B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
光の巨人を再び顕在化させることには成功し、少年は本懐を遂げるのに必要な準備を進めていた。その傍ら、映像で巨人を確認することも怠らない――先ほど自分が落とした宝珠のコピーを用いて八人が心を束ね、光の巨人に向かって果敢にも戦いに挑み始めたようだ。
どれほど力強い光をその身に纏おうとも、見た目としては巨人の大きさに対して彼らを乗せているノーチラス号は、まさしく大海を揺蕩う一個の点のようにしか見えない。しかし、その様相は、一年前とは全く違う。以前はまさしく世界の終わりという雰囲気の中で、ただアラン・スミスのみが心を挫かず、その身を挺す事で人々の魂を護った――それに勝るとも劣らない覚悟があれだけ集まっているのなら、その力は以前と比較のしようもない程に強力だろう。
つまり、少年には確信があったのだ。光の巨人は、彼ら八人に必ず倒される――あとはそれが数分後なのか、激闘が何時間も続くのか、はたまた一瞬なのか、それだけの差なのである。
同時に、その勝敗は少年にとってはどちらに転がっても構わなかった。ただ、より可能性を上げるのなら、その隙は一瞬だろう――そのタイミングに間に合うようにコードを作り、同時に月からの一撃を確実に当てられるように照準を絞っておく必要がある。そのため、強いてを言えばあまりに一瞬で勝負がついてしまっては少年にとって好ましいことでなかった。
そのため、彼は月から光の巨人に命令を降し――未だ完全なコントロール下にはおけないものの、この一年間で研究が進み、超次元的な力を放出させる程度のことはできるようになっている――幾許かの時間稼ぎのために八人の抵抗者達に対して攻撃を仕掛けさせることにする。彼らがトリニティ・バーストを発動させる前に巨人が攻撃を仕掛けたのも、星右京が命令を下したからに他ならない。今の巨人はその腕や胸部から粒子を発し、抵抗者達に対して迎撃の姿勢を取っている。
そして巨人の攻撃に対抗するために、まずはクラウディア・アリギエーリとチェン・ジュンダーとが仲間を護るために結界を張り、次いでエリザベート・フォン・ハイラインがへカトグラムの宝石に接吻をしながら前へと歩み出る。
「……アナタが長い夢の中で練り上げた奥義、今完成させるわ、リーゼロッテ……」
彼女が解除コードを唱えると、宝剣の先端に小型かつ強烈な重力波が発生し――本来なら全て巻き込むそれは、神剣アウローラの持つ指向性により、ノーチラスや味方を引き寄せず、同時に辺りの光や粒子を凄まじい勢いで吸い込みだした。
「これが始祖より引き継いだ……奥義! 神剣二刀爆裂波【ゾンネンブルーメ】!」
そしてエルが巨大な重力をまとった引力をまとった短剣を薙ぐと、小規模なブラックホールが――地上で本物が生成されれば惑星そのものがもたないため、正確には光すら吸収するだけの巨大な力場と称すべきだが――光の巨人を目掛けて飛んでいく。
そして、すぐに暗黒が巨大な翡翠色の一閃にて断たれる。直後、圧縮されていた原子や粒子たちが一気に拡散し、周辺を巻き込む強烈な爆発を起こした。そこに力場をコントロールするというアウローラの性質が加わり、爆発は確かな指向性を持ち、核融合に匹敵する威力が剣閃の跡を追うように進行していく。本来なら球状に拡散するはずのエネルギーは前へと進んでいくため、術者本人には被害がいかない仕組みになっているようだ。
その技は、先ほどリーゼロッテ・ハインラインがアラン・スミスに対して放とうとして失敗したもの。そしてその強力な一撃は、形成する惑星レムの有機的な海水からなる――モノリスによって生きる海とも称された――猛烈に吹き飛ばし、規模数キロメートルからなる巨人の右腕を思いっきり吹き飛ばし、更には右胸部にも確かな裂傷を与えた。
