B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
ノーチラス号から飛び出し、自分はすぐさま船から大きく距離を取りながら前進を始める。一度だけ海を眺め――あの海の底にアランが居る。もう戻ってこないと思っていた彼が、きっと今日戻ってくる。そのために、自分にできることをしなければならいない。
そう決意を新たに進行方向へと顔を上げると、ちょうどその先から強大な光の渦が発射されてきた。予測通りにフレデリック・キーツの戦艦から主砲が発射されたのだろう。
自分たちは距離を離したので巻き込まれることは無いが、その威力は辺りの大気を大きく揺らし、大気を焼いて強烈な衝撃波を生み出している――七星結界を持ってして防げるかどうかというほどの強烈な一撃だった。しかし、今のノーチラス号には旧世界の人類が編み出したバリアよりもさらに一段階強力な結界を張れる人がいるのだ。
実際、主砲が遥か彼方へと抜け切っても、遠方にノーチラス号の機影は顕在だった。外から見ると、クラウの張ったであろう結界の残滓が舞い散る花びらのように宙を舞っていた。
『……クラウディア・アリギエーリ、改めて凄いわね』
『うん……正直、ちょっと嫉妬しているのかも』
今のクラウからは、何か超常的なものを感じる。一言で言えば、自分がアランやナナコに感じていたものと同質のものが今の彼女にはある。クラウ自身が言っていたように、それはあちら側を見て来た結果とも言えるのだろうが――精神的な余裕というか、成熟というか、ある種の達観というか、ともかく自分に無い強さが今の彼女にはあった。
つまり、自分よりクラウの方がアランに近いという事実は認めざるを得ない所であり、それが嫉妬の原因でもある。
『確かに、味方としては頼りになるけれど、同時に手ごわい相手とも言えるわね』
『手ごわさで言えばグロリアも同じくらいかな。クラウさんは優しいけど、グロリアは意地悪だし……それに……』
グロリアにはアランに対する強い想いがある。記憶を共有する自分たちは、本来なら互いに知ることができないはずのないアラン・スミスの記憶を共にしている――遥か過去に原初の虎を支え続け、一万年も彼を想い続けたグロリア。元々自分と彼女は「同じ人を奪われた同士」であったのだが、今はある意味では「同じ人の帰りを待ち望む者」に変わってきている。
しかし、この目的の変更は自分たちの中に不和を産む可能性がある。元々「奪われたものは返ってこない」という前提に立っていたから協力できていたのに対し、同じ人を想うということは、つまりどちらかが――人との関係には色々な在り方があるだろうが、少なくとも自分は独占欲が強いし、同時にそれはグロリアも同じくらいなはず。
ここに関しては、互いに変に口にすることは無かった。意識的に避けていたと言っても良い。あの人が帰ってきたときに、自分たちは今まで通りに居られるだろうか、そんなことが不安でもあり――。
『……ねぇ、ソフィア。アナタはアランのどんなところが好きなの?』
脳裏に響くグロリアの声は優しく諭すようであり、同時にどこか寂しげな色を帯びている。
『それは、強くて優しい所が……戦うために生まれてきた私が全てを捧げるのに相応しい人だと思ったから』
『成程ね……でも、そんなんじゃアナタが手ごわいと思っている相手に敵わないわよ?』
『……どういうこと?』
『それは、自分で考えなさいと言いたいところだけれど……そうね、全てを捧げる献身性って一見すると愛が深いようだけれど、同時に相手に対する無理解であると思うから、かしらね。
アナタは、成程、アランに対して深い愛情を持っている。その一方で、あの人の精神性を理解していない……アナタに全てを捧げますだなんて言った所で、アランが喜ぶとでも思う?』
