B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
大変申し訳ありませんでした。
すでに重複分は削除しており、本日中に8話投稿して本来の進捗分を補填いたします。
トリニティ・バースト発動後、結局は先ほどと同じような展開になる。要するに、誰かが誰かを相手にして、均衡を崩さないようにしている――T3がリーゼロッテ・ハインラインの、ブラッドベリがローザ・オールディスと対峙しており、残った自分とナイチンゲイルが主にダニエル・ゴードンの相手をしている形だ。
自分がゴードンの相手を今更になって買って出たのは、幾つか理由がある。一つは、自分ならばナイチンゲイルと連携が取りやすいこと――ソフィアとの間にはいくつかの簡単なジェスチャーで意思疎通ができる他、耳に取り付けている通信機を使えば、グロリアからのメッセージを受けられるため、コンビネーションにより優位に戦いを進められるからだ。
また、トリニティ・バーストの加護のないナイチンゲイルを誰かが援護する必要があるというのもある。自分はグロリアと共にいくつもの作戦行動を共にして来たほか、ここ一年の間でソフィアに戦い方を師事していたのは自分であり、彼女らの行動の癖をこの中でもっとも熟知している。同時に、ダニエル・ゴードンとの戦闘経験も、この中では最も多いのは自分である――星右京をアラン・スミスに任せられるのなら、敵味方の行動の癖から、上手く援護を出せるのは自分という判断があった。
「こうやって相まみえるのも何度目か……今にして思えば、金字塔で君を逃したことが、僕の失敗だったという訳だ」
こちらの攻撃を風の壁でいなしながら、ダニエル・ゴードンは苦し気に声をあげた。グロリアも含めれば三対一、更にアラン・スミスからもらったダメージが癒え切っていないせいか、顔にかなりの脂汗を浮かべている。
それでもなお、こちらが有効打を打ち切れないのは、やはり彼が七柱の創造神の中で最強ということの証明だろう。氷や毒の妨害魔術でこちらの呼吸や動きを阻害し、自分の接近戦や布袋劇に関しては風の魔術でいなし、ソフィアの魔術は瞬間的にディスペル、グロリアの炎熱は真空の壁で対処してくる――ほとんど三対一に近い構図だというのに適切に対処してくるのは、彼がコンピューター以上の高速思考により、瞬間的な状況把握能力とそれに対応できるだけの魔術を瞬時に編み出せるが故だろう。
彼を手っ取り早く仕留めるなら、やはりADAMsによる高速の一撃なのだろうが――それをさせまいとリーゼロッテ・ハインラインがT3を拘束し、アラン・スミスは星右京との追いかけっこに従事している。もしくは、魔術によらない、七星結界を貫通するだけの威力のある一撃を繰り出すかだが、シルヴァリオン・ゼロがディスペルされてしまうとなれば、自分たち三人のうちに彼の防御を破れるだけの火力はないことになる。
もちろん、ハインラインと右京もかなり危険な相手であり、とくにアラン・スミスのおかげでJaUNTに意識を割く必要が無くなったことはプラスであるし、何よりゴードンの方に疲労の色が見える今、自分とナイチンゲイルで波状攻撃を続け、相手の隙を見つけて必殺の一撃を叩き込むチャンスもそのうち見えてくるだろう。
「こうやって直接対峙するのは三度目……人形の時を含めれば四度目ですね。金字塔で仕留め損ねて妙な因縁が生まれたことは同意しますが……それは私の勝ちで占めさせてもらいますよ」
「……はは! 女の子を利用して三対一に持ち込んで勝ちというのも、情けないとは思わないのかい!? ともかく、改めて君の癖は理解した……これで仕舞にしてくれる!」
魔術で編まれた浮遊する手が魔術杖のレバーを引きながら陣を編み、男は魔術を発動させる動作の一環としながら杖を一振り、魔術神はソフィアの魔術を無効化しつつ、こちらへ向けて無数の光弾を撃ちだしてくる。六つの陣が編まれていたことから、かなりの威力のある魔術だろう――こちらは背後へと跳びながら護符を取り出し、七星結界で相手の魔術に対抗する。
光弾はそこまでの大きさではないものの、想像の通り一発一発の威力はかなり高い。結界を展開する右手に確かな衝撃を受けながら、光が瞬く視界の先、魔術神の動きを見逃すまいと目を見開きながら男の所作を見る――アルジャーノンはもう一度レバーを引き、そのまま次の魔術を編み始めている。
向こうがこちらの足を止めて出す一撃となれば、以下のどちらか。こちらの七星結界を打ち破る強力な一撃か、自由を奪う拘束魔術か。どちらにしても、この場に居ればそのまま狩られる――それならばと、結界を盾にしながらダメージ覚悟で前へと出る。トリニティ・バーストで肉体が強化されている今ならば、直撃さえ免れれば多少のダメージならば耐えられる。何より、防戦が続けば向こうのバリエーションの多さに翻弄されるだけだ。
「前へ出たか、チェン・ジュンダー! なかなかの男気じゃないか!」
「それはどうも……ですが、勢いに任せているだけではありませんよ!」
