B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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虎と技術者の因縁

「……危ない所だったね、ゴードン」

 

 掛けられた声で飛びかける意識の中で声をかけられ何とか我を取り戻し、吹き飛んだ右腕の傷口と受けた内臓のダメージを回復魔法で治療する。次第に意識も明確になり始めて辺りを見回すと、そこは海と月の塔の最上部、普段はローザが居城としている一室へと移動していた。

 

 そして室内には星右京が居り、どこか神妙な――彼本来の神経質さが出ているというべきか――表情で分割されたモニターを見つめていた。

 

「余計な真似を……と言いたいところだが、今回ばかりは助かったよ……まさか、魔術も武器もなく、七星結界を破ってくるとは思いもよらなかった」

「これで分かっただろう? 僕があの人を警戒する理由がさ」

「痛いほど身に染みた……もうあんまり相手をしたくないね。それより、状況は?」

「端的に言えば、そこまで大きな違いはない。深海のモノリスのコントロールを数パーセントほど晴子に奪い返されてアレイスター・ディックの右腕が吹き飛んだ。あとは、原初の虎が戻ってきたくらいだよ」

「成程……それで、どうするつもりなんだ? ハインラインとオールディスをつれて、一度月まで退避して体制を立て直すか?」

「いいや、そんなことをすれば塔のコントロールを完全に奪い返されてしまい、僕たちの計画が水泡に帰してしまう可能性がある。そうなれば、倒せそうなところから各個撃破していくのがベターだと思う」

「ふん、僕たちの計画ね……何やら君は独自に研究を進めて、もう海に捕らわれた魂が無くとも高次元存在にアプローチする手段を得ているんじゃないかい?」

 

 こちらの質問に対して、右京は見慣れた薄ら笑いを浮かべた。内心を気とられないようにとしているこの状況こそ自分の言うことが図星だったのだろうという証拠なのだが、すぐに真面目な表情を浮かべて頷いた。

 

「その答えの半分はイエスだ。だが、確実じゃない。一か八か、成功するかも分からない手段だ。そうなれば、依然として海の魂を使うのがより確実な手段というのは間違いない。僕らはまずは塔の中にいる異分子たちを排除しよう」

「はは、素直に認めるなんて君らしくないじゃないか……それだけ追い詰められている証拠ってことかな? だが、原初の虎の相手はどうする?」

「それに関しては大丈夫だ……キーツが相手をしてくれる」

「お得意のハッキングか?」

「いいや、彼自身がやる気になったんだ」

 

 そう言いながら右京が見つめるモニターには、確かに無敵艦隊が敵に向けて攻撃を始める様子が映し出されている。先ほどまでは右京が無理やり艦隊のプログラムを動かしていたはずだが――彼が自分を攻撃してきたのも右京が艦隊のコントロールをしている余裕が無かったせいだろう――今は確かに、右京が何をしていなくても整然と、力強く動いているように見える。

 

「どういうことだ? そもそも僕はアイツに邪魔されたから、敵艦を沈めることができなかったんだ……それがなんで、唐突にやる気になってるっていうんだ?」

「簡単なことさ。フレデリック・キーツにとって倒すべき敵はただ一人……今も昔も原初の虎だけだったんだから」

 

 確かに、自分も情報としてはキーツとタイガーマスクの因縁は知っている。旧世界において、虎に対処するためにハインラインと共に策を練り、その度に様々なギミックを創り出し、そのすべてが破られたと――同時に、キーツは何人もの旧友を虎に屠られているとも。

 

 だが、自分としてはあまり納得がいかなかった。自分や右京のやり方が気に入らないのなら、まず奴らと組んででもしてこちらと戦えばいいのだし、逆にACO側が気に入らないのなら自分達と組んで徹底して奴らと戦うべきだ。それなのにキーツの奴と来たら、中途半端にどちらも敵に回す様に動いているのだから。

 

「納得してないって顔だね? 確かに、合理的な判断じゃないことは僕も認めるさ。でもね……少なくともキーツはそういう男じゃないし、そしてその相手もキーツと同じ側の人間なのさ。

 だから、あの二人が潰し合っている間に幾分か時間がある……そのチャンスを逃してはならないよ、ゴードン」

 

 どこか愉快気に眺めていたモニターを切り、少年は塔のホールへと向けた空間の亀裂を創り出した。そして彼に促されるまま、自分は杖のレバーを口で引きながら再び戦地へ向かうことにしたのだった。

 

 

 ◆

 

『……感動の再会は済んだようですね』

 

 ソフィアとグロリアのコンビにがっちりとホールドされて身動きが取れなくなっていると、脳内に覚えのある声が響き始めた。

 

『レムか?』

『はい。モノリスのコントロールを一部分だけ取り戻しましたので、こうやって通信も可能になりました。ひとまず端的に状況をお伝えします……ただいまの戦局と、今のアナタの体についての解析結果についてです』

 

