B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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第八階層魔術の可能性

「はいはい、そういう話は後にしてください。今は重大な作戦会議中なんですから」

「いいえ、チェンさん。クラウさんに聞きたいことは他にもあります。第八階層に相当する魔術の使役……それについて聞いておきたいんです」

「ですが、それについては何度も協議したでしょう? 演算処理の問題、触媒の問題……何より、開発期間の問題。問題が山積みな上、別に彼を倒すのに第八階層は必要ない……人一人を倒すのに、天変地異を起こすほどの威力は過剰なのですから」

「しかし、クラウさんの使役していた第八階層は、そこまで危険なものではありませんでした。もちろん、危険度が低かったのは結界か回復など、攻撃的な魔術でなかったという要因は大きいと思いますが……それでもクラウさんから話を聞いておくことで、何かしらの応用はできるかもしれませんから」

 

 ソフィアの意見にチェンも「一理ありますね」と頷き、扇子を取り出して椅子に深く腰掛けた。次いで、ソフィアとグロリアの真剣な視線がこちらへ注がれる。自分のアドバイスが彼女たちの役に立つかは分からないが、その真剣さに報いるため、言える範囲のことは伝えることにしよう。

 

「私の場合、本能的に使えてしまったというのが正直な所なので、ソフィアちゃんの役に立つかは分かりませんが……一応、以下二点については言えるかと思います。

 まず第一に、演算処理の問題について。こちらについては、既存の魔術に馴染みのある要素を足すことで、比較的演算処理が簡単にできるようになるんじゃないか、ということです。

 私も第八階層を自由自在に使えるっていう訳ではなく、使えることができた第七階層相当の神聖魔法をワンランクアップさせるに留まりますから」

 

 そう伝えると、金髪の少女とホログラムの少女は「成程」と頷き、こちらから視線を外して二人で議論を始める。

 

「つまり、シルヴァリオン・ゼロに馴染みの深い構成要素を一つ足せば、第八階層魔術にできるってことかしら。でも、それなら何を足す?」

「シルヴァリオン・ゼロの演算は私が担当するから、グロリアに馴染みの深い要素を足すのが良いと思うんだけど……炎は冷気と相反するから構成できないし、飛翔は着弾点をずらせるけれど威力自体は変わらないから、処理の難易度が飛躍的に上がるのに対してメリットが薄いかな」

「そうね……まぁ、そこはおいおい考えましょうか。それで、もう一つは?」

 

 グロリアのホログラムがこちらへ視線を戻してそう問うてきたのに対し、自分は頷き返す。

 

「もう一つは、触媒の問題についてですね。第八階層魔術弾に相当する触媒が存在しないということなのでしょうが……魔術そのものは高次元存在を通して事象の境界面に干渉し、並行世界の可能性を引き出す行為です。

 私は直接主神に祈りを捧げ、神聖魔法の応用として第八階層に相当する事象を引き起こしているので……それに近いことが出来れば、触媒の代わりとすることが出来るんじゃないかと」

「そうは言っても、私やソフィアは高次元存在に直接的に干渉することは出来ないし……」

「そうですね。なので、あまり具体的な解決策は提示できないのですが……ただ、全ての魂は高次元存在に繋がっています。私たちの魂は、普通は超次元的なことを認識できないだけで、それでも超次元的なものは目の前に存在している。

 そこで何かしらの手段を用いれば、一時的に高次元存在に干渉すること自体は、不可能ではないと思うんです」

 

 かなり抽象的な話をしてしまったという自覚はあるのだが、自分から二人に言えることはそれだけだ。実は、もう少し踏み込んだ話を出来ない訳ではない。魂が高次元存在と繋がりがあるのならば、それ自体を触媒にすることも不可能ではないはず。たとえば、魂を燃やし尽くす瞬間、超次元の存在が迎えに来たその一瞬を掴み、奇跡を顕在させる――そういったことも不可能ではないとは思う。

 

 しかし、この発想はかなり物騒だし、とくに小夜啼鳥の二人は自分の命を掛けることも厭わないペアなので、早まったことをしてしまいかねないことが懸念される。なので、敢えて抽象的に伝えることにしたのだが――言えないのならそもそも言うべきではなかったのかもしれない。実際に、こちらの言葉の曖昧さに困惑している様で、二人は首を傾げてしまっている。

 

「難しいね……グロリア、何かアイディアはある?」

「アナタほど賢くない私が、そうほいほいと意見を出せるわけ無いでしょう? でも、そうね……もしかしたら……」

「……グロリア?」

 

 真剣な面持ちで思考を巡らせているグロリアに対し、ソフィアは不思議そうに相方の名を呼んだ。あの二人は思考を共有しているはずであり、わざわざ聞き返さなくてもグロリアの意図するところは認識できると思うのだが――そう不思議に思っていると、グロリアの方が突然あっけらかんとした表情で笑い、静かに首を振った。

 

「何でもないわ。さ、チェン。私たちが確認したかったことは聞けたから、アナタにバトンを返すわ」

 

 グロリアに促され、チェンは扇子を閉じて袖に仕舞い、再び椅子から少し身を乗り出した。

 

「先ほどの続き、アラン・スミスつながりで、貴女にもう一つ確認したいことがあるのです。貴女や原初の虎の持つ未来視の話ですが……あれはどの程度の確度の物で、どれほど当てになるんでしょうか?」

「あぁ、訂正するタイミングもなかったので言っていませんでしたが、私やアラン君には未来が見えているわけではありませんよ」

 

 誰も彼もが――とくにリーゼロッテ・ハインラインはこだわっていたようだが――アラン・スミスには未来が視えていると思い込んでいるが、実際はそんなことはない。もちろん、あまりにも周りが実しやかにそういうものだから自分もそうなのかかもと思っていた部分もあるし、実際に彼の直感は未来でも見えていないと説明がつかない部分もあったのだが、事実としては以下のようになる。

