B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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セブンスの焦り

「さて、続きをしようかセブンス。僕のこの力は全て借り物……ローザと同じように、戦闘力の高い素体に様々なプログラムを組んでいるだけで、君のように自らの研鑽で培った力じゃない。でもね……!」

 

 そこで言葉を切って少年の姿が消え、再び瞬間移動からの猛烈な攻撃が始まる。

 

「JaUNTを扱う精神力は……」

「ストレイライトを創り出す技術力は……」

「僕自身のものだ!」

 

 右京の声は前後左右上下様々な方向、しかも様々な距離から聞こえてくる。ひとつひとつは反応できないほどの速度ではないものの、それでもその変則的な攻撃には対応するのが難しく、また防戦一方になってしまう。

 

 しかし、なんとなくだが星右京の感情の正体が見えたかもしれない。端的に言えば劣等感だろうか。彼がこちらに対して抑止力と言ってきたのはクラークと自身を比較した結果なのだろうし、自分を目の敵にしてくるのは同じ聖剣の勇者としての経歴を持つ者として――修行して技を会得したこちらに対し、借り物の力で戦っている自身の不甲斐なさからくる劣等感に苛まれている、と言ったところだろうか。

 

 そしてその劣等感から来る怒りは、何故か他者に対してでなく、彼自身に対して向かっているようにも見える。クラークに適わない自分、借り物の力で戦っている自分――それが不甲斐なくて情けなくて、それが自身に対する怒りになっているような印象を受ける。

 

 成程、自分がやりにくいと思っていた正体はこれだったのだろう。彼は確かに怒りを力にしているが、それはこちらに対するものではなかったのだ。こちらに対しての感情より、彼自身に対しての感情が強い――だからいまいち殺気を読みにくい。それが不思議な威圧感の正体だ。

 

 しかし、相手の理解が深まったところで何ができるわけでもない。星右京は確かに怒りを抱えているものの、だからと言って精神的な動揺をきたすタイプでもない。恐らく彼自身は常態化した自己嫌悪に陥っており、ある意味ではこの状態こそが彼にとっての当り前なのだろうから。

 

 ともかく、今は下手に反論をするよりも、現状の打破を試みるべきだ。何度かラグナロクのエネルギーは右京に向けて放っているが、それはいとも簡単に瞬間移動で躱されてしまっている。恐らく、ルーナが使っているのと同様の防御プログラムが発動しており、自分が相手の気配を察知するのと同じように、向こうもこちらの攻撃の気配を察知し、瞬間移動をできる様にしているのだろう。

 

 そうなれば、狙うべきは星右京ではなく、他の誰か――防御プログラムを搭載していないのは恐らくリーゼロッテ・ハインラインのみ。ただ、彼女は自前の戦闘センスがあるし、何よりあの身体はエルのものだ。そうなれば、狙うべきは――。

 

(……一か八か!)

 

 剣を強く握って刃に想いを込め――右京の出現地点を予測して移動し、ある地点で剣を思いっきり振り上げる。そこは右京が発射してきたブラスターの射線とアルジャーノンとが重なる地点――相手の攻撃を斬撃によるエネルギーで巻き込み、そのまま魔術神を巻き込むのが狙いだ。

 

 もちろん、アルジャーノンが宿っている身体もソフィアの師匠のものというのは分かっているが、既に人格も消去されており、残っているのは肉の器だけ。アルジャーノンを倒すことが出来れば、かなり事態は改善する、そう思っての攻撃だったのだが――。

 

「ちょいさぁ! 危ない危ない……でも、その動きはこっちも読んでたんだよねぇ」

 

 轟音が響いた直後、その人を小ばかにしたような声が自分の横から聞こえてきた。黄金色の剣閃は何者をも巻き込むことなく、空振りに終わってしまった。

 

 右京がアルジャーノンを転送させたという訳ではなく、彼自身が言っていたようにこちらの動きを読んでおり、物理的に躱した。あの轟音は、ADAMsが起動する時と同じもの――アルジャーノンは加速装置を搭載しているのではなく、飛行の魔術で無理やり音速を超えて移動をしたということなのだろう。

 

