B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
三度海面からアンカーで引き上げられ、自分は一度ノーチラス号の中へと移動した。艦内の道すがら、レムから先ほどの加速時は声を掛けらなかったことや――正確には声は掛けてはいたようなのだが、こちらの体感時間に上手く調整できなかったようだ――先ほどの一撃の余波がかなり大きく、周囲数十キロメートルの飛行型アンドロイドやキーツの戦闘機が全滅したこと、最後に全動力をバリアに回したノーチラスは無事だったものの、中はがっくんがっくん揺れて大変だったことが告げられた。
ブリッジには熾天使の二人とシモンとが居り、とくにシモンは腕を組みながら俯き、無言のままでいる。対して二人の少女型アンドロイドは――ブリッジに入るなり、新しい耐火性の高い外套を手渡してくれた――手元を動かしながら代わる代わるにこちらに向けて話を掛けてきている。
「ブレイジングタイガー……マッハ10の累乗の速度で加速し、その衝撃を手足などの末端から一点集中で浴びせる必殺技。その一撃は、局所的に核爆弾の10倍の威力に達する……接触点にはアルジャーノンの第八階層を上回る威力があると言えます」
「そんな威力でわざわざ身体でぶつかっていくなんて、全く非合理だわ……はいこれ」
イスラーフィールは先ほどの一撃の解析結果を、ジブリールの方は新たなパイルバンカーを――タイガーファングはブレイジングタイガーのエネルギーに耐えられずに消失してしまったので、次にくれるのは何本か作っていた試作型のさらに試作型らしい――火薬の詰め終わったそれをこちらへと渡してきた。
「あぁ、サンキューな」
「……貴方は私たちのことを恨んでいたのではないですか?」
こちらが素直に礼を言ったことに対し、イスラーフィールの方は訝しむ様な調子でこちらを見ている。
「怒っていたと言えばその通りだが……クラウディアが許したんだろう? それなら、俺がとやかく言うことは無いぜ」
「はぁ……貴方といいクラウディア・アリギエーリといい、高次元存在と接触した者はあっけらかんとしていますね。でも、なんだか興味深いです」
「そうね。達観してるって言えば聞こえも良いけど、自己が希薄というか……いえ、コイツもワカメ女もどちゃくそに我が強いけど、我欲って面では薄いのよね。ルーナや他の第六世代型にはあんまり見られない傾向だわ。これが悟りってやつなのかしら?」
イスラーフィールとジブリールは手元を動かしながらも興味深そうにこちらをあまりにじろじろと見てくるので、少々居心地が悪くなってきた。二人から視線を離したタイミングでちょうど鼻と目を赤くしたシモンが視界に入ってきた。
「……アランさん、ありがとう」
自分は彼の父親にトドメをさしたのであり――それはキーツ本人が望んでいたことはシモンも分かってはいるが――人を殺しておいて自分からどういたしましてもおかしいだろうと思い、ひとまず人差し指と中指を立てて手であいさつを返す。するとシモンは「はは、親父と同じポーズだ」と言って笑い、端末の方へと向かって自分の作業に集中し始めた。
本来自分とフレデリック・キーツは敵同士であり、ドワーフのダンとは一晩盃を交わしたものの、それでもなお互いに多くを語り合った訳ではない。しかし、彼の生き様を思い返すと、性格的な所は自分と気が合っていたように思う。
とはいえ、まさか同じポーズを取ってしまうほど気が合うとなれば少々気まずくもあるのだが――ともかく、あまり長く彼の死を悼んでいる時間はない。次なる戦いの舞台へと向かうことにする。
「イスラーフィール、ジブリール。船を塔へと向けてくれるか?」
「それは構いませんが……」
「アナタ、変身は切れちゃったんでしょう? 大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。レッドタイガーがあった方が心強いのは間違いないが、この身体とコイツがあれば、変身せずとも結構やれる自信があるからな」
