B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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アラン・スミスの帰還

 塔の最下層に到着すると、敵の襲撃はピタリと止んだ。自分たちの入ってきた場所にはチェンお手製の七星結界を展開する護符を張っており、物理的に侵入されないように心がけているのだが、それでもメインエレベーターが動作していないのが気になる。ともかく、ひとまずは一息付けるといったところか。

 

 最下層の内部の構造は、以前の船であるピークォド号の動力室を想起させる作りだった。部屋のいたるところから様々な太さの配管が中央に向けてびっしりと敷き詰められており、そのパイプの向かう先である中央部分には、また巨大な機械が鎮座している。それは恐らくこの塔を制御する機械であるとともに、レムの本体である伊藤晴子が眠る棺でもあるのだろう――その中央部分には機械で覆われるようにガラスシリンダーが覗いており、恐らくあの中に彼女の身体が収められているのだ。

 

 だからだろうか、旧世界における科学の粋で作られているであろうこの部屋は、機械で敷き詰められた未来的な印象を受けると同時に、どこか厳かな雰囲気を感じられるのは。たとえあの棺で眠るのが神などではなく、自分たちと同じように肉の器にあり、様々な感情に振り回されてきた一人の人間だとしても――未だに誰かのために祈り続けている一人の人が、あそこにはいるのだから。

 

「それではアガタ、アンクをそこに設置して」

 

 レムに促されるがまま、アガタはアンクを機械に設置して、ホログラムの女神の指示のもとにコンソールを操作し始めた。自分もレムの指示に従って作業を手伝うのだが、如何せんプログラムというものの原理がちんぷんかんぷんであり、なかなかに作業は難航する。そもそも、自分は旧世界の文字が全く読めない――ソフィアはすぐに法則性を見出して理解していたのだから、あの子はやっぱり頭の出来が違うと思わされる。それと同時に、レムと旅をしている間にもう少しこういった勉強もしておくべきだったと後悔する。

 

 とはいえ、主にはアンクに入っているレムがプログラムの書き換えなどはしてくれているようであり、自分たちの役目はあくまでも補佐的な物だ。部屋に入ってからものの二分で自分たちは役目を終え、あとは画面を見守るだけになる。

 

 画面上に現れている進捗を表す棒が溜まっていくのを見守るのはなんとなく落ち着かないものがある。棒の動きは非常にゆっくりだが、それでも確実にレムが力を取り戻し、その目的はまさに今果たされようとしているのだ。

 

「……そこまでだ」

 

 その声が響くのと同時に、画面の動きがピタリと止まってしまった。それどころか、画面には黒い窓のようなものが高速で浮かんでは消え、浮かんでは消え――素人目に見ても何かマズいことが起きているというのは直感的に理解できた。

 

 ただ、いつまでも画面に向かって慌てている場合でもない。突如として現れた声の主が、どこからともなく攻撃を仕掛けてくるはずなのだから。まずは上方から降りてくる熱線を後ろに跳んで躱し、今後は左からくる刺突の一撃を結界で防ぐ。そこで相手からの攻撃の意志が一旦止み、メインエレベーターの扉の前に星右京が姿を現したのだった。

 

「……セブンスは僕を止められなかった。それなら、君が抑止力だというのか?」

「さぁ、どうでしょうね?」

 

 少年は無表情に努めているが、自分の返答に対して僅かに眉をひそめたのを自分は見逃さなかった。彼の言いたいことは何となくだが分かっている――高次元存在からの刺客として、JaUNTを見破る相手が差し向けられており、それが自分やナナコかもしれないと勘違いしているのだろう。

 

 だからこそ、自分は敢えてとぼけて見せた。実際の所、自分は高次元存在に誰かを止めて欲しいと依頼されて戻ってきたわけでもないし、それはナナコだって同様だ。ただ、高次元存在は可能性を見たいだけ――そのために少しだけ頑張る人に力を貸してくれているに過ぎない。

 

 何より、もしも星右京に対する抑止力があるとするのなら、自分やナナコよりも相応しい人が居る。レムの狙いを挫いたと思い込んで涼しい顔をしているあの顔に、気持ちのいい一発を入れるべき人が自分以外に居るのだから。