グロリアの言うことは自分の心に重くのしかかってきた。確かに彼女の言うように、自分の気持ちが一方通行なことは分かっていたし――ただ、それでいいとは思っていたのだ。もちろん、あの人に振り向いて欲しいという気持ちは揺るぎないし、たくさんアピールだってしてきたが、それ以上にあの人の役に立ち、その結果死んだとしても、それはそれで本望だった。
しかし、その自己犠牲すら自己満足であったとするのなら、それはとんでもない思い違いをしていたことになる。同時に、自分はそれ以外の愛情表現を知らない。だから、この先どうすれば良いのか分からなくなってしまう。
『そんなに重く考えることは無いわ。きっとあの人の顔を見たら、悩んでいたことなんて馬鹿らしくなってくるんだから。
さて、細かいことで悩むのはあとにしなさい。私たちは私たちの仕事をしないとね』
いつの間にか下がっていた視線を上げると、遠方に敵影が見え始めた。正確には、グロリアの視界を共有されているおかげで、巨大な戦艦の僅かな機影だけが確認できるといった距離なのだが――こちらも向こうの戦闘機も互いに超高速で接近し合っているのだから、それこそすぐに接敵することになるだろう。
『グロリア、敵の数は分かる?』
『大雑把には分かるけれど、ノーチラスのセンサーの方が正確にわかるでしょう……戦艦一隻、重巡洋艦と軽巡洋艦、駆逐艦合わせて四隻、戦闘機二十、それに飛行型の第五世代が三十ってところね。もちろん、敵の本拠地が近い以上、倒しても倒しても後から沸いてくることが想定されるけれど……』
『思ったよりは多くないね』
『あまり一片に出しても、フレンドリーファイアや衝突の危険性もあるからね。ただ、レムの報告によれば……』
『巡洋艦に各五十機、主力艦には二百機の無人機が搭載されている……それなら、まだ戦闘機でだけでも全体の十パーセント以下しか出していないことになるね』
『それに、ルシフェルはいないみたい……これをチャンスととるか、罠ととるべきか』
『多分前者だね。楽観的に言っているわけじゃなくて、ルシフェルは塔の防衛に回されてるんだと思う』
脳内での会話は一秒にも満たなかったはずだが、向こうからの攻撃は開始された。まだ距離はあるため、相手側から放たれるのは主に光学兵器、それを躱しつつ、時にグロリアの結界で防ぎながら敵陣のど真ん中へと向かって行く。
以前、ドッグファイトは原則として複数体を同時に相手をするのが不利になるとは考察したが、敵が密集しているのならその限りではない。グロリアの言ったように、フレンドリーファイアや味方機同士の機動などに制限が掛かるためだ。とくに戦艦級の強力な攻撃は切り込むほどに撃ちにくくなるはず。生半可に距離を放しているほうが集中砲火を受けるため、今は速やかに敵陣に切り込む方が生存確率を――それこそ数の差を考えれば僅かにとも言えるが、今はその僅かさすら欲しい――上げることができる。
戦闘機が飛び交う空域にまで達し、そのまま一気に前進を続ける。敵機からのレーザーがこちらへ向けて照射されるが、予測通り敵側が味方を巻き込むのを避けているため、その数は多くない――光線をジグザグに動きながら躱しながら進み続け、可能な限り敵機を巻き込める場所まで移動を完了させる。
『グロリア!』
『不死鳥と恐れられた私の力、見せてやるわ!』
グロリアがそう叫ぶのに合わせ、自らを中心に巨大な火柱が立ち上る。そして炎がこの身を中心に収縮されると、集められたエネルギーが一気に爆散を起こす。それは我が師、アレイスター・ディックのディヴァイン・サンライトノヴァと同等の攻撃力を誇る一撃であり、相違点としては着弾点を指定するか、自分を中心にエネルギーを放出するかの違いがある。
グロリアにより放たれたエネルギーは、戦闘空域のかなりの範囲をカバーし、新型の第五世代やキーツの戦闘機を一気にその爆発へと呑み込む。とはいえ、強力なバリアをもつ戦艦はいまだ健在であり、そこから新たに戦闘機が次々と飛び出てくるので、今のでは雑魚散らしをした、といった程度の攻撃にしかならない。
