B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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虎と技術者の激突

『変身の残り時間は五分ほどです』

 

 フレデリック・キーツの無敵艦隊がこちらに向けて攻撃を仕掛けてくる直前、こちらがADAMsを起動して相手の攻撃に備えたタイミングに合わせて、脳内にレムの声が響いた。

 

『以前のように、エネルギーを使い果たして変身が途切れたりはしないようですが……生身の部分というより、機械部分の限界的に、ずっと変身という訳にはいかないようです。インターバルとしてはできれば一時間、最低でも三十分は間隔を空けてください』

『それまでの間にオッサンと右京の野郎をぶっ飛ばさないといけないのか……なかなかのハードスケジュールだな』

『そうですね……それで、ノーチラスの内部から通信が入っています。思考してくれれば私の方で言語化して向こうに伝えますよ』

 

ついで、レムに変わって有無を言わさず少々無機質な声が聞こえだす。

 

『アラン・スミス。クラウディア・アリギエーリからの贈り物があります。どうしますか?』

『イスラーフィールか。俺が指さす方に撃ちだすことはできるか?』

 

 イスラーフィールは第五世代型なので、ADAMsを起動しながらでも会話を出来るのはありがたい。それに、この有事にわざわざ通信してきたというのなら、きっと新しい武器か何かだろう――これから艦隊を相手にするというのだから、武装は多いに越したことは無い。

 

 自分が指さす方向は、自分が見出している道筋の途中にある。しかし問題は、撃ちだして大丈夫な物かどうかだが――艦内のイスラーフィールは「まさか本当に?」と狼狽したようだが、すぐに言葉を続ける。

 

『その、できなくはないですけど……』

『それじゃあ、準備ができたらもう一度連絡してくれ!』

 

 通信を切って意識を集中し、視線を中空へと向ける。既に何機もの戦闘機と、それらに撃ちだされた機銃の弾丸やミサイルとがこちらへ向かって接近してきているのが見える――サイボーグとしての力にレッドタイガーの能力が上乗せされて加速装置の性能が向上しているのだろう、今まで以上に世界がゆっくりに見えている。

 

 それらの軌道を寸分なく予測すれば、空中を走っていくことは可能だろう。唯一の難点は、武装はナイフくらいしかなく、戦艦どころか戦闘機を落とすのすら難しそうな点だが、速度で当たっていけば何とかなるだろう。

 

『……アランさん? アナタの考えていることは私には分かりますが、それは無茶です。私は無敵艦隊の編成や武装のデータを熟知しています。ですから、ノーチラスと連携を取って……』

『いくぜ!』

 

 ノーチラスの屋根を走り抜け、その先端で一気に跳躍する。まず目指す先は、二隻残っているうち、小さい方の艦も――重巡洋艦というらしい――狙いを定める。その道筋は、動き回っている相手の戦闘機やミサイルだ。

 

 こちらの速度と戦闘機の速度が噛み合うタイミングを見計らい、接触するのに合わせてそれを蹴って月の足場へと向かって行く――互いに超音速以上の速度でぶつかり合っているのだから、その衝撃は本来なら互いにバラバラになってもおかしくはないだけの威力になっている。

 

 だが、今の自分ならその衝撃にも耐えられる。むしろ、衝撃が大きいほど次への推進力になるくらいだ。グロリア曰くの馬鹿みたいな速度で最初の戦闘機にぶつかり、そのまま踏み台にして次の戦闘機を目指す。

 

 そのまま追いかけてくるミサイルを速度でぶっちぎり、大口径の機銃の弾丸をカランビットナイフで切り落としながら飛び続け、光線を身を翻しながら躱し、勢いで戦闘機を乗り継ぎながら重巡洋艦を目指していく。

 

 三機目を踏み台にして跳び、相手の攻撃が一瞬緩んだ隙を使ってADAMsを解除すると、自分の体が空気を裂く音がけたたましく鳴り響くのが聞こえ始めた。それと時を同じくして、キーツのいる戦艦の方に膨大なエネルギーが集まっているのを感じる。成程、戦艦の主砲で巻き込んでこちらを落とすつもりか。更に二の矢として、自分を敢えて上へと誘導し、足場を奪う作戦だろう。

