B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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朽ちゆく世界で咲いた花

「……なんじゃと!?」

 

 予想外の乱入に対して、自分ばかりでなくルーナも驚きが隠せなかったようだ。ルーナはすぐさま拳を引き、一度距離を取って見せる――そしてクラウの行動に驚いている者がもう一人、それは彼女の後ろでへたり込んでいたイスラーフィールだった。

 

「……クラウディア・アリギエーリ。私を護ろうというのですか? 貴女の心を壊した、私を……」

 

 目を見開いて上を見上げるイスラーフィールに対し、クラウは半身振り返って首を傾げた。クラウはイスラーフィールが何を言っているのか分からないと言った調子であり――しかしすぐに納得したのか、能天気な様子で右手を左の掌にぽん、と打ち付けて見せる。

 

「そう言えばそんなこともありましたね! まぁ良いじゃないですか、細かいことは気にしたら負けですって!」

「細かいことって……」

「そんなことより、アナタも友だちを護りたいんですよね? それなら、私とアナタは一緒です。ローザ・オールディスの言いなりになって周りを傷つけてしまって、それでも大切なモノを護るために戦う……それだけでしょう?」

 

 クラウの言葉に、イスラーフィールは眼を見開き――しかしすぐに唇を引き締めて大きく頷いた。それを見てからクラウはこちらを――退避したルーナの方へと向き直り、不敵な笑みを浮かべた。

 

 その挑発的な態度が随分と癪に障ったのか、ルーナは巨大な両肩をわなわなと震わせ、額に青筋を立てている。

 

「先ほど痛めつけてやって絶命したと思ったが、便所の虫の如きしぶとさ……よかろう! そんなに死にたいのなら、まずは貴様から葬ってくれる!」

「それは、こちらのセリフです……覚悟なさい、ローザ・オールディス!」

 

 筋肉を隆起させて襲い掛かるルーナに対し、クラウは大きく息を吸い込んでから唇を凛々しく引き締め、真っ向から迎え撃つ姿勢を取った。二人の間で強烈な破裂音が鳴り響く――クラウがルーナの攻撃に対して、正確に攻撃を返しているのだ。

 

 その光景が奇妙である要因は様々にある。まず第一に、巨木のようなルーナの腕に対し、クラウは細腕で相手と五分の攻撃を繰り出していること。今の彼女は神聖魔法も使えないはずなのに、強靭な筋力を持つルーナと打ち合うなど本来は不可能なはずだ。

 

 仮に魔法を使えたとしても、最高の神聖魔法の使い手でもあるルーナと同じだけの力を出すことは出来ないはず――同じ補助魔法が掛けられたとしても、後は地力の勝負になるはずなのだから。

 

 それ以上に奇妙なのは、クラウがわざわざ相手の攻撃を正確に、相手と同じように返していることだ。突きには突きで、肘には肘で、蹴りには蹴りで、相手の攻撃を正確無比に返しているその様は、あたかも相手の攻撃を先読みしているかのようである。

 

 しかし、相手の攻撃を先読みできているのなら、わざわざ攻撃を受け止めることも無い。イスラーフィールが退避できる時間稼ぎをしていると言えばそうなのかもしれないが、それなら他にいかようにもやり方はあるはずだ。まるで、ルーナのことを全てお見通しであり、敢えて攻撃を受けてやっているのだと相手に伝えているような印象を受ける。

 

 そんなクラウの対応に最も驚いているのは自分ではなく、攻撃を全て受け止められているルーナだった。

 

「な、なんじゃ!? どうして第六世代型風情に、これほどの力が……がっ!?」

 

 とうとうクラウが均衡を破り、ルーナの攻撃をいなしながら相手の腹部に掌底を打ち込んだ。先ほど、ティアが打ち込んでもびくともしなかったはずのその一撃で、ルーナの巨体が後方へと大きく吹き飛ばされて岩にぶち当たり――その質量と勢いに耐えられなかったのか、岩は粉々に砕けてしまった。

 

『どういうことなんでしょう!? あの子は神聖魔法は使えないはずなのに……』

『……いいえ、おかしなことは神聖魔法らしきものが使えていることだけではありません。先ほども言ったように、私達旧世界の人間が創り出した回復魔法では、失血死は抑えられないはず。

