B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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作戦会議

「アランさんを起こしてきたよ……他は皆、揃っているようだね」

 

 シンイチに連れられて着いたのは、駐屯地の作戦会議室だった。長机には、既に六人が座っている。向かって右手には奥からソフィア、エル、一つ飛んでクラウの順で座っており、対面はディック、テレサ、アガタと座っている。

 

 時刻は午前の十時、どうやらまだ彼女にとっては早い時間だったのだろう、エルは瞼を重そうにしている。他に気になる点といえば、やはりクラウか。今は入ってきた自分たちの方を見ているが、斜め対面に座っているアガタとは目を合わせようともしない。それならば、自分が間に入れば少しは緩衝材になるかと思い、一つ飛んでいる席を選んで座ることにした。

 

「……さて、それじゃあ作戦会議を始めようと思う。僭越ながら、この場は仕切らせてもらうよ」

 

 そう言いながら、シンイチは一番上座のテーブル中央に座した。しかし、よくよく見ればまだ十代に見えるのだが、なんだかそれ以上に落ち着いては見える。元来の性格が為せるものなのか、それとも修羅場をくぐってきたせいで妙に落ち着いてしまったのか――どちらかと言えば前者なように思われる。

 

 シンイチに斜め前を取られたソフィアの顔を覗き見る。シンイチに対して、思うところがあるのではないかと懸念していたが、今日は問題ないようで、いつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。

 

「まず、第一に、魔王城を攻略するのに、アランさんたちのお力を借りたい……んだけど」

 

 シンイチはそこで切って、こちら側、ソフィア、エル、クラウ、そして俺の顔を順々に見て回った。遠慮がちな視線だった理由は、恐らくこうだ――こちらとしては勇者やその仲間に対して、脛に傷があるというか、傷つけられた経歴があるので、単純に協力を得られないとシンイチは予測したのだろう。ソフィアは元々追放されているし、クラウはアガタと組むのを是としないだろう。エルも宝剣を持ち出していた憂き目がある。

 

 とはいえ、三人とも協力しない、という雰囲気ではない。そもそも、ソフィアは暗黒大陸の指令として決戦には参加する予定だったのだろうし、他の二人もその気だったのかもしれない。

 

「……アランが主語になっているのが気に食わないわね」

 

 隣で腕を組みながら、エルがそうぼやいた。目も閉じているので、なんだかそのまま寝てしまいそうである。その言葉に対しては、シンイチは鼻の頭を掻いて応える。

 

「まぁ、そこはなんというかな……一番特殊な立ち位置の人、だからかな」

「いやいや、別に善良な、ただの記憶喪失の小市民だぜ、俺は」

 

 記憶もないのに市民を名乗っていいものかと言った後に少し悩んだが、まぁ凡百な身の上という意味合いで伝える分には差支えないだろう。こちらの返しが面白かったのか、目の前のアガタが「草ですわ」と言って笑った後、咳ばらいをしてスン、とした表情になった。草とかいう表現、この世界にも存在するのか。

 

「……アガタさん、時折変なワード使うんですよ。アレは確か、お笑いですわねって意味です」

 

 そう、ぼそっと隣からクラウが耳打ちしてきた。あまり一般的なワードではなかったらしい。それでは、彼女はどこでその表現を覚えたのか――まぁ、考えても仕方ない。ひとまず、シンイチに対して疑問をぶつけることにする。

 

「別に着いて行くのは構わないんだがな。こんな風に言ったら舐めた発言かもしれないが、魔将軍はすでに全部倒されているわけだろう? それなら、あとはいつも通り、勇者が魔王を倒すだけでいいんじゃないか?」

「うん、そこなんだが……今回は、まだ魔将軍並みか、下手すればそれ以上に厄介な奴が残っていると判断している。昨日のタルタロス討伐の際のことを聞いたんだが、旧神を自称する人形とかいうワードがあったとか……」

 

 そう言えば、確か地下迷宮にもう一人居たのは、まだ影も形も見ていない。それがシンイチのいう厄介な奴か。

 

「……ソフィアが推理したように、今回の魔王軍の動きは妙にきな臭い。そしてそれを手引きしている者がいるとすれば……結構手ごわいと思っている。

 それで、僕らは魔王と戦うので手一杯になる可能性を考えれば、魔将軍と戦える程の実力のあるパーティーに力を貸して欲しいんだ」

「ふむ……」

 