 背後から気配を感じる――剣を振り上げてしまったせいで、相手の動きに対して対応することができない。せめてダメージを抑えようと身を翻し、何とか急所への一撃は避けられたが――背面から突き出されたブレードが脇腹を抉る。

 

「勝負を焦ったね、セブンス。君は均衡を破るべきではなかっ……」

 

 背後からの声が途中で途切れたかと思うと、自分の体が何者かに抱きかかえられて凄まじい速度で移動をした。気が付けば塔の外へと出ており――どうやらT3に窮地を救ってもらったようだった。淡い光を放つ男の義手がこちらの脇腹に添えられており、傷も徐々に塞がってきているようだった。

 

「T3さん、ごめんな……うぅ……!」

 

 自分の失態を謝ろうと声をあげるが、身体が痛んで思わずうめき声をあげてしまった。直撃こそ免れたものの、T3の救援があと少し遅かったら自分の体は胴から真っ二つにされていただろう。

 

「喋るな……内臓をやられていて、傷は浅くはない。だが、そこまで出血しないうちに傷を塞ぐことはできた。命に別状はないはずだ」

「あ、あはは……私、この塔とは相性が良くないのかもしれないですね」

 

 夢野七瀬は海と月の塔で散り、自分もあわやという所まで追い詰められてしまった。とくに、今は重大な時なのに――実際、借り物の力で戦っている星右京に対する驕りがあり、それ故に勝負を焦ってしまったというのは否定できない。

 

 もっと正確に言えば、自分は星右京やダニエル・ゴードンという人達の執念を甘く見ていたのだろう。焦りと油断が軽薄な行動を後押しして、このように皆に迷惑をかけてしまった。自分の不甲斐なさに、思わず視線が金色の海へと落ちてしまう。

 

「そうだな……だが、今回は間に合ってよかった」

 

 今まで聞いたことないほどの柔らかい声に顔をあげると、T3は優し気に目を細めて自分の方を見つめていた。しかしその優しい微笑みは、すぐに自虐的な笑みへと変わり、T3は髪を揺らしながら首を横に振った。

 

「とはいえ、完全に守れたわけではないからな。私の方こそすまなかった」

「いいえ、元はと言えば私がへまをしたのが悪いんです……ともかく、早く戻りましょう。チェンさんたちが……ピンチなはずですから……」

「今のお前では戦力にならん。少なくとも、七柱を相手にするにはな」

「でも……」

「お前の代わりに私とナイチンゲイルが合流する」

 

 そう言いながらT3が見つめる先には、赤く流れる流線が空を走っているのが見えた。どうやらソフィアの方も外での戦闘に一段落をつけて、こちらの方へと向かってきているようだった。

 

「お前はこの場で自分の身を護ることに専念するんだ。いけるか?」

「はい……第五世代型相手をするくらいなら、何とかいけそうです。それで、せめて……これを持っていってください」

 

 剣の溝に嵌めていた調停者の宝珠を取り出し、T3の方へと差し出す。七柱の創造神たちに対抗するには、この力が必要なはずだ――トリニティ・バーストの強力さは勿論だが、一つの目的に向かって心を束ねることが必要になると思う。ソフィアが合流してくれるのなら、ちょうど四人担って扱えるはずだ。

 

 今回の戦いにおいて、仲間たちに厳しい局面を預けるのは心苦しいが――T3の方も驚いたように目を見開き、しかしすぐにこちらの手から宝珠を受け取って、強く頷き返してくれた。

 

「今回だけだ……私はお前以外に背中を預けるつもりはないのだからな」

「それって、どういう……?」

 

 こちらの質問を最後まで聞くことなく、T3は文字通り風のように去っていってしまった。

 

 ◆

 

「……すれすれのところで逃げられた、か」

 

 刃で宙を切った後、星右京はクラウディア・アリギエーリが開け放った大穴を見つめながらそう呟いた。

 

 状況から察するにT3がADAMsでセブンスを救い出し、一時的に離脱したということなのだろう。しかし、状況としてはかなりマズい。四人で戦って押されていたところに、二人が離脱してしまったのだから。もちろん、いたずらに戦死者を出さなかったのは幸いと言えるが、自分とブラッドベリの二人で四柱の相手をしなければならないというのは、あまり現実的な状況とは言い難い。

