B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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昼間の模擬戦 エルとテレサの場合

 クラウに武器の製造を依頼してから数日が経った。すでに結界の修復は完了し、後は外壁が直ればひとまず外敵からの侵入は以前通りに防げるようになる。

 

 自分としては、案外やることはなくて暇だった。難しいことはソフィアやアレイスターなど軍関係者がやってくれている。襲撃が予想されていた魔族に関しても、小規模な衝突があるくらいで自分が出張ることもないし、何より軍に駐留している以上、飯は放っておいても勝手に出てくるのだ。

 

 タダ飯が上手いのも最初の一日二日くらいで、周りがあくせく働いているのに、自分だけベッドでふんぞり返っているのも申し訳なくなってきた今日この頃。本来的には訓練や見回りなどに参加するべきなのかもしれないが、自分の位置づけはソフィア准将の食客扱いなので、決まった訓練も持ち場もない。

 

 そうなれば、自分でやることを探さなければならない。そんな風に思いながら駐屯地の敷地内を歩いていると、何やら人だかりが出来ているのが見えた。その人だかりは主に青い軍服で構成されており――何か面白いものでもあるのか、そちらの方へ向かってみる。

 

 人が集まっている理由はすぐに分かった。一同の視線の先では、二つの剣が打ち合っている。一つはエル、一つはテレサのものだ。要は訓練を皆で見ているわけだが、そのレベルが異様に高く、参考にでもする気で前衛を務める兵たちが観察しているのだろう。まぁ、単純に可愛い子見たさかもしれないが。

 

「おい、どっちが勝つと思うよ?」

「やっぱりテレジア様じゃないか……ペースはテレジア様が作ってるし、何より勇者のお供なんだぜ?」

 

 野次馬の言う通り、見ている感じではテレサの方がやや優勢に見える。というより、エルが攻めあぐねているようだった――いや、よく見れば、実力自体は拮抗しているが、実はエルの方が技量は上なのかもしれない。テレサの方から撃ち、間合いを詰め、離し――やや動きが大きく、試合のペースは一見テレサが作っているように見える。

 

 だが、逆を言えばエルの方が、テレサの動きに対応して行動し、体力を温存している。見れば、テレサの顔には疲弊が目立ち、エルの方がまだ涼しい顔をしているように見て取れた。周囲の男たちもなんとなしにエルの技量を感じているのか、テレサ優勢と言っていた者たちも今はダンマリで、固唾を呑んで試合の行方を見守っていた。

 

 少しすると、雰囲気が変わる。このままでは負けると悟ったのだろう、テレサの方が一気に気迫を出す。

 

「……はぁ!!」

 

 恐らく、渾身の一撃にて勝利を引き寄せる算段――別にやけっぱちという雰囲気ではない、証拠に、その踏み込みにエルの方も避けることは叶わず、テレサの放った袈裟切りを両手で握った模造刀で受け止めようとしている――だが、同時にヤバい、という顔をして、顎を少し下げていた。

 

 その読みは確かだった。鈍い音がしたかと思うと、エルの持っていた模造刀は中央から折れ、切っ先のほうが顎先を掠めて肩の後ろに飛んで行った。引いていなければ、今頃ケガをしていただろう。

 

「ふぅ……さすがね、テレサ姫」

 

 エルは剣の柄を投げながらテレサに祝辞を送っていた。今の一撃は、エルをもってしても防げなかった、つまりテレサの勝ちということになるのだろう。そして、観衆も同様のことを思ったのか、テレサに対して拍手が巻き起こっている。

 

 しかし当のテレサは、息を整えながら、納得いかないという表情でエルを見ている。

 

「……もう少し付き合って欲しいです、エルさん。次は、本気でお願いします」

「何言ってるの、私は本気だったわ」

「えぇ、そうでしょう……剣が一本なら。でも、二本ならまた違うと思います」

 

 一応、公衆の面前ではエルの素性は隠しているのか、普段のお義姉さま呼びではなくなっている。それならそれでエルが敬語を使ってないのは不敬にならないかとハラハラしつつ、ことの次第を見守ることにする。

 

「……どうかしらね。あんな馬鹿力、パリイングダガーでは止められないと思うけれど」

「それも含めて試してみたいです……お願いします、エルさん」

 

