B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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金色の巨人、再び

 星右京は月へと逃れていた。ストレイライトを破壊され、ダニエル・ゴードンが戦闘不能に陥った。互いにトリニティ・バーストを発現させていたという均衡が破れ、その上でこちらが欠員を出したとなれば、正面から戦っても敗北は必須である。何より、JaUNTに完全に対応してくるアラン・スミスが帰ってきてしまったとなれば、もはや戦況を覆すことなどほとんど不可能だと判断した上での退却だった。

 

 しかし、彼にはたった一つ残された手段がある。海と月の塔のコントロールを完全に奪われれば、その最後の手段を取ることすらできなくなってしまう。それ故に一人で月へと逃れ――リーズには逃れられるように救いの手を出したが、やはり無下にされてしまった――今は月から深海のモノリスへと働きかけ、最後の手段を講じる為にひたすらコンソールに向かって作業を続けていた。

 

 そんな中、もう少しで作業が完了するという時に、脇の液晶から警告音が流れ始める。少年がそちらへ目を向けると、そこには七柱の創造神たちのバイタルが映し出されているウィンドウがあり、まさしく今、一柱の生命活動が停止した。

 

「リーズ……君も逝ったのか」

 

 リーゼロッテ・ハインラインの本体は、何者かの攻撃にさらされていた訳ではない。つまり、彼女自身が生命維持装置を停止させ、その長かった人生に自らの手で終止符を打ったというのに他ならない。タイガーマスクと決着をつけるという妄執に囚われていた彼女は、その目的を達し、現世に対して意味を喪失をしてしまったのだろう、少年はそう判断した。

 

 つい一年前まで全てのバイタルが正常であったはずなのに、今はただ二本が正常に稼働するのみとなってしまった。一年前に自らが晴子を葬り、アシモフ、キーツ、ハインラインの三名は死亡、ゴードンはまだ存命だが、器の脳死により理性的な人格を取り戻すには半年掛かる。

 

 自身の目的を達成するためには、いずれはこうする必要があった――少年の目的は一万年前から変わっておらず、様々な経験を通じてより強固になっていくだけだった。そうなれば最終的には他の六柱を排除する必要があったのであり、ある意味ではその手間が省けたとも言えなくはない。

 

 ただ、現状は決して好ましいとは言えない。計画通りにことが進んだわけではなく、全く予想外に崩されてしまったのだから。こちらは戦力を激減させた上で、相手方の主戦力を誰一人として倒せていない。レムも、チェン・ジュンダーも、何よりアラン・スミスも全員残っている状態。この状況を打破するには、不確定な賭けに出るしかない。

 

 そしてその賭けを実行するには、次元の壁を突破する穴を作る必要がある。そしてその穴に対して、あの人ならば確実に反応し、対抗してくるはずだ。そうなれば、あまり悠長にしていられないの確か――その上で理論上は不可能でないとしてもテストなども行っていないし、不確定要素は大いにある。

 

 しかし、腹をくくるしかない。あの不確定要素だらけの中で正解を引き当てる化け物と、自分は正面から戦うしかないのだ――少年はそう考えると手が震え始めた。その震えの原因は恐怖や緊張から来ているのも間違いないのだが、同時に自身の心の憶測にある何か熱い物が、少年の精神を揺さぶっているようでもあった。

 

「先輩……僕は僕らしいやり方で、きっとアナタを上回って見せる。そして……」

 

 少年は自らを奮い立たせるように一人ごちるのに合わせ、機材のボタンを力強く叩きつけた。月から眺めるその星は、淡い金色に輝いており――しかしそれらの輝きは徐々に海の一点に集まっていき、絡み合い――そして少年の瞳には、三度目の金色の巨人が映し出されたのだった。

 

「高次元存在、これが僕からの挑戦状だ」

 

 

 ◆

 

「星右京……勝負を焦りましたか」

 

 再び海上に現れた光の巨人を眺めながら、チェン・ジュンダーはそう呟いた。T3がチェンの横に並び、相変わらずの無表情で口を開く。

 

「右京は自棄になって、光の巨人を再び降臨させたということか?」

「自棄になったとまでは言いませんが、計画を狂わされた中で賭けに出たことは間違いないでしょう。もし既に高次元存在を手中に収められるだけの準備を進めていたのならば、こんなタイミングに実行することはないのですから」