 しかし、今の彼女は傷どころか、失った血すらも取り戻しているようです。それに、最高の補助魔法と素体を持っているルーナに対し、全く引けを取らないだけの力を引き出して戦っています』

『え、えぇっと、つまり……?』

『クラウディア・アリギエーリは、第七階層魔術を超える神秘を身に纏って戦っているということです。恐らく、第八階層級の回復魔術や補助魔術を扱っているんですよ……それも、無詠唱でね』

 

 レムと会話をしているうちに、体制を立て直したルーナが再びクラウに対して襲い掛かった。しかし、状況は先ほどと全く変わらない。それどころか、クラウの方が相手に合わせるのを止めて攻勢に出始めていた。

 

 レムの考察が本当だとするのなら――本当にクラウが第八階層クラスの魔術を使いこなしているというのなら、それはとんでもないことなはずだ。第八階層魔術は本来人の身では不可能な莫大な演算が必要になるのであり、魔術神アルジャーノンをして数分の詠唱を要するのだ。

 

 しかも、それを無詠唱でとなれば――いや、レムの言っていることは事実のように感じられる。何故なら、クラウは息を吐くのと同じくらい自然にそれらを使いこなしているのであり、恐らく彼女自身も「魔術を使用している」などという感覚すら無いように見える。

 

 そしてまた数発やり合い、再びルーナが後方へと吹き飛ばされる。崩落した岩壁から這い出てきた巨人の顔には、どうして自分が押されているのか分からないというような困惑が見て取れた。しかし、何か妙案でも閃いたのか、ルーナは目を細めて不気味に笑い始める。

 

「く、ククク……妾としたことが、つい熱くなってしもうた。しかしどれ程貴様に力があろうと、アンドロイドにこれは超えられまい! 七星結界を乗せた拳をくらえ!!」

『……無駄でしょうね。何故なら、今の彼女なら……』

 

 レムの予測の通り、ルーナの反撃は徒労に終わった。ルーナの突き出した手の先で回る七枚の結界に対し、クラウも同じように拳から結界を出して対抗している。第六世代型に託された最高位の六枚では、神の紡ぎ出す七枚には敵わないはずなのだが――両者の間で展開されている結界は、拮抗しているように見える。

 

「何故じゃ!? 何故、アンドロイド風情が、七枚の結界を……!?」

「……七枚。七枚が偉いっていうんですか?」

 

 結界がぶつかり合い、けたたましい音が鳴り響く中で、クラウの低い声が明瞭に聞こえ――その気迫に対し、ルーナが固唾を飲んだに違いない。その証拠に、その顔からは攻撃的な笑みは消え、顔色を青くしているのだから。

 

「それなら、私はアナタを超える結界を紡ぎます! 我が手に集いし聖なる力……咲き誇れ、八重桜!」

 

 クラウが手を突き出すと、彼女の正面に桜色の多重結界が現れた。花弁のように複雑なその結界は、確かにアルジャーノンの第八階層魔術を防いだものと同じ――クラウディア・アリギエーリの魂が紡ぎ出す美しい結界だった。

 

 単純に数の勝負へと出たルーナが、より多重の結界を紡ぎ出したクラウに勝てないことは道理だろう。本当は、数も重要な要素ではないはずだ。工夫をしたり、躱して好機を探すなど、いくらでも対処の仕方はあるはずなのである。ただ、人類の持つ最高級の成果物の上に胡坐を掻き続けたルーナにそんな可能性を切り拓くなどという機転もある訳でもなく、ルーナはクラウの紡ぎ出した結界に押し出され、吹き飛ばされ――また岩壁に衝突して、しばらく唖然とした表情でクラウの方を見つめていた。

 

 対するクラウは、ただ真剣な面持ちでかつて信奉していた女神の墜落した様を見つめている。その眼差しに耐えられなくなったのか、ルーナは再び獣の様な咆哮をあげながらクラウに襲い掛かっていった。

 

