B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

390 / 419
最後の作戦会議

 ソフィアの質問の後、レムは一息入れてから「さて、作戦としては到ってシンプルで、つまりいつも通り」と話を切り出す。

 

「こちらは火力を一転集中して穴を作って最速で抜けていくだけです。右京からしてみてもまたか、という作戦にはなりますが……結局戦略とか戦法というのは、量か地の利が伴わなければ実行不可能なものですから。

 こちらに関してはノーチラス一隻にて何倍もの敵戦力を超えていかなければなりませんし、海と月の塔の時のように生身で戦闘をすることも出来ません。また、我々は結局一点を目指して攻めていかなければならない以上、相手側としてはその防衛に徹すればいい……奇策を用いて艦隊をおびき出すことも考えられますが、マルドゥークゲイザーがある以上は飛行時間が伸びるほど不利ですから、結局最短を駆け抜けていくのが一番可能性としてマシ、という結論になりました」

 

 補足として、レムからは二つのことが共有された。まず、地上にはこちらが使える宇宙艦隊が存在しないこと。これはキーツの艦隊が地上の最後の守護者の役割を担っていたのであり、それらを破壊してしまった今では地上に艦隊は存在しておらず、こちらとしては他の艦隊を利用することはできず、結局ノーチラス一隻で宇宙に上がっていかざるを得ないと。

 

 次に宇宙艦隊の数について。万が一異星人との戦闘になった際に数十隻というの数が心もとないのではないかという点に関しては、以下三点の理由があるらしい。

 

 第一に観測可能な範囲で異星人は存在していないこと。要するにワープでもしてこられない限りには一気に近づかれることも無いのであり、仮に亜光速レベルでの接近ならば数百年単位で準備期間を取ることも可能で、それらを観測してから本格的な準備を進めれば良かったという点が挙げられた。

 

 次に、そもそも亜光速レベルで接近されたとしても、艦隊による接近戦を――艦隊が接近戦というのも違和感はあるが、宇宙レベルなら確かにそうなるのか――する前にマルドゥークゲイザーなどの破壊兵器で迎撃するのが合理的だという点。

 

 そして最後に、もし相手側がワープで一気に接近してくるような技術力がある場合は、それはDAPAの技術力をはるかに超えた存在であり、そもそも抗うということ自体が無駄であるということから、必要最低限の艦隊しか準備をしていないということらしかった。

 

 最たる理由はとくに三番目であり、とくに邂逅の可能性が高いのはこの星の原生民族――彼らはDAPAよりも一億年進んだ技術レベルを有しているのであり、もしも攻められた場合には抵抗は無駄だろうと考えられていたようだ。

 

 それに、仮に異星人との邂逅があったとしても常に戦闘行動に直結するとは限らない。ただし、七柱の目論みを知れば異星人たちはそれを良しとはしないだろうから、高確率で抵抗せざるを得ないとは考えていたようだ。

 

 とはいえ、結局三千年の間、異星人たちからのコンタクトは一切なかった。そこから推測するに、原住民族達はもはや何百万光年近く離れた場所に居て自分たちのことを観察できていないか、はたまたワープのようなものは開発できておらず、七柱たちがその願いを叶えるまでの邂逅はもはやほとんどあり得ないと考えられていたようだ。自分たちの尺度からすれば三千年も途方もない数字だが、宇宙スケールで考えればほんの一瞬の出来事に過ぎないということなのだろう。

 

 要するに、月の艦隊はマルドゥークゲイザーを超えてきた場合における最後の切り札として、そして地上の無敵艦隊は主に他の七柱に対するキーツの私設の戦力としての側面が強かったということらしい。必要最低限として作られていた月の艦隊が相手をすることになるのは異星人ではなかったという点は皮肉だろうが――同時にそれらがこちらの壁として立ちはだかるのも皮肉ではあるが、ひとまず自分たちと右京側の戦力差についてはそういった状況らしかった。

 

 それに、仮に地上に利用できる宇宙船があったとしても、それに乗り込む人材が居ない。自動制御や第五世代にやらせることも不可能ではないが、そうなれば右京のハッキングの的になる。惑星側の付近であればレムが護れるが、月に近づくほど電波が届く速さの問題で右京側が有利になる。月側に近づくほど乗っ取られる可能性が高いので、どの道一隻で突破するほかないということも付け加えられた。

 

 話を戻すと、つまりはマルドゥークゲイザーこそが最大の関門であり、それを先立って破壊できればノーチラス号の生存確率は大分上がる訳だ。とはいえ、それが出来れば苦労はしない。同じ星の中なら地中だとか電波を阻害しながら秘密裏に動いて施設に潜入工作することなども可能だが、如何せん宇宙を隔ててしまっているとなれば、必ず宇宙船にて接近しなければならない。

 

 自分がそんなことを考えている傍ら、ソフィアがチェンと何やら話しているのが耳に入ってくる。

 