 

 自分の勘とチェンの推論は概ね一致していた。恐らく、今このタイミングでの巨人の再臨は計画的なものではないはずだ。海と月の塔を制圧された今、分の悪い賭けに出たというのは間違いないだろう。

 

 同時に――不謹慎ではあるが――自分としては右京のその行動に対して少し感心していた。不測の事態に対して大胆な行動に出るというのは彼らしくないようにも思えるが、それが彼の必死さの表れであるように感じられたからだ。

 

 もちろん、その賭けとやらが成功してしまえば碌なことにはならないのは目に見えているし、呑気にしている暇もないのだろうが。そんな傍ら、T3の奥からナナコが飛び出し、光の巨人を指さしながらチェンの方を向いて叫びだす。

 

「あれを放っておいたらどうなっちゃうんですか!?」

「確実なことは言えませんが……右京の何某かの賭けが成功するか、再び現れたアレに対して残っている第六世代たちが魂を返してしまうか、または旧世界のように暴走して天変地異が起こり、この星に人が住めない環境になるか……いずれにしても我々にとっては良い結果にはならないでしょうね」

「それじゃあ、なんとかして止めないといけないですよね!? どうするんですか!?」

「……簡単なことだぜ、ナナコ。もう一回アイツに蹴りを入れてやればいいんだ」

 

 今度は自分が一歩前に出て、ナナコが指さしているのと同じ方角を指さした。自分の提案に対し、一同は唖然としたように目を見開いており――その中でも一番早く我を取り戻したチェンが「ちょっと待ってください」と首を横に振る。

 

「確かに、一年前にはアナタがアレに突撃したことで首の皮が繋がった訳ですが……それは光の巨人に対して有効打を与えたのではなく、レムリアの人々が心を強く持ち、魂を現世に残したことが要因です。

 確かに、第六世代達の魂を護るという点では有効かもしれませんが……」

「いいや、そんな消極的な話じゃないぜ、チェン。今度は海に囚われた魂たちを解放するために戦うんだ。

 前回は、あの質量があるとも分からないデカブツに対して蹴りをかまそうとした馬鹿が一人だけだったから、せいぜい残っている人々の心を絶望に落とさないことしかできなかったが……そんな馬鹿が何人も居るってなったら、どうにかなると思わないか?」

 

 こちらの返答に対し、またチェンは言葉を失ってしまう。しかし反論が無い所を見るに、自分の意見をどこか直感的に正しいと思ってくれているような印象を受ける。

 

 自分としても言語化はできないのだが、上手くいくような気はしているのだ。蹴りをかまさずとも、ともかく光の巨人に対して――世界の終わりに対して心を挫かすに戦うこと、そしてそれが一人でなく複数人であること。三次元の檻にいる矮小な存在である人間の底力を高次元存在に見せつけてやること――そうすれば、海に囚われた魂たちが解放される、そんな直感があるのだ。

 

 とはいえ、理性的な軍師様は道理が通らないことに首を縦に触れないであろう、口元に指をあてて小さく唸っている。それに対し、自分の左隣に居たソフィアがひょこっと顔を出す。

 

「チェンさん、アランさんの言う通りにやってみましょう」

「ふぅ……貴女はアラン・スミスが絡むと普段の聡明さが欠落しますねぇ」

「それは否定しませんが、どうせ手をこまねいてみていても、いい結果にならないと言ったのはアナタ自身ですよ。それなら、最後まで抗ってみる方が建設的だと思いませんか?」

 

 嫌味をさらりとかわしたソフィアのカウンターにより、チェン・ジュンダーは再び押し黙ってしまった。とはいえ、女性陣はやる気になってきている雰囲気はある。まだどこか踏ん切りがついていないのは自分を除く男性陣であるものの、あと一押しが決まればなんとかなりそうだ。

 

「私も、やってみる価値はあると思います」

 

 そんな風に手を上げながら声を上げたのは、ソフィアのもう一つ隣にいるクラウディアだった。彼女は自分を呆れ半分、残り半分は援護してあげますよ、という目をしながら話を続ける。