光の巨人はあくまでも人に近い形を取っているだけで、そのダメージによって倒れることは無い。海に落ちた右腕は、再び元に戻らんと急速に一点へと収束している。だが、エリザベート・フォン・ハインラインの一撃は巨人の構成要素を確かに分離させた。巨人が再生をしている間に、確かに巨人による熾烈な攻撃を半減以下にすることに成功したのである。
それを好機と見て、ソフィア・オーウェルとクラウディア・アリギエーリがノーチラス号の甲板から飛び出した。だが、まだ巨人は完全に無力化されたわけではない。むしろ、接近してくる二人の少女に対して攻撃方法を切り替え、蠢く身体の表面から光の粒子を打ち出し、それによって激しい弾幕が展開される。
「さて、私は若い世代の援護にいそしみましょうか……流石にアレを相手に殴る蹴るも無いでしょうし、私たちは普通の人らしく地に足をつけて頑張りましょう」
チェン・ジュンダーが手を前面にかざすと、光の巨人から放たれている光の粒子がねじ曲がっていく。ほとんど質量をもたない巨人の攻撃を、彼は意志の力で捻じ曲げている――本人にもできるという確証があった訳でもないのだが、同時にいけるという直感はあった。万年を復讐に捧げたその執念は強く、また同時に絶望に心を落とした幼い子供らにその意志の強靭さを見せることが自身の使命であるという確信があったのだ。
チェンのサイキックにより、ソフィアやクラウディアらの進路が開け放たれると同時に、ノーチラスに向けた攻撃も逸れていく。巨人はそれを厄介に思ったのか、胸から集めた破壊の粒子を纏った海水を一気に吹き出し、それをノーチラス号の甲板へ向けて射出してきた。さしものチェン・ジュンダーも、その大質量を曲げるのは難しいが――彼の前に二人の男が立ち、押し寄せる破壊の衝動へと向かい合った。
「力を合わせろ、アルフレッド・セオメイル!」
「……あぁ!」
T3は奥歯を噛み、音のない世界で精霊魔法の詠唱をしながら弓を引き絞る。エネルギーを貯め、最大出力で放たれる波動砲は螺旋を描きながら突き進んでいき、巨人より放たれた流水を押し戻しながら進んでいく。
それに合わせ、ブラッドベリが正面でエネルギー衝撃波を練り上げ、自身の前に巨大な球体を生成する。それは、魔王ブラッドベリが七柱の創造神を相手に作り上げた奥の手であり、セブンスのラグナロクに打ち破られた一撃でもある――しかし先日と違うのは、彼は自らの信念でここに立ち、そして何かを護るためにその拳を握っているという点である。
「穿て、無双なる一撃……邪槍ウロボロス!」
振り抜かれた巨漢の拳が衝撃波の渦を叩き、そのまま漆黒のエネルギーが放射される。槍とはいっても、その巨大さは放たれた流水を呑み込むほどであり――そして強烈なエネルギーがT3の放った一撃と重なり、押し寄せてきた巨大な流体を完全に押し返し、そのまま猛烈な一撃が巨人の胸に突き刺さった。
男たちの渾身の一撃により、成層圏にも及ぶほどの巨人の体がぐらつき、その暴走に一瞬の隙ができる。そしてその隙を剣士は待っていた――精神を統一させ、剣に力を込めていた銀髪の少女が目を見開き、歯を食いしばりながら大きく足を踏み出した。
「いくよ、ラグナロク! 御舟流奥義、昇り彗星縦一文字!」
セブンスが逆袈裟に剣を振り上げると、全てを両断する金色の剣閃が放たれる。その斬撃は巨人の中央を走り、そしてその巨躯の厚みをものともせずに突き進み、巨人の身体は腹から頭部にかけて両断された。
生物的な機構をもたない光の巨人にとってそれは致命傷にはならず、分かたれた上半身は戻ろうと蠢き、腹から徐々に縫合されているが――両断された裂け目には、黄金色の結晶が浮かぶように鎮座している。それは、人の心臓を思わせるような形をしており、細い管が巨人の身体の至る所に繋がっている。アレが光の巨人を形成している核であるというのは、この場に居合わせている者たちにはまた直感的に理解できた。
