B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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黄金症の克服について

 熾天使たちと武器制作の約束を取り付けたタイミングで、ちょうどソフィアが食堂に現れ、ブリッジに来てほしいと言われた。自分の目が覚めるのを待っていたとか――恐らく、聞きたいのは自分がどうやってあちら側から戻ってきたかについてだろう。

 

 アガタと共にソフィアに連れられてブリッジに辿り着くと、中にはチェン・ジュンダーとレムの姿があった。最近の彼女はチェンやソフィアらと共に会議をしているらしく、アガタのアンクはブリッジに置いていることが多いらしい。ともかく自分達が入ってきたのに気付いたレムが、こちらを振り向いて会釈をしてきた。

 

「もう身体は大丈夫ですか、クラウディア」

「はい! 一晩ぐっすり寝て、たくさん食べましたので元気もりもりです! 強いてを言えば、お腹がいっぱいになったせいかちょっと眠いってことくらいでしょうか」

「先日の戦闘では、貴女がいなければ全滅していたかもしれませんし、出来ればゆっくりして欲しい所でもありますが……少し確認をしたいことがあるのです」

 

 すぐに終わりますよ、そう続けてレムが言葉を切ると、ついで椅子に掛けていたチェンが口を開く。

 

「さて、貴女に聞きたいのは他でもありません。黄金症を克服する手段です。我々の方で認識しているのは、アラン・スミスにあちら側で会えれば戻ってこれるということくらいですが……それならもう少し多くの人々が戻ってきてもおかしくないように思うのです。その辺りはいかがでしょう?」

「うぅん、ちょっと待ってくださいね。私もこちらへ戻ってこれたことをキチンと言語化できているわけではないので……そうだ、一番詳しい人に聞いてみることにします」

「一番詳しい人というのは?」

「人というのも変ではありますが、高次元存在にです」

「ほぅ……貴女は高次元存在と通信ができると?」

「これもまた変な言い回しにはなりますが、できると言えばできますし、できないと言えばできないと言いますか……こちらの質問に対してイメージを送ってきてくれるので、私が理解できることなら言語化できるという感じです」

 

 逆を言えば、宇宙の真理であるとか科学の命題であるとか理解の難しい事項に関しては、高次元存在に問うたところで何の具体性もない不思議な光の渦が脳裏に浮かぶだけで、自分には理解も言語化もできない。それ故、いくら次元の超越者と交信ができると言っても、何でもわかるという訳ではない。

 

 ともかく黄金症の克服に関しては自分なりに考察はあるのだが、いい加減なことを伝えてしまうよりは、黄金症を引き起こしてる張本人に聞く方が早いのは間違いない。意識を集中して高次元存在に問いかけてみると、脳裏に自分やジャンヌが現世に戻ってきたときの状況や、どこか別の世界戦で同じように現世に帰った者の映像が映し出される。その共通点を見る感じ、自分の抱いている仮説は概ね間違えてい無さそうだと言えた。

 

「えぇと、私自身の仮説とイメージを照合する感じだと、こちら側に戻ってくる条件は二つです。一つは還るべき肉の器があるということ、もう一つは幽世《かくりよ》において自己を認識することです」

 

 主神の元に召されたはずの魂は本来なら記憶を消失させ、次の輪廻に臨むことになる。対して現世に戻ってきたいずれのケースにおいても、何かの条件で――例えば高次元存在の園において旧知に会うなどして――己を取り戻し、かつ宿っていた器が健在なことが、黄金症を克服することの条件であったようだ。

 

 こちらの説明が終わるのと同時に、チェンは「成程」と言いながら椅子に深く背中を預けた。

 

「つまり、貴女やジャンヌがこちらへ戻ってこれたのは、アラン・スミスが貴女達を認識し、改めて自己を規定しなおしたから、ということですかね」

 

 チェンがこちらの言葉に首を傾げるのに合わせ、ソフィアが男の方へと振り返る。

 

「でも、それなら辻褄も合うかと思います。アランさんは二年前にこの星に蘇っただけで、知り合いもそう多くありません。だから、未だ二人しか黄金症を克服できていないんだと思います」

「しかしその場合、黄金症の克服は難しいということになりますね。アラン・スミスがこちらへ戻ってくれば猶更……幽世にとらわれている人々の魂は、自ずから自己を規定することなどできないでしょうから」

「確かに……だからと言って、アランさんがあちらに残っていたところで状況が改善されるわけでもありませんし……」

 

 チェンやソフィアを筆頭にする頭脳陣が議論を交わし始める。アランをこちら側に戻すかどうかという所に話の焦点が当てられており、アラン・スミスの復活は黄金症を克服するのには意味がないという論調のチェンと、それでも復活させることに意味があるという女性陣との意見が対立しているようだった。

 

 もちろん、先日にチェンも海と月の塔の攻略、並びにアラン・スミスの復活に関しては同意しているのであり、彼としては黄金症について議論をしたいのだろうが、どちらかといえば女性陣が論点をずらしてしまっているように見える――自分としてもソフィアたちの気持ちは分からないでもないが、一旦話を収拾させた方が良いだろう。