 この世界に来てから何回か、自分なんぞ、と思ったこともある。実際にジャンヌやタルタロス相手には、自分は何にもできなかった。それを考えれば、自分が着いて行って役に立つかは甚だ疑問なのだが――ここで変に自虐したり、皆の士気を損ねることもないだろう。

 

 とはいえ、他の三人のやる気は気になる。別段、イヤという雰囲気でないことは先ほど確認したが、一応意見は聞いておきたい。

 

「……俺なんかで良ければ、力を貸すぜ。ただ、他の三人がOKなら、だ。何せ俺一人じゃ、なーんもできないしな」

 

 言ってて若干悲しくなってきたが、事実なので仕方ない。そしてまず、ソフィアがこちらを見ながら頷き返す。

 

「うん、私は決戦には支援に着いて行くのは決まっていたし……それに改めて、皆の役に立てるなら嬉しいな」

 

 次に、エルが目を閉じたまま呟く。

 

「……異論はないわ。自分勝手してきたけれど、この剣は本来、魔王と戦うためのモノ……その本懐を果たすだけね」

「お義姉さま……!」

 

 エルの前で、テレサが両手を合わせて喜んでいる。昨日も思ったが、二人の関係は良好、というかテレサがお人よしなのだろう、ここに関するチームワークは良さそうである。

 

 さて、自分の左隣にぽつんと座る彼女が、一番この件に関しては腰が重いのではなかろうか。勇者パーティーの最終選抜まで残っていたのであるし、それを落とした相手が近くにいて、そもそも自分で魔王と戦おうだとかはあまり思っていなかったはずである。案の定、クラウのほうを見ると、彼女は神妙な表情をして俯いていた。

 

「……私が居るのが気に障るのなら、ハッキリとそう言えば良いのではなくて?」

 

 俯くクラウに声を掛けたのは、対面で腕を組んでいるアガタだった。その声に、クラウの肩はぴく、と揺れる。

 

「ふぅ……そうやって黙っていても、何にも変わりませんわ。ただ、これだけは言わせてもらいます……貴女には、人類の窮地に立ち向かうだけの力がある。それなのに、自分勝手に生きるのも、違うのではありませんか?」

「……アナタがそれを言うの!?」

 

 言いながら、クラウは机を叩いて立ち上がる。クラウの言い分はもっともだろう、アガタが悪魔憑きなど言わなければ、今頃クラウは向こう側に座っていたかもしれないのだ。そうでないとしても、順当にアガタとの競争に負けただけなのなら、恐らくもう少し順当に協力していたに違いない。

 

 しかし不思議と、俺の方では怒りは沸かなかった。恐らく、アガタの言い分に違和感を覚えたせいだろう――普通なら、表面上だけでも謝るか、何となく周りの同調圧力でクラウが頷くのを待てば良いだけだ。それなのに敢えてきつい言い方をしたのは、アガタの性格なのか、はたまた何か意図があったのか。恐らく後者で、クラウは立ち上がったまま、意を決したように口を開いた。

 

「……えぇ、えぇ、やってやりますよ! でも、アナタのためではありません、勇者様のためでもありません。ソフィアちゃんとエルさん、あとオマケにアラン君もやるっていうからです!」

「おい、俺はオマケか?」

 

 こちらの突っ込みに、クラウは舌をべっ、と出して威嚇してくる。そしてすぐにアガタのほうへと向き直った。

 

「私は、私の仲間のために頑張るんです!」

「……それで良いのではなくて?」

 

 アガタは目を閉じたまま静かにそう返すと、ゆっくりと席を立った。

 

「申し訳ございません、少し気分が優れなくて……ちょっと外の風を浴びてきますわ」

「あ、アガタさん? その、お大事に……?」

 

 隣に座っていたテレサは、あたふたしながら仲間の背中を見送っていた。彼女だけ状況が飲み込めていないようで、その間の抜けた感じがこの張り詰めた雰囲気の中でちょっとした癒しになっていた。

 

 アガタが扉を閉めてから、少しのあいだ静寂が訪れる。そして、それをシンイチが咳払いで終わらせた。

 

