B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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我武者羅の一撃

 彼の背が扉の奥に消えるのを見送って後、現在の体の支配者――ティアが上空を跳ぶゲンブの方へと視線を向ける。

 

「……やりますね。さすが本来なら、勇者の供に選定されるはずだった運命の少女たち……いいえ、運命に縛られた少女たちというべきでしょうか? ともかく、予想以上の爆発力でした」

 

 上空の人形が腕を振ると、辺りに散乱していた瓦礫たちが、上階へと続く扉の前の方へと飛んでいき、階段をふさぐ巨大な壁となってしまう。

 

「アナタたちも、アラン・スミスと同様、警戒レベルを一つ上げさせていただきます。もうだれ一人と、この先へ行けるとは思わないでください」

 

 確かに、あの瓦礫をどかすのは骨が折れそうだ。ゲンブを倒さない限り、この場から退散することも難しいだろう。

 

『……でも、ソフィアちゃんがアランさんを先行させるのにはびっくりした。この前、一人にさせないって息まいてたのに……』

「……いや、随分お怒りのようだ」

 

 ティアがごちたように、ソフィアは仇敵でも見るかのような眼で上空に佇む人形を見つめていた。

 

「……そういうアナタも、タダで済むと思わないでください。私、相当怒ってますから……!」

 

 ソフィアの杖から稲妻が走るが、相手方の結界の前に霧散した。それを合図にするように辺りの物が飛び交いだし、戦闘が再開された。

 

 とはいえ、中々有効な手を打つことが出来ない。ゲンブ自身が言っていたように、しぶとさは相当であり――最強の結界を使えるので当たり前か。しかし、ゲンブの魔力は無尽蔵なのか、派手に結界を使ってはいるものの、まったく息切れする気配がない。

 

 そもそも、今まで自分の力に疑問を持たなかったが、魔法とは何なのだろう。ゲンブが使っているのも、神聖魔法の一種なはずだが、恐らく彼には神の加護はない。彼自身が神だから、自在に力を使えるとしても、その力の源泉は何なのか――。

 

「……疑問に思っているようですね、クラウディア・アリギエーリ。なぜ、私がアナタたちでいうところの神聖魔法を使えるのか」

 

 まさか、この人形は奥に引っ込んでいる自分の思考を読んだのか? いや、恐らくは偶然だろう――性格や口調が違っても、ティアと自分の考えることは似通う。つまりは、ゲンブに向かって結界をバネに跳んだティアの顔にも疑問が浮かんでいたのだと思われる。

 

「理由は簡単です。神聖魔法というのも、結局は魔術の一種なのですよ……魔術師は自らの力でそれを行使するのに対し、神官であるアナタ方は、神に代行してもらっている、それだけの差なのです」

「……つまり、お前は魔術として結界を使っている、そういうことかい?」

「そういうことです。この世界では神官と魔術師の役割を変えるために、学院では結界を専攻させないようにしているようですが……ね!」

 

 結界の枚数が違うのだ、やはりティア一人では押しきれないか。相手の七枚に、自分の体が押し返されてしまう。

 

 とはいえ、ティアの身体能力なら問題はない。しなやかに着地して、すぐさま跳んで、追い打ちのために飛来してきた瓦礫を躱してくれる。回避行動がひと段落すると、ソフィアのほうに目が行く――あの気迫は、最強魔術を撃つつもりか。

 

「……我開く、七つの門、七つの力……」

「第七階層は撃たせませんよ……!」

 

 ソフィアが第七階層魔術の準備に入るのと同時に、少女の方に折れた柱が飛んでいく。それが当たる既《すんで》の所で、エルが少女の体を抱きかかえて身を屈めた。

 

「まったく、やりにくい相手ね……!」

「え、エルさん、ありがとう!」

「しかし、アイツ、目が何個もついているのかしら……どこにいても、三人の行動を正確に把握しているようだし……」

「でも、第七階層は中断してきてから、撃てれば有効打になるかも……!」

「えぇ、でも……!」

 

 飛来してくる巨大な岩を、エルは宝剣の重力で落とす。

 

「こう、波状攻撃が激しいと、なかなかその隙も無いわね……!」

 