 エルはため息を吐き、しかし義理の妹の真剣な眼差しに耐えかねたのか、周囲の兵に新しい模造刀とパリイングダガーを所望した。そう言えば確かに、エルは幅広の剣より片手で取り回しやすい剣をいつも選んでいた気もする。それが故に剣の強度が足らずによく折っていたが――本気のスタイルは、前世でいうところのフェンシングのスタイルなのかもしれない。確かに、本来は二刀の魔剣を使うのだから、このスタイルのほうが自然なのだろう。

 

 とはいえ、ヘカトグラムは重力波を出すのがその役目だから、防御用に扱ったりするものなのだろうか? もっと冷静に考えれば、そもそもヘカトグラムって必要なのだろうか――この前見た感じ、アウローラ一本で十二分すぎる強さがある。ヘカトグラムもその重力で魔術の稲妻を曲げるほどだから強力なのも分かるが、得てして二刀流なんて浪漫の枠を出ず、扱いも難しいのだから、アウローラ一本の扱いに集中したほうが強いような気もするが。

 

 まぁ、見ていればそれも分かるか。改めて二刀を構えたエルと、テレサとが再度対峙する――模造刀だから魔剣特有のトンデモパワーは無しだが、それでもエルが二刀スタイルを扱えるのか、そしてそうだとするならどの程度の技量なのか。なんだか偉そうに上から目線で考察してしまったが、ともかく百聞は一見にしかずというやつだ。

 

 立会人の兵が手を上げ、初めの号と共に後ろに下がった。中央では二人の女が静かにお互いを見つめ合っているが――再びテレサのほうが一気に間合いを詰める。また、あの一撃、エルが言っていた通り、両手で止められない太刀筋を、片手で止められる道理は無い。

 

 だが、結果は先ほどとは違った。勢いがついたら止まらないのだから、勢いがつく前に止めればいいの原理か、エルも踏み込み――その速度はまさしく風の如く、振りかぶられる前の太刀の根元を逆手に握った短剣で止め、右の剣の切っ先が姫の首元で止まった。

 

「……これで満足?」

「はい、お見事です、エルさん」

 

 あまりにも勝負が一瞬でついたことに、自分も含めて野次馬は呆気に取られているようだった。そのせいで、エルに対して賛辞を送ればよいのか、野次を飛ばすべきなのか、どうすべきかも分からないまま、場が静まり返っている。

 

「……おいお前ら、サボってるんじゃねぇぞ!」

 

 静寂を裂いたのは、遠くから聞こえたレオ曹長の檄だった。みな一斉に背中に力が入り、持ち場にパラパラと戻っているようだ。自分には予定も持ち場もないので、残っている二人の女性に声を掛けることにした。

 

「凄かったな、二人とも」

「アランさん! ありがとうございます!」

 

 テレサは満面の笑みで迎え入れてくれる一方、エルは軽く手を上げてこちらに応えるだけだった。

 

「しかし、凄い人込みだった……ですね」

「はい、ちょっと訓練のためにお義姉《ねえ》……エルさんに模擬戦をお願いしたのですが、自然と人が集まってきてしまいまして」

「成程なぁ。でもまぁ、片やレヴァル最強の剣士、片や勇者様のお供のお姫様、そりゃどうなるかは気にはなるわな……んですね」

 

 つい、エルが近くにいると敬語を忘れてしまう。それに対してテレサは苦笑い、エルは腕を組みながらあきれ顔でこちらを見ている。

 

「……アナタ、敬語止めたら? 感性が山賊なんだから、妙なことになってるわよ」

「え、エルさん、山賊は言いすぎなのでは……?」

 

 別にエルも本気で思っている訳ではないはずなので、こちらとしては気にはしていないのだが、せっかくお姫様の威光を借りられるので「そうだそうだー」と返しておくことにする。

 

 エルの視線が呆れから汚物を見るようなモノに変わったのには気付いていないのか、テレサは目を輝かせながらこちらを向いて両手をポン、と叩き合わせる。

 

「そうだ! アランさんも模擬戦してみませんか?」

「えっ……」

 

 今の自分の返事には、濁点が付いていると言って良いほど、妙な声で返事をしてしまった。

 