 

「まぁ、主神と繋がる光の巨人を攻撃するというのも、恐れ多くもありますが……海に囚われているのは、絶望に心を落としてしまった人々の魂です。その迷える魂たちに、強い意志の力を見せることができれば、一気に解放できるかもしれません」

「そう、俺が言いたかったのはそういうことだ!」

 

 意見に手を叩いて賛同すると、クラウディアは「何も考えてなかった癖に……」と肩をすくめる。

 

「しかし、魂の集合体である光の巨人を攻撃するというのは問題ないのか?」

 

 疑問を差し挟んだのはブラッドベリだ。それに対してクラウディアは巨人を指さしながら「それは問題ないはずです」と続ける。

 

「魂は本来、三次元の檻に留められるものでなく、超次元的な存在です。私たちが三次元世界において物理攻撃を行うことで魂が損なわれることはありませんし……なんなら、気付けになるくらいに思ってくれて良いんじゃないでしょうか?」

「高次元存在と交信できる貴様が言うのなら、あながち間違いでもないのだろうが……しかし、海上にいるアレをどう攻撃するつもりだ?」

「足場があればいいんだろう、魔王の旦那!」

 

 その声は穴の外、上空から響き渡り、次第に強烈な風圧と共にノーチラスが降りてきて、搭乗口が塔の穴にピタリと合わさる。シモンが通信でこちらの会話を聞いており、自分たちを巨人の元へと送り届けるために降りてきたのだろう。

 

「さぁ、ノーチラスに乗り込んで! 親父から託されたもの……僕自身の夢を叶えるために、星右京の好きにさせる訳にはいかないんだ!」

「シモン……そうだな」

 

 一同船に乗り込み、自分たちはブリッジへは行かず――アガタはこれからやろうとしていることの性質上別れた――すぐに甲板へと続く扉の前まで移動する。そして船の移動がゆっくりになったタイミングで甲板へと出て、左からエル、クラウディア、ソフィア、自分、チェン、ナナコ、T3、ブラッドベリの順で横一列に並んだ。

 

 移動時間は短かったはずだが、光の巨人にかなり接近していた。いや、実際にはまだ数キロメートルほど距離はあるはずなのだが、如何せん目の前のそれの巨大さがあまりに、既に視界をその巨体が覆いつくしている。

 

 改めて近くで観察すると、光の巨人は完全なるエネルギー体という訳でないことに気付く。その身体が蠢いているのは、幾分か海水を取り組んでおり、それが血液のように流れており、魂の残滓たちをその身に循環させているようだった。

 

 そして何かを循環させているということは、その体内には擬似的な循環器が存在しており、その核があるということを意味する。自分が一年前に突貫した時も、それを目掛けて蹴りをかました瞬間から意識が無くなったことを思い出す――核を落とせれば巨人を止められるかもしれない。

 

 しかし、こんな山のような相手に突撃していったんだから、我ながら中々頭が悪い。しかし、今回はそんな頭の悪い連中が他に七人も居るとなれば、これほど心強いことも無いだろう。そして再びクラウディアが一歩前へと出て、改めて巨人の胸のあたりを指さした。

 

「先ほども言いましたが、光の巨人に対して手加減をすることはありません。ナナコちゃんの攻撃はその性質上、超次元的ではありますが、この星に残る人々の想いの力をぶつけることになるので、きっと良い喝になると思います。それで……」

 

 クラウディアは言葉を切って右手を前面へとかざす。すると、艦全体を護るように膜が張られ――巨人の方から撃ちだされたノーチラスを覆うほどの光の粒子が彼女の作った結界を揺らし、辺りの光を激しく明滅させた。

 

 その規格を考えれば凄まじい威力の攻撃だったはずだが、クラウディアが張った結界の斥力が勝ったおかげで事なきを得た。クラウディアは艦を護れたことに安堵の息を吐いた。

 

「どうやら、既に暴走は始まっているようです……そうですね、チェンさん?」

「えぇ、あの動きを見ると、旧世界を滅ぼした光の巨人に近い。このまま放っておけば、この惑星レムも人の住めない環境になってしまうでしょう……セブンス」

 