 

「しかし、残念だったね晴子。海と月の塔のコントロールを奪い返し、深海のモノリスを使って海に捕らえられている第六世代たちの魂を解放しようとしていたんだろう? だが、それは……」

「……本当にそうだと思いますか?」

 

 自分と同様に素気無い返事を返すレムを見て、今度こそ右京は露骨に不機嫌を顔に表す。

 

「もちろん、私は塔のコントロールを奪い返そうとしていました……しかし、それはあくまでも手段であって目的ではありません。そして私の目的は、たった数秒でもモノリスと接続し、ほんの少しだけ権限を復活するだけで達成されるモノだったのです」

「……なんだと?」

「本当は分かっているのでしょう? 私が何を考えているか……そして、この後に貴方の身に何が起こるのかも、全てね」

 

 そう、本当は彼も理解しているのだ。この部屋にレムが辿り着いた時点で、こちらの目的は既に達成されているのだということを。しかしそれを頑なに認めたくなかっただけなのだろう。

 

 瞳を閉じて、魂の深層へと意識を向ける。此方《こなた》と彼方《かなた》の境界線に向けて、魂の繋がる糸の絡まる人差し指を差し出し、それをグッと引き寄せる。これは準備が済んだという合図。こちらが指を引いたのに合わせ、確かに彼方からの反応を感じ――そして瞼を開けると、モニターに映っている光さす海面を見ながら右京が顔を青くしながら視界に入ってきたのだった。

 

 

 ◆

 

 T3に連れ出された塔の外で飛行型のアンドロイドと応戦していると、不思議な感覚が銀髪の少女の身を貫いた。その感覚の発信源の方を見ると、彼方の海から――金色の海の水底から、何か強烈な意志が発せられていることに気付く。

 

 それは、彼女にとっては懐かしいものだった。きっと遥かな昔、いつかどこかの場所、どこかの世界で感じた強い意志――それはオリジナルからクローンの少女へと継承される、魂に刻まれた記憶。

 

 少女がその懐かしさに幾許か放心していると、遠くの海から一層強い強烈な光が海の底から巻き上がった。そして少女は叫んだ。「あの人が戻ってくる!」と。

 

 塔の地上部分ではチェン・ジュンダーらとハインライン、オールディス両名との戦闘が続けられていた。そんな中、ふとT3と交戦を繰り広げていたハインラインが手を止める。T3も彼女の視線の先に異様な気配を感じ、思わず振り向いてその気配を手繰った。

 

 気配の先にはセブンスが見たのと同じ、いつの間にかホールで戦っていた者たちは一様に渦を巻いて立ち昇る光の柱を見ていた。

 

「……来たわね!」

 

 そう声をあげたのは、リーゼロッテ・ハインラインだった。彼女の顔は狂喜に満ち、渦を見つめる瞳の動向は開ききっている――本来の肉体の主であるエルも同様に、その光の先から感じる気配に胸を高鳴らせていた。

 

(あぁ、あの人が戻ってくる……)

 

 自らがしたことが消えるわけではないけれど、それでもあの人が戻ってくるのなら――自分だっていつまでも沈んでいるわけにもいかない。そう気持ちを強く持ち直す。

 

 ノーチラス号のブリッジからも、海底から立ち昇る光は確認できた。シモンは席から身を乗り出し、その光の柱を指さして見せる。

 

「あの光が立ち昇っている所まで行くんだ!」

「しかし、敵の動きが……」

 

 ジブリールがシモンの言葉を否定しようとした瞬間、レーダーを見ているイスラーフィールが「いいえ」と言葉を遮った。

 

「敵が動きを止めている……正確にはキーツ配下の無敵艦隊が攻撃を止めています。飛行型第五世代型はまだこちらに攻撃を仕掛けてきてますが、これだけなら自前のバリアで何とかいけるでしょう。

 それであそこまで行ったらどうするんですか、艦長?」

「決まってる! あの人が戻ってこれるように、アンカーを射出するんだ! アンカーが海底につき次第、全力で巻き上げてくれ!」

 