「さて、それじゃあ協力してもらえるということで……僕からまずお礼を。ありがとう、ソフィア、エルさん、クラウディアさん、そしてアランさん。そして謝罪を……ソフィアとクラウディアさんに関しては、思うところもあったはずだ。僕らのワガママで振り回してしまって、申し訳なかった」

 

 深々と頭を下げるシンイチに対して、ソフィアが慌てた様子で声を掛ける。

 

「そんな、謝らないでください。もう一度シンイチさんのお手伝いできる訳ですし、元々は私の未熟がいけなかったわけで……それに、シンイチさんの元を離れたから、見えたものもありましたから」

「……ありがとう、ソフィア」

 

 改めてシンイチはソフィアに対して頭を下げると、今度はクラウのほうを見た。

 

「まぁ、勇者様からしたら、教会内のゴダゴダで私が勝手に不機嫌になってたわけですから……気にしないで大丈夫ですよ」

「ありがとう、クラウディアさん」

 

 シンイチはもう一度頭を下げて、次に顔を上げた時には柔らかな笑顔を浮かべていた。

 

 少しすると、テレサが手をちょこん、と上げた。

 

「……あのう、シンイチさん。ちょっと提案があるのですが」

「うん? なんだい、テレサ」

「魔王討伐の際、勇者様のお供は、私でなくてエルお義姉さまに交代した方が良いと思うのです。私の剣はハインラインの亜流ですから、二刀を上手く扱えるわけではありません。神剣と宝剣の真価を発揮するなら、エルお義姉さまの方がいいかと」

 

 その意見に、テレサの隣のアレイスターも頷く。

 

「それなら、私もソフィアと交代したいですね……私の魔術は、大隊向けですから。最終的に魔王と戦うなら、ソフィアの方が適任です」

 

 二人の意見に対して、シンイチは静かに首を振った。

 

「いいや、交代は無しだ。実践問題で言えば、三位一体の儀【トリニティ・バースト】が使えない。アレは、一朝一夕では使いこなせないからね」

 

 トリニティ・バースト、聞きなれない単語が出てきた。しかし、なんだか凄そうでカッコいい――そう言えば、神剣だとか聖剣だとか、男の子の心をくすぐるやつがたくさん出てきていたのに、心がわさわさしなくなっていた。多分、今まで急展開で、余裕が無かったせいだろう。

 

「アレイスター、テレサ、それにアガタも、僕は君たちとの絆を信じている。三人とともに歩んできたのだから、最後まで……そして、それはきっと、彼女たちも同様さ」

 

 トリニティ・バーストの説明がないまま、シンイチはこちらの列を見た。

 

「彼女たちは、アランさんの元にいるのが、一番実力を発揮できると思うんだ……だからさっき、アランさんを主語に力を借りたいって言ったんだけれど」

 

 シンイチの言葉に、ソフィアははにかんだ表情をしてくれたが、エルは露骨にイヤそうな表情をしていた。多分、後ろのクラウも同様だろう。

 

「……まぁ、慣れている面子で行動したほうが、動きやすいっていうのは同意ね。それで、宝剣はテレサに渡したほうがいいかしら?」

 

 エルの言葉に対して、シンイチは首を振る。そして立ち上がり、壁に立てかけてあった一本の剣を持ち、エルのもとへと歩いてくる。

 

「いいや、それはエルさんが持っていてくれ。恐らく、敵の隠し玉はかなり手ごわい……ヘカトグラム一本では諸刃の刃にもなりうるけれど、出力を調整すればアウローラ無しでも使えるはずだ。それに、それの使い方はかなり難しい……テレサよりも君が持っているべきだろう。あと……これを」

 

 エルは立ち上がって差し出された剣を両手で受け取り、少し鞘から抜き出した。その刀身は燃えるような赤であり、赤い流体のようなものが動き、煌めている。

 

「これは……魔剣ファイアブランドね」

「あぁ、僕のおさがりにはなってしまうけれど……それでも、市場に出回っているものや軍刀よりは、遥かに頑丈で強力なはずさ」

「そうね……これはありがたく受け取っておくわ」

 

 そう言いながら、エルは魔剣を机に立てかけて席に座る。そしてシンイチが上座に戻ると、同時にアガタが戻ってきて元の席に着いた。

 