そう言いながら、自分はジブリールが手渡してくれた施策型のさらに試作型のパイルバンカーを腕に取り付け、空いているほうの手で胸をドン、と叩いて見せる。実際、今の身体ならADAMsを十全に使うことはできるし――何より、あの塔には決着をつけなければならない相手がいる。
そう思いながらブリッジの窓の先に見える塔を見つめていると、イスラーフィールが横でうなずく気配を感じた。
「了解しました。既に空域に敵影はありませんから、すぐに塔に着きますよ」
「だから、アナタはさっさと外に出て、塔に飛び移る準備をしておきなさい」
「あぁ、了解だ!」
二人の熾天使に対し、先ほどシモンに「親父と同じ」と言われたジェスチャーを返し、自分はすぐに飛び出せるように再び甲板を目指して駆けだした。
◆
アラン・スミスが復活してからの七柱たちとの戦闘も決して楽なものではなかった。こちらのせん滅に専念するためなのか、星右京とダニエル・ゴードンの両名がホールに戻って来たせいで、数で劣る自分たちが押され始めてしまったのだ。
とはいえ、悲観することばかりではない。ゴードンが片腕を失っているおかげか――それでも魔法で構成された浮遊する闇に包まれた手を使いつつ魔術杖を上手く扱っているが――動きがやや鈍い。また、原初の虎が復活したという動揺があるせいか、上手く連携が取れていないらしく、敵側のトリニティ・バーストの発現には到っていないことはこちらにとって追い風だった。
併せて、こちらは虎の復活に鼓舞されたのか、T3とブラッドベリの士気が上がっているようだ。魔王も一度はT2を纏った身として、アラン・スミスに対して何か感じる所があるのかもしれない。
ともかく、数で劣っているのを補うべく、自分も再度前線に出てローザ・オールディスと打ち合っている最中、外で巨大な爆発が起こった。その衝撃波に全員が防御姿勢を取り、爆発の中心点を見つめた。
「何が起こった!?」
そう慌てたように声をあげたのはローザだった。塔自体にもバリアがあるため建物自体は無事なのだが、むしろ確かな距離があるのにも関わらず塔のバリアを揺るがすほどの衝撃が来たのだから、慌てるのも無理もないだろう。状況を把握するためか、みな一度攻撃の手を止めており――。
「……キーツの無敵艦隊が全滅したようだ」
ローザの疑問に対して返事をしたのは星右京だった。
「なんじゃと!? あの戦艦には最新鋭の多重位相バリアが搭載されていたはず……どうやって破ったのじゃ!?」
「先輩が……原初の虎が蹴りをかましてぶち破ったんだ」
「そんな話があるか!?」
「……そんな話があるんです!」
ローザの叫びに返答したのは、少年の声ではなく少女の声だった。直後、強烈な熱線が話し合っていた右京とローザの方へと照射され――少年はJaUNTでそれを躱し、ローザは結界でそれを防いだ。
熱線の走ってきた方を見ると、崩落した壁に一人の少女のシルエットが浮かんでいた。
「ナイチンゲイル! セブンスは無事か!?」
少女の姿を見て、真っ先に声をあげたのはT3だった。先ほどの衝撃波を考えると、外に置いてきたセブンスが心配になったのだろう。
「はい! まだヘロヘロしていたので連れては来ませんでしたが、先ほどのショックウェーブの時は私と一緒に居ましたので、七星結界で護りました!」
「……恩に着る!」
二人は互いに頷き合い、すぐに武器を構えて戦闘へと戻った。T3はリーゼロッテと再び交戦を始め、ナイチンゲイルはアルジャーノンの相手に回ったようだ。
「おい右京! どうするつもりなんじゃ!?」
「アラン・スミスの変身は切れたようだ。原初の虎を倒すのなら、今しかない」
「それなら、さっさとこの場を……ちぃ!」
右京と会話をしていたローザは、放たれた漆黒の衝撃波を結界で防ぐために言葉を中断した。
「あやつの手を借りるまでもない。この場で貴様らと決着をつけてくれよう!」
「虎が一匹戻ってきた程度で……調子に乗りおって!」
魔王と偽りの女神が交戦に入ったことで、場は騒然とした空気を取り戻した。ブラッドベリと自分が相手をスイッチした形ではあったが、今の状況は悪くはない。現在のメンバーの中で、星右京の相手を一番まともに出来るのは自分であろうから。