『ねぇ、ソフィア……希望ってあるのかもしれないわね』
『……そうだね』
空を駆ける小夜啼鳥は、光の巨人を圧倒する仲間たちの強さを眺めていた。この世界に希望なんか無いと思っていた――仲間を、大切な人を失って、この世界でやるべきことは、ただ復讐を果たすことだけだと思っていた、
しかし、終わり行く世界で徐々に仲間が再び集結し、愛する人も帰って来て、今では頂上的な存在すら圧倒するほどの力を示せている――そうなるとグロリアの言うよう、この世界には希望は確かにある。一度は絶望の淵に沈んだソフィア・オーウェルの胸にも、滾る何かが熱く燃え上がっていた。
『さてと……海水を吸い込んでいるアレを相手にするのなら、炎よりは冷気の方が良いでしょう。飛行のコントロールは私に任せて、アナタは魔術の演算に専念しなさい』
『全弾打ち込むつもりでいく!』
超音速で空を駆け巡りながらソフィアは己の持てる最大の魔術を編む――それは彼女が既に齢十一の時には創り出していた魔術であり、この四年間で少しずつ改良を重ねてきたものだ。
そして、今は頼れる同居人がいる。相手からの攻撃はグロリアが避け、防ぎ、適切な位置へと移動してくれる。ソフィアはその思考の全てを魔術を編むことに専念し、高速で移動を続けながら演算を続け、自らの周囲を回る魔法陣と共に巨人の身に接近した。
『シルヴァリオン・ゼロ・アサルト!』
絶対零度の光線が陣から照射され、伸ばされた生きる海からなる巨人の身を凍らせていく。しかし、ただ一発では終わらない――ソフィア・オーウェルは魔術杖を再装填し、その身を移動させながら最大の魔術を連射していく。
そして魔術弾を打ち切る時には、前面へと突き出されていた巨人の左腕はすっかりと凍り付いていた。まだ右腕すら回復しきらない光の巨人は両腕を封じられ、その巨体を大きくのけぞらせた。
「アランさん!」
「アラン、今よ!」
「あぁ、任せろ!」
小夜啼鳥の声に応えるように――距離が離れて本当に声が聞こえた訳でないが、彼は少女たちの意志の力を感じた――アラン・スミスはベルトのバックルを弾き、奥歯を噛んで音速の壁を突破した。同時に変身して鎧を纏う。そしてソフィアが創り出した道に――巨人の左腕へと飛び乗り、その肩を目掛けて全速力で駆けあがっていく。
彼が通ったその道は熱く燃え上がり――月から俯瞰的に戦局の全容を見ている少年の目には、長い氷の道を赤い流線が一気に駆け抜けているように映った。虎が駆けた跡には氷が一気に蒸発し、水蒸気が巻き上がっている。
そしてたったの数秒で虎は巨人の肩まで駆けあがると、そこから更に上へと向けて跳躍した。その先には、ソフィアと同時に飛び出したクラウディア・アリギエーリが両手を組み、八重の結界を編みながら、跳んでくる虎を待ち構えていた。
「クラウディア!」
「行きますよ、アラン君……せーの!」
虎は少女が叩きつける手の先に展開されている結界を蹴るのに合わせてもう一度奥歯を噛み――彼女の紡ぎ出す結界なら、全力で蹴っても問題ないことを知っている虎は、それを全力で蹴り、凄まじい速度で落下を始める。
『何度だって見せつけてやるぜ……人間の魂の強さを!』
男はベルトのボタンを二回押し、目の前に現れたゲートを二つくぐり、男は灼熱の神速となって宙で翻り、剥き出しになった巨人の核を目掛けて右足を突き出した。
『食らいやがれ、上位存在! ブレイジングタイガァアアアアアア!』
加速した精神と時の中で原初の虎は強く叫び、核をすり抜け――足裏には蹴り飛ばした感覚こそなかったものの、確かな手ごたえを感じ――後は無敵艦隊を倒したときと同様、アランは凄まじい勢いで海面へと落下し、そのまま大きな水柱を立てた。
