B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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同じ道を歩む者として

 作戦会議が終わってからは一度は解散となった。まだノーチラスの最終調整が済んでおらず――あと二時間ほど掛かる見込みとのことらしい――その間に各々最終調整を済ませようという運びになった。レムと第五世代らは――熾天使の二人も含む――未だ休まず作業をしてくれているが、人の身で徹夜続きのシモンは流石に休憩を言い渡され、渋々ながら仮眠を取るのに個室に入ったようだった。

 

 クラウディアはアガタとの再会で談話室へと向かい、そのほかの戦闘メンバーに関しては持っている武器の最終確認をするために各々作業へと移った。とはいえ、既にここに来る前に皆ほとんど調整は済ませており、本当に最後のチェックというだけではあるのだが。

 

 自分に関しては、情けない話だが自分の武器に関する知識がないので、代わりにレムにチェックをしてもらうことにした。一応、チェックが必要なのは変身ベルトくらいである。EMPナイフについては新品を与えられ、タイガーファングについては新しいものを熾天使の二人が作り直してくれていた。その他、カランビットナイフは機構的な部分は特にない為、必要なのはベルトのチェックのみになる。チェックが必要なベルトに関しては、アガタから受け取ったアンクから出てきた手のひらサイズのレムが解析してくれている。そしてそれは予想通りに問題なしのお墨付きを――海を長時間漂っていたというのに全く頑丈なことだが――いただき、レムはノーチラスの調整へと戻っていった。

 

「……貴様は、星右京を殺せるのか?」

 

 レムが姿を消すのと同時に、同じ部屋で弓の調整をしていたT3がそう声を掛けてきた。

 

「あぁ? どうした藪から棒によ」

「質問に答えろ、アラン・スミス……貴様は星右京を殺せるのか?」

 

 T3は弓を置き、やおら振り返ってこちらを見つめてくる。その瞳からは感情を読み取ることが出来ない。ただ光のない目をこちらへ向けてきているだけだ。何故こんな質問を唐突にしてきたのかは分からないが――T3は自分と右京の因縁を詳細に知っているわけではなくとも、同時に何かあることは感じ取っているのだろう。

 

「殺せない、っつったらどうする?」

「どうもこうもしない。ただ、貴様の決意を知りたかっただけだ」

「ふぅん……てっきり、貴様が甘いことを言うのなら代わりに私が仕留めてやる、くらいに言うつもりなのかと思ってたぜ」

 

 今の言葉は皮肉でも何でもない自分の本心であって、実際に以前のT3ならそのように返してきたと思う。しかし男はこちらの言葉に何の反応も見せず、また弓を手に取り――しかし何やら気もそぞろで、所在ないのを誤魔化しているというのは傍から見ていて明白だった。

 

「敵の事情など知るべきではない。いや、知ったところで決意を鈍らせるべきではないというのは前提だが……知れば知るほど、七柱の創造神という連中が分からなくなる。

 彼奴等はこの管理社会を作り上げ、第六世代を利用し、全く自分勝手な願望を叶えようとしている……だが、ファラ・アシモフやフレデリック・キーツ、それにリーゼロッテ・ハインラインなどを見ていると……奴らはただの冷徹な管理者ではないように思えてきてしまう」

「テメェらが言ってただろう? アイツらは偽りの神々だってさ……実際、その通りなんだ。アイツらは神なんかじゃない。無駄に長生きしちまった人間なんだよ。

 人間だから、弱さがある、コンプレックスがある……レムリアの民と同じようにさ。結局のところ、子は親に似る。旧世界の人間のゲノム情報を元に作られている第六世代の本質が、最後の世代と変わらないのはそういうところだろうさ。

 そしてアイツらは自分の弱さを解消するために、本来は手に入らないような可能性にすがって、ここまで来ちまっただけなんだ」

「だからとて、奴らの罪が許されるわけでもない」

「あぁ、その通りだ。だから別に、俺だって変に手心をくわえるつもりもない……残っているDAPAの連中止めなきゃ罪もない人々の魂が弄ばれるっていうのなら、殺してでも止めるべきだ。

 だけど、まぁ……トドメを刺す前に一言ぐらい言ってやりたいって気持ちくらいあってもいいだろう?」

 

 何の気なしに思い付きを返答し続けると、T3は改めて押し黙ってしまった。恐らく、T3はファラ・アシモフをその手にかけたことが契機になって、自らの所業を真の意味で見返すようになったのだろう。

 

 今までのT3は、怒りに身を任せた復讐者であると同時に、邪悪な神々を倒すというある種の大義名分のもとにいた。だが、もしその邪悪な神々が――彼がそうであると断定していた相手が自分と同じような心根を持つ人間だとするのなら、掲げていた題目が崩れ去ってしまう。それ以外にも、ナナコとの関係性が三百年の怒りを鎮めてしまい、復讐者としての名分も薄れてしまっていると言う部分があるのかもしれない。

 

「……むしろ、お前が迷っているんじゃないか?」

 