 

「私たちが見えているのは未来ではなく、他者の意志なんです。自分を取り巻く者たちの、こうしたい、あぁしたいといった意志を……それを抽象的なイメージとして何となく感じ取ることができるんですよ。

 なので、肉の器にある者の思考はもちろん、学習して判断を下すAIの意志や、生物の欲求なんかを予め感じているので、視覚情報に頼らずとも気配を感じ、どのように動くつもりなのか予測することができるんです。

 もちろん、意志を十全に感じ取るには五感を研ぎ澄ませて全身全霊で周囲の気配を手繰る必要があるので、その結果として空気の振動や微細な音にも敏感になってはいますし、そういう意味では総合的な直観力が優れているとは言えるのでしょうが……ちなみに、私やアラン君の他にも、ナナコちゃんも同じ能力を持っていますよ」

 

 もう少し補足すると、他者の意志は抽象的なイメージとして感知できるだけなので、相手の思考を言い当てることはできない。ただ、その思い描くイメージが、相手の攻撃の軌跡をこちらの五感に教えてくれるので、先回りが可能になる。それがちょうど周りから見たら未来が視えているかのように映っているのだろう。

 

 アランが壁越しにでも人の気配を感じていたのは、そこに何者かの意志があることだけを感知していたから。同時に会話をしていて別段心を読まれているなどと感じないのは、相手の思考までは分からないから。だが、他者を攻撃しようという意志は強い意志なので、それが五感に語り掛けてくると――原初の虎の持つ異常な察知能力と、未来が見えているのではないかと思われるほど敵の攻撃を読み切る能力というのは、こういったところに起因していたのだ。

 

「ともかく、先ほどのチェンさんの質問に対する答えですが、こちらに対して攻撃する意志を持つ者に対してなら、私たちの近未来に対する予測の確度は高いと言えます。一方で、相手の意志から見える未来はせいぜい数秒先までなので、預言者のように何でも言い当てることは難しいですね」

「成程、つまりアナタ達のその勘で戦略レベルを覆すのは難しいということですか。以前、アラン・スミスに対して戦術レベルでは敵わないが、戦略レベルでは抑えることは可能と思ったことは、間違いではなかったのですね。もっと言えば……」

「私たちは絶対の勝利者たりえない。高次元存在は確かに私やアラン君、ナナコちゃんに力を貸してくれていますが、同時に絶対の庇護者でもないのです。高次元存在は単純に、あちら側を見て帰った者に餞別として、ちょっと鋭い勘を与えているだけに過ぎないんですよ」

 

 恐らく自分たちが他者の意志を視えるのは、高次元存在との繋がりが深くなったが故に、他者の魂を感じ取る力が強くなったからだろう。

 

 つまり、アラン・スミスは勝つべくして勝利を掴んで来たのではない。また、彼の行動そのものが高次元存在によって歪められていた訳でもない――彼は彼の研鑽によって技を得て、相手の意志の力を読み取り、それに対応できるだけの修練を積み、自分の意志で誰かのために走り続けてきたのだ。

 

 そうだ、彼が帰ってきたらそのことを伝えてあげよう。彼は高次元存在の意志を言語化できないので、自分の行動が歪められていると勘違いしてしまっているかもしれないから――アナタは自身の意志でキチンと全て選び取ってきたのだということを伝えよう。

 

「……とりあえず、アラン・スミスの復活を優先させましょうか」

 

 自分が決意を新たにしていると、チェン・ジュンダーもどこか柔らかい笑みを浮かべている。男の言葉が意外だったのか、レムが首をかしげながら口を開いた。

 

「あら、良いんですか? アランさんを復活させたところで、黄金症の解消はできなさそうというのは間違いないと思いますが……」

「逆を言えば、それなら星右京らを倒すことの優先度が高いということになりますからね。それに……今更ながら、原初の虎に少し親近感が沸いたのですよ」

 

 おそらく、チェン・ジュンダーは最初からアラン・スミスが絶対の勝利者でないということは理解していたはずだ。もしアランを信じ切っているのなら、一年前のヘイムダルに突撃する時に戦力の温存などしなかっただろうし、何より彼を復活させることに逐一口を挟まないだろうから。

 

 それでもきっと、他の者たちが原初の虎を過剰に評価しているせいで、少しばかりチェン自身もアランのことを神聖視していた部分もあるに違いない。未来視など無いとしても、アラン・スミスにはそれに近い何か神霊じみた何かは持っていると――実際に意志の力を感じ取るという、ややオカルト的な能力はある訳だが――チェンも思っていたことだろう。

 

 しかし実際には、彼が絶対の勝利者ではなかった。その事実はチェン・ジュンダーにとって初めてアラン・スミスに親近感を抱かせるものだったのかもしれない。常に運命に抗い続けた亀が虎に共感を覚えたと言うのは、つまりはそういうことなのだろう。

 

 ともかく、自分への質問はひとしきり終わり、ひとまず自分は予告通りに自室に戻ってひと眠りすることにした。しかし、結局は睡眠を取ることはできなくなった――というのも、部屋で待機していたイスラーフィールとジブリールが武器のアイディアをブラッシュアップしてくれており、なんだか色々な意味でワクワクしてしまい、すぐにでも作業に移ろうと思ったからだ。

 

(……みんな、アナタに帰って来てほしいんですよ、アラン君)

 

 誰もかれもが前を向いて、海と月の塔を攻略するために――アナタに帰って来てほしいと願っている。彼岸には届かぬ声を脳裏に浮かべながら、自分はイスラーフィールらと共に自分がやれる作業に移ることにしたのだった。

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