B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
「はい、こちらが打杭型吶喊兵器試作一号・狼牙です」
「あ? なんだって?」
クラウが差し出してきた杭のついた手甲に視線を落としながら、思わず聞き返してしまった。
現在、魔王城に向かって行軍中であり、自分たちは准将のお付なので幸いにも馬車での移動になっている。対面にクラウとエル、隣にソフィアという座り順で、丁度目の前にいるクラウから依頼していた武器が差し出された形だ。
「ですから、杭打型吶喊兵器試作一号・狼牙です」
「あれ? クラウさん、さっき打杭って言ってたような……」
言い間違いに対して、速攻でソフィアの素朴な疑問、緑にとっては鋭い突っ込みが入った。クラウの得意げな顔はそのままだが、若干冷や汗が垂れている。
「えと、いや、アラン君が言いやすいように変えてあげたんですよ……言いにくいなら、ウルフファング・プロトとかでもいいですよ?」
「いや、人の武器に勝手に変な名前をつけないでくれるかな?」
「ちっちっち……アラン君、制作物には作った人に命名権があるんです」
「それなのに言い間違えたのか?」
「くっ……うるさいですねー。いいから、使うときは必殺技っぽく叫んでください」
ウルフファング・プロトとか叫びながらこれで敵を撃つシーンを想像してみる――なるほど。
「……アラン、アナタ、悪くないかもとか思ってるでしょう?」
エルがこちらをあきれ顔で見て思考を盗聴してきた。お前はどこぞの女神か。
「ぐっ……いや、お前だってクロイツ……なんちゃらとか、凄くカッコいいのあるだろ、ズルいぞ?」
自分の言葉に、クラウも「そうだーズルいですー」と賛同してくれている。対して、エルは頭痛げに眉間に指をあてた。
「クロイツ・デス・ツヴィリングシュヴァート……ハインライン家に代々伝わる奥義なんだから、ズルくないわ。というか、ズルいって何よ……」
先祖代々伝わる、その重みに電流が走る。それはクラウも同様だったのか、青ざめた顔を近づけてきて小さな声で話しかけてくる。
「……アラン君、ヤバいです、ズルいです……代々伝わる奥義とか、強すぎて勝てる気がしません……!」
「いや、逆に考えるんだ……新しい技術が、古い時代の技術を乗り越えていく……そういう良さだってあるはずなんだ」
「た、確かに……! アラン君の癖に良いこと言うじゃないですか!」
アラン君の癖には余計だが、超えていきたいという心意気は伝わったようだ。
「えと、アランさん、クラウさん、何を勝負しているの……?」
「ダメよソフィア、そちらは理解しなくて良い世界よ」
横で何か言われているが、ひとまず気にせずクラウから制作物を受け取る。
「ありがとうな、クラウ。結構作るの大変だっただろう?」
「えへへ、朝飯前だったとは言えませんけど、良い勉強になりました……ソフィアちゃんも、魔術杖の職人を紹介してくれてありがとうございます」
クラウが頭を下げると、ソフィアは笑顔で小さく首を横に振る。
「うぅん、職人さんも喜んでたよ。いつもと違うのを造れるって……それで、それがアランさんの言ってた新しい武器なんだね」
「あぁ……それでクラウ、最初想定したのと結構違う形になっているが、意味はあるんだよな?」
こちらが依頼した物は、まず右手につける手甲で、もう少し巨大な物を想定していた。機構的には対象を殴ると同時に出っ張りが内側に入り、フリントロックが作動、筒に詰めている火薬がさく裂し、その反動で杭が跳ぶものをと依頼をかけていた。
実際に出てきたのは、まず左手のモノに変わっており、出っ張りの機構が無くシンプルに杭が手甲の上についている形だ。
「はい。まず、アラン君の出してきた案を実践で使ってるところを想像したのですが……投擲が使いにくくなるんじゃないかなと。あんまり機構がゴチャゴチャしてると重くなりますし、特に右手に重みが増えると、投擲の狙いがぶれやすくなると思いました」
「……言われてみれば確かに。全然考えてなかった」