「可能性としては、すでにレムとチェンさんが出していると思いますが……ピークォド号をこの星に誘致した時のように、何かでマルドゥークゲイザーを使用させて、その隙に一気に月に接近するという手段は取れないのでしょうか?」

「それは難しいですね。こちらから月へ向かって撃ちだせるものと言えば、それこそ核兵器などのミサイルくらいしかありません。これらはマルドゥークゲイザーを使用するまでもなく、配備されている艦隊によって撃ち落とすことができますから。

 以前にピークォド号が惑星レムに到着できたのは、宇宙艦隊が配備されていなかったからこそです」

「しかし、チェンさんは三百年前に七柱たちに気づかれずに惑星レムに潜入していますよね? これの逆をすることは不可能ではないのですか?」

「あの時は大気圏の摩擦で燃え尽きる隕石に紛れて潜入したのです。月側では大気が薄いので逐次隕石は落とされますし、況やそれで上手くいくとして、潜入までに時間が掛かりすぎます……今の状況でそれをするには、悠長というほか無いでしょう」

 

 もしチェン方式の潜入が利用できるのなら、自分が先立って月へと潜入してマルドゥークゲイザーを破壊するなども出来たのだろうが、確かに体よく隕石を待つことなども出来ないし、そもそも月に落ちる隕石に乗り込むためにも一度は宇宙に出る必要がある。そうなれば、チェンが潜入した手段は確かに利用できないだろう。

 

 逆に言えば、こちらの不利は月にたどり着くまでにノーチラス号しか戦力が無いことに起因する。それならば逆転の発想で、戦力を増強させればいい――もちろん先ほど使える宇宙船が無いのは聞いているが、ならばこそ相手も予想外の戦力には驚くはずだ。

 

「なあ、俺が変身して、ブレイジングタイガーで一気に抜けていくって言うのはどうだ?」

「はぁ……空の次は宇宙を駆けるつもりですか?」

 

 レムはこちらへ向けて呆れたような視線を向けつつ、大きな溜息を吐いた。

 

「一応、選択肢としては考えましたけど、かなり無謀ですね……無謀と言うと燃えてきた、とか言いながら実行しちゃいそうですが、今回に関しては絶対にやめてください。

 なぜなら、アナタがそれを実行すれば、直ちに惑星レムは壊滅的な被害を受けるからです。アナタの今の体の規格ならば、再生能力と私の加護による自動修復を併せて、宇宙空間で活動すること自体は可能です。

 ただ、ブレイジングタイガーが月に直撃すれば、そのあまりの威力に月そのものが破壊されてしまいかねない……月が破壊されれば惑星レムはその重力を保つことが出来なくなりますから」

「なるほど、でもそれなら、衛星の破壊や艦隊との戦闘に俺を投入するのは?」

「どうしても宇宙空間で戦いたいんですか? その可能性も考えはしたんですが、あまり現実的ではないかと。まず、宇宙空間には空気抵抗が無いので、ADAMsによる加速で吹っ飛んでしまえば、アナタを回収すること自体が難しいです。

 更に、宇宙軌道のために無理やりバーニアを背負わせるという手段も考えましたが、音速の十乗の速度でスッとんでいくのを制御するバーニアの存在自体が現実的ではありませんし、どの道一か所にとどまって戦闘をすること自体が無謀です。

 それなら、ノーチラスに増設した主砲で一点突破をして、全速で抜けていく方が、まだ可能性はありますね」

 

 バーニアを背負って宇宙戦闘をするなどなかなか浪漫はあるのだが、確かに言われてみればその通りで、自分が宇宙に出て戦っていることが全体のリスクを上げてしまうのならば、それは避けるべきだろう。

 

 とはいえ、結局宇宙戦での状況は改善していないのであり、そうなると根本的な解決にはならないのだが――そんな風に思っていると、レムはこちらを慰める様に微笑みを浮かべた。

 

「大丈夫ですよアランさん、貴方には月に突入してからちゃんと活躍してもらう予定ですから」

 

 そこからは、月へと侵入するまでの役割分担について語られた。主にシモンと熾天使達がノーチラスの基本的な動作を行いつつ、マルドゥークゲイザーを防ぐのにクラウディアがバリアの強化に周り、ナナコがラグナロクで主砲を担う。また、月面に着いてからはソフィアとグロリアが魔術と飛翔で体を守りながら月面を制圧し、目的地に着艦する――大雑把な流れは以上のようになる。

 

 そのほかのメンバーに関してはブリッジ内で待機という形だ。月に入ってからが自分たちの本番だというのは大前提だが、それでも重大な局面においてやるべきことが無いというのは心苦しいものがあるのだが、先ほどレムに突っ込まれたように宇宙空間で自分は戦うこともできないので、仲間たちに頼ることしかできないというのが現状だった。

 

 レムの背後にあるスクリーンは、説明を追うごとに徐々に宇宙空間から月へと近づいていき、最終的には最初に映し出してた月の断面へと戻った。そしてレムが話し終えたタイミングでチェンが立ち上がり、スクリーンの前に立って口を開いた。