 チェンは少し移動し、ナナコの前へと立った。そして袖から手を差し出すと、ナナコもそれに合わせて両手を差し出し、そこに黄金色の宝珠が男の手から落とされた。

 

「貴女には我々を束ねてもらうという大仕事があります。私にはちょっと熱血過ぎますから」

「分かりました! もう一度、この星を護るために力を貸してください……T3さん、チェンさん、ブラッドベリさん!」

 

 銀髪の少女を取り囲む男たちは、皆一様にナナコの言葉に大きく頷いた。自分は三人の少女たちの方へと振り返り、先ほど右京が落としていった宝珠を見せる。

 

「さて、俺たちは実に二年ぶりだが、行けそうか?」

「そうね……難しいかもしれないわね」

 

 エルのスッとぼけた調子の返答に、思わず肩の力が一気に抜けてしまった。行けそうかと聞いたのは自分なのだが、当然行ける前提で聞いたのであり、まさかこの土壇場で「無理かもしれない」なんて言葉が出てくるだなんて予想だにしていなかったからである。

 

 とはいえ、きっとソフィアとクラウディアはやる気だ――と思ったのに対し、二人もどこか神妙な表情を浮かべながらエルの言葉に対してうんうんと頷き合っている。

 

「ずっと宝珠を持っていたのに、アランさんがいつも単身で突っ込んでいくせいで一度も活用するタイミングが無かったし……」

「そのせいで、私たちもコツを忘れちゃってるかもしれないですねぇ」

「ぬぐっ……」

 

 確かに、とくにブラッドベリと戦った時以降は、自分は単独行動が多く、結局三人の少女たちと一度もこの宝珠を起動させることは無かった。それに、宝珠の起動は本来は簡単でないと聞く――以前に発動させた時も土壇場であったのであり、とくに練習したり示し合わせたりしていた訳でもないから、彼女らが言うようにその起動は難しいのかもしれない。

 

 ただ、先ほど自分だってT3とブラッドベリ相手に心を束ねることはできた訳だし、案外行けるものでないか――そう思っていると、エルがどこか達観したような笑みを浮かべ、二人の少女の方を眺めているのが視界に入ってくる。

 

「それに、私たちも二年の間に色々あったから。きっと以前と同じように心束ねるとはいかないのよ」

 

 エルの言葉に対し、またソフィアとクラウディアは「そうだね」「そうですね」と頷き合っている。なんなら気も合っているし、特に問題もないんじゃないかと思いつつ、その真意はいまいち測りかねる。

 

『……どういうことだ?』

『意味が分からないなら、一度どっかの角に頭でもぶつけた方が良いと思いますよ?』

 

 何の気なしにレムに聞いてみたら、思わぬ暴言を返され、再び肩の力が抜けて視線が落ちてしまう。しかし、右手に握っている宝珠が徐々に熱を持っていることに気付き――レムから『ただまぁ』という声に合わせ視線をあげると、少女達は不敵に笑いながら頷き合っていた。

 

「お互いに強力なライバルと思っている点では気が合っているわけだし……」

「誰かさんの力になりたいという想いは変わらず……」

「この旅の中で見つけた大切な物を護り、育んて行くために……力を合わせよう、エルさん、クラウさん」

 

 次いで、機械鳥が「ソフィア、精神感応は任せるわ」と言いながらソフィアの持つ魔術杖の先端と融合し、エルが二対の剣を鞘から抜いて構えた。

 

 手の中の宝珠は、むしろ二年前のそれよりも遥かに熱い――自分達が成長したことに付随して、これなら以前とは比較にならないほどの力を出すことができるだろう。

 

「エル、道を拓いてくれ」

「えぇ、分かったわ」

「ソフィア、グロリア、巨人の足止めを」

「了解だよ」

「クラウディアは火薬、俺は杭だ」

「またアレですか? アラン君も凝りませんねぇ……ま、良いですけどね」

 

 クラウディアは言葉では呆れた様子だが、しかし不敵に笑いながら機械仕掛けのトンファーを握った

 

「それじゃあ、いくぞ! トリニティ・バースト、発動!」

 

 自分が宝珠を天に掲げるのに合わせ、自分とナナコを中心にそれぞれ三本の巨大な光が立ち上がった。

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