核に強力な一撃をもらった光の巨人は、その身体を構成していた金色の粒子を霧散させていく。物理的なダメージによって消滅しているわけではなく、彼らの見せた魂の強さにより、高次元存在がこの星にいる者たちにはまだ進化の兆しがあることを認めたからだ。それ故に海に囚われていた魂たちが解放されているのだ――この一部始終を見ていた星右京はそのように考えた。
そして、少年にとって本番はここからだった。星右京にとっては、第六世代たちの魂がどうなろうと知ったことではない――ただ彼は宇宙に沈黙を降ろす手段として、作られた魂たちを管理し、このようなディストピアを演じていたにすぎない。彼の目的は、ただ一点、次元の壁を超える境界線へと到ること。光の巨人の核の更に中心にはその境界が確かに存在し、実際にアラン・スミスが抜けていったある一点に、JaUNTをする時に見えるような小さな次元の断裂があることを彼は見逃さなかった。
その断裂の先はどこへもつながっていない――いや、恐らく人の規格では認識できないだけだ。その亀裂は縦一メートル、横数十センチという隙間であり、人は通ることはできない――況や三次元の檻にある者があの空間に入ったとしても、多次元という重みに肉の器も魂も耐えきることはできないだろう。
しかし、星右京の目的はその亀裂を通り抜けることではない。もっとも彼らしいやり方で、その細い隙間から多次元宇宙に対して干渉する手段を講じる。その今にも閉じてしまいそうな隙間、その僅かな一転に少年は照準を合わせた。
「これで仕上げだ……コード、冬の静寂【ウィンター・ミュート】」
少年がコンソールのボタンを押すと、人口の月から光が照射された。それは複雑な色彩の光となり、複数のリフレクターに反射され、そして寸分の狂いもなく巨人の核から生じた次元の歪みを呑み込むように発射された光が海へと降り注いだのだった。
◆
ブレイジングタイガーの勢いで海面を叩くと同時、リーゼロッテとの戦いとの時間を合わせ、変身のタイムリミットを迎えた。そして水面に巨大な波紋が生まれ、それらは津波となって周囲に立ち上がった。そして水面が元に戻ろうとする力が生まれると同時に、ソフィアが凍らせていた海水が上から落下してきて、自分の体はそのまま海流にもみくちゃにされながら、深くまで潜り込む形になった。
光の巨人がどうなったのかを見届けるため、素早く水中を昇り始め――本来なら水圧に身体を鳴らしていくべきなのだが、サイボーグと融合した今の体なら多少の無茶は利く――勢いよく上昇を続け、そのまま水面へと顔を出す。
既に海は金色でなく本来あるべき青を取り戻しており、自分が蹴りぬいてきた場所から光の粒子が霧散を始めており、それらの多くは陸を目指して飛んでいっているようだった。恐らく、海に囚われていた第六世代たちの魂が肉体へと戻っていっているのだろう。
ひとまず、終わった。まだ課題はあるものの、この場でやるべきことは終わらせた。そんな安堵の気持ちに合わせて大きく息を吸い、後は仲間の誰かが自分を拾い上げてくれるのを海に揺蕩いながら待とうと――そう思っていた矢先の出来事だった。遥か空の向こうから何かが放たれた気配を感じた直後、複雑な光彩が見えたのは。
「アレは……マルドゥーク・ゲイザー!?」
マルドゥーク・ゲイザーは僅かにその場に残っていた黄金色の粒子を呑み込み、海へと突き刺さった。その光線はしばらく天から降り注いだ後、にわかに消失し――光線が消え去った軌跡には、ただ透き通るような青い空が覗いており、ノーチラス号も顕在で、今の攻撃による被害は一切ないように見えた。