 

「さて、ここからが我々の出番です。月へ侵入が出来たら、侵入部隊の方々にはローザ・オールディスとダニエル・ゴードンの本体の撃破を目指していただきます。

 現状としては右京を止めることの優先度が高いのはもちろんなのですが、彼の根城は、多くの強固な隔壁によって護られていることが予想されます。皆さんの火力ならそれを破壊して進むことも不可能ではありませんが、先ほども言ったように強大すぎる火力は月そのものを破壊しかねませんし、かと言って一枚一枚丁寧に破壊をしていったらそれこそ時間が掛かりすぎてしまいます。そこで……」

 

 チェンが振り返ると、スクリーンに映し出されている月の内部がズームされ、七柱達の領域部分がフォーカスされ、男はそのまま赤、青、緑で塗られている空間を指さす。

 

「このように、ゴードンやローザの領域と、右京の領域とは隣接しています。彼らの領域に関しては、右京すら介入できない強固な独自のプログラムで護られていますから……ここを制圧してその壁だけを破壊することで、右京の領域へ侵入しようという作戦です。

 どの道、月の制圧をするにも、此度の戦いに決着をつけるとしても、この二者ともしっかりとケリをつけなくてはなりませんからね」

 

 そこまで言って再びチェンはこちらを向き、今度は自分とナナコを交互に見やった。

 

「そのため、潜入部隊は二手に分かれます。一つはアラン・スミスを中心とするメンバー。もう一つはセブンスを中心とするメンバーです。この振り分けなら、自然とトリニティ・バーストによる戦力増強が見込めますし、勝手を知っているメンバーに背中を預けたほうが戦いやすいでしょうから。

 どちらの舞台がどちらの相手をするかは、その時の流れ次第にもなるとは思っていますが……今の所はアラン・スミス側にゴードンの相手をしてもらおうと思っています」

「別に異論はないが、理由はあるのか?」

「主な理由として、空間の構造が挙げられます。ダニエル・ゴードンの本体は、月の中心にあるモノリスと直結して演算を行っている……そのため縦に長く、ルーナの領域よりも立体的な構造をしていると予測されているのです。

 貴方たちの方がメンバー的に、高低差をモノともしないで戦闘が可能ですから、そういった意味での選択になります」

 

 モニターを見るとチェンの言う通り、ダニエル・ゴードンの領域の方が複雑な構造をしている。別にナナコたちのメンバーでも戦えはするだろうが、自由に飛び回れるソフィアを筆頭に、重力操作ができるエルに結界で飛び回れるクラウディアと揃っているのだから、確かに自分たちの方が適任といえるだろう。

 

 言い分に納得してチェンに頷き返していると、また横からソフィアが小さく手を挙げた。

 

「最大の懸念点として……私たちが右京を追い詰めたとして、ギリギリのところでJaUNTで逃げられてしまう可能性が挙げられるかと思います。この点はどう対処するのですか?」

 

 確かにソフィアの言う通り、どれほど自分たちが追い詰めたとしても、右京なら簡単に離脱できてしまう。質問を受けたチェンがレムの方を流し見したので、また一同の視線が彼女の方へと集まった。

 

「これも完全な対処法とは言えませんが、ひとまず月の制圧が出来れば、、これ以上のウイルスの進行を止めて、右京の目論みを挫くことが出来ると予測されています。彼は月にある旧世界の三つのモノリスを使って、高次元存在のウイルスを制御している……高次元存在という途方もない存在に対して電脳戦を仕掛けるのなら、相応のスペックのコンピューターが必要ですから。

 ただ、もしも既に彼の側で更なる研究が進んでいて、もはや彼が制御せずとも自動的に繁殖するようなプログラムを組んでいるのなら……文字通りお手上げです」

 

 レムはそう言いながら両手を肩の高さまで上げて首を振った。

 

「ただ、私たちにできることは、月に乗り込むことの他にありません。当初こそ果たして彼のウイルス作戦が上手くいくかすら疑問視されていましたが、こうやって被害も出始めているのです……ともなれば、自分たちが攻め込まない以上、右京の側としては月で籠城して事の成り行きを見守るだけで良くなっているのですから。

 それに、一応JaUNTに対する対抗策はあります。海と月の塔の権限を取り戻した今の私なら、彼がJaUNTを発動させる集中力を削ぐフィールドを発生することが可能です」

「……とはいえ、地上からではアナタの能力を発動させるのにどうしてもタイムラグが発生しますし、そもそも電波そのものを遮断されてしまうのでは?」

「えぇ、ソフィアの言う通りです。ですから、タイムタグが出ないように、私も月に行くつもりです」

 

 レムがそこで言葉を切って、ブリッジの扉の方を見つめる。扉が開くと、奥からアガタが現れ――その手にはずっと彼女の胸にあったアンクが握られていた。アガタが自分のほうへと向かってきて手にあるそれを差し出し、それを自分が受け取ったところで、最後の作戦会議は終了となったのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。