 

『そっちがその気なら……!』

 

 四機目を蹴って水平に跳び、主砲に巻き込まれない座標まで移動する。直後、自分に蹴られて空中で爆発を起こしている戦闘機が光の粒子の中に呑み込まれ、自分の真横を極大のレーザーが過ぎ去っていく。

 

 安易に上へと跳んでしまえば相手の思うつぼだっただろうが、この位置ならまだまだ足場はある――五機目を蹴り飛ばしたタイミングで、頭にレムの声が聞こえ始める。

 

『あぁ、もう滅茶苦茶……今はなんとなってますが、足場となる戦闘機が無くなったらどうするんですか?』

『どうするもこうするも、もう飛び出しちまったんだからな! あとは俺がやられるか、オッサンがやられるかだ!』

 

 相手の攻撃を避けるように、六機目、七機目とジグザグに蹴り飛ばしながら目標を目指す。レムには申し訳ないが、彼女のアドバイスを聞く気は無かった。自分には、最高の相棒が居た――常に背中を押してくれた友の代りは、何者にもできないのだから。

 

 そんなこちらの思考を読んだのだろう、レムは小さくため息をついた後、咳ばらいを一つした。

 

『こほん……良いでしょう、私はレム。原初の海と連結した最高のAIプログラムです。この星におけるアナタの思考パターンや行動パターン、並びに右京の残したデータベースを基にチューンナップして、アナタのパフォーマンスが向上する方向性にアドバイスを変えましょう。

 さて、敵艦のバリアは強力で、更に敵機は百五十機にまで増大し、変身の限界は刻一刻と迫って来ています。状況は絶望的、このままいけば敗北は必須でしょう。どうするつもりですか、アランさん?』

『しゃあ! 燃えてきたな!』

 

 どうするつもりなのか、そう聞かれると俄然やる気が出てくる。まぁ、何の答えにもなってはいないのだが――今にして思えば、かつての相棒はいつもこちらに対して「どうする」と聞いていたことを思い出す。こちらの主体性を尊重していたというより、自分の行動が無茶苦茶で委ねざるを得なかった部分もあるのだろうが――ある意味ではタイガーマスクならどうにかしてくれるという信頼の裏返しでもあったのだろう。

 

 八機、九機と蹴ったタイミングで、言葉通りにこちらのウォーミングアップも終わった。むしろ、身体が燃える様に熱いくらいだ。そして十機目を蹴ったタイミングで目前に重巡洋艦が迫り、足を突き出しながらバックルを弾き――。

 

『敵艦のバリアは、対物質と対エネルギーを同時に展開できません。ですから……!』

『喰らえ、バーニングブライト!』

 

 自分の足が敵艦の装甲に当たる直前、相手が物理バリアを展開するのと同時に、身体に集まったエネルギーを一気に開放する。フレデリック・キーツも無敵艦隊を作った時には、まさかこんな馬鹿みたいなスピードでぶつかると同時にエネルギーを叩き込んでくる奴がいるとは想いもしなかっただろう。それを作ったのがキーツ本人というのが全くの皮肉だが。

 

 ともかく、自分の体の何百倍も巨大な戦艦は、放出された強大なエネルギーを防ぐことができず、直に巨大な熱量を叩き込まれ――こちらは物理バリアの斥力を利用してその場を一気に離脱して距離を離した直後、戦艦は大爆発を起こして海上に凄まじい火柱を巻き上げた。

 

 後方へと吹き飛ばされたその先には、丁度自分を追ってきていたノーチラス号があり、自分は改めてその屋根の上に着地した。足場にしたのは――もとい、攻撃したのは重巡洋艦含めて十一機だが、相手自身の攻撃やバーニングブライトの力の余波で、合計三十機程度の気配は消失した。

 

 先ほど以上この空域に敵の気配は増えていないし、戦艦内に温存していた戦闘機も既に全て出し尽くした形だろう。もちろん、こちらも変身のタイムリミットには近づいて行っている訳であり、時間稼ぎに回られれば厳しいが――ともかく一度ADAMsを切り、一息つくことにする。