とはいえ、それくらいのことは想定済みだ。新たに出てきた戦闘機を各個撃破しながらも、自分とグロリアは敵の戦艦を目指して飛行を続ける。しかし、しばらく戦闘を続けていて気付いたことがある。それは――。
『……戦闘機の動きがやや鈍い?』
『私も同じように思っていたわ』
『無敵艦隊を作ったのって、ダンさん……フレデリック・キーツだよね?』
『えぇ。宝剣へカトグラムを作ったのだって彼だし、その他のDAPAが扱っている技術の多くは、その設計にあの人が携わっているはず……それがこの程度のスペックしか出せないなんて、違和感があるわね』
『チェンさんによれば、前回のヘイムダル襲撃時に交戦した感じだと、星右京がハッキングで無理やり動かしているんじゃないかって』
『……そうね、そういうことかもしれない』
グロリアは妙に納得したような声色でそう呟いた。何となく、彼女なりにキーツについて思うところがあるのかもしれない。
『グロリアはフレデリック・キーツとの接点はあったの?』
『話したことはほとんどないけれど、一応面識はあったわ。気のいい優しいおじさんって感じで、嫌いな人ではなかった。まぁ、私がファラ・アシモフの娘だから、変に気を使ってくれていたんでしょうけれど。
他にもアランとのやり取りは何度か見ていた感じだと……DAPAに所属している人にしては変な選民思想も無い人だとも思ったわ。ある意味では七柱として昇りつめたのが不思議なくらいまっとうな人だったとも思う』
『そうだね、ダンさんもそんな感じだったし……レムはダンさんとも組むつもりだった訳だから、もしかしたらフレデリック・キーツは私たちと戦うことに関しては反対なのかもしれない。本来の主が十全の力を出していないから、戦闘機の動きが鈍いのかも』
『だからと言って、こっちまで加減をする理由にはならないわ。向こうが手加減をしているっていうのなら……!』
『そうだね、今のうちにできるだけ数を減らしておこう!』
ダン・ヒュペリオンという人の性格を考えると、もしかしたら自分たちに止めて欲しいとすら思っているのかもしれない。こんな風に考えるなど、都合が良いように相手の思考を勝手に決めつけているとも言えるのかもしれないが――ともかく、自分の第一目的はノーチラスが戦闘空域を一旦抜けるまで敵をかく乱することと、それにもう一つ――敵機を魔術や炎で落としながら進んでいくと、第二目標が徐々に近づいてきた。
『フレデリック・キーツの無敵艦隊は、外宇宙からの襲撃者の迎撃を想定した強力な五隻からなる艦隊。その武装が強力なのは当然として、物理攻撃に対しては半物質バリア、エネルギーによる攻撃に対しては多層移装甲を使い分けることで堅牢な守りを誇る』
『それを破るには二つに一つ。防御機能の入れ替え時の僅かな隙間を縫うか、両方の防御機能をも打ち抜けるだけの超威力の攻撃を放つか、だね。ただ……』
『私たちのシルヴァリオン・ゼロ・レクイエムは威力は十二分だけれど、流石に戦艦級を破壊するには攻撃範囲が足らない。ともなれば、前者による攻撃が必要になる。それはそれで超絶技巧が必要だけれど……』
『私たち二人なら、不可能じゃない!』
機械鳥が融合した魔術杖が変形し、杖の両端にカートリッジを転送できるようになる――以前にダン・ヒュペリオンに改造してもらったように、魔術を二連射する構えだ。
そして杖を一回転させ、前後それぞれに第六階層魔術弾を装填する。以前は片方には高層、片方には低層の魔術を入れていたのだが――それは演算の難しさから第四階層以上を連続で撃つのが難しいという判断もあったのだが、今は詠唱の担い手が丸々二人いるので、第六階層を二連射することも不可能ではない。
演算を完了させると、計十二枚の魔法陣がほぼ同時に自分の周囲に飛び交い始め――超音速を維持したまままずは超巨大な氷柱を魔法陣から撃ちだす。巨大質量に加えて超音速の加速を上乗せした巨大な氷柱は、物理攻撃としてはかなりの威力になる一撃だ。十分な速度で発射されたそれは、重力下にある宇宙船の速度では回避することも叶わず、予想通りに反物質バリアを展開する。