 

 今は四柱はそれぞれ手を止めており――いつでもこちらを御せると思っているのか――右京は階下にいるリーゼロッテ・ハインラインの方を黙って見下ろしている。対するハインラインは肩をすくめて微笑みを浮かべていた。

 

「私はあの男が離脱できないよう、重力波を設置していたわ。単純にT3がその執念で、楔を振りほどいたというだけよ。そういう意味じゃ、彼の決意と行動力を褒めるべきところだと思うけれど?」

 

 女の返答に対して右京は小さくため息を吐きながら首を横に振り、今度は虚空を見つめながら――恐らくこちらに視認できない映像で他の場所の状況を確認しているのだろう――話を続ける。

 

「一気に畳みかけたいところだけれど……どうやら最下層まで侵入されてしまったみたいだ。僕は晴子を止めなきゃならない。残りは皆に任せるよ」

 

 そう言いながら、星右京は忽然と姿を消してしまった。彼の言い分が確かなら、ひとまずレム達が最下層に着くまでの時間稼ぎは成功したということになる。

 

 もちろん、稀代のハッカーである右京とデータにしか過ぎないレムとでは、その相性は最悪と言っても良い。JaUNTはクラウディアが対処をしてくれるだろうが、あとはレムさえ間に合ってくれれば――。

 

 それに、人の心配などしている暇はない。敵側もトリニティ・バーストが切れたといえども、依然として数の違いは覆せていないのだから。ブラッドベリは持ち前の再生能力を宝珠の加護で加速させて、なんとか魔術神の猛攻に耐えていたのだから――実際、今は傷の治りも遅くなっている。彼の不死性を考えれば絶命はしないかもしれないが、これ以上のダメージを負えば戦闘不能になってしまう恐れもある。

 

 しかし、最も警戒すべき相手である魔術神アルジャーノンは大穴へと飛翔をしていき、外へと飛び立つ前にローザとリーゼロッテの方へと一度振り向いた。

 

「僕も離脱するよ。どうやら、ソフィア君がこちらへ向かってきているようだからね……塔の内部はせまっ苦しくてやりにくいし、感応デバイスを使わないのなら別行動でもいいだろう? ブラッドベリは頑丈で面白かったけどさ、そろそろあの子との因縁にも決着をつけないとね」

 

 そもそも、乱暴ごとは嫌いなんだけれどね、ダニエル・ゴードンはそう付け加えながら外へと飛び出していった。奴を外に放出するナイチンゲイルとノーチラスが危険ではあるが、自分とブラッドベリだけで三人を対処しなくても良くなったのは不幸中の幸いでもある。

 

「舐められたものだな……我々二人など、取るに足らないと判断されているということか?」

 

 そう言いながら、魔王ブラッドベリはボロボロになったマントをはためかせて自分の左隣に並んだ。体中から煙が上がっており、魔術神よりつけられた傷を再生しているが――本来なら百回は死ぬような猛攻を耐えきった彼に敬意を評しつつ、再生を手助けするために回復魔法を掛けながら、こちらに向かって構えているローザ・オールディスとリーゼロッテ・ハインラインの方を睨む。

 

「まぁ、良いじゃないですか。私は本来裏方が得意ですから、あまり正面からドンパチやるのは性に合っていないですからね。それに……実質的に、我らの目的は概《おおむ》ね達せられたといっていいでしょう」

「……どういうことじゃ? 確かにレム達は最下層に侵入したようじゃが……右京が向かったのじゃ、レムがこの塔のコントロールを取り戻すことはあり得んじゃろうが」

「すでにレム達は最下層に辿り着いた……私たちの目的は、大体それだけで達せられるほど単純なものだったということですよ」

 

 ローザ・オールディスは訝しむ様な表情をこちらへと向けてくる。彼女は、自分たちの目的を――より正確に言えば、レムの悲願を理解していないのだ。

 

