B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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夜の散歩

 作戦会議のあった夜、自分は個室で机上ランプの明かりの下で考え事をしていた。

 

 脳内会議の議題は、火力。今の自分には火力が足らない。とくに、魔王城やその周辺にいるであろう強力な魔族や、正体不明の勢力、それに魔王とも戦うことになる可能性がある中で――袖から一本、投擲ナイフを取り出して宙に投げてみる――これでは威力が足らないだろう。

 

 毒や聖水は確かに良かった、アレはナイフと扱いの相性が良い。しかし、強力な魔族には効くとは限らない。そうなれば、単純に攻撃力のある何かが欲しい。

 

 もちろん、攻撃力など一朝一夕で身につくものでもないのは分かっているが、それでも切り札的なヤツが欲しい。今日、ソフィアに色々と質問されたのがきっかけなのか、機械で何とかできないものかと思いついたのがさっき。クラウに頼めば、簡単なヤツなら作ってもらえるかもしれない。いや、結局は他人頼りというのもなんだが――作ってくれると言っていたし、依頼してみるだけは問題ないだろう。

 

 手っ取り早く火力を上げるなら銃という印象ではあるが、タルタロスを見る感じ、上位の魔族ともなれば拳銃程度ではどうしようもないだろう。アレはロケットランチャーが欲しいレベル、それも直撃してもけん制程度にしかならなそうだ。それに、重火器は自分も構造は分からないし、それっぽく説明したところでクラウも作成できないだろう。

 

 そうなれば、もっと機構が単純で、威力のあるやつ――ロケットランチャー並みの威力はなくとも、当たれば強力な魔族でもひるませられるようなヤツがいい。このような条件だと、飛び道具は難しいだろう。

 

 むしろ、近接戦闘が現状で出来ないから、そちらの方面で何か出来ることはないか。なんとなくイメージは沸いてきたが、それが明確な形にならずに唸っていると、部屋の扉がノックされた。

 

「……どちらさん?」

「アランさん、僕だよ、シンイチだ」

 

 てっきり、三人の少女の内の誰かかと思ったら、意外な来訪者だった。なんの話があるのかは分からないが、こちらもサシで聞きたかったこともあるので丁度良いかもしれない。

 

「あぁ、開いているよ」

 

 そう声を掛けると、扉があけ放たれ、そこには勇者シンイチが微笑を浮かべながら立っている。しかし、部屋には一向に入ってる気配はない。

 

「アランさんと少し話をしてみたくてね……どうだい、散歩でも」

 

 確かに、野郎と夜の個室というのも気持ち悪いか、そう思ってシンイチの提案をのみ、椅子に掛けていた外套を羽織って外に出ることにした。

 

 外の空気はヒンヤリというより、かなり肌寒いものであった。メインストリートは夜の十時程度ならもっとにぎやかでも良い気もするが、今は静まり返っている。昨日の襲撃で、飲み屋も閉まっているのだから、荒くれどもも行く場所が無いという事か。どちらにしても、アレの後にどんちゃん騒ぎしていても不謹慎だが。

 

 しかし、シンイチはぼぅ、と星空を見上げて歩いているだけで、中々切り出してこない。仕方がない、こちらから話しかけることにする。

 

「それで? 何を話したかったんだ?」

「いきなり切り込むね。もっと親睦を深めてからでもいいんじゃないかな?」

「親睦なんてもんは、真面目な話をしながらでも深められるもんだ……そっちが切り出さないなら、こっちから質問してもいいか?」

「あぁ、問題ないよ」

「……ソフィアをパーティーから外した理由を聞きたい」

 

 そこまで言って、ようやっとシンイチはこちらを見た。なんだか全てを見透かしているような、そんな瞳をしている――とはいえ、不思議と不快感はない。普段なら知った風にしやがってと癪に障りそうな印象だが、シンイチに対してそういう感情は沸かなかった。

 

「うん、僕もそのことを話そうと思っていたんだ……アランさん、気にしているかなと思ってね」

「そいつは丁度良かった……それで?」

「質問に質問を返すようだけれど、アランさんは理由はなんだって聞いているかな?」

「あぁ、あの子が考える作戦や、あの子自身が無茶をするからって聞いているが……どうにも腑に落ちない」

「何故だい?」

 

 こちらから質問をしたはずなのに、何故だかこちらが質問攻めにあっている。なるほど、シンイチはこういうタイプか――まぁいい、こちらの言いたいことを言えば、そのうち向こうの腹積もりも答えてくれるだろう。

 

「あの子は確かに無茶をする子ではあるが、彼女の考える作戦や行動は、的を射ていることが多い。それは、お前も気付いてたんじゃないのか?