 レムの説明により、現状の戦局は大雑把に把握はできた。外はノーチラス号とソフィア、塔の内部にチェンたちが居り、最深部にクラウディアとアガタが居る。とくに最下層では右京の乱入があったようだが、自分が復活したのちにJaUNTで一度退避したため、クラウとアガタは塔を昇り始めているようだった。

 

 自分を蘇らせるためにかなり無茶な作戦を決行してもらったようだが、作戦開始時から欠員が出ていないというのは僥倖だ。もう何も奪わせてなるものか――そう決意を新たにしていると、引き続きレムの声が脳裏に響く。

 

『それで、アナタの体についてですが……お察しのように、オリジナルとクローンの身体が互いの不足を補いあう形で融合させました。そもそも海底で不足分の質量を補うだけの要素も無かったのはありましたが、まったく同じ遺伝子情報を持つ者同士、拒絶反応もなく融合を果たしています。

 エディ・べスターの作り上げた機械部分が筋肉と骨格を構成するナノマシンとして融合しており、変身せずともサイボーグの時と同じくらいの力が出せるうえ、ADAMsの使用にも耐えられるようになっています。それに生身としての特性も強く持っているので、治癒魔法や代謝の促進による回復も可能です』

『いいとこどりだな。流石だぞレム』

『えっへん、どういたしまして』

 

 聞こえてきたのは声だけだが、確かに彼女が胸を突き出して得意げにしている様子が脳裏に浮かぶ。記憶の中の晴子がよくそのポーズを取っていたから、その姿がアリアリと思い浮かんだのだろう。

 

 なんとなしだが、彼女がこちらをアランと呼び続けるのと同様に、こちらも彼女のことをレムと呼んでいる。自分たちはかつて兄妹だったという因果関係こそあるが、それはもはや遥か過去の記憶であり――自分は暗殺者として戦い続け、彼女は既にその肉体は眠りについているのだから、今の自分たちはこのようにコードネームで呼び合うのが相応しいように感じられるからだ。

 

 しかしまぁ、どれだけ胸を突き出そうとも、その在り様はつつましやかな感じだったはずだ――そんな風に過去を懐かしんでいると、脳内にどこか怒ったような声が響き始める。

 

『アランさん? 今、失礼なことを考えてましたね? ジャド・リッチーの生体チップは残っていますので、アナタの思考は私には筒抜けなんですよ?』

『おっと、それじゃあんまりいい加減なことは考えられないな』

『それはきっと無理でしょうね。アナタの脳内はいい加減という言葉で構成されているといっても過言じゃないんですから。まさか飛べもしないのにゴードンに突っ込んでいくとは、私も思いませんでしたよ』

『跳ぶことはできるぞ?』

『ほら、もうすでにいい加減じゃないですか。それに、さっきの変身ポーズはなんですか? アレ、全く意味が無いですよね?』

『失敬な、海を揺蕩っている間に一生懸命ポーズを考えてたんだからさ』

 

 やはり変身と言えばカッコいい変身ポーズがセットでなければしまらないというものだ。まぁ、自分に関しては身体の動きで何某のエネルギーを集めるとかいう要素もないし、そうなればポーズなど取る必要は一切なく、レムの言う通り無駄と言えば無駄なのだが、それでも一定の手順を踏むことで自分のモチベーションが上がる。

 

 そんな自分の思考を読んだのか、レムのクソでかため息が脳内に響き渡った。彼女との会話は脳内で行われたものであり、口頭で進めるよりも早くやり取りができるため、全て合わせても十数秒程度の時間だった。

 

 そしてそのクソでかため息が聞こえた直後、空の遥か彼方からこちらに向けられた強烈な意志の存在に気づく――殺気と言えば殺気だが、それは冷たく鋭い物というよりも、熱く燃え滾るような何かだ。

 

『……アランさん!』

『あぁ、分かってる!』

 

 ソフィアの身体を抱き返し、奥歯を噛んでノーチラス号の上を滑走する。安全な場所まで移動したタイミングで加速を切ると、先ほどまで自分たちが居た場所に機銃の雨が降り注がれた。こちらを狙ってきた戦闘機はノーチラス号の迎撃ミサイルによって撃ち落とされたようだったが、ともかく今まで沈黙を守っていた無敵艦隊がとうとうこちらへと牙を向けてきたのだ。 ソフィアは自分からようやっと離れ、爆発を起こした中空を見つめだす。

 

「そんな……キーツのおじさま、どうして?」

 

 そう声をあげたのは少女の口でなく、機械の鳥の方だった。そもそも、なぜキーツはこちらを静観していたのか、自分はその理由も分からないのだが――そう困惑していると、ソフィアの方がこちらへと振り返って口を開いた。

 

「ダンさんの無敵艦隊は、先ほどは一時的に私たちを援護してくれてたんだ。でも、今は私たちに向けて攻撃を仕掛けて来てて、それで……」

「……いいや、船に向けて攻撃を仕掛けてきてるんじゃない。アイツは俺に向かって攻撃を仕掛けてきているんだ」

 

 そう、アイツは自分を狙ってきている。こちらとしては、キーツに対して特段恨みがある訳でもない。むしろ恨みを持っているとなれば向こうだろう――自分は彼の旧友を何人も葬ってきたのだから。