 シモンは高らかに声を上げ、イスラーフィールがアンカーの長さが規定の深度まで届くか試算している傍らで、ジブリールはドワーフの青年をどこか呆れた目で見つめていた。

 

「艦長って呼ばれて調子に乗っちゃって」

「良いんですよ。肩書一つでやる気が増すのなら安いものです」

「はぁ……アナタ、なんだか人の扱い方が上手くなってきたわね」

 

 そうぼやきながらも、ジブリールは未だ艦に攻撃を仕掛けてくる飛行型の第五世代を艦に搭載されている武器で的確に落とし続けている。対するイスラーフィールは盛り上がっている艦長の指示通り、安全な航路を計算しながら目的地へと舵を切った。

 

 塔へと向かっていたソフィアとグロリアは、往く手をアルジャーノンによって阻まれていた。外へと出た魔術神はその勢いを増しており、嵐を呼び、津波を起こし、稲妻を走らせ――その強大な力の渦に鳥は翻弄されるが、ただ一点、速度においては優位性があった。嵐の中に飛び込んでは不利になるため、小夜啼鳥は魔術神から距離を離しながら好機が来るのを待っていた。

 

 本来なら相手に背を向ければ不利になるのだが、ソフィア・オーウェルには頼れる目がある――グロリアが後方を確認しながら相手の攻撃を避けられる軌道を計算してくれるので、ソフィアは沖の方を見ながら、魔術によって水柱の金色の海の上を超音速で飛び交っていた。

 

 そんな折、立ち昇る光の渦が少女の視界にも入ってきたのだった。

 

『あの光は……!』

 

 あの場所は、女神レムが海底のモノリスが沈んでいると語った場所に一致する。そしてこのタイミングでそこから光が立ち昇るとなれば、恐らく塔へと向かったメンバーが作戦行動を成功させてくれたに違いない――何より、あの光にはあの人の強さが感じられる気がする、そんな確信にソフィアは、そして魂の同居人たるグロリアも心を躍らせた。

 

「成程、アレが海中に眠っていた不確定因子か!」

 

 二人が立ち昇る光に意識を奪われていたせいで、声の聞こえる地点まで魔術神の接近を許してしまっていた。振り返ると、ダニエル・ゴードンは少女に目もくれないで、渦の巻きあがるその水底を凝視していた。

 

「大方、アレが君たちの狙いだったんだろうが、僕が外に出ていたのが運のツキさ! 君達の希望とやらを、この場所から君ごと狙い撃ってくれる……ムスケェンタス!」

 

 男がレバーを引いた直後、七色の魔法陣がその身の周りを飛び交いだす。アレはピークォド号を落とした魔術であり、その威力は遥か海の底まで到達するだろう。いくらあの人が超音速で走ることができるといっても、海底ではその能力は扱うことができないはずだ。

 

『私たちが盾になってでも、あの魔術を防がないと……!』

『勝負に出る前から弱気になるんじゃないの! アナタもあの人も、私が護って見せるんだから!』

 

 ソフィアにとってあの人のために自分の身を差し出すことに何の抵抗が無いのに対して、グロリア・アシモフには守るべき人が二人いる。初恋の人も多感な妹分も、どちらもとても大切な存在になっている――そうなれば、自分が二人を護らなければならない、グロリアはそう考えた。

 

 体のコントロールをソフィアから借り、グロリアは左手を正面へと突き出す。同時に、魔術神が魔法陣を杖の先端で叩き――そこから撃ちだされたのは圧縮された六属性の複合レーザーだった。

 

 特殊な波長で撃ちだされたその光線は、海中でも威力を減衰させず、確実に海底にまで届く――端的に言えばセレスティアルバスターと並ぶほどの威力の光線。以前にそれを防いだ時には、チェンとアシモフ、アガタの結界を合わせてギリギリ防げたというものであり、グロリア一人の結界では捌ききれる威力ではない。その証拠に、すぐさま七枚の内五枚は打ち破られ、残りの二枚も悲鳴をあげており、すぐにでも撃ち割られてしまいそうという所まで追い詰められてしまっている。

 

『……グロリア!』

 