だが、視界に何か歪みが生じる。それはまるで砂嵐のように中空に表れ――目をこすってみると、その歪みはすっかり消失していた。復活してから激戦続きで疲れが出たのか、または生身とサイボーグとが融合したことによる何か弊害でも出たことによる目の錯覚かとも思ったが、どことなく感じる言いようのない禍々しさは、自分の身が原因でないということを告げているようにも感じられた。
世界の均衡が徐々に崩されていくような、そんな違和感。だが、それを言語化できるほど自分は賢くもないし、知識がある訳でもない。ただ、付き合いの長い自分の直感が、何かマズいと言っている――そんな胸騒ぎを感じていると、脳裏にレムの声が響き始める。
『私たちが集まっているところを一網打尽にしようとしたってことでしょうか?』
『いいや、そういう感じじゃなかった。アイツは光の巨人を狙って放ってきた……何か目的があるはずだ。レム、先ほどの光線の解析はできるか?』
『はい。すでに海と月の塔のコントロールは奪い返しましたから、恐らくすぐに解析できると思います』
レムが解析を進めている傍ら、自分は助けに来てくれたソフィアに手を取られ、そのままノーチラス号へと帰投した。ブリッジには既に一同集まっており、正面にはレムのホログラムが立っており、その背後のスクリーンには世界各地の状況が映し出されている。レムが塔のコントロールを取り戻したことにより、各地に設置されている監視カメラを利用できるようになったということなのだろう。
それを見る限りだと、世界中の至る所で人々は黄金症という病理を克服し始めているようだった。王都や馴染みの城塞都市、ダン・ヒュペリオンが作り上げた地下都市や世界樹など――自分が辿ってきた街や村で、物言わぬ金色の彫刻と化していた人々を覆っていた結晶が砕け始め、その中から一年の沈黙を破って第六世代たちが息を吹き返してきている。
もちろん、問題は山積みだろう。自分はつい先ほどまで文字通り海の藻屑と化していたのであり、今の世情についてきちんと把握できているわけではない。しかし、一年も人口を激減させていた世界では、第一に食料問題は大きくのしかかってくるだろうし、他にも七柱の創造神が築き上げた社会秩序も信仰も無い世界が来ようとしているのだ。大混乱は避けられないだろう。
しかし、このブリッジに集まっている一同が神妙な様子なのは、もっと別のことを心配しているからに違いない。あの星右京が、腹いせに何かをしてくるわけがない――先ほどの一撃には何か意味があるはず、その不安と疑問とが皆の心に重くのしかかっているせいで、勝利の喜びもないままに、解析を進めているレムの言葉を待っているのだろう。
そしてある一定の答えを得たのか、目を瞑っていたレムがゆっくりと瞼を開き、一同をゆっくり見回した後、手を正面で組みながら静かに自分の方を見つめてきた。
「アランさん、先ほどの解析の結果が出ました……アナタの想像通り、アレは光の巨人の核に向かって放たれたものだったようです」
「それで、あれは何だったんだ?」
「先ほどのマルドゥーク・ゲイザーを利用した光線は、熱などの破壊的なエネルギーをもたないもの……アレは高度に暗号化された通信用のレーザーであり、莫大な容量のデータを三次元の壁を超えて送り込んだのです。つまり……」
レムは言葉を切って背後にあるスクリーンの方へと振り返り、その一部分を指さす。何やら難しい文字列が大量に羅列されているが――彼女の神妙な表情を見るに、それが良い内容でないのはすぐに予想できた。
「星右京は、高次元存在に量子ウイルスを送り込んだのです。それがどのような影響を及ぼすのかは今の所では明言することはできませんが……海と月の塔に残された彼のレポートを見る限り、それは分の良い賭けではなかったようではあるものの、どうやら彼は最終手段として、自らの生み出したウイルスで無理やり高次元存在をその手中に収めようとしているのです」