「おかえり、アガタ。さて、魔王城での立ち振る舞いは、後で細かく詰めるとして、ひとまず今後のスケジュールだね……アレイスター、お願いしていいかな?」

「了解です。まず、魔王城への進行は、二週間後を予定しています。これには二つ理由があり、一つはレヴァルの防衛を再度固めること、もう一つは大陸から聖職者達を招集する必要があるからです」

 

 そこまで言って、アレイスターは胸ポケットからメモ帳を取り出して開いた。

 

「まず、レヴァルの城壁が所々損傷しており、また結界も解除されている状態です。結界だけでもと、昨晩から修復作業は始まっていますが、それでも周囲全長二十キロメートルを超える城壁の結界を張りなおすには数日はかかります。同時に昨日の襲撃で周辺魔族はある程度一掃できたこと、また魔獣に関しては現在我々が対応に当たれば良いので、ひとまずこれでやり過ごそうというのが目先の話です」

 

 そこでいったん切って、男はページを一枚めくる。

 

「もう一点、昨日の襲撃では、敵に魔術師クラスがほとんどいませんでした。これはバルバロッサでも同様であったので、恐らく魔王城周辺に強力な魔族がまだ多く配置されていることが予想されます。そうなると、結界を扱える聖職者の数が足りません。

 そのため、向こう一週間で可能な限りの人材をレムリア側で集めてもらい、こちらに派遣してもらう必要があります。本来なら城塞の修復に、人材を揃えるのに、最低でも二か月は欲しいところですが、時間をかけると冬が本格化してしまいます。冬になれば行軍が難しくなるので、そのための強行軍的なスケジュールにはなりますね」

 

 そこまで言い終わって、アレイスターはメモ帳を閉じ、胸ポケットに戻し、シンイチの方を見た。

 

「……と、こんな感じのスケジュールだけれど、問題はなさそうかな?」

 

 シンイチが俺の方を見て聞いているのは、一応俺を代表と判断しているからだろう。正直、自分よりも少女たちのスケジュールの方が重要だとも思うのだが、まぁひとまず同意しても問題ないだろうと判断し、頷き返すことにした。

 

「うん、ありがとう、アランさん。さて、他に問題がなさそうなら、この場は解散だね……何か質問がある人は?」

 

 シンイチが辺りを見回すのと同時にこちらも目くばせをするが、挙手する者はいないようだった。

 

「無いようなので、ひとまずこれで。一応、寝泊まりは皆ここでやることになるから、何かあったら僕にでも、他の人にでも相談してくれ。こちらからも何かあったら話しかけると思う……それじゃあ」

 

 シンイチは立ち上がり、次いでアレイスターとテレサも後を追う。先にアレイスターとテレサが扉から出て、シンイチは振り向き、見送っているこちらに対して笑顔を返した。そして、残ったアガタが小さく咳払いをして注目を集める。

 

「……クラウ、出来れば結界の修復、手伝ってほしいのだけれど」

「ふぅ……その件には畏まらなくてもいいですよ。レヴァル全体の問題ですからね」

「えぇ、そうですわね……それじゃあ、午後一時より正門前にお願いします」

 

 それを告げて、アガタも会議室から出て行った。ちょうど、いつものメンバーが会議室に残ることになった。これは色々話するのにちょうど良い機会だろう、そう思っていると、エルが立ち上がってあくびをしている。

 

「エル、ちょっと待ってくれ、寝なおすのはもう少し待ってくれないか?」

「……アナタ、私を何だと思っているのよ。流石にこの時間からは寝なおさないわ」

「どうだか……でっかいあくびだったぞ?」

「くっ……それで、私に何か用?」

「あぁ、ただエルだけじゃなくて、ソフィアも……クラウには話しているが、一緒にいてくれるとありがたい」

 

 話している、というフレーズで何を言う気なのか察したのだろう、左を見るとクラウは頷き返した。せっかくなので全員の顔がすぐ見えるところに行くか、先ほどシンイチが座っていた場所に移ることにする。改めて少女たちの方を見ると、ソフィアが首をかしげながらこちらを見ていた。

 

「アランさん、お話って何?」

「えぇっと、どこから話したもんか……」

 

 俺は思いつくままに、自分がレヴァルに現れた理由を、三人の少女たちに向けて話し出した。

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