腕を前へと突き出し相手の攻撃を結界で防ぎながら、脳波で辺りに散乱してしまっている布袋劇の破片を可能な限り浮き上がらせ、相手の背後からも攻撃を仕掛ける。魔術神を相手にするうえでは単純な攻撃ではあるが、攻撃の手が多いほど向こうは対処が困難になるはずだ。更には自分が正面から攻撃を仕掛けるので、挟み撃ちをする形になる――仮にこちらにトドメをさすために魔術が放たれたとしても、相手も後方から飛んでくる巨大質量を避けられまい。
敵の魔術が止み、こちらは呼吸を大きく吸い込んで必殺の一撃に備える。対して、アルジャーノンが放った魔術は彼を中心として床に円を描きながら白い光を放つ。男が杖の先端で陣を叩くのと、こちらが足を踏み込もうとしたタイミングが完全に一致し――直後、奇妙な浮遊感が身体を襲う。右足に思ったような反動が戻ってこなかったのは勿論だが、それどころか自分の意に反して身体が宙に浮かんでしまっているのだ。
これは、ある種の重力コントロールの魔術か。己の体のコントロールを失い、為されるがままに塔のホールの吹き通しに巻き上げられてしまう。アルジャーノンは身をかがめてこちらがサイキックで撃ちだした巨大質量を躱した。そしてそのまま布袋劇が反重力によって軌道を変え、凄まじい勢いのままこちらへと向かって来る。既に結界は切れてしまっているため、飛来する物体は自分の手でどうにかするしかない。
しかし、大盤振る舞いで大質量として撃ちだしたそれが、自分に対してそのまま襲い掛かってくるというのはなんたる皮肉か。こちらとしては地に足が着いていない状態では踏ん張ることも体幹を整えることもできず、力を出し切ることができない。
先に飛来してきた軽量の腕や足などの四肢はこちらも手足で落とすことには成功したが、後から飛んできた巨大な塊に関しては防御することしかできず――腕を交差させて何とか耐えるが、その衝撃に自分は後方へと吹き飛ばされてしまう。
そのままホールの壁に激突し、布袋劇の瓦礫とサンドイッチにされてしまう。腕から鈍い音が聞こえ始めるが――幸いにしてトリニティ・バーストの強化があったおかげでぺしゃんこになることは避けられ、腕の骨がいった程度で済み、それは回復魔法ですぐに治すことはできるだろう。
だが、こんな大きな隙を見逃す相手ではない。身体に重力が戻ってくるのと同時に、こちらを潰していた機械の塊が下へと落下し、床に激突して巨大な音を立てる。視線を下へと向けると、やはり七つの魔法陣が宙を舞っており――術者はついぞ妙なコツを掴んだのか、彼は闇属性の魔術で編んだらしい手で器用に振り回しつつ、残っている方の手を腰に当てながら立ち上がった。
「いちち……君が使う一万年跳んで四千年の歴史を誇る拳法とやらは……まぁ、全ての武術でそうだろうが……踏み込むことで勢いを乗せ、その威力を向上させる。つまり、必殺の一撃を出す前には、必ず強烈な踏み込みを行う。そこを狩らせてもらったという訳さ」
無駄に説明したがるのは彼の癖なのだろう、などと突っ込んでいる暇はない。腕が折れている今、自分は結界を出すことができない。第七階層魔術ともなれば――屋内でそこまで広範囲に影響する魔術は出さないだろうから、アレは一点特化型だろう――七星結界が無ければ確実に防げないだろう。
「さて、一万年に及ぶ君との因縁、これにて決着をつけさせてもらうよ……さようならだ、チェン・ジュンダー!」
男がこちらに向けて生身の右手を突き出し、漆黒の義手の持つ杖が七枚の連なる魔法陣を突くと、そこから強烈な光線が発射されてくる。本来ならそれを目視した瞬間、自分など消し炭になっているはずなのだが――自分がそれを生きたまま認識できたのは、自分を庇うように飛び出してきてくれた者がいるからだ。
自分と魔術神の間とに割り込み、ホールの中空で結界を展開してくれたのはナイチンゲイル――七星結界を左手から出しているところを見るに、グロリアが自分を庇ってくれたということになるのだろう。強烈な光の魔術は彼女の張ったバリアを一枚、また一枚と破っている。
ともかく、呆けている時間など無い。回復魔法で折れた腕の再生を施し、袖から最後の結界札を取り出して放り投げ――グロリアは右手でそれを受け取り、自身の結界が砕け散る直前に札を突き出して、もう一度結界を張った。直後、強烈な光の渦がその威力を減衰させて――流石に二枚分の七星結界を破るほどの威力は無かったようだが、それでも七枚を抜きったほどの威力があったのを見るに、一人で七星結界を張ったところでアレを撃たれたらやられていたはずだ。
そう思っているのも束の間、今度は自分を守ってくれた少女の頭上に黒い球体が姿を現していた。グロリアは残っている結界をそのまま上へと突き出したおかげで、直撃こそ免れたようだが――強烈な重力波の渦に少女の身体が包まれてその姿が見えなくなり、漆黒の球体はホールの床まで落ちていく。
彼女を援護しなければ――自分が着地するのと同時に重力波が晴れ、小夜啼鳥は床へと伏してしまっていた。