自分が操る機械布袋劇の中には、敵を感知して自動で敵を攻撃できるセンサーが組み込まれている。そのため、JaUNTで瞬間移動を繰り返す右京が出てきたタイミングに合わせて攻撃することも、同時に相手の攻撃に合わせて防御することも不可能ではない――向こうもそれ込みで動いてくるのだし、上手く布袋劇の死角をつくようにヒットアンドウェイに徹されれば有効打にはならないが、こちらとしても味方が右京に奇襲されないように援護をすることができる。
ただ、それも長くは続かないだろう。右京自身の素体も強力であり、死角から布袋劇を各個撃破するなど容易であり、実際にそのような動きに切り替えられてきている。ただせめて、どこか一点が突破できれば状況は良くなるのだろうが、それは相手にも言えることであり――先ほどと比較すると互いに攻めん気が増しているものの、逆に自体は再び膠着しつつある。
右京に三体目の布袋劇を破壊され、こちらのセンサーにかなり穴が出てきてしまったタイミングで、右京がナイチンゲイルに目掛けて黄金色の剣閃を放つ。
「……甘いわよ、右京!」
相手からの一撃はグロリアが七星結界で防いだが、彼女が手を止めたことによりこちらの攻撃に更なる穴ができる。恐らく、右京の狙いはそれだ――リーゼロッテとローザも一度相手から距離を離し、中央に現れた右京を取り囲むように三柱が陣を組んだ。
「皆、一気に決めよう。トリニティ……!?」
精神感応デバイスを掲げた右京が言葉を切ったのは、崩落した壁の向こうからノーチラス号が凄まじい勢いでこちらへ飛んできているのが見えたからだろう。一応、トリニティ・バーストの起動には成功したようだが――それを発現させるために向こうが攻撃の手を緩めたことが、あの男の接近を許したということになるのだろう。
艦から撃ちだされたミサイルに何者かが乗っており、そのまま情け容赦なく塔へとぶつかってくる。ミサイルの爆発は塔のバリアによって打ち消されたが、それに乗っていた者は爆風に乗じて落下してきて、崩落した壁付近に着地する。
そしてソニックブームの破裂音が聞こえたかと思うと、直後に金属同士が打ち合う轟音が響き――音の発生源を見れば、瞬間移動をして場所を入れ替えている右京と、右の拳を少年の持つ大剣に突き出している男の姿とがあった。
「アラン・スミス……!」
「よう、右京……久しぶりだな」
互いに名を呼ぶ二人の男は、片方は憎々し気に、片方はどこか嬉しげであった。憎々し気に声を上げた少年は、どこか見たくないものからも視線を逸らすまいと目を細め、顔に虎の紋様を浮かべている青年を凝視しながら口を開く。
「僕に復讐するために、戻ってきたと言うのかい?」
「はっ、自意識過剰だぜ右京。テメェのことなんざ、どうとも思っちゃいねぇよ。ただ……そのすかした面ぁ! 一発殴らせろ!!」
再びソニックブームの破裂音が響き渡るのと二人の姿が消え、今度はまた場所を変え、アラン・スミスが右京の持つ剣に対して拳を突き出しているのが視界に入ってきた。アラン・スミスは右京の飛び先を完全に予想して移動しているということになるのだろうが――要するに、虎がJaUNTを扱うデイビット・クラークを打ち破ったのは偶然でなく、必然だったということなのだろう。
「くっ……そう簡単にはやられはしない!」
「やっぱり変身なしじゃ押し切れねぇか……!?」
突然の出来事にまた一同が騒然としている中、ただ一人動き出したものがいた。その者は赤い宝石の埋まった短剣を煌めかせて原初の虎へと重力波を放ち――その結果として、虎は速度を落とし、離脱する右京を追いかけられなくなってしまったようだ。
漆黒の渦の中から虎が飛び出すと、リーゼロッテ・ハインラインは翡翠色の刃の切っ先を突き出して嬉々とした表情を浮かべた。それに対し、アラン・スミスは刺青のようなものが浮かび上がる顔で苦々し気に女の方へと振り返る。
「その顔、素敵よ坊や!」
「ちぃ、厄介な奴に目をつけられたな……!」
「さぁ、今日こそ決着を……!?」