 

『レム、さっきのアドバイスは助かったぞ』

『どういたしまして。戦略そのものにアドバイスするより、行き当たりばったりに対して突破口を作る助言の方がアナタにはあっているらしいですから。でも、私が何も言わなかったらどうしてたんですか?』

『同じように突っ込んでたかな?』

『でしょうねぇ……ともかく、向こうも既に戦闘機は全て前線へと出しており、敵機を足場に進んでいくのは厳しくなりましたね』

『しかし、相手の主力艦も残り一隻だ』

『えぇ。しかも敵旗艦も主砲を撃った直後、再装填までに時間が掛かります。今ならノーチラスで接近することもできるでしょう……仮面の用心棒も居ることですしね』

 

 確かに、ノーチラスが先ほどまで敵旗艦と距離を取っていたのは、複数の艦を同時に相手にするのが難しいからだ。今なら一対一であり、戦闘機の攻撃くらいならいなしながら前進できるはず。それに戦闘機の波状攻撃が厳しいというのなら、自分が露払いをすればいいだけだ。

 

 恐らく状況をレムがイスラーフィールに伝えたのだろう、ノーチラスは確かにキーツの戦艦を目掛けて前進を始めた。それに合わせ、脳裏にレムでなくイスラーフィールの声が聞こえてくる。

 

『射出の準備ができましたよ。どちらへ出せばいいですか?』

『あぁ、戦艦の方へ頼む! 今度こそ、本丸ぶち抜いてやる!』

『了解しました。三秒後に射出しますよ……三、二、一……』

 

 ADAMs込みの速度なら、射出された後を追いかけた方がキャッチしやすい。ゼロが聞こえるのと同時に奥歯を噛み、再び屋根を走って空へと飛び出す。既に発射されていたそれを空中でつかみ取り――以前の物はナックル規格のものだったのに対し、今回のは腕に装着する形の長物で、その先端には鋭い杭が備えられている。

 

『以下、クラウディア・アリギエーリからの説明をそのまま読み上げます。一号から改良を重ね、火薬と火力を増し増しにした最強のとっつき。打杭型吶喊兵器試作二号・猛虎、もとい……』

『タイガーファングよ!』

 

 クソガキ感のある声が脳裏に響くのに合わせて左腕にそれを左腕に装着し、目掛けていた戦闘機に対して虎の牙を撃ちだす。かなりの量の火薬を積んでいるのだろう、生身では腕が粉々に砕けてしまいそうな程の衝撃が左腕を通して全身を駆け巡るが、逆を言えばそれだけの威力で鋭い牙が撃ちだされていることを意味する。杭が一気に戻る反動を活かして近場の戦闘機の軌道を読み、腕の機構から薬莢を吐き出しながらそちらへと跳んで二機目にも同様に杭を撃ちだす。

 

 そんな動きを三機、四機と繰り返したタイミングでノーチラスの軌道へと戻り、足が天井に着いたタイミングでADAMsを切る。杭を撃った順番に戦闘機がほとんど同時にへしゃげて空中を蛇行し、そのまま順番に空中で大きな爆発を引き起こした。

 

「こりゃいいな! 浪漫ってもんが分かってるぜ!」

『うわっ、本当にテンションが上がってるわ、アイツ……』

『でも、確かにメンタルには良い影響が出ているようです。そもそも別にあの速度でぶつかれば戦闘機を落とすことは可能であり、打ち杭で攻撃する必要性まったく無いとは思いますが……』

 

 脳内に響く言葉は可愛げが無いが、熾天使達はやはり優秀なのだろう、うだうだ言いながらも適切に艦の攻撃と防御を展開し、ダメージを最小限に抑えながら飛行タイプのアンドロイドや戦闘機を的確に落としている。

 

 ともかく自分は再び思いっきり暴れまわってもう一度エネルギーを溜め、ノーチラスが十分に近づいたタイミングで敵旗艦に必殺の一撃を打ち込むことだ。自分も引き続き周囲の戦闘機を接近戦で仕留めて、来るべきチャンスを待つ。