 二人の激突に対して、もはや自分が入り込める余地はない。ルーナだって本当は恐ろしい程の力を扱っているのであり、自分は全く歯が立たなかった。しかし同時に、今のクラウは負けるイメージが沸かないほどにルーナを圧倒している――それなら、彼女を信じて自分は末だけだ。

 

『しかし、どうしてあの子は第八階層魔術相当の奇跡を起こしているんでしょう?』

『あくまでも仮説の域を出ませんが、ジャンヌが神聖魔法を使えたのと原理は近いのでしょう。つまり今の彼女のクラウディア・アリギエーリに奇跡を授けているのは、私達のような偽りの神ではなく……高次元存在が直に彼女に加護を与えているんです』

 

 成程、クラウもジャンヌと同様に黄金症に罹ったという点は共通している。黄金症から戻った者は一度高次元存在の元に還った魂だ。細かいセオリーまでは分からずとも、なんとなく直感的にはレムの考察は正しいように思われる。

 

 しかし、ジャンヌが現世に戻ってから扱えていたのは元々扱えていたのと同程度の――彼女の場合は司祭級までの神聖魔法――であり、クラウのように第八階層相当まで扱えていた訳ではなかった。そうなると恐らく、高次元存在の元から現世に戻った魂のすべてにクラウが扱っているような奇跡が起こせるわけではないのだろう。

 

 その差は何なのだろうか。それはきっと、望み叶えること――花弁のように舞い散る結界の中で踊る友を見ていて、ふとそんな言葉が脳裏をよぎった。

 

 彼女が今起こしている奇跡は、何も一朝一夕のモノではない。少女の繰り出す鋭い動きは、ホークウィンドの教えの元、苦しみもがきながらもティアが会得したものだ。実直に技を磨き続け、強くなりたいと願い続けたその実直な願いが、クラウが戻ってきたことで結実したとも言えるのかもしれない。

 

 思い返せば兆候はあった。ティアには近頃、アラン・スミスに近いほどの直感が備わっていた――それは半身であるクラウを通じて、ティアは高次元存在から未来視を授かっていたのかもしれない。それでも彼女が自身を信じることが出来なかったので、その力は限定的にしか扱えていなかったのだろう。

 

 そう、やはり今の彼女は、クラウでありティアであり、同時にそのどちらでもない――分かたれた魂がそれぞれ互いを信じ、願った結果として統合された、本来のクラウディア・アリギエーリとして生まれ変わった。クラウが持ち帰った奇跡の力とティアが実直に磨き続けた技とが合わさって、偽りの女神を圧倒しているのだ。

 

「……負けるわけがない! 劣っているわけがない!! こんなの何かが間違えている!!」

 

 クラウディアに押されっぱなしのルーナは、焦りに満ちた声でそう叫びだした。一万年の技術の粋を集めて作られたその身が劣っているということが認められないのだろう。

 

「最高の戦闘プログラム! 最高の素体! 最高の神聖魔法! それらが掛け合わさっているというのに、この妾が……」

「……はぁ!」

 

 全てを無にする無慈悲な鉄拳が放たれ、三度ルーナは吹き飛ばされた。岩壁を破壊するほどの衝撃をその身に受けているというのに、まだ動けるというのは流石一万年の技術の粋というべき頑丈さなのだが――このままでは勝てないと悟ったのか、流石に今度は乱暴に飛び出すことはしないで、粉砕された岩から身を起こして不気味に笑い出したのだった。

 

「く、くくく……確かに妙な力を得たようだが、分かったこともある!! 貴様、もう一つの人格が消え去ったようじゃな!? それなら、貴様の精神をコントロールすれば良いだけじゃ! シリアルナンバー5C2BE11C、個体名クラウディア・アリギエーリ……女神ルーナにしたが……」

「無駄です!」

 

 ルーナが命令を下す前に、クラウディアは再び相手に接近して喧嘩キックを放った。一応最高級の防御プログラムとやらが発動したおかげで、ルーナ側もギリギリ結界を発動させられたようではあるが――四度も吹き飛ばされたとなれば、流石に敵であると言えども同情を禁じざるを得なかった。

 

「ぬぐぅぅぅ!? 貴様、何故!? 確かに生体チップは顕在で、思考も読み取ることは出来るのに!」

「思考が読めるのなら、私の心を読んでみてください……そして理解してください。私の怒りを、悲しみを……」

「何故じゃ、妾への信仰は、確かに……」

 

