B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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三章:B&T
女神の警告


 気が付くと、ほの暗い場所にいた。

 

「……いい加減、この感じも慣れてきたな」

 

 そう言いながら振り返ると、黒髪の女神、レムがこちらを笑顔で見つめているのが見えた。

 

「アランさん、お疲れ様です。まさか、魔将軍とやり合うことになるとは、驚きですよ」

 

 眠りにつく前のことをほんのりと思い出す。レヴァルの地下迷宮でジャンヌ――魔将軍ネストリウスの遺志を継いで、レヴァルを魔族に襲わせた――と、タルタロスと遭遇し、勇者パーティーと合流してなんとか撃破したのが今日の出来事。

 

 その後は、結局軍の駐屯地で寝泊まりすることになった。駐屯地のある入口付近は、敵の攻撃も激しかったものの、冒険者や兵も多かったおかげで損傷も少なかった。レヴァル襲撃の爪痕で、他の宿もしばらくは使えそうにないし、レヴァル防衛の立役者であるソフィアやエル、クラウが評価され、結局すぐに軍や勇者達と連携をとれるようにしたためでもある。

 

「まぁ、別に俺は見てただけだが……」

「しかし、行方の分からなかったタルタロスがレヴァルの地下にいることは、私も想定外でした。ジャンヌ・ロペタがネストリウスの遺志を継いでいたことも……あの地下空間は、神々の目を欺くために出来ていたようです」

 

 神々の目を欺く。そう言えば、ジャンヌが思考を覗き見るとかなんとか言っていた気がする。あの地下の文様は、それを防ぐためにあったのか。

 

「なぁ、ジャンヌの言っていたことだが……」

「……えぇ、事実、と言うべきでしょうね。私は、この世界の様子や、人々が何を考えているのか、見通すことができる……しかし、それこそ何億もの魂があるので、逐一確認はしていません。そのため、こちらとしても意識的に見なければ見落としますし、全てを把握できているわけではありません」

「それでも、ジャンヌの暗躍を見抜けなかったのか?」

 

 彼女は、レヴァルという大きな街の重職なのだから、神々が監視していてもおかしくはない。

 

「彼女は、二重思考【ダブルシンク】をしていたようですね。地上で、我々の目が届いている時には、本心からルーナ神を信仰しているように自分すらも欺いていたのです。だから、彼女の本心は、我々が表面から見る分には問題ないように見えていたんですよ」

 

 良く分からないが、神々の監視のある地上では、ジャンヌは邪神を信仰していることを思考しないようにしていた――いやどちらかと言えば、彼女の本心は表に出さず、外向けの思考を普段はしていたという感じだろうか。

 

 

「……それにしても、今日はイヤに饒舌じゃないか。普段なら、もっと煙に巻く癖に」

「まぁ、あまり疑念を持たれた状態も本意ではないと言いますか。恐らく、前世の倫理観からすれば、思考が覗き見られているのは気になる部分だと思いまして」

「あぁ、正直、それは神様であっても、やってはいけないことだと思う」

 

 今までもレムに対しては思考が読まれていたはずなのに、改めて全世界の人間が思考を読まれているとなると、なんとなくイヤな感じがする。監視されているのも気持ちいいものではないし、人の尊厳を損なっているように思われる。

 

 何より、人間を超越した存在に思考を読まれてしまうのはダメなんじゃないか。上手く言葉には出来ないが――そうだ、いつまでも子供をコントロールしようとする親のような、そんな違和感があるのだろう。

 

「……悪人が相手だとしても?」

「悪人が相手だとしてもだ……心の中なんて、自由であっていいんじゃないか? 言うほど立派な奴なんていないだろう。どんな良い奴だって、その日の気分では、世界なんて滅びれば良いって思うだろ……。

 ただ、心の闇が外に出るか、内にとどまるかだけの差だと思うぜ。そして外に出しちまった奴は、法律によって裁かれればいい」

 

 自分の意見を述べると、女神は嬉しそうに目を細める。しかし、それは一瞬で、今度は目をつぶって、小さい子を窘めるような表情に変わる。

 