「アラン君の案も、なかなか浪漫が詰まってて良かったですけどね……ただ、普段の立ち回りが弱くなるのはいただけません。フロントは私とエルさんがメインで、これはあくまでもサブプランな訳ですからね」
フロントを女の子に任せるというのもちょっと気が引ける気もするが、実際二人が強いのだから仕方ない。
「それで、これはどうやって作動するんだ?」
「出っ張りの代わりに、指の付け根の部分に小さく握れる筒を着けてます。それが握ってちょうど親指で押せる位置になってるはずです。
そこについているボタンを押すと、中の火打石が動いて炸裂する形になってます。出っ張りで作動しちゃうと、動いている時の誤作動があるかもしれませんし、先ほど言ったように重くなりますから。
あとは大砲と同じ、後装式で杭と火薬を詰めて、蓋を閉めれば使えるって感じです……普段は杭がずり落ちないようにピン止めしているので、使いたいときはそれを抜いてください」
実際に手にはめてみて、機構を確認してみる――確かに、左手を握ると、丁度親指の部分にボタンが来るようになっている。
「分かった、了解だ」
「あと、ベルトに予備の杭を二本と火薬筒も着けてます。再装填には時間が掛かりますから一戦で二発以上は難しいと思いますが、連戦でないなら活用してください」
「うん……なんか想像以上のものが出てきたな。ありがとうクラウ」
「ふふふ、想像以上と言われると、いい気になっちゃいますね、えっへん!」
クラウはそう言いながら豊満な部分を突き出し――いかん、見てると視線でバレる。誤魔化すために、左手を見ながら動かしてみる。多少の重みはあるものの、これなら左手の投擲も問題ないだろう。しかし、どれ程の威力があるのか、一度試してみたい。
「なぁクラウ。使用感を試してみたいんだが」
「……そういうと思ってましたよ」
クラウは良い笑顔をしながら、袖からもう一本の杭を取り出した。
行軍の休憩中に、新兵器のテストを行うことにした。少し奥まった場所まで移動し、当たりには自分と三人の少女たちしかいない。
「それじゃあさっそく……」
「アラン君待ってください。後悔したくないなら、補助魔法を受けることをおすすめしますよ」
自分が木に向かって左手を突き出す前に、クラウから制止が入った。確かに、威力ばかりに気を取られて、反動のことを全然気にしてなかった。冷静に考えれば、手に付けている大砲みたいなものなのだから、反動も結構あるだろう。
「……頼む」
「はい、お任せを」
クラウがこちらに手をかざし、自分の体を淡い光が包む。息を吸い、左の拳を握り、気に向かって硬くしたそれを突き出した。
「はぁ!」
拳が木に触れるのと同時に、親指部分のボタンを押す――その威力うんぬんよりも前に、まず左腕が吹き飛ぶかと思うような衝撃、反動を覚悟はしていたのでなんとか踏ん張ることは出来たか、無様に左腕は後ろの方に一気に弾かれてしまった。補助魔法なしでは、腕の関節が外れるどころではすまなかったかもしれない。
だが、同時に幹に一気に亀裂が入り、中央から砕けて、木の上部は音を立てながら後ろに倒れた。その音に反応して他の兵たちが駆けつけてきたが、しばらくすると落ち着いた。
「……なるほど、結構威力あるわね」
クラウに手ほどきされながら再装填を進めている内に、エルが倒れた幹を眺めながら呟いた。その横でソフィアが元気よく頷いている。
「うん、アクセルハンマーと同じくらいの威力があると思う!」
アクセルハンマー、確か第三階層魔術だったか――その先の四つも階層があること考えると、やはり魔術師の火力は群を抜いていると思わざるを得ない。
話しているエルとソフィアを横目に新兵器の再装填が完了すると、クラウが緑色の瓶を一つ出してきた。
「アラン君、これを渡しておきます」
「うん、これは?」
「身体強化と代謝を強める薬です。補助魔法なしで杭を撃つのは自殺行為というのは、先ほどの試し打ちで分かったと思います。とはいえ、もしかすると私やティアが援護できない時に使うケースもあるかもしれないと思うので……劇薬ですから、あんまり使ってほしくないですけど」
確かに、あの杭を生身で撃てる程の薬なら副作用など危なそうである。とはいえ、クラウの言う通り、備えがあるに越したことはないので、ありがたく受け取ることにする。
