B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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月の防衛機能について

 世情に関する問題に関しての話の続きは――ある種これが最大の問題だろうが――一気に戻った人口を養うだけの食料である。黄金症から復帰した人々の数を考えれば、人口は一気に三倍に膨れ上がったに等しい。それに対してこの一年間、人々は自衛のために戦いに明け暮れ、そうでなくとも魔王征伐と重なったこの時期では農地は荒れ果てたまま放置されているため、人々を養い得るほどの食料が無いという問題があるとのことだった。

 

 この点に関しては、海と月の塔を中心としたいくつかの拠点に有事の際に備えられていた保存食を解放しつつ、荒れ果てた農地に関しては一時的に化学肥料を使って生産を早めることで対処を考えているようだった。

 

「……しかし、それでも向こう一年で全人口を養うだけの食料を確保することは難しいです。そしてここから付随して第二の話……これから私たちが具体的にどうするべきかのお話に移ります」

 

 レムの話の続きは次のようになる。端的に言えば、オールディスの月へと攻め込むべきというのがレムの意見だった。それはわざわざ明言しなくてもこの場にいる者たち全員が予見していたことであるのだが、彼女からすると以下のような観点からも月の奪取が必要ということだった。

 

 第一に、もし右京やローザ・オールディスが自棄を起こして月の破棄をしてしまえば、惑星レムの重力や自転、公転周期に大きな狂いが生じ、人の住めない星になってしまう。この星が正式にアシモフの子らに継承されるとなれば、まずそれは避けねばならない事態である。今のところはまだ人工の月は不穏な動きを見せていないようだが、今後何が起こるかも分からない。

 

 第二に、人工の月には様々な資材が保管されており、その中には保存食もあるということ。それらを軌道エレベーターで運び込むことで、不足している食料を補うこともできるし、またそれをルーナ派の基で配布できれば――実際、食料の大半は塔の上から支給される――分解しかけている教会の権威を立て直すことに繋がるかもしれない。

 

 人はパンのみに生くるにあらずと言えども、それはパンが足りていればこその話だ。飢えは精神で克服することはできない。肉の本能が最低限充足されていればこそ、魂はその真価を発揮する。ともなれば、喫緊の課題として食料問題の解決にルーナ派が噛みさえすれば、それだけ人々の信頼を早急に取り戻すことに繋がるという訳だ。

 

 そして、軌道エレベーターを使うとなれば、自然と月のコントロールを奪取しなければならないことになる。レムリアの民たちの明日のためにも、月の攻略は必要になるということだった。

 

 第三に――これが全員が思っていることであるが――万年続く因縁に決着をつけるべきということ。大勢は昨日で決したようにも見えるが、右京が高次元存在に対して何某かウイルスを送ったとなれば、ここから一気にまくられてしまうことだってあり得る。

 

 つまり、様々な観点から鑑みて、やはり月に残る右京達を倒す必要がある。先日は結局アイツを直接殴れなかったから、自分としても消化不良――というのは冗談だとしても、アイツを止めなければならないという決意には揺るぎはない。

 

 ふと、自分の心持ちに対して疑問が生じる。過去の因縁に決着をつける、右京を止める、それらに関しては全くの本心ではあるのだが、なぜ自分は「アイツを殺す」または「アイツに復讐をする」という感覚が希薄なのか。相応の仕打ちは受けているし、相応の報復をして然るべきなのだが、まだ自分の中に星右京という男に対する情けが残っているというのか。

 

 もちろん、アイツはそんな同情などいらないとでも言うだろうが――そんな風に思っていると、レムの背後のスクリーンが切り替わり、オールディスの月の内部に関するデータらしきものが映し出された。球を半分に切った円状の断面の中に大まかな月の構造が現されており、その中に四人の顔写真と一点とが線で結びつけられている。一つ、リーゼロッテ・ハインラインの顔写真が灰色になっているところを見るに、顔写真が繋ぐ先にはそれぞれ七柱の創造神達の領域があることを示していると思われた。

 

「月に残っている勢力として考えられるのは、右京とローザ、ダニエル・ゴードン。彼らを護るために量産されているであろうルシフェルに、月の防衛のために設置されている第五世代型アンドロイド……それに、月そのものに接近する物を排除するための衛星兵器です」

「ダニエル・ゴードンは倒したんじゃないのか?」

 

 自分がそう質問を差し挟むと、レムは頷きも首を振ることもしないでこちらに対して振り返る。

 

「人格の再構築が必要なため、半年は脳死状態であることは間違いありませんが……だからと言って本体を倒したわけではありません。

 私やアシモフは月は管轄外だったので、ここからは共有されていた情報からの推測になりますが……右京、ローザ、ゴードンの三名は、それぞれ自分の本体を護るための防衛機能を備えていると考えれます。事実、イスラフィールとジブリールが知りうる情報として、ローザは有事の際の防衛機能を備えているとのことです。