「えぇ、アナタのいう事もまた真理、しかし理は魂の数だけ存在する……ひとまず、私とアナタの一存だけで、今の世界の在り方は変えられません」

「……それもそうか。犯罪や悲劇が起きる前に、止められるに越したこともないしな」

「はい、そういうことです。でも、アナタの意見は、しっかりと受け止めていきたいと思っています……そのために、アナタをこの世界に招いたのですから」

 

 そこまで言って、レムは顔の横で人差し指をピン、と立てる。

 

「あともう一つ、アナタをここに招いた理由があります。出来れば勇者やその仲間たちには……そうですね、エル、ソフィア、クラウディア以外には、アナタが転生したことを言わないで欲しいと、それを言いたかったのです」

 

 そう言えば、地下でクラウがレムの祝福を受けられないことを、彼女のせいでないと伝えたいがために転生の話をしたのだった。

 

「えぇ、クラウディアには私の目が届かない時に言ってしまいましたからね。そして、アナタは他の二人に言わないのはフェアでないと思っている。なので、特別にその二人だけは許可します……ですが、それ以上は認められません」

「理由は聞かせてくれるのか?」

「当然、みだりに転生者という存在を世に広めることは、混乱を招くと想像されるのが一つ。本来、異世界からの来訪者は勇者だけですからね。もう一つは……そうですね、これも正直にお答えします。アナタという存在を、他の創造神たちに悟られたくないからです」

 

 女神の言う事の真意が分からない。だが、相手はこちらの思考を読むのだ、勝手に話を続けてくれる。

 

「この世界は、七柱の創造神たちがルールを定め、営まれています。アナタをこの世界に招いたのは、このルールが正しいものか、判定してほしいから……そうなれば、他の七柱にアナタの存在が悟られると、アナタに迎合する神や、アナタを滅そうとする神が出てこないとも限りません」

「成程な。この世界のことを多少分かった今なら少し納得するぜ……俺は、他の神々の定めたルールを判定する密偵って訳か」

 

 そう考えれば、女神が自分にチートスキルを渡さなかったのも納得かもしれない。あまり強い力を持つと、他の神々に目をつけられてしまうから――。

 

「いいえ、そこは以前言った通り、スペック不足です」

「スペック不足とか言うな! はぁ……しかし、神々は人々の心を覗けるんじゃないのか? そうだとするなら、俺が表面上で隠したところで、無駄だと思うんだが……」

「いいえ、人々の記憶領域を見れる能力があるのは、創造神の中でも私だけです。他の神々は、私を仲介して覗くことは出来ますが……仮にアナタのことを見たいという神が出てきたとしても、私はそれをそれっぽく改ざんして、適当な報告をして欺くことができます」

「うん……? それなら、他の奴らに話してしまっても問題ないんじゃないか? 結局、レムを通さないと他の神々も分からないわけだし」

 

 こちらの意見に対して、レムは小さく首を振る。

 

「勇者パーティーはこの世界の命運を握るメンバーですから、創造神たちが定期的にその様子を見ています。私以外の七柱は、それぞれ役目があり、常に監視しているわけではありませんが、重要な局面は見守っている形です。

 記憶や思考が他の神々に伝わらずとも、言っているところを見られてしまったらアウトですね……とくに、アガタとテレジアは問題ありませんが、勇者シンイチは七柱全員、あとはアレイスターは魔術神アルジャーノンがよく見ていますので、この二人に口を滑らせるのは、特に注意していただきたいです」

「分かった。それなら、あの子たち以外には言わないことにする……が、もし俺が言っちまったら?」

 

 その言葉に、女神は凄くいい笑顔をした。アレは、悪いことを考えている顔だ。

 

「ふふふ、アナタの魂をその体に定着させているのは私だということをお忘れなく……試しに、ちょっとなんでもいいから話してみてください?」

「あぁ、女神様、今日もお美しいですね」

 

 あぁ、何を言っているんだ? そう返そうと思ったら、口から全然別の言葉が出てきた。

 