 それこそ、彼女が無茶しないように、周りがサポートしてあげれば良かっただけだ……それなのに外した理由が、分からなくてな」

「鋭いね……そう、表面上は、パーティーに負荷がかかるから、それ以上のことは公表できなかった。ただ、それは本質じゃない。彼女を外したのには理由が二つある。まず一つ目は、彼女が戦場に立つには、余りにも幼いと思ったからだ」

「……それは、確かにな」

 

 そう、自分も同じことを思ったことがある。ソフィアの話から推察するに、自分とシンイチは同郷だ。そうなれば自然と倫理観も似てくるだろう。戦場に立つのが彼女でなくても良いのならば、他の者、それこそ大人でいいのではないか。

 

 しかも、シンイチがソフィアに初めて会った時には、彼女は今よりも若かったはず。そうなれば、自分より彼女の幼さに抵抗があったのも無理はないかもしれない。

 

 とはいえ、自分の意見を言うターンではない。下手なことを言えば、レムとの約束――勇者に自分が転生者と知られないように――を反故する恐れがある。理由は二つあると言っていた、もう一つを聞くことにしよう。

 

「もう一つの理由は?」

 

 そう聞くと、シンイチは目を伏せた。

 

「……これは、本当は誰にも言う気はなかったんだけど……誰かに懺悔したかったのかもしれない。もう一つの理由、これが本当は大きいのだけれど……僕は、彼女が怖かったんだ」

「……はぁ?」

 

 ソフィアが怖い、そんな風に感じるものだろうか。確かに、戦っている時の少女は勇ましさを通り越して鬼気迫るものもある。とはいえ、普段は柔らかで優しいし、何よりきっと、彼女は勇者様と一緒に戦うために生きてきたのだから、シンイチに対する期待と信頼は大きかっただろう。そうなれば、自然と彼女の方から良好な関係を築こうとしたはず。それが怖いというのは納得できない。

 

 こちらが色々と考えているもの、やはりシンイチは見越してか、また静かな瞳でこちらを見ていた。

 

「……正式に言えば、彼女の並外れた頭脳と、同時に期待が怖かったんだ。僕は、本当は勇者なんて立派なもんじゃない。元々、友達もほとんどいない、どちらかと言えば家に引きこもっているような、そんなタイプだったんだよ」

 

 そこでシンイチは正面を向き、空を見上げた。

 

「僕はね、本当は他人が怖いんだよ。期待されるのが怖い、失望されるのが怖い、相手を怒らせるのが怖い……そうなれば、人との関わりを断てれば、自然と怖い思いをしなくて済む。

 だから、異世界……僕の故郷では、なるべく他人と関わらないように生きていたんだ」

「……そんな風には見えないがな。なんでも分かってますって面してるぜ、お前」

「ははは、怖いからこそだよ……なるべく人を失望させないように生きてきたから、他人の顔色を伺うのが上手いだけさ。相手が何を言ってほしいんだろう、何をしてほしいんだろう……それを考えるのは割と得意なんだよ。でも、それは僕が望んだものじゃない。疲れるだけなんだ」

「……まぁ、分からなくはない」

 

 自分にもその気が全くないと言えば嘘になる。無用な争いを起こさないため、面倒ごとを起こさないため、相手の思考を予想して、本心にもないことを言う事だってある。そして、それが自己嫌悪を生むこともある――きっとこういう性質は、誰でも大なり小なり持っているのだろう。それがシンイチの場合、大きいのかもしれない。

 

「ともかく、彼女の純粋な期待が怖かった。同時に彼女は賢い子だ……だから、僕が本当は意気地なしで、心の奥底に黒いものを持っているのがバレたら、失望されてしまうんじゃないかって……。

 今日の午前中だってそうさ、テレサとアレイスターに絆を信じているなんて言ったけれど、本心じゃない。もちろん、嘘でもないけれど、それでも彼女らとは分かり合えない部分はどうしてもあって。本当の勇者なら、きっと心の底から仲間を信じられるはずなのにね」