「エルさんやソフィアさんと一緒におられるのですから、アランさんも相当な達人なんですよね? シンイチ様も厚く信頼しているみたいですし……ちょっと、お手合わせお願いしたいです!」

 

 なんなんだろう、この子は意外と脳筋なのか、剣で語るタイプなのか、そして根が善良なせいで周りを疑うことも知らないことが掛け合わさって、こちらを見るその煌めく視線が刺さって痛い。

 

 そんな俺の気持ちを察してくれたのか、制止のためだろう、エルがテレサの肩を叩いた。

 

「残念ながら、アランの戦闘能力はそんなに高くないの……彼の仕事は索敵と投擲での援護。まぁ、一般の冒険者よりはやるくらいには出来るけれど。でも、アナタが手合わせしたら、それこそ吹き飛んでしまうわ」

「おい残念とか言うな、その表現はちょっと傷つくぞ」

 

 とはいえ、実際は助かった。流石に先ほどの二人の模擬戦を見て、自分がどうこうできるイメージは余りわかない。しかし、本人は助け船を出した気など無く本心だったのか、エルは本気で驚いたような表情をしている。

 

「そうなの……しぶとさだけが取り柄だと思っていたのに」

「あのなぁ、肉体と精神の丈夫さは違うの」

 

 いつも通りのやり取りをしていると、テレサが間でくつくつと笑った。

 

「ふふ、エルさんとアランさん、仲がいいんですね」

「あのねテレサ。貴女の目は節穴? 憎まれ口叩き合ってるじゃないの」

「逆に、それだけ明け透けで遠慮がないってことですよね……なんだかうらやましいです」

 

 そう言うと、テレサは少し寂し気に笑った。ふと、先日のシンイチとのやり取りを思い出す――アイツは人との間に妙な壁を作るし、アガタも多分同様。アレイスターは人は良さそうだが、世代が違いすぎて仲良くなるのとはまた違いそうだ。そうなると、テレサが明け透けなやり取りをうらやむのもなんとなくだが納得できる。

 

 なんだか神妙な雰囲気になってしまい、どうしたものかと考えて――そうだ、どうせ暇だったし、模擬戦はともかくとして訓練をつけてもらうのは良いかもしれない。

 

「そうだエル、俺、今暇なんだけど」

「イヤよ」

「せめて話くらい聞こう?」

「アナタの暇つぶしに付き合うほど暇じゃないの」

「そうは言うがな、真面目な話だ。稽古をつけてくれないかと思って」

「うーん、そうね……まぁ、それなら付き合わなくもないけれど……」

 

 エルは口元を抑えながら少し考え込み、テレサのほうを向いた。

 

「テレサ、良かったらでいいんだけど、さっきのアランとの模擬戦、やっぱりやりましょうか」

「はい! お任せください!」

「手加減はしてあげて……そうね、一兵卒相手にするくらいでいいわ。近距離戦はそれより全然できないかもだけれど、まぁその時はその時ね」

「かしこまりました!」

 

 なんだか自分と関係ないところで話があれよあれよと進んでいる。模擬戦にしても単純な稽古にしても、エルの方がなんとなく慣れた相手でいいのだが。

 

「えぇっと、相手はエルじゃないのか?」

「えぇ。思い返せば、アナタが近接戦闘しているところ、見たことないものね。なので、一通り癖みたいなものを見ておこうかなと。別に私が手合わせしてもいいのだけれど、先ほどこの子からお誘いが合ったわけだし、俯瞰的にじゃないと見えないものもあるから」

「なんだかもっともらしいことを言っているが、テレサに任せるのは実は自分でやるのは面倒だから、とかじゃないだろうな?」

「あら、バレた?」

 

 エルは珍しく悪戯っぽく笑った。面倒というのは冗談だろう。そもそも彼女は面倒見は良いのだ。手合わせ自体はいつでも出来るから、先に第三者と打ち合っているのを見ての動きを見たいので間違えでないらしい。

 

 そのままテレサと手合わせすることになり、こちらは先ほどエルが使っていたモノと、近くで借りてきた短剣の計二本。テレサは先ほどから持っている模造刀一本という形での手合わせになった。周りの兵たちは幾分かこちらに視線を向けているものの、自分が負けることが確定しているせいか先ほどのような人だかりは出来ていない。まぁ、そちらの方がありがたいのだが。

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