「こんな感じで、アナタの体はある程度コントロールできますので」

 

 そう言って後、女神は指をパチン、と鳴らした。恐らく、これでコントロールは解いたという事か。

 

「そもそも、言わせないってか……了解だ。まぁ、別に言う気もないさ。勇者もその仲間たちも、ぱっと見の印象は悪くなかったが……別に信用しているわけでもないしな」

 

 テレサとアレイスター、あの二人は掛け値なしに良い人だと思う。ただ、勇者シンイチとアガタ・ペトラルカに関しては思うところはある。自分が害を被ったわけでもないし、またあの二人からすれば何かしら理由もあったのかもしれないが、それでもシンイチはソフィアを追放し、アガタはクラウを欺いた経歴がある。

 

 もちろん、ソフィアとクラウの感情とは別の所であの二人を評価するべきだとも思うが、自分は大前提、二人の少女の味方であろうと思う。とくに、あの夕日の中で怯えていたソフィアが気になる――勇者シンイチに関しては、慎重に評価をするべきだろう。

 

「……ふふ、アランさん、自分勝手な人ですね?」

「あぁ? まぁ、否定はしないが、藪から棒だな」

「いえいえ、先ほど、悪人とてうんぬんみたいに理性的なことを言っておきながら、今度は感情で判断しているなと思いまして」

「……人間なんてそんなもんだろ?」

 

 どれだけ理性的であろうと思ったって、結局感情に振り回されるのは仕方がない部分はあるだろう。それに肉体的な状態だって重要だ。普段は誠実であっても、腹でも減れば盗みも働く。衣食足りて礼節を知るとか言うが、それは真理だと思う。

 

「はい、人間なんてそんなもんです。肉体の檻にいるアナタ方は、良くも悪くも状況によって、思考や感情に左右されてしまう……でもきっと、その矛盾こそが、人間の愚かさでもあり、同時に素晴らしさなのでしょうね。主神の思し召しも、少し共感できるというものです」

 

 聞きなれない単語、主神とかいう言葉が飛び出してきた。そう言えば、七柱の上に主神がいるとか、クラウ辺りが説明してくれていた気がする。確か、主神の意に添うように、七柱の創造神たちが色々動いている、とのことだった気がするが――。

 

「さて、そろそろ時間ですね」

 

 そう言う女神の後ろに、光の扉が現れる。こちらが質問したいときに限って、時間切れになるのもお約束か。というか、コイツは俺の思考パターンから、大体どんな会話になるのかも予測しており、こちらが起きるタイミングと質問したくなるタイミングを合わせているんじゃないかとも思える。

 

「ふふふ、そのあたりはご想像にお任せしますよ……最後に、多分、アランさんも魔王討伐に誘われることになるでしょう。それ自体、止めはしません。むしろ、最短でこの世界の歪みが見えるかもしれませんし……ただ、あんまり無茶はしちゃだめですよ? まぁ、言っても聞かないんでしょうけれど」

 

 光に吸い込まれるのに身を任せながら、女神の最後の忠告を聞く。ちょうど横をすれ違ったときに、言いたいことがあったのを思い出したので、それを伝えることにする。

 

「あぁ、そうだ、俺からも……ソフィアを助けてくれてありがとうな」

「……はい。あの子は、良い子ですから。本来なら手出しするべきでなかったんですが、私としてもちょっとズルしちゃいました」

 

 女神はそう言いながら、舌をペロッと出す。こちらの記憶を覗き見て、体を好き勝手できることを知って少し警戒はしていたが――やっぱりこいつは信用できる、そんな風に思った。

 

 そして、次の瞬間には、天井の板が目に入る。すでにすっかり日は昇っているようで――少し寝坊したか、起き上がって時計を確認しよう。

 

「……お? お目覚めだね」

「……うぉ!?」

 

 全然予測していなかった、というか気配を全く感じていなかったその声にぎょっとして飛び上がってしまう。声のした方を見ると、ベッドの横で人懐っこそうな笑顔で、勇者シンイチが笑っていた。

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