 

 しかし、彼方から叩きつけられてくる殺気は、決して恨みつらみの類のものでない。ただ彼は、一万年前につけられなかった決着を、今こそここでつけようと思っている。それだけなのだろう。

 

「……ソフィア、グロリア。君たちは先に海と月の塔に向かってくれ。俺はオッサンの相手をしてやらなけりゃな」

「え? でも……」

「大丈夫だ、足場ならたくさんある」

 

 そう言いながら自分は空を指すが、ソフィアもグロリアも納得いかなかったようで首を傾げた。

 

「アナタが何を言いたいのか全然分からないけれど……それだけじゃないわ。さっきのアナタの速度、大気圏内でも馬鹿みたいな速度が出ていたけれど……それでも、その身一つで敵艦のバリアを超えることは不可能よ」

「大丈夫だ、その辺はなるようになるさ」

 

 自分はいつだって出たとこ勝負をしてきたが、いつも大体なんとかなってきた。それは勿論、ソフィアたちやべスターたちのサポートがあってこそかもしれないが――今回の戦いは、できれば自分一人で決着をつけたい。

 

 こちらの意見に納得はいかないのだろう、ソフィアはいかにも「納得してないよ」という目で自分の方を見上げてきている。それがなんだか懐かしくておかしくて、つい小さく笑ってしまうのだが、それが余計に癪に障ったのか、少女の頬がぷくっと膨れ上がった。それにも増して、今はグロリアもソフィアに加担しているから、この手ごわさは二倍にも二乗にもなっている。

 

 ともかく、今はキーツの相手だ。ノーチラスが敵の戦闘機の攻撃を防いでくれているが、相手も出し惜しみなしで一機に放出してきており、徐々に攻撃も激しくなってきているのだから。

 

「まぁその、いつも無茶ばっかして説得力もないかもしれないが……どの道、海と月の塔に誰かがすぐに援軍に行かなきゃマズい状況なんだ。だから、ここは俺に任せてくれないか?

 それに、俺なら大丈夫……絶対に勝って、君たちに合流してみせる。約束だ」

「……アランさんはズルいよ。そこまで言われたら、私は何にも言えなくなっちゃうんだから」

「そうね……ここでわがまま言ったら、アランのことを信じてないみたくなってしまうものね」

 

 二人の少女が代わる代わる話して後、ソフィアの背中から美しい翼が出現し――少女は杖を強く握って遠方に浮かぶ天を衝く塔を見つめた。

 

「私たちは、誰よりもアナタの強さを知っているから……必ず無事に合流してね、アランさん!」

 

 少女の身体が飛翔し、音速の壁を超えて一機に飛び立っていく。予想した通り、フレデリック・キーツの艦隊は一機たりとも少女を迎撃することは無く、ただひたすらにこちらに向けて戦力を集めてきている。出し惜しみなしで一気に戦力も放出しているのだろう、先ほどは十数機だったはずの戦闘機は、その数を百に膨らませている。同一の空域でそれほど出したら危なそうの一言だが、それを一挙に制御できるだけの自信があるのだろう――そして実際、あの男ならそれをやり遂げるはずだ。

 

「オッサンが年甲斐もなくはしゃいでやがるな……それが、アンタの奥の手だっていうんだろ? いいぜ……アンタの望む通り、全力で相手をしてやる……この力を使ってな」

 

 そう言いながら腰のベルトを叩いて見せる。もしかすると、男はこんな日が来るのを予想して、自分にこの力を授けたのかもしれない。互いの因縁に決着をつける相応しい舞台、そして相応しい力でぶつかり合うことを望み、そして――。

 

『乗りかかった船なんだ……仮に船頭が間違えているとしても……それを見過ごしてきたオレは、誰かに裁かれるその日まで……最後まで戦い続ける義務がある』

 

 遥か昔ににそう言った男の顔を思い出す。疑問を抱きながらも、どうしてこの男がDAPAに加担し続けたのか、その理由までは分からないが――彼は実直に戦い続け、誰かに裁かれる日を待っていたのだ。

 

 それならば、誰かがこの男を終わらせてやらなければならない。進んで誰かの命を奪う気はないが、それでも、この不器用な男を終わらせるのに、この男が用意した舞台で散らせてやるのが、自分にできるせめてもの手向けだ。

 

 何より、アイツもDAPA要人を暗殺して周った虎との、全力での決着を望んでいる。無敵艦隊と五分に戦えることを想定して、この男はレッドタイガーを自分に授けたのだろう。そうなれば、全力で相手をするだけ――そう覚悟を決めて、遠くに浮かんでいる旗艦を指さす。

 

「覚悟しろよ、死にたがりのオッサン……ターゲット、フレデリック・キーツ!」

 

 こちらの声が聞こえていたのだろうか、彼方からまた猛烈な闘気を感じ――男の感情に呼応するように、周囲を飛び交う艦隊の動きが更に切れ味を増したのだった。

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