 そう、相手の火力は高くないものの、攻撃自体が四方八方から飛んでくるので、強力な魔術を撃つ隙がなかなか出来ないのだ。併せて、宝剣で火力を期待できるエルにとっては相手が遠く、間合いを詰めることもなかなか難しい。

 

 現状では、恐らく相手にとって一番対応の優先度が低いのはティアだ。それは、単純に相手の結界を確実に貫通しうる攻撃手段を持たないから。そのため、たびたび懐に入り込むことは可能でも、七星結界で弾かれてしまうというのが現状だった。

 

「……エルさん、ボクがディフェンスに周る!」

 

 自分の考えは、ティアも考えたのだろう。どうせ自分の攻撃が通らないなら、ソフィアが第七階層を撃てるだけの時間を自分が稼げばいい。

 

 エルと入れ替わり、ティアはソフィアのうしろから包み込むように立つ。これで、前も後ろもある程度護れるはずだ。

 

 そして、ソフィアが再び第七階層魔術の詠唱に入る。慌てて詠唱を止めてきたことを考えれば、これが決まれば――それにいずれにしても、シルヴァリオン・ゼロはこちらの最大火力なのだから、どの道そこに掛けるしかない。

 

「……それを待っていました」

 

 低い声に、慌ててティアが人形の方へと視線を上げた。見ると、ゲンブは左手の人差し指と中指で、紙の札を挟んでいるようだったが――あの感じ、アランが投擲をする時と雰囲気が似ている。

 

「七星結界・破断!」

「……マズい!」

 

 人形が手を振り下ろすのと同時に、ティアがソフィアの前に出て、両手で結界を展開する。相手は、札を起点に、結界を射出してきたのだ。それは超圧縮された刃となり、こちらの盾と衝突する。ゲンブが待っていたのは、恐らくソフィアが魔術に集中する瞬間。札の速度は、普段の自分たちなら簡単に避けられる程度。しかし今からだと、詠唱に専念し始めたソフィアの回避行動が間に合わない。そしてそれを護るために、ティアが前に出れば、二枚抜きを狙える――ゲンブはそれを狙っていたのだ。

 

「ぐ、ぬぅううううう!!」

 

 ティアは苦し気な声で――自分の口から聞こえているのだが――踏ん張るものの、相手の結界のほうが質が上、しかも鋭利な分、いとも簡単に六重の結界が打ち砕かれていく。

 

「ちっ……! ソフィアちゃん、左へ!」

 

 防ぎきるのが無理と判断したのだろう、ティアはそう叫んでから僅かに身を翻す。六重の結界が破られるのと同時に、まだ健在な刃が通り過ぎ――躱さなければ、自分の体も後ろの少女も両断されていたであろう、しかしなんとか左の肩から腕を斬られる程度で済んだ。

 

 だが、相手の攻撃をいなしたのも束の間、背後の方から何かが飛んでくる音がする。

 

「あっ……!?」

 

 小さな呻き声が後ろから聞こえると同時に、ソフィアの体が前に投げ出される。恐らく、瓦礫が背中から衝突したのだろう、ソフィアは体の前面から床に叩きつけられてしまう。

 

「ソフィア!!」

 

 エルがこちらの状況にすぐに対応してくれ、彼女自身に迫りくる障害物に二本の剣で対応しながらこちらに戻ってきて、倒れる少女の前に立ってくれた。

 

「……アイツ、荒事は苦手とか嘘じゃない……ティア、自分とソフィアの治療を!」

「あぁ……了解だ……!」

 

 ティアは跪くと、自分より先に苦しそうに呻いているソフィアの背中に手を当てた。

 

「ごほっ……ごめんなさい、ティアさん……」

「いいや、ボクが盾失格なだけさ……立てそうかい?」

「うん、なんとか……!」

 

 ソフィアの顔色は悪いままだが、その眼の闘志は消えていない。治療が終わると歯を食いしばりながら立ち上がり、再びエルの横に立って障害物の迎撃を始めた。

 