「ありがとう、いざっていうときに使うよ」
「ふぅ……なんだか、こういうのを渡すと、誰かさんが無茶するのが目に浮かぶようなんですけどね。ホント、いざっていう時だけにしてくださいよ?」
「あぁ、分かった……なんか至れり尽くせりで悪いな。今度、何かお礼をさせてくれ」
「ふふ、アラン君が喜んでくれたのならそれでいいんですけど……そうですね、そこまで言うなら、楽しみにしておきます」
クラウははにかんで笑っている。自分の案を更に改良して使いやすくしてくれたし、アフターフォローまで抜群なのだから感謝しかない。落ち着いたら、彼女の喜ぶお返しを考えなければ。
ひとまず、お返しに関しては後で考えるとして――ふと、先ほどこちらに来ていた兵たちの方に目を向ける。行軍を始めた時にも思ったことを尋ねてみることにする。
「しかし、騎馬兵とかはいないんだな。なんとなく、戦場の花形だと思ってたんだが……」
自分の質問には、エルとソフィアが反応してくれた。
「騎馬兵の概念は無いわけではないけれど、一定以上の強さを持つ魔族と戦う時には活躍は難しいわ。魔術が飛び交う戦場では、馬の機動力があまり役に立たない……ゴブリンやアンデッドなど、低級であったり魔術を使わない魔族相手なら、まだ幾分か活躍の機会もあるのだけれどね」
「それに、魔王城が山岳地帯にあるのも騎馬兵には向かい風だね。起伏のある岩場では、馬も走るのが難しいから……ちなみに、バルバロッサまで着いたら、荷物は山羊に乗せて、人は徒歩での移動になるよ」
なるほど、もっともな理由だ。それに悠々と移動できるのも今しばらくの内か。そういえば、先ほどクラウが大砲と言っていたのが気になり、そのままそれを質問してみることにする。
「なぁ、この世界にも火器ってあるのか?」
「うーん……大砲以外は無いかなぁ。それも、あんまり魔術師を派遣できないような辺境に少し配備されてるくらい。アランさんの世界だと、火器が発達してたのかな?」
「あぁ、俺がきた世界には魔術が無かったから……うん、多分、この世界では魔術が火器より強くてコントロールも効くから、そもそも火薬が発達しなかったんだろうな。逆に、俺やシンイチのきた世界は、武器、とりわけ飛び道具と言えば火器だったんだ。人が携行出来るサイズで、鉛球を飛ばすんだよ」
前世では、各国が大規模な戦争などしなくなって久しくはあったものの、一応防衛兵器としてビームなども開発されてはいたはず。とはいえ実用にはまだ耐えられず、結局火器を利用していたし――もっと言えば、核など戦略兵器レベルでいえば前世のほうが発達していただろうが、個人が携行できるレベルで考えれば、魔術や神剣、宝剣のほうが携行できる火器より余程強力な物とも考えられる。
実際、この世界基準の火力で鉛球を飛ばす、というのを想像したのだろう、エルが腕を組んだまま、感心したようにこちらを見ている。
「ふぅん……それで魔族を倒せるイメージは沸かないわね」
「まぁ、前世には魔族が居なかったからな」
「それじゃあ、なんで兵器が発展するのよ」
「そりゃあ……」
人間同士が争うからだ、そう言うのはなんとなくだが憚られた。もちろん、この世界でも人間同士の小競り合いはあると思うし、人間が人間を殺す、そういうこともあるだろう。しかし、この世界は魔族という敵対者が常に隣人として存在するから、人間同士で大規模な衝突を起こすことは少ないのではないか。
つまるところ、自分は同族同士が争っていた前世の人類に自分が所属していたと、この子たちに思われたくなかったのかもしれない。もちろん、彼女たちは彼女たちで、魔族との生存競争を強いられており――魔族だって、ある種の亜人なのだから、結局人の敵は人とも言えるかもしれないが、それでもまったく同質の者たちで争っているとは言いたくなかった。
こちらが言い淀んでいると、ちょうど遠方から休憩終了の声が聞こえてきた。自分が言いにくそうにしているのを察してくれたのか、クラウがパン、と手を叩いて「さぁ休憩はここまで! 戻りましょー」と話を逸らしてくれたおかげで、追及は受けずに済んだ。