 こちらの質問に対し、T3はこちらに対して一度鋭い目線を向け――もしかすると決意を侮られたとでも思ったのかもしれない――しかしすぐに落ち着きを取り戻し、手元に視線を下した。

 

「そんなことはない。だが、そうだな……強いて言えば、今更ながらに考えるようになったのかもしれない。魂を奪うということの、その意味を」

 

 この男の心情は理解できる――そんなことをこの男に言えば知った風な口をと言われるのが容易に想像できるが――自分も同じ道を通ってきたから。

 

 T3と自分の最大の違いは、この男は最初は愛する人を奪われたという怒りという大義名分があったのに対し、自分には最初からそれが無かったという点だろう。だから、自分は最初からこの罪と向き合わざるを得なかった――同じ人を殺すという事実から目を逸らすことが出来なかったのだ。

 

 人を殺すということの意味を考えずに戦い続けたこの男を愚かだと笑うことは出来るだろうか? ひとまず、自分には出来ない。この男にはこの男なりのひたむきさがあったのだから。それに、先ほどの言葉に嘘偽りもないだろう。この男は殺しに対して迷いは無い――かつてのアラン・スミスがそうであったように、それが自分のやるべきことであるという点は納得はしているのだろうし、敵を目の前にすればT3は迷いなく弓を引くはずだ。

 

 ただ、霧の向こう側に居たはずの仇の姿が明瞭に見え始めた結果――もしくは戦いの終わりが見え始めた結果として――霧を裂く矢の向こうに自分の罪が見え始めた。それに同じ虎がどう感じているのかを、この男は知りたかったのかもしれない。

 

「殺しの意味を考えるのはあんまりおすすめしないぜ。確かに、俺たちは人殺しだが……それは仕事であり、それは世界にとって必要なことだ。それは一面的かもしれないが、ひとまずそう考えないとやっていけないし……結局誰かがやらなきゃならない。それが自分だった、それだけの話なんだから」

 

 何の気なしに思い付きを言葉にするが、以前に誰かが同じようなことを自分に言ったように思う。こんな風に語ってくれたのはべスターだったか。しかし、実際に死地に立っている自分に対しては、そこまで心に響かなかったように思う。

 

 同時に、べスターの気持ちも今になって理解できる部分もある。誰かがやらなきゃならない中で、自分にお鉢が回ってきたというだけであり、そこに対してああだこうだと思い悩んでも碌なことにならないのは確かなのだから。これは自分がやってきたことを客観的に――T3というフィルターを通して――見返すことで、初めて見えてきた事実とも言える。

 

 とはいえ、やはりつまらない返答をしてしまったせいか、T3からの反応はない。多分、べスターに言われた時、自分もコイツと同じような態度を取っていたのだろう。ただ、実際に同じ人間の魂を、自分の意志で奪ってきた自分にしか言えないことも恐らくあるはずだ。

 

「……少なくとも、自分がやることで、誰かが被るはずだった罪を自分のものにできる……それだけでも、俺たちがやる価値があると言えるんじゃないか?」

 

 そう、たとえば、少女たちに罪を負わせないというような――それならば、殺しの業を振るう価値もある。こちらの言葉の方が余程納得がいったのか、T3はどこか寂しげに微笑を浮かべながら弓を眺めて頷いた。

 

「……そうだな。私も同じように考えていた……貴様と同じなどというのは癪ではあるが」

「お前はいつも一言多いんだよな、まったく……」

 

 まったく、素直じゃない奴だ。だが同時に、奇妙な友情を感じているのも確かだ。べスターのように気心が知れているとか、右京のように悩みを共有できるというのも違うが、強いて言えば同じ虎の名を関する者としてのある種の共感か。近いが故に反発もしあうし、自分を見ている様で目に余る部分もあるのだが、同じ立場だからこそ同じ景色が見えている、そういったシンパシーを感じる部分がある。

 

 男のほうもそうだったのか、珍しく口元に微笑みを浮かべてこちらを見返してきた。だがすぐにいたたまれなくなったのか――確かにこいつと和やかな雰囲気というのは自分も慣れない――T3は弓を持って立ち上がった。

 

「以前貴様を殴ったことだが……」

 

 男は背を向けたまま扉の前に立ち止まり、しばしそのまま押し黙った。

 

「……なんだよ」

「なんでもない。私は風にあたってくる……貴様も英気を養っておけ」

 

 そう言い残して男は部屋を去っていき、後には沈黙だけが残った。謝られても困るし、なんならこちらとしては腕を落とされているのでそちらのほうがよっぽど大ごとだろうとも思ったが、こちらとしてもあの男を散々攻撃したのであるので、今さらながらに変にまぜっかえすこともあるまいと、その背中を素直に見送ることにした。

 

 T3という男に自分が期待しているのは、義理だとか人情だとかそういう部分ではない。同じ道を歩んできたものとしての技だけだ。そしてそれは相手もそうに違いない。だから、今になって互いに変に歩み寄る必要もない。ただ互いに、己の戦場においてやるべきことをやる、それだけなのだから。

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