B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
イスラーフィールからの通信を聞きつけ古代種のモノリスから手を放し、機関室から抜け出して高速艇のある格納庫へと急いで移動を始める。幸いにして距離は近いため、数十秒ほどで格納庫へと辿り着くと、すでにヘリはプロペラを回し始めており――こちらへ向けて手を差し伸べてくれているアガタを目掛けて飛び乗り、腕を引っ張ってもらってヘリの内部へと収まることに成功する。
「お待たせしました!」
「揺れますよ! 捕まっていてください!」
チェンはこちらも見ずに高速艇を浮上させると、そのまますぐにノーチラスを離れて海と月の塔へと直進を始めた。この機械での移動は、レムリアの民達の元来の技術水準で考えれば凄まじい速度が出ているはずなのだが、人を複数人乗せることを目的として設計されている以上、より早い機械には追いつかれてしまう――それらを少しでも寄せ付けないためのソフィアの陽動でもあるのだが、それにしたって彼女が全ての戦闘機を相手にできる訳もない。
しかし、こちらとしても戦闘機に対する対抗手段はいくらでもある。T3の精霊魔法と弓による迎撃、ブラッドベリのサイコキネシスによる相手戦闘機の阻害など攻撃手段もあるし、防御手段としても――。
「……はぁ!」
自分が手をかざした方角に、敵からのミサイルを防ぐための結界が張られる。もちろん、その衝撃まで全て吸収できるわけでなく、機内は大きく揺れるが――ひとまず、自分が攻撃を予測でき、かつバリアを展開できるので、防御策もキチンと兼ね揃えているのだ。
とはいえ、あまりに敵の攻撃が激しければ全てに対処するのは難しい。一応、ヘリの容積程度なら全体を護る結界を張れなくもないが、結界の範囲を巨大にするほど精神力の消耗も激しいので、防御頼みの突破は厳しい。T3やブラッドベリが敵の数を減らしてくれているおかげで、自分も消耗を抑えられているのだ。
そんな調子で塔が近づいていくと、徐々に敵の攻撃も緩くなってきた。それは、フレンドリーファイアを嫌ってのことというよりは――。
「……来る!」
強烈な気配、殺気というよりもどこかこちらを試す様な攻撃の意志を感じ、加減抜きの結界をヘリ全体を覆うように展開する。直後、巨大な雷撃が塔の方から射出されてきた。間一髪、その一撃こそは八重の結界によって難なく防ぐことには成功するが――魔術によって編まれた稲妻が抜けていった後も、ヘリ内の振動は止まらなかった。
揺れの正体は塔付近に突如として発生した巨大な竜巻だった。竜巻の起こす強力な風と上昇気流にヘリはコントロールを失っているようであり、チェン・ジュンダーは操縦桿をなんとか抑えたままこちらへと振り返ってきた。
「くっ……これ以上はヘリがもちませんね! 皆さん、空か海を走れますか!?」
「え、えぇ!? それはちょっと無茶なんじゃ……あ?」
流石の無茶振りに慌てるナナコの首根っこをT3が掴み、そのまま男は少女を抱えてヘリから飛び降りた。彼が海面へと直撃すると同時に、海面が一気に凍って足場となり、そのまま氷の道は徐々に塔の方へと伸び始めたようだ。
以前、ソフィアがナナコと戦っている時に地底湖を凍らせたのと同様のことをしたということになるのだろうが――淡水湖を凍らせるよりも海面を一気に凍らせる方がより低温が必要になるはずである。アルフレッド・セオメイルが精霊魔法を取り戻していることは認識はしていたが、彼の魔法の腕もまた凄まじいことの証明と言うことだろう。
二人の着地後すぐに、銀髪の少女が背中から抜き出した大剣に金色の粒子が集まり、巨大な斬撃が放たれた。竜巻へと放たれた天まで届くほどの一刀は、いともたやすく魔術神の魔術を霧散させた。竜巻は晴れたが、すでにヘリはコントロールを失っており、結局はこれを捨てて脱出するほかない。
T3の作った氷の道を追従するために、アガタとブラッドベリもヘリから飛び降りた。そしてヘリが滅茶苦茶な軌道できりもみを始める直前に自分も飛び出し――自分は敢えて塔へと向けて空路を取ることにした。
空路を取るというのは、要するに足元に結界を展開し、それを蹴った反動で空を突き進むというやり方だ。以前は事前に物に結界を仕込んでおき、それを踏まなければできなかったのだが、今の自分ならもう少し器用に対応でき、空気に対して瞬間的に結界を仕込んでそれを踏むという方法で空中を進むことができる。
自分が抜け出た直後、チェンはヘリのフロントガラスを割って飛び出し、最後にヘリの側部に取り付けていた機械布袋戯達をサイコキネシスで操り、彼自身はそれに乗って浮遊していた。正確には滑空と言うべきか、T3達が進んでいる方へと合流するために高度を徐々に下げていっているようだ。
