに武器をしまうと、段々とこちらに近づいてきて、自分の周りにある結界を解いた。そして、近くで立ち止まって少し俯く。
「……これだけは伝えておくよ。ボクが前に出たがらないのは、クラウに頑張ってほしいから、というのが一番だけど……この得体の知れない力をあまり使うべきではないと思っていたからもある。そしてやはり、禄でもないものだったね……」
ティアは俯いたまま、自分の手を見つめているようだった。確かに、彼女の力は圧倒的だった。本物の魔将軍と、それに近い実力を持つ相手を二人同時に相手にして優勢だったのだから。
それを禄でもないものと評するのは簡単かもしれないが、彼女はその力を、自分のためでなく、何かを護るために使ったのだ、その在り方を否定してほしくなかった。
「……使えるものは何でも使う、それでいいじゃないか。それに、邪神とか言われてるティグリスとか言う神が悪者なんて決めたのは、きっと周りの奴らだろう?
事実なんて誰にも分からないし……単純に、ティグリスとやらは困っている奴は人間でも魔族でも、誰でも助ける性質なだけかもしれない。それに、ティアはクラウと俺を助けてくれたんだ。その力の使い方は、きっと間違いなんかじゃないと思う」
こちらの言葉に、ティアは一瞬呆気にとられた表情をする。しかし、すぐにくつくつと笑い出した。
「いけないいけない、ボクとしたことが、慰めてほしかったのかもしれないね……うん、この力は間違いじゃない。それに、ボクの力の在り方は、それはすなわちクラウの願いと同等だ。だから……アラン君、ありがとう」
なんとなくだが、ティアは常々こういう言い回しをする――ボクの何某はクラウの何某と。一つの体に二つの人格、それでも二人の願いは一つ、そういうことなのかもしれない。
「さて、そろそろボクは休みをもらおうかな……天窓が開いたことで、レム神の加護が戻ってきたようだし。ボクのほうは魔力切れさ。あとはクラウに任せることにするよ……あまり嫉妬されるのも本意じゃないしね」
「え、ちょっ……」
引き止める間もなく、ティアは目を閉じ――瞼を上げた時には、いつもの青い瞳、クラウに戻っているようだった。
「……違うんですよ」
「何がだ?」
「嫉妬とか、そういうんじゃないんです! なんか、ずっと私が蚊帳の外なのが寂しいというか、そういう感じなんです!」
そこに対する否定だったのか。クラウは頬を膨らませてこちらを見ている。実際、クラウの言っていることも正しいのだろうし、変に真面目に返すより、ふざけて返したほうが調子も出るだろう。
「なんだ……まさかお前、そうだったのか!? いいぜ……俺の胸の中に飛び込んでおいで!」
少し大げさに両腕を広げてみたところ、クラウの頬は一気にしぼみ、目線が一気に冷ややかなものへと変貌する。
「え、いや、すいません、なんか単純にちょっと気持ち悪いです」
「かー!? なんだと、こっちが変な空気にならないようにふざけてやったってのに! 気持ち悪いってのは結構精神に来るんだぞ!? ……来るんだぞ……?」
「……あ、なんかごめんなさい……」
「はぁ……まぁ、ともかく、アイツらを……」
追わないといけないな、そう言おうと思ったときに、場に変化が現れる。通路のほうから亡者の呻き声が押し寄せ、次第にそれらが暗闇から姿を現してくる。
「お、お、なんだやんのかですよ!? 今の私には、後光射す我が敬愛の女神、レム神の御加護が……」
「お、おいクラウ、なんかそういう感じじゃ……」
クラウは荒ぶる何某かのポーズを取ってふざけてはいるものの、ともかく魔法が復活したのなら、数体、いや十数体くらいなら全然相手にできるだろう。しかし、この広間を目指して来ている亡者の数は、どうやら百でもくだらないほどの数であるようだった。
「あ、あ、アラン君? ここはアナタにお任せしてもいいですよ?」
「さっきの威勢はどこに行ったんだ!? だが、妙だぞ……」
「……そうですね、亡者どもは近くにいる私たちのことなんで意に介していない、これがアウトオブ眼中ってやつですか」
アウトオブ眼中、その言葉はこの世界にもあるのか。というか、これって死語なんじゃないか、イヤこの世界では現役なのか――そんなことが頭をよぎったが、冷静に考えればこんなくだらないことを考えている暇はない。
不死者どもは、空間にある階段をどんどん上っていっている。その先にあるのは、あの空いた天井だ。つまり――。
「……骨には眼球はないのに、アウトオブ眼中とはこれ如何に?」
「馬鹿なこと言ってる場合か!? アンデッドどもは、地上を目指しているんだ!」
ソフィアの慧眼のおかげで、恐らく上にも兵が配備されてはいるが、如何せん数を考えればどこまで持ちこたえられるかは分からない。それに、あの悪魔、タルタロスが街に現れたら、ソフィアやエル、クラウなどのレベルでないと太刀打ちできないはず。
「……早く街に出ないとな。住民に被害が出てしまう」
そう呟くと、クラウがこちらを見て微笑んだ。
「うん……? 変なこと言ったか?」
「いいえ、アラン君だなぁって思っただけです」
「なんだ、また貶してるのか?」
「いえいえ、褒めてるんですよ、今回は」
今回は、というのが引っかかるが、ともかく今は急がなければならない。どうにか外に出る活路はないか、周りを見回してみても、どこを見ても歩く死体ばかりである。
「ここの階段は使えそうにないな……亡者どもで渋滞していやがる」
「それじゃあ、さっきの螺旋階段を登っていきましょう。恐らく、本来はあちらに、大聖堂に抜ける道があったはず……亡者どもを外に出すために、構造も元に戻ってるかも!」
「あぁ、そうだな。今なら亡者に襲われる心配も薄そうだし……確実じゃないが、他に方法もなさそうだ。クラウ、行こう!」
そう言って、元来た道のほうへと駆けだすと、体を光り包んで軽くなる。クラウの補助魔法か――そして、すぐにクラウが横に並んだ。
「アラン君、ティアのこと……」
それだけ言って、クラウは黙ってしまう。恐らく、悪魔憑きだとか、ティアのほうが強いのに、ここで自分が出ていいのかとか、ぐるぐる思考が回っているんだろう。
「……お前の友達、凄いのな。クラウもティアも、揃いも揃ってエキセントリックだ」
「なんですかその言い草……でも、ありがとうございます」
クラウにはクラウの、ティアにはティアの良いところがある。優しい青と強い赤、どちらの瞳も頼りにしている、それだけなのだから。