 同居人の名を呼び、ソフィア・オーウェルが右手のコントロールを取り戻すと、少女はチェンから渡されていた最後の結界札を突き出した。グロリアが張っていた結界が割られてしまう直前に、七星結界がもう一度展開され――最後の一枚が割られる直前ギリギリで、ようやっと撃ちだされた魔術は中空に霧散した。

 

 突き出した両の掌は焼き爛れ、札も塵となって落下していく――しかし少女が視線をあげたその先で、魔術神はもう一度杖のレバーを引きながら口元を吊り上げていた。

 

「涙ぐましい努力だが……僕はやると決めたことはやる性質でね。次こそは仕留めさせてもらうよ」

 

 もう一度同じ魔術を撃たれたら、今度は防ぎきることはできない。避けることは可能かもしれないが、そうなったらあの人を護る盾が無くなってしまう。どうする――少女が悩んだその一瞬、また別の方から巨大な光線が射出されてきた。しかしその攻撃は、小夜啼鳥にとって敵だらけのこの空域において、魔術神に向けて放たれたのだった。

 

「くっ……邪魔をするのか、キーツ!」

 

 その意外な一撃に驚いたのか、魔術神は魔術を編むのを中断し、自らを狙ってきた攻撃の主の方へと向けてそう叫んだ。確かに先ほどの一撃はフレデリック・キーツの戦艦から放たれたものであり、ソフィアやノーチラス号を狙ったものではなかった。その上、辺りで攻撃を中断していた戦闘機も、アルジャーノンに向けて一斉に攻撃を開始している。もちろん、魔術神を相手に機銃やミサイルの類などは通用せず、彼は風の魔術や結界でそれらを防いでいるのだが――様々な方向から行われる攻撃に対し、さしもの魔術神も少女達に意識を向けることができなくなっていた。

 

 なぜ唐突に同士討ちを始めたのか、ソフィアは疑問に思った。確かにフレデリック・キーツは右京らに賛同している訳ではなく、その証拠に極地基地ではこちら側に立って参戦してくれた。先ほどまで敵対していたのは、偏に星右京に艦隊を操られていたからに他ならない。

 

 ということは、塔のコントロールを取り戻すことに専念しているなどの要因で、現在右京は無敵艦隊を操れる余裕を失っているというのが妥当だろうか。ソフィアのその予測は正解でこそあるのだが、二柱が敵対した要因までは細かく分析できているわけではなかった。

 

「キーツのおじさま……」

 

 グロリア・アシモフがコントロールする機械の鳥は、自らを護ってくれた人の名を呼んだ。グロリアは直感していた――あの人はきっと自分を守ってくれたのだと。

 

 もちろん、記憶の中にはソフィアを気に入った様子もあったし、魔術神を好きにさせては息子のシモンに危害が及ぶなど、色々な感情があったのかもしれない。しかし、今彼がアルジャーノンに攻撃したのは、恐らく自分が要因だと思う――あの人にはファラ・アシモフに対する特別な感情があったことは知っているし、それとは関係なしに幽閉状態にあった自分を気遣ってくれていた。

 

 もしかすれば、それは想い人の娘という捻じれた感情や、非人道的な実験や待遇に対して何も言えない負い目など、かなり複雑な感情があるのだろう。グロリアの方としても、キーツに対する評価に関しては、人柄が悪くなくとも、結局あの人を奪った組織で影響力のある人物ということで、その評価は複雑なものであったが――ともかく今、間違いなくフレデリック・キーツはチャンスをくれた。それだけは事実であり、そしてその事実はグロリアに不思議と温かい想いを抱かせてくれていた。

 

「ソフィア、チャンスよ。今のうちに向かいましょう!」

「……うん!」

 

 小夜啼鳥は魔術神の相手をキーツに任せ、立ち昇る光を目指して飛び立った。近づいた時には、既にノーチラス号がその海底に向けてアンカーを撃ちだしていた。そして次第に光の渦が収まり、ノーチラス号から海底へとむけられた鎖が巻き上げられ始める。

 