 クラウディアの中にまだルーナへの信仰があるとはにわかに信じがたい。ティアはクラウを奪った相手として唾棄していたし、そうでなくとも彼女の悪行を知る今であれば、信仰の対象とすることには違和感がある。

 

 そもそも、本当に信仰しているのなら、先ほどから容赦なく戦っていること自体がおかしいのではないか。しかしふと気が付いた。先ほどからクラウディアは、相手のことをルーナと呼んでいないのだ。それが示すところは、つまり――。

 

「私は確かに、未だにルーナ神の教えを信じています……ですが、それは今のアナタへの信仰でも、尊敬でもありません。私が信じているのは、女神ルーナが古の昔に創り出した慈愛の教理です。自己愛に溺れて慈しみを忘れ、あまつさえ他者を利用する卑怯なアナタを敬愛しているわけではありません」

「ぬ、ぐぅ、うぅ……!」

 

 やはり、予想通りだった。クラウディアはルーナ教の教えそのものに共感を覚えているのであり、ローザ・オールディスに対する個人崇拝はしていないのだ。教会内では敵対勢力であった自分も、ルーナ派の教義そのものが悪いと思っていた訳でもないし――そもそも、レムだって元のローザのことは尊敬していた程であり、その教理が間違えているわけではないのだ。

 

 それを鑑みれば、クラウディアの感情だって十分に理解できる。一言で言えば、ローザ・オールディスが三千年前に創り出した思想そのものは共感できるが、今のアナタは尊敬できない、そう突き付けたのだ。

 

 ローザとしては堪えるだろう。目の前の少女は、昔の自分が創り出した思想を確かに肯定しているのに、今の自分の在り方は否定されているのだから。思考が読めるのなら尚更、クラウディアは嘘偽りなくそう思っていることをむざむざとつき返されているともなれば、単純に言葉で否定される以上の拒絶感を味わっているはずだ。

 

 その証拠に、かつてセレナと呼ばれた者の顔には、怒りと悲しみとが同居したような感情が――それはクラウディア自身が女神ルーナに味わされたものと同じ感情だ――浮かんでいる。

 

 ともかく、これならもはや心配することも無いだろう。クラウディアは七柱の創造神に操られることも無いし、心身ともにローザ・オールディスを完全に上回っている――そんな風に思って安堵の息を漏らすのと同時に、肝心のクラウディアは自分が予想もしていなかった行動に出た。

 

「……もしもアナタが初心を取り戻し、罪を認めて贖罪に生きるというのなら……今まで踏みにじってきた者たちに誠意を見せることを約束してくれれば……私も拳をおさめます」

「クラウディア!? ルーナに……ローザ・オールディスに、そんな殊勝な心が残っていると思うのですか!?」

 

 クラウディアは構えを解き――もちろん、まだ警戒は解いていないようだが――あろうことか相手に情けを掛け始めた。確かにかつてのローザが悪人でなかったことは事実なのだろうが、もはや彼女の性根が矯正できるものだとも思えない。

 

 それはきっと、何度も裏切られてきた彼女自身が一番痛感しているところだと思うのだが――クラウディアはこちらを向いて小さく首を横に振った。

 

「誰もが心を強く持ち続けられる訳ではありません。元来あったはずの高潔な精神だって、時間の中で摩耗していく……初心を持ち続けることは難しいもの。そうなれば、あの人だってモノリスがもたらした超科学の犠牲者と言えます。

 人の身に余る長さを生きてしまえば、誰もがあの人みたいになりえると思うんです。きっと私だって、一万年の時を生きてきたら歪んでしまうでしょう。

 そう思えば、彼女の今の姿は、肉の器にある者であれば誰もが堕ちうる末路とも言える……それを一方的な悪と断じて救いが無いのは、あまりにも悲しいですから」

 

 クラウディアが言葉を切ったタイミングで、離れたところで巨大な光の柱が立ち昇った。アレは、ナナコが新しい剣で放った一撃か――その柱を中心に、空を覆っていた雲が一気に晴れ上がり、クラウディア・アリギエーリは暁を浴びて神々しく輝いている。