 ローザとしては、自分たちが海と月の塔のコントロールを取り戻すことを目的として襲撃を仕掛けてきたと勘違いしている。もちろん、自分の最終目標はそれであるが、それがレムと同じである訳ではない。もっと言えば、自分だってこの鉄火場で塔のコントロールを奪い返すなどという難しいことをするつもりもない――敵を全て掃討してから、ゆっくりと取り戻す方がよっぽど健常なのだから。

 

 それに、レムの目的はすなわち少女たちの目的と――何より亡き我が友の願いにも一致する。なんだかんだでグロリアたちとも付き合いも長いし、彼女たちの願いが叶えられるというのなら、自分としてもそれはやぶさかではないのだ。

 

「……貴方達DAPAの幹部たちが最も恐れた伝説の男が戻ってくるというのです……それはそれで、面白いとは思いませんか? リーゼロッテ・ハインライン」

 

 こちらの質問に対し、リーゼロッテ・ハインラインは美しい笑みを浮かべた。彼女は恐らく、最初から自分たちの狙いなど分かっていたのだろう。だからこそ、エリザベートの抵抗を敢えて受け入れ、クラウディア・アリギエーリを先に行かせた――彼女の目的は、それでも達成されるのだから。

 

「えぇ、素敵ね……盛大に歓迎するために、きっちり身体をあっためておかないと」

「うひぃ、まだウォーミングアップが終わっていないというのですか?」

「……それは聞き捨てならんな」

 

 セブンスを安全な場所まで退避させてきたであろうエルフの男が自分の右側へと並んだ。確かに先ほど武神と激戦を繰り広げていた本人としては、アレでまだまだ本気を出していなかった、等と言われれば腑に落ちないのも頷ける。

 

「戻ったのですね、T3」

「あぁ。貴様にこれを」

「これは……」

 

 T3の義手には、琥珀色の宝石が握られていた。自分はそれを受け取ることをせずに視線を上げると、男は相変わらずの真顔で真っすぐにこちらを見ている。

 

「私は人を統べるタイプではないからな……それにこの戦争を始めたのは貴様だ。だから、貴様が持っておけ」

「私も人をまとめるタイプではないのですが……まぁ、受け取っておきましょう」

 

 こちらが手を差し出すと、その上に宝珠が落とされる。確かにT3を起点に感応デバイスを起動するのもイメージできないし――何より、この戦争が自分の戦争というのは妙に腑に落ちたというのもある。

 

 T3は宝珠を渡した後、すぐに弓を構えて刃の腹で肩を叩いている武神の方へと向き直った。

 

「勘違いしないで欲しいわね。貴女がセブンスの方に気を取られていて素気無いから、こっちも本気を出していなかっただけよ」

「それなら、今から本気を出すのだな。さもなければ、奴が戻ってくる前にその首が跳ぶことになる」

「ふっ……面白いじゃない。せいぜい私を楽しませてみなさい!」

 

 そう言って、T3とハインラインは激しい戦闘へと突入した。先ほどはセブンスが気になるあまりに全力を出し切れていなかったT3は、今度こそ武神との戦いに集中しているようだ。地力そのものでは一歩及んでいないのだろうが、それでも確実に食らいつき、生と死の稜線において活路を見出している――そんな力強さが今のT3にはある。

 

 ついで、回復魔法で傷の癒えたブラッドベリが、自分の横から一歩前へと歩み出た。

 

「ゲンブ、あやつの相手は私に任せろ……先日操られた借りを返してやらんとな」

「えぇ、頼みますよ魔王様。私の本来の持ち味は後方支援ですから」

 

 自分は数歩下がり、ローザ・オールディスと対峙するブラッドベリの巨大な背中を見る――このポジションならば戦況を把握しながら回復魔法と布袋戯でT3とブラッドベリの援護ができる。

 

 何より、もうじき無敗の虎が戻ってくるというのだ。それまでこの場を維持すればいい。たった一人戻ってきたところでこの戦況が覆るなど、以前の自分ならば現実的でないと笑っただろう。しかし戦闘で気分が昂っているせいか、はたまた自分も虎に賭けたくなっているのか――勝機がこちらへと傾いてきている、そんな高揚感を抑えることができなかった。

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