 海と月の塔の最深部、少年は鎖が巻き上げられているのを落ち着かない様子で見つめていた。あの場所は海底に異常な力場が発生しており、何があるのか分からなかった場所だった。そして、何となくだが計画の邪魔をする存在が眠っている場所であると直感していた場所でもあった。

 

 しかしその力場をどうすることもできないまま一年が過ぎ、次第にそのことを忘れていった。考えないようにしていたというのが正しいかもしれない――ただ、計画が実行されるのが早ければ、自分はアレと向き合わずに済む。そう考えて金色の海の研究を進め、ある程度のコントロールも可能になり――ストレイライトもその成果の一つだ――もうじき全てを無に帰すという宿願が成就される所まで来ていたのだ。

 

 そんなタイミングであの人が戻ってくるというのは、紛れもない運命のいたずらだ。いや、全ては高次元存在に仕組まれていたことなのか。そうなれば、やはり自身がデイビット・クラークと並ぶ脅威と認定され、それを打開するための上位存在は抑止力を温存していたのだ――少年はそう考えた。

 

 それにキーツに指摘されたように、あの人が戻ってくるという予感は常にあった。だが同時に、仮に本当に蘇ったとしても、あの人がヘイムダル時点で見せていた力を鑑みれば、十分に抑え込めるはず――現状の戦闘力そのものはセブンスや小夜啼鳥、クラウディア・アリギエーリの方が厄介と言えるレベルであり、物理的にはいくらでも抑え込めるはずなのだ。

 

 しかしそれでもイヤな予感が収まらないのは、皮肉なことに少年自身が、水底から浮上してくる人物が数字で語れないことをこの世界で最もよく理解しているせいだろう。少年は不可能を可能にしてきた伝説の虎の活躍を、最も多く目の当たりにしてきた生き証人なのだから。

 

 最初の時は体内にある時限爆弾を使った。二回目はレムが掛けている自然治癒を排除して自壊させた――しかし今回は? 今度こそ確実に仕留められる手段無しに、あの人と対峙しなければならないのかもしれない。

 

 そうなれば、あの人をどうやって倒す? 数字上、統計上ではいくらでも抑え込めるはずなのに、どう思考を回しても上手くいく気がしない――体中から汗が噴き出すのを感じるのと同時に、背後から少年のよく知る人物の声が背中にぶつかってくる。

 

「さぁ、来ますよ……今度現れるのは、星が夢見た紛いものではありません。かつてDAPA要人を震撼させた、伝説級の暗殺者……貴方が最も尊敬し、貴方が最も恐れた人、その本物が、あの水底から!」

 

 タイガーマスク、邪神ティグリス、原初の虎――周囲のスピーカーからそれぞれ別の声で、様々な肩書が聞こえてくる。だが、あの人にもっと相応しい二つ名は別にある。それは、遥か昔にエディ・べスターが何気なく付けたありふれたコードネーム。少年自身がこの星において意味を持たせた、その名は――。

 

「アラン・スミス!」

 

 すべての口から同じ名が呼ばれるのに合わせ、アンカーの先端が海面からその姿を現す。錨《いかり》の上部に人影があり、その人物は鎖が収納される勢いを利用してそのまま艦の上へと着地した。

 

 そして、海底から引き揚げられた男はやおら辺りの状況を見回す。外では未だ激しい戦闘が行われており――その中でもゴードンがノーチラス号を上空から撃ち落とそうとしているようだった。

 

 それに対し、男はゆっくりと腕を回し始める。ボロボロの繊維の下に覗く腕は一見すると有機物で構成されているように見えるが、所々に継ぎ目のような黒い線が走っており、それがどこか機械的な印象を受ける。

 

 そして彼の闘志に呼応するように、男の顔に黒い紋様が浮かび上がった。それこそ、かつて彼がタイガーマスクと呼ばれた証、本物の原初の虎が復活したという証拠である。

 

「……変……身!」

 

 アラン・スミスは低い声でそう叫び、回していた右腕を素早く動かしてベルトのバックルを弾いた。すると、青年の体が強烈な光に包まれ――直後、ノーチラス号から伸びる赤い稲妻が黄金色の海の上空を走ったのだった。

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