 

 いったん切り、シンイチは再びこちらに向き直る。

 

「だから自然と、ソフィアの前では萎縮してしまっていたんだ……こんな個人的な理由で彼女を傷つけるのも憚られたけれど、僕も……耐えられなかったんだよ。それで、彼女の師匠であるアレイスターと交代してもらったんだ。元々、彼にもそれだけの資質もあったしね」

「なるほどな」

「……責めないのかい?」

「そりゃ、ごまかす様な御託を並べられたら怒りもしたかもしれないが。お前の言う事は理解できたからな……それに、起こった事実が変わるわけでもない。しかし、勇者様にこんなことを言うのも恐縮なんだがな、一個だけ言っていいか?」

「なんだい?」

「お前はクッソ真面目だな」

 

 こちらの言葉に、シンイチは面を食らって唖然としている。今までどこか落ち着いていて物静かな印象だったので、こういう面白い顔もできるのかと少し感心してしまった。

 

「お前が抱いた感情は、きっと正常だよ。とくに、あの子は……ソフィアがお前に対してかけてた期待は尋常じゃなかっただろう。それが怖いのは仕方ないし、自分の心の弱い部分がバレるかもって思うのも不安だろう。

 でもさ、みんなそんなもんだろ? どんな仲が良い相手とだって喧嘩する時はするもんだし、自分の思い通りにならなかったら、イライラすることもあんだろ……それを自分が腹が黒いのが悪いなんて思うのは、クッソ真面目以外の何物でもない」

「……傷つくね」

 

 なるほど、向こうとしては真剣に悩んでいたこと、もしくは自分を変えたいと思っても変えられなかった部分かもしれない。それを真面目の一言で片づけられるのは、傷つくのもうなずける。ただ、こちらも本心を言ったまでだ、謝る気もない。

 

「そうか、それならもう少し楽に生きると良い。もしくは、俺に対して怒ってくれてもいいぜ」

「いいや、怒るのは止めておくよ。代わりに、アランさんのことを、先輩って呼んでいいかな?」

「……はぁ?」

 

 本日二回目の訳分からない発言に、こちらも素っ頓狂な声を上げてしまった。それが面白かったのか、シンイチは少し笑ってから口を開く。

 

「アランさんは、僕の先輩に雰囲気が似ているんだ」

「へぇ……それはきっとナイスガイだったんだろうな」

「そうだね。僕がただ一人、尊敬していた人なんだ」

 

 高速で肯定されてしまい、こちらとしても調子が狂ってしまう。先ほどにも次いでなお、おかしかったのか、シンイチは満足げに笑っている。こちらも少し気恥ずかしくなって、後ろ髪をかいてごまかしてしまう。

 

「先輩呼びをOKするかは置いておくとして……その先輩、どんな奴だったんだ?」

「話したらOKしてくれるってことかな?」

「内容次第だな」

 

 シンイチは頷き――先輩とやらの面影を星空に浮かべようとしているのかもしれない、再び遠くを見つめながら語りだす。

 

「先輩はね、普段は割と普通な人なんだ……いいや、普段も普通じゃないかな。多分、他人に興味があって、同時に無いんだろうと思う」

「なんかそれ、ただの薄情な奴じゃないか?」

「いいや、そんなことはないよ……優しいのさ。無駄に相手に踏み込んだりしないし、同時に無視もしない。けど、そうだね、孤独な人だったとも思う……自分で世界を完結させられるから、人に何かを期待しない、そんな人だったんだと思うな」

 

 シンイチはまたこちらを向いて――というよりは、俺に先輩の面影を見出そうとしているのか、じっと見つめてくる。

 

「そんな人だから、僕も自然と、一緒にいて心地よかったんだ。この人は僕に対して期待もしない、踏み込んでも来ない、かと言って放置もしない。丁度良い距離感でいれる相手だって」

 

 あまりにも真剣に見つめられるので、気恥ずかしくなってこちらから視線を逸らしてしまう。

 