さて、自分が空の道を取ったのには、格好つけ以外の理由もある。いや、三割くらいは「私、本当に空を走ることができるんです」とドヤりたかったという事実は否定していないが、塔から放たれる攻撃を分散させる意味合いもあった。そして予測通り――予感通りという方が正しいか――塔の方から翡翠色の剣閃がこちらへと放たれてくる。
その軌道を読み、空中で軌道を変えながら、神剣による遠距離攻撃を回避し続ける。距離もあるし、筋も読めているので、回避すること自体は容易。しかし神剣の一撃が自分を狙ってくるということは、未だエルはリーゼロッテ・ハインラインの支配から脱却できていないということになるのだろう。
いや、火口で自分が掛けた声は、きっとエルに届いている。だから、彼女もきっと、チャンスの時が来るのをうかがっているはずだ――ならば、今はこれでいい。仮にエルが再起の時を狙っているとしても、今は敢えて支配されている風に見せかけるべきだ。そうでなければ、それこそ自分たちがまだ海と月の塔にも到着していない段階で、エルは危険因子として人格を消去されてしまう可能性があるのだから。
そう考えながら結界を蹴りながら空中をジグザグに移動し、翡翠色の剣閃を避けながらも塔の方へと向かっていると、考えが込んでいるせいで予測が遅れたのか――まさしくこちらの進行方向にドンピシャの一撃が重なった。思わず「おほぉ!」と間抜けな声をあげながら右手で結界を張りつつ、ギリギリで剣閃の軌道を変えることで何とかすれすれ直撃は免れたが、駆け抜けていった一撃が自分の横髪を幾分かかすめていった。
まさか、リーゼロッテの意志を読みたがえたのか――というより、こちらの空中軌道の癖を読み切ったのだろう、それで先ほどよりも正確な一撃をこちらにはなってきたのだ。
「いや、あの人怖すぎでしょう!?」
思わずそんな風な声をあげたタイミングで、後からこちらへ向かってきていたチェン・ジュンダーが横に並んだ。
「貴女もなかなか器用に動きますねぇ……まさか本当に宙を走るものがいるとは思いませんでした」
適当なことを言いながら、チェンは操っている布袋戯を的確に操り、機械人形が持つ銃器でこちらへ向かってきている飛行型の第五世代を迎撃している。
「そういうチェンさんも! 若く見えて結構な歳なんですから、物に乗って移動するなんて横着せず、ちゃんと走った方が良いですよ!」
「はは、言いますねぇ……まぁ、貴女の言う通りにすることにしますよ」
言いつけ通りに男はそのまま氷の道に着地し、先導するT3達に追いついたようだ。彼が先頭に立った瞬間、再び塔の方から強大な気配が走り――塔の五階部分辺りから強烈な熱線が氷の道を走る仲間の方へと照射された。
第七階層の獄炎の魔術、それはチェンの七星とアガタの第六天の結界を掛け合わせれば防ぐことは容易だろう。しかし、敵の真の狙いは、氷の道を破壊することにあるようだ――実際、その強烈な熱波は上空を走る自分の方まで来るほどであり、呼吸をすれば肺が焼けてしまいそうなほどである。出来合いの氷の道など、あの超高温地獄の中にいれば、瞬時に破壊されてしまうだろう。
チェンが念力を使えれば、仲間たちを布袋戯に乗せて残りわずかな距離を一気に飛ぶこともできただろうが、彼は結界による防御で手一杯だ。熱線が海を焼き、凄まじい水蒸気が吹き荒れる中、あわや皆海に落ちてしまったかと思った瞬間、布袋戯に乗った仲間たちが煙を抜けて塔との距離を一気に詰めているのが見えた。アレは、なるほど、チェンの代わりにブラッドベリが念力を作動させ、仲間たちが海の藻屑になるのを防いでくれたようだった。
自分も仲間も移動は大詰め、もはやこちらを狙えば、敵側の攻撃が塔の瓦解を招く距離まで接近できた。そうなれば、後は一気に駆け抜けて、あの塔の南面に穴をぶちあげて侵入するだけだ。最後に思いっきり特大の結界を蹴って跳躍し、仲間たちよりも早く塔へと到着し――。
「……チェストォオオオ!!」
加速の勢いと気迫とに身を任せ、青く輝く塔のガラスに蹴りを放つ。海と月の塔の外壁は強力な強化ガラスの上に常に結界と対魔術障壁が張られており、ありとあらゆる攻撃に対して強力な防御力を誇る。しかし、自分ならば結界を中和しながら魔術を用いない攻撃、つまり肉体言語によって破ることができる。
魔術障壁と結界を突き抜け、最後の障壁である強化ガラスにブーツの底を突きつけ――流石強力な強化ガラスなだけあって、そのまま突き破って侵入とはいかなかったが――そのまま空中で身体を捻って一回転し、踵でガラスに入ったヒビの中心に回し蹴りを入れると、今度こそ海と月の塔の一部に穴を開けることに成功したのだった。
そしてそのままの勢いでガラスの散らばる内部へと侵入すると、すぐに後から仲間たちも自分の後を追って塔内へと入ってきたのだった。