 

「あの、黄金症の克服については、もっと根本的な解決方法がありますよ」

 

 議論の隙間を縫って自分が口を挟むと、頭脳陣は一挙にこちらへと振り返った。

 

「聞かせてください」

「はい。凄くすごく単純な解決方法……それは、第六世代型アンドロイドたちが進化の袋小路に立ってしまったという、高次元存在の認識を取り消すことです。

 第六世代型アンドロイドの魂がこの星の海に囚われているのは、偏に私たちのこれ以上の進化が認められないと高次元存在が思ったからです。つまり……」

「……第六世代型達が社会的な閉塞感を破って進化の兆しを見せれば良いということですか? しかし、具体的にはどうすれば……」

「うぅん、そこまでは私にも分かりませんが……でも、一つ確実なことがあるんです。それは、アラン君が高次元存在に飛び込んだ時、世界に残った人々は強い意志を持った……だから、高次元存在は一時的に第六世代型が進化の袋小路にいるという認識を中断し、この世界は滅びずに今も存続しているんです。

 もっと言えば、あちら側とこちら側は基本的には触れ合えないものの、確実にリンクをしています。たとえば、ナナコちゃんが雲を切り裂いてくれたから……現世にいる人々の心に希望が戻って来て、それがあちら側での光になったのです」

 

 高次元存在の園が真っ暗だったことには知的生命体の心に闇が降りていたことが反映されていたように思う。ナナコが気象コントロールを破り、強烈な朝焼けを見た人々が心に希望を取り戻したから、あちらの世界でも夜が明けて、彼が自分を探し出してくれた――というのが先日の事の真相のはずだ。

 

「つまり、現世において何か強烈な意志の力を示すことができれば、高次元存在は第六世代たちに進化の兆しを認めて去っていく……そうすれば、海に囚われた魂は解放され、人々は黄金症を克服することができる、ということでしょうか?」

「そんな感じです。とはいえ、具体的に何をすれば良いかまでは私にも分かりませんが……」

 

 感覚的にはチェンの考察は間違えてないはずなのだが、理論的に言えば突っ込み所はある。たとえば現世の人々が進化の兆しを見せて高次元存在が去ったとしても、それは既に海に囚われてしまっている人々が黄金症を克服する論拠にならないだとか――そうなると自分たちが迷わずに行動するための指針としては一押し足らない感じはする。

 

 また、仮に自分たちが進化の兆しを見せれば高次元存在が去るとしても、具体的にどうすればそれが成せるのかのアイディアは自分にはない。そうすると、次に何をすべきなのか――提案するのに窮していると、ホログラムとして椅子に掛けているグロリア・アシモフとソフィアとが糸目の男性の方へと向き直った。

 

「どうするべきか分からないのだったら、やはり海と月の塔の攻略を進めるべきよ。モノリスのコントロールさえ取り返せれば、ひとまず七柱に好き勝手させられることも無くなるわけだし」

「私もグロリアの意見に賛成です、チェンさん。モノリスをレムに返せば、第五世代型達の襲撃もかなり抑えられるようになります。そうすれば、黄金症のこれ以上の進行を抑えることはできますし、あとは時間を掛ければ解決方法も見えてくるかもしれません。

 それに……黄金症の進行を一時的に止めたのもアランさんですし、クラウさんやジャンヌさんを戻してくれたのもアランさんです。そうしたら、やはりアランさんが戻ってくれば、何とかなる気がしませんか?」

「どうですかねぇ。確かに原初の虎に異様な爆発力があることは認めますが……しかし、貴女にしては少々非合理なんじゃありませんか、ソフィア?」

「はい、それは自覚しています。でも、私がアランさんを信じてきて間違えたことはありませんでしたから……経験則も何度も当たるとなれば確度の保障になりますし、どの道方策が無いのなら、結局は運否天賦に任せることも必要になるのも間違いではないんじゃないでしょうか?」

 

 二人の少女の説得に対してチェンはどうしたものかと思惑を巡らせているようであり――その傍らで、ただいまチェンを説得していた二人が一気に自分の方へと向き直った。

 

「そう、クラウさんに聞きたかったんだ! アランさんに会った時のこと、詳しく聞きたいなって!」

「それは私も興味があるわね……別に他人がどこで何をしていようか逐一確認するほど無粋じゃないつもりだけど、流石にあの世とこの世の境界で再会するだなんて、ちょっとロマンチックだもの」

 

 二人の真剣な眼差しに対し、思わず少し噴き出しそうになってしまう。確かに自分が逆の立場なら、何があったのかを聞きたくなるだろう――自らのあずかり知らない所で、彼との関係性に変化があったのではないかと、気が気でないだろうから。

 

 自分としてはより彼に対する想いはより強くなったとも言えるのだが、残念ながら彼からこちらに対する評価はあまり変わっていないというのが正確な所だろう。そうなれば、二人が懸念しているようなことは何一つないのだが――そう思っていると、チェンが呆れたように嘆息をひとつ吐き、両手を叩いて乾いた音を響かせた。

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