「……それだけじゃ、尊敬する要素は無いな……ただの変な奴じゃないか?」

「ふふふ、いやいや、この先輩が凄いのはここじゃないんだ……そう、普段は周りに興味が無いくせに、困っている誰かのもとには駆けつけるんだ。理由なんてない、ただ誰かが、理不尽で悲しい思いをしているのを見たくないんだろうね……」

 

 気持ちも少し落ち着き、こちらからシンイチの振り向き、シンイチの横顔を見る。彼はまた星空を見上げ、そして宙に向かって手を伸ばしていた。

 

「そう、彼は僕の世界の物語で語られる、正義のヒーローみたいだった。正義のヒーローは、孤独で、でも世の理不尽に怒って、助けを求める誰かをために走る……僕の中で、本物の勇者っていうのは、こういう人がなるべきだって……そう思うんだ」

 

 伸ばした手は、理想を掴もうという彼の気持ちの表れなのかもしれない。しかし、聞いてる分にはその先輩とやら、確かになかなかご立派そうとも思える。それと似ているとなれば気恥ずかしくもなり、再びこちらから視線を逸らし――足元を見つめてしまう。そこには、暗闇の中を進む、汚れたブーツがあるだけだった。

 

「……おい、俺は正義のヒーローなんてたまじゃないぞ?」

「あはは、以前同じことを先輩にも言ったけれど、一字一句、先輩と同じセリフだよ、それ」

「はぁ……話を聞いている限り、全然似ているとは思わないがな。ちなみに、まさかお前から見て、顔まで似ているなんてことはないよな?」

 

 この顔は、レムが言うには生前のものと同じにしていると言っていた。もしその先輩と瓜二つなら――もしかすると、シンイチの言っている人物は本当に自分で、記憶を取り戻す脚掛けになるかもしれない。

 

 しかし、シンイチは皮肉気にニッコリと笑うだけだった。その先は、恐らく似ていない、そんな感じで来るのだろうと予想できる。

 

「いいや、実は先輩の顔は知らないんだ……いつも仮面を被っていたからね」

「……はぁ!?」

 

 同郷の倫理観で言えば、常に仮面を被っている奴などかなりやばい奴だ。きっと店にも入れないに違いない――そんな奴が実在するとはにわかに信じがたいが、仮に本当だとするならそんな奴と一緒だなんて、御免被りたい。

 

「それで、先輩って呼んでも大丈夫かな?」

「ダメに決まってるだろうが! そんな変態と俺を同列にすんな!」

「えー……僕は尊敬してるんだけどな」

「ダメダメ、性格も似てねぇ顔も分からねぇ、そんな奴とおんなじ扱いされる俺の身にもなりやがれ」

「ははは、でもアランさんは、僕の心を操れるわけでもないし、命令できるわけでもないからね。それに、僕は先ほどの言葉に痛く傷つけられたからさ。その報復として呼ばせてもらうよ、先輩」

「……クソッタレめ」

 

 シンイチの言う先輩と同列扱いされるのはイヤだが、呼ばれること自体は不思議と嫌悪感もない。そして、嫌がれば嫌がるほど勇者様はつけあがるだろうから、仕方がない、これ以上の文句は言わないことにした。

 

 その後は、とりとめもない話をして夜の散歩は終わった。話してみて、勇者シンイチに対する印象はずいぶんと変わった。今まではなんとなく、自分を差し置いて選ばれた者として存在していたことに対する嫉妬心があり――ソフィアを傷つけたことに対する不信感だって、元々はこの嫉妬心に依拠していたのだと痛感する。

 

 話をしてみて、彼は普通なんだと思った。もちろん、昨日聖剣で放った一撃を見れば、力は並外れているのだろう。しかし、その心は誰もが持っているような弱さや悩みを抱えている、等身大の一人の人間だった。そのことに自然と親近感を覚えたのか、彼に対する不信感はいつの間にか無くなっていた。

 

「あ、そうだ、先輩がダメならおじさんでもいいよ?」

「ふざけたこと言うな! 多分そこまでの歳じゃない……はず……」

「ははは、そうだね……それじゃあ先輩、ソフィアを頼むよ。こんなことを言うのも都合がよいかもしれないけれど、きっとあの子は僕よりアナタの方が合っていると思うから」

 

 別れ際、シンイチは最後にそう言い残して、自分の部屋へと戻っていった。俺はその背中をボンヤリと見送ってから自室へと戻った。

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