そして氷柱がバリアに激突する直前に、グロリアが演算していた第六階層相当の稲妻の魔術を撃ちだす。強力な物理攻撃とエネルギー攻撃がコンマゼロ以下の差異で着弾し――戦艦はその攻撃を防ぎきることはできず、空中で大爆発を起こしたのだった。
◆
旗艦からの攻撃を防ぎきり、船の振動が収まったのに合わせて、上半身を起こして辺りを見回すと、二人の熾天使が先ほどの振動を物ともしないで船のオペレーションをこなしていた。
「ナイチンゲイル、敵との戦闘に入りました」
「こちらも、そろそろ戦闘空域に入るわ」
「よし、戦速を維持しながら、敵軍のケツを目指すんだ!」
「……なんで貴方が仕切ってるのよ」
自分が気合を入れて声をあげると、ジブリールが首だけこちらへ回して――手元はまったく先ほどと同じように動いている――呆れたような声をあげた。その直後、背後からチェンの「良いじゃないですかジブリール」という声が聞こえる。
「シモンはこの船の親と言っていい……私は設計図を渡しただけで、彼が大半を作ってくれましたからね。この船について最も詳しいのは彼ですから」
「制作者と船長は同一人物にはならないでしょう? 必要な専門知識は全く異なるんだもの。それに、私たちの方が機能をどのように使うか十全に理解しているわ」
「まぁ、それは全くその通りなのですが……彼は今、実の父を超えるべく戦ってるんです。少々気合が入るのは仕方がないというものですよ」
「はぁ……肉の器にある者って面倒くさいのね」
「ともかく、私たちも準備に入りましょう。私は高速艇の準備に入りますので……改めて、ノーチラスの指揮はシモン、敵戦力との交戦にはナイチンゲイル、イスラーフィール、ジブリールに任せます」
チェンとアガタ、それにブラッドベリがブリッジから去っていくのと同時に、イスラフィールが甲板へ向けて通信を始めた。
「セブンス、T3、準備はよろしいですか?」
「はい! バッチリです!」
返事と共にブリッジのモニターに外部カメラの映像が映し出されると、そこにはナナコとT3がノーチラス号の砲台の先に立っているのが見えた。戦闘機や飛行型第五世代による猛攻が始まっており、それらはクラウディアの張る結界により防がれているのがモニターの端に映っている。
ピークォドと違い、ノーチラスの武装はそれなりのものが装備されている。そのため、飛行型や戦闘機を相手にする分には全く問題にならないのだが、戦艦クラスが相手となるとその防御力を突破するだけの威力には足らない。それならばと、ヘイムダルでやった時と同じように、こちらの持てる最大火力で艦クラスを狙って行こうという狙いなわけだ。
T3が外に出ているのは、精霊魔法でナナコを援護するためだ――かなりの速度で飛んでいるノーチラス号の砲台でまともに動くために、T3が大気の流れをコントロールし、ナナコが剣を振るうのに集中できる環境を整えている。その結果、銀の髪の少女は髪を一切揺らさず、瞳を閉じながら剣を天に掲げ――そして周囲から金色の光が集まって来て、彼女の体と剣とを包み込み始めた。
「いきますよ、ダンさん……御舟流奥義、専心一点稲妻突き!!」
ナナコが大剣を突き出すのに合わせて、黄金色の巨大な剣閃が正面へと撃ちだされた。その一撃は先ほど敵艦から撃ちだされた主砲以上であり、周囲の敵を巻き込みながら空を切り裂きながら進み――巻き込まれた戦闘機達が消え去るのと同時に、空の彼方で大きな爆発が起った。それも二か所、全く別の方向でだ。
「ナイチンゲイル、セブンスの両名が一隻ずつ、重巡洋艦と軽巡洋艦の計二隻を撃破」
「よし、後は戦艦を含めた三隻だな!」
「とはいえ、ここからが正念場よ。クラウディア・アリギエーリの結界と、セブンスのラグナロクが使えなくなるんだから」