 防衛機能は、本体が脳死しており、理性的な判断ができない非常事態においても、周囲の七柱から自分の身を護れるほど強力なものでなければならない。自分の居城を護ることに専念することになるので、手を出さなければ反撃こそないでしょうが、その防衛機能は強力と思った方が良いでしょう」

 

 そこでレムは言葉を切って、一度エルの方を流し見た。エルには月で眠っていたリーゼロッテ・ハインラインの記憶がある程度共有されているはずなので、もしかしたらレムよりも月に関する情報を持っている可能性があるということなのだろうが――エルは瞼を閉じて申し訳なさそうに首を振った。

 

「ごめんなさい、リーゼロッテはあまり周囲に関心が無かったようだから、正確なことはわからないわ……でも、ローザ・オールディスの他に、ダニエル・ゴードンや星右京も独自の防衛機能を備えているというのは本当よ。ただ、それがどの程度の規模間で、どういった装置なのかまでは分からないけれど」

「そうですよね……むしろ、他の七柱に知られていては意味がありませんから、貴女が分からないのも無理はありません。ひとまず、防衛装置が確実にあるということが分かっただけでも十分です」

 

 レムがエルから視線を放すと、今度は背後のスクリーンに無数の点が現れだす。断面の横に五桁を超える数字が記載されていることから推察するに、アレは配備が予想される第五世代型アンドロイドの数だろう。

 

「予想される敵の数から見れば、我々の数など物の数にもなりませんが……とはいえ一人一人はまさに一騎当千であり、如何に月に強力な防衛装置があったとしても、こちらの戦力は申し分ないものであると考えれます。

 ですが、貴方達を無事に月へと送り届けること、それ自体が最大の難関であると考えられます。予測の通り、軌道エレベーターは右京の管理で使えなくなっていますし……どれだけ強力な力を持っていたとしても、人は宇宙空間では戦えません。

 そうなれば、当初の予定通りにノーチラス号で月へと接近する必要があるのですが……」

 

 レムがそこで一度言葉を切ると、今度は背後のスクリーンの月の一部分に赤く印がつけられた。スクリーンの中で円が回転すると、今度は球の側面が映し出され、先ほど赤く印がつけられている点は月の外に突き出している――まず間違いなく、あの形状は砲身だろう。

 

「月へと航行する為の最大の障壁になるのが、やはり衛星軌道兵器マルドゥークゲイザーです。普段は出力を抑えているのですが、もし最大で打てば惑星を粉々にできるほどの威力があります」

「うぅん、流石にその威力ともなれば、八重桜でも防げそうにありませんね……」

 

 声のしたほうを見ると、クラウディアが頬をポリポリとかいているのが視界に入った。彼女の操る結界は七星結界すら遥かに凌ぐ最強の防御力を誇るが、流石に星を破壊しつくす程のエネルギーに対抗するのは難しいか。仮に万が一に防げるだけの力が彼女の結界にあったとしても、そのエネルギーの余波を考えれば、惑星レムそのものにダメージを引き起こす可能性もある――それなら正面から撃たれることは必ず避けなければならないだろう。

 

「……もちろん、砲身が直接狙える軌道を取ることはありませんが、向こうは軌道を回るリフレクターを利用して、惑星レムとその周辺から来る外敵を狙い打つ事も可能です。その場合は威力は落ちますが、それでもこの星でレヴァンテインを利用して放たれていたものよりも遥かに強力……勇者シンイチが見せていたマルドゥークゲイザーは、アレでも惑星の重力と大気で幾分か威力が削がれていましたから。

 リフレクターで反射する場合でも、減衰されると言えどもかなりの威力を誇ります。これが連続で撃たれるとなれば、やはりクラウディアの結界を持ってしても安全とは言えないでしょう。

 そのほかにも、外敵に備えた宇宙艦隊も存在します。それらが月へと移動する私たちを阻むとなれば、その移動は命がけのものになると言っていいでしょう」

 

 主力となるキーツの艦隊は倒しているので、そこだけは僥倖と言えますが――レムはそう付け加えた。また、以前マルドゥークゲイザーは一日に三発が限度と聞いていたように思うが、実際の所としてはその威力に対して連続して使用に耐えられる程の砲身を人の技術で用意できるわけでないので、二十四時間で三発であるということらしい。

 

 そこまで話し終えて、スクリーンの画面が再び切り替わった。今度は見覚えのある形状の機械の断面が――ノーチラス号の内部の機構が映し出された。

 

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