 

『敵戦艦を追い詰めます……スピードを上げますよ』

 

 イスラーフィールの声が聞こえるのと同時に、ノーチラスが前進する速度をあげた。必殺の一撃を出すためのエネルギーは、戦艦に向けて飛び出せば溜まるだろう――船の速度に振り落とされないように踏ん張っていると、徐々にキーツの戦艦が近づいてきた。

 

「しゃあ! 覚悟しろよ、オッサン!」

 

 自分の声も聞こえないほどの風圧の中で奥歯を噛み、音の消えた世界で走り始め、フレデリック・キーツの操る船を目指して跳躍する。接触する直前でベルトのボタンを弾き、先ほど重巡洋艦を落としたときと同じ要領で、超加速による物理攻撃とエネルギーとを敵旗艦にぶち込む。

 

 しかし、今度は手ごたえが無かった。どうやら先ほどと違って、物理バリアと合わせてエネルギーを防ぐバリアが同時展開されているようだ。こちらの体は斥力に弾かれ中空に放り出されてしまう。

 

 更に、バリアはこちらを弾いてから形を変え、木の枝のように急速に伸び始める。それらは光の刃となり、接近を試みた相手を串刺しにしようとしてくる――なるほど、これこそが近接攻撃を仕掛けてくるであろう自分に対するキーツの答えか。確かに斥力で弾かれた現状では軌道をコントロールするのも難しい。クラウディアの新兵器を発射する反動で幾分か自分の軌道をずらすものの、それでも完璧に避け切ることは出来ず、伸びてきた無数の刃が自分の体を刺し貫いていく。

 

 なんとか急所にもらうことだけは避けたが、それでも貫かれた場所が燃えるように熱い。しかし同時に、フレデリック・キーツが本気で作ったレッドタイガーこそが、自分を守る最強の鎧となっている。身体細胞を活性化させる変身機構と、レムがかけてくれているリジェネレーションとが掛け合わさり、焼かれた組織が急速に回復していくためだ。右腕と左腹部で刺し貫かれて空中に制止してしまった身体を無理やりに捻じり、筋組織を抉りながらも磔から脱出し――そして上空へ向けて虎の牙のトリガーを引き、反動で海面への離脱を図る。

 

 落下していく間も焼かれた部分が煙を上げ、急速に回復していく。落下していく間もこちらへ向けてホーミングミサイルが発射されるが、それは発射タイミングを見切って、予めその軌道に合わせてナイフを投擲しておくことで直撃を避ける――そして爆風によってこちらの体はより吹き飛ばされて海面へと激突した直後、再びノーチラスより射出されたアンカーによって拾われる形になった。

 

 アンカーが巻き上げられ、もう一度ノーチラスの屋根に戻ったタイミングで、レムの声が聞こえだす。

 

『アレは……巡洋艦や駆逐艦には無かった物理、エネルギー完全両対応のバリアを展開し、同時に攻撃に転じる機構のようですね。私にもその情報は共有はされていませんでしたが……恐らくアレが、キーツの切り札なのでしょう』

「ちっ……それなら力比べだ! エネルギーを溜めてもう一回ぶつかりに行ってやる!」

 

 バリアに刺し貫かれた傷も爆風で焼かれた皮膚もある程度は回復しているが、結局は極限まで代謝を高めて無理やり修復しているのであり、もう一回磔にされた身体も持たない感覚もある。とはいえ、安全圏から攻撃する手段は自分にはなく、結局は体一つでぶつかっていくしかないのだが――次で仕留めなければやられるのはこちらだろう。

 

 だが、どうすればアレを突破できるか――そんな思考を中断させたのは、久々に聞く男の声だった。

 

『アランさん! ちょっと待ってくれ!』

「シモン! 男の戦いに水を差すつもりか!?」

『そんなんじゃない……そんなんじゃないんだ』

 

 返ってくるシモンの声は小さいが――同時にどこか信念が籠っているものだった。

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