「それに、ナイチンゲイルだって消耗していきます。あまり楽観視はできませんね」
「……えぇい、戦速をあげて塔へ! ナナコが拓いた道を最速でぶち抜くんだ!」
「もうやってるわよ……そうだセブンス、貴女も中へ戻ってチェン・ジュンダーに合流しなさい!」
ジブリールがマイクに向かってそう叫ぶと、外部カメラに向けて銀髪の少女が元気に敬礼しているのが見え、そしてすぐにT3と共に船内へと戻っていった。ジブリールが端末を操作すると、正面スクリーンの映像が切り替わり、高速艇に乗り込んでいるメンバー達が映し出された。
「チェン・ジュンダー、そちらは?」
「あとはクラウディアとT3達さえ来れば、いつでも発進できますよ」
「了解、そろそろ予定ポイントを到着するわ……ハッチが開いたらすぐにでも出発して」
ジブリールが再度端末を操作すると、今度はノーチラス号の機関部分の映像に切り替わる。そこでは緑髪の女性が古代人のモノリスを掴んで――気合を入れるためなのか、何故かガニ股だ――いるのが見える。
「クラウディア・アリギエーリ。そろそろ予定ポイントまで到達します。後は私たちに任せて、貴女は高速艇の方へと移動してください」
「了解です! イスラーフィール、ジブリール! この場はお任せしますよ……と、そうだシモンさん、ちょっと思ったことがあるんですが……」
クラウディアがこちらの名を呼んだので、自分もマイクを口元に近づける。
「クラウさん、なんだい?」
「無敵艦隊の動きなのですが、何となく迷いがあるような気がするんです」
「それ、私たちも感じていたわ。もしかしたら、右京のハッキングにキーツが抗っているのかも……」
クラウディアの言葉に合わせて、グロリアの声がスピーカーから聞こえ始めた。ソフィアは音速で外を飛び交っているはずなのにノイズが混じっていないのは、グロリアが通信で文字を音声化しているおかげだろう。
「くそ、僕はアンタを超えるために来たってのに……アンタはそうやって、僕以外の奴と戦ってるってんだな」
少女たちが言っていることが事実だとするのなら、父を超えようと勇んでいたのは自分だけであったということになる。もちろん、父と正面切って戦いたかったわけでもないし、むしろアンタの息子はここまで成長したんだと、それを見せたかった部分もあったのだが――父にこちらと戦う意識が無かったとするのなら、それでは自分は一人相撲をしていたことになる。
いや、自分の父であるダン・ヒュペリオンは既に亡くなっている。あの先に居るのはダン・ヒュペリオンではなく、七柱の創造神たるフレデリック・キーツだ。そう自分に言い聞かせながら無敵艦隊と戦う覚悟を決めてきたというのに――もしフレデリック・キーツが本気で戦う相手となれば、それは自分などではないということなく、恐らくは――。
(僕がアンタのためにできるせめてものことは、成長を見せることじゃなくて……あの人との戦いの舞台を用意すること、か)
亡き父が残したメッセージの中にあった謎かけの答えは、すでに見つけてある。星になった息子たち、それは自分が幼かった時に父から聞かされた、遠い昔のおとぎ話の中にあった。それをパスコードにしたというのは、彼なりの戒めでもあったに違いない。そして、キーツは最強の武器を虎に託した――最高の舞台で決着をつけるために。
自分がアレコレと感傷に浸っている間にも、二人の熾天使は淡々と仕事をこなし、こちらへ襲い掛かる戦闘機や飛行型を的確に落としていってくれている。船側を維持して進んだおかげで、ノーチラス号は見事に敵戦艦の背後を取ることに成功した。
「……目標地点に達する。イスラーフィール、ハッチを開いて」
「もうやっていますよ」
艦長としてせめてもの威厳を見せようとしたのに、有能なオペレーターは既に先回りをしていた。こうなっては形無しだ。しかし、自分にしかできないことはある。そう考えながら拳を握りしめて、自分も戦況の把握に努めることにした。