リーゼロッテが忌々し気に顔を歪めたのは、せっかくのチャンスを波動弓によって邪魔されたせいだろう。T3の判断は正しく、今アラン・スミスに対応してもらいたいのは――リーゼロッテとしては遺憾だろうが――間違いなく星右京である。
アラン・スミスの合流により、状況はさらにこちらにとって追い風と言えるだろうが、やはり個の力の差があることは否めない。だが、その差も相手と同じ土俵にさえ立てれば――精神感応デバイスさえ使えれば、とくにJaUNTに対して絶対的な対応が可能な原初の虎が居る今なら、一気に同等かそれ以上の所まで巻き戻せるはずだ。
「T3! ブラッドベリ! アラン・スミス! 奴らに対抗するために、私に力を貸してください!」
各々が激突を開始している中で、先ほどセブンスより託された宝珠を上へと掲げる。ADAMsを起動している二人には自分の声は届かないだろうが、恐らくレムが通信を入れて声を掛けてくれるだろう――そしてレムがその通りにしてくれたのだろう、右京に対して拳を突き出しているアラン・スミスは、首だけこちらに回しながら宝珠の方を睨んだ。
「おい、まさかそいつらと協力しろって言うのか!?」
「えぇ、そうですが……」
「冗談じゃねぇ! どうやってカッコつけのこじらせ野郎と、筋肉モリモリマッチョマンと意気投合しろっていうんだ!」
それだけ言ってアラン・スミスは音速の壁を超えて右京を追い出した。
「そいつの言う通りだ、チェン!」
「その男と心を重ねられるものか!」
アラン・スミスの一言が癇に障ったのか、次いでT3とブラッドベリも怒声をあげた。今は仲たがいなどしている事態でもないはずであり、敵もその異様さに戸惑っているようだが――しかし、自分は確かに感じていた。右手に掲げる宝石が、僅かにだが熱くなりつつあることを。敵側に気付かれないように、自分は掲げていた宝珠をそっと握り、男たちの様子を見守ることにする。
「おいT3! テメェはもう少し先輩を敬いやがれ!」
「貴様のことを先達だとは思ったことは一度もない!」
「かーっ! ムカつく野郎だ! テメェのことをある程度認めてやってるっていうのによ!」
「誰が貴様に認めて欲しいなどと言った!?」
互いに超音速戦闘をしながら口論を続ける二人の男は、ある意味では互いにいがみ合っているという点では意気投合していると言える。むしろ、厳密には互いに力を認め合ってはいるものの、性格的に馬が合わないため、口を開けば憎まれ口しか叩けないといったところか。
自分は隙を見てソフィアの方へと目配せをして――彼女の方もこちらの意図を察してくれたのか頷き返してくれる――来るべき時を待つ。その傍ら、アラン・スミスは今度はブラッドベリの方へと食って掛かり始めていた。
「ブラッドベリ! 俺はテメェが信奉していた邪神ティグリス様の化身だぞ!?」
「貴様が邪神ティグリスだというのなら、仕えることを止めるまで! 我こそが魔族の頂点として君臨し、邪神など下らぬ偶像だったと皆に知らしめてやるのみよ……だが!」
ブラッドベリが言葉尻を強くしたのに合わせ、ソフィアが魔術杖を一回転させ、ルーナ、ハインライン、アルジャーノンの三柱を追尾する熱線を打ち出した。もちろん、強化された第五階層魔術程度で倒れてくれる相手ではないが――次いで彼女が目くらましのため閃光の魔術を放った後に、自分を取り囲むように三人の男たちがこちらへ背を向けて立っていた。
「今だけは……」
「奴らを倒すためならば!」
「背中を預けてやるのもやぶさかじゃねぇ!」
三人から黄金色の光が立ち昇り、それらはこちらの右手に向かって集い始めている。ソフィアが一瞬の時間を稼いでくれたおかげで、こちらも発動するための隙を上手く作れたと言える。しかしまさか、自分を起点に発動することになるなどとは思ってもいなかったが――不器用な男たちからの滾る想いに輝く宝珠を握りしめ、右腕を天へと掲げる。
「いきますよ……トリニティ・バースト、発動!」
「応!」
男たちの気合の入った声が重なるのに合わせ、身体に力がいつも以上のあふれ始める――虎たちの意志が一つになったことで精神感応デバイスが起動し、自分たちの足元から強烈な黄金色の光が立ち上がり始めたのだった。