 

 対する失墜した女神は、かつての信徒が見せる慈愛に対して肩を震わせている。しかし、アレが感謝から身を震わせているわけでないことは明白だった。

 

「アンドロイドの人形風情が、この妾に情けを掛けようというのか……!? 舐めるなよ、小娘がぁぁぁああああ!!!」

「やはり、言っても無駄ですよね……それなら、私も容赦しません」

 

 クラウディアは相手がどう出るか予想していたかのようにすぐさま構え直し、鋭い眼光をローザへと向けた。多分、彼女はこうなることなど百も承知だったのだ――堕落した女神ルーナは、情けなど掛けられたら逆上し、必ず反撃に転じてくるなど分かり切っていたのだろう。

 

 むしろこれは、クラウディアなりの復讐だったと言えるのかもしれない。人として更生できる最後のチャンスをあえて与えて、それを踏みにじらせる――そうなれば、もはや遠慮などする必要などない訳だ。彼女がわざわざローザの攻撃に付き合って一つ一つ丁寧に心を折っていったのは、偏《ひとえ》にこの時を待っていたのかもしれない。

 

 その証拠に、クラウディアから発せられた容赦ないほどの殺気は、味方である自分ですらすくみあがってしまうかと思うほど強烈なものである。それを直に浴びたローザ・オールディスも命の危機を悟ったのか、急停止して両手で七枚の結界を――それがもうクラウディアに通じないということを知っているはずなのに――展開した。

 

「全力で防ぎなさい、ローザ・オールディス……」

「……ひっ!?」

「これが私の集大成……いきます!」

 

 クラウディアは大きく息を吸い込んで、偽りの女神に向かって一気に前進した。桜色の結界をまとった右手から繰り出された鋭い手刀が偽りの女神を守る結界の一枚を砕き、今度は入れ替わるように突きだされた左の拳がまた一枚の結界を砕いた。

 

 しかし、クラウディアの動きには見覚えがある。少女の繰り出した蹴りがまた一枚の結界を破り、肘がまた一枚と砕き――徐々に防護壁が剥がされていくローザの側は、ヘイムダルでホークウィンドと対峙していた時と同じように恐怖に顔を引きつらせている。

 

 そして最後の一枚を回し蹴りで勢いよく破壊すると、ルーナは突きだしていた両腕を弾かれて無防備になった。対するクラウディアは八体に分身し――多分、アレもホークウィンド仕込みの忍術なのだろうが――ともかく相手を取り囲み、がら空きになっている相手に向かって一斉に掌打を繰り出した。それも、各々が結界を突き出してだ。

 

「ひっ……まっ……」

「これで極める!」

 

 叫びながら分身たちがすれ違うと、クラウディアが突き出していた結界が互いに衝突し、砕けて花弁のよう舞い散り――同時に、ルーナの体はきりもみをしながら上空へと撃ちだされた。

 

 細かい原理などは分からないが――そもそも理解不能だろうが――恐らくはあれらの分身は互いに質量を持っており、撃ちだした結界も本物。互いに結界を打ち合って、超強力な反作用の力場を発生させ、その中央にいるルーナへとぶつける――多分、そんな感じに違いない。

 

 その威力は絶大のようで、自分が全く傷つけられなかったルーナの体はボロ雑巾のようになっている。あれだけの威力に押しつぶされて一応肉塊と化していないとは、ルーナも相当頑丈なのだろうが――ともかく分身もいつの間にか消えており、落下してきた相手を見ることもしないで、我が友は手を胸元に当てながら天を仰ぎ見ていた。

 

「見ていてくれたかい、ホークウィンド。これが、クラウディア・アリギエーリの見つけた答え……神薙流最終奥義、終の型……桜花絶影陣だ」

 

 亡き師を偲び、悩み続けた彼女が紡ぎ出した答え。長い雌伏の時を経て、この朽ちゆく世界に大輪の花が咲いた――結界が花弁が舞い散るように辺りに降り注ぎ、その中心で誇りに満ちた表情で頷く彼女を見て、そんな言葉が胸をよぎったのだった。

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