 ティアも、自分の左肩に右手を当て、治療を始める――毒などは無いようだから、命には別状はない。体の主導権は今はティアにあるので分からないが、自分に戻った時には、少し血が足らなくてぼぅっとするかもしれない程度か。

 

 しかし、この場において、自分は全く役に立っていない。それどころか、体が動かないから足を引っ張る始末だ。仮に枢機卿級の魔法が使えたとしても変わらないだろう――自分より、ティアのほうが魔法の扱いも体術も上だし、何より判断力が段違いだ。

 

 それに、やっぱりソフィアとエルも凄い。戦闘力が高いのもそうだが、何よりも圧倒的な存在を前にしても、心を強く持って、毅然と立ち向かっている――仮に畏敬とやらで立ちすくまなかったとしても、自分が前に出ていたとして、あの人形を相手にここまで心を強く立ち向かえるか分からなかった。

 

『……クラウ、調子はどうだい?』

 

 自分の不甲斐なさを励ますように、ティアが落ち着いた声で話しかけてきた。

 

『うん……大分落ち着いたと思う』

『そうかい、それなら良かった……君に頑張ってもらわないと、アイツには勝てなさそうだからね』

『……え?』

 

 自分ではゲンブに立ち向かえないと落ち込んでいた真っ最中に、予想外の言葉が出てきたことに驚いてしまう。

 

『アイツの観察眼や読みは半端じゃない。ソフィアちゃんが言っていた通り、予想外の一撃を出さないと、アイツの予測を上回るのは難しいだろう……アイツの想定では、もうクラウが出てくることはないと思っている。そこに隙がある』

『そ、そんな、無理だよ……だって、アイツの前では、体も動かないし……』

『さっき、ゲンブは自分の畏怖は不完全だと言っていた。ソフィアちゃんも今は動けてるし、多分短時間なら、気合で動けるさ』

『でも、私は……ティアほど、強くない』

 

 自分が外に出たところで、ティア以上のことが出来るとは思えない。それなら、自分はこうやって引っ込んでいるのが最善。いくら役に立ちたくても、自分の居場所を自分の手で護りたくても――中途半端な自分は、何も出来はしないのだ。

 

『いいや、そんなことはないよ』

『……えっ?』

『ボクに出来ることは、クラウ、君にも出来ることなんだ……同じ体を共有しているんだからさ……いいや、本当は、ボクより君のほうが強いはずなんだ、クラウ。君は、望むことが出来るのだから』

 

 たまに、ティアは良く分からないことを言う。同じ体に二つの魂、自然と私がしてしまうように、彼女もまた、自分と相手を比較した発言をする。しかし、それが抽象的で、良く分からないことが多々あるのも確かなことだった。

 

 そんな自分の困惑を無視するように、ティアは地上で戦い続ける二人を見ながら続ける。

 

『君の願いは、きっと叶うはずなんだ。君が望めばね……ただ、座して待っていては、それを掴めないだけ……望むのならば、手を伸ばさなければならない。抗わなければならないんだ』

 

 そして今度は、ティアは頭上を見上げた。そこには、宙で魔術を結界で無効化しながら浮いている人形の姿がある。

 

『今、君が一人で飛べないというのなら、ボクが力を貸そう。それに、ボクだけじゃないさ。彼と、彼女たちがいる場所が、君の居場所なのだろう? 君がそれを護りたいと願うのと同様に、彼らもきっと、同じ願いを抱いている……だから、大丈夫さ』

 

 ティアが言い切った時、ちょうど視界にある物が飛び込んできた。それは恐らく、この部屋に最初に入った時に、彼が投げて弾かれたナイフ。それが天井に刺さっているのが見えたのだった。

 

『アラン君……』

 

 彼の力はそんなに強くはない。それでも不思議と、ソフィアが言っていたように、何かやってくれる感じがする――。

 

 そこまで考えて、なんとなくティアの言いたいことが掴めてきた。彼はいつだって、抗っているのだ。力が強くなくても、決して下を向かない。誰かのために、一生懸命走って、誰かに手を差し伸べている。

 

『……もし、皆と一緒にいたいのなら、私も頑張らないと』

 

 彼ほど上手くできる気はしない。いや、彼も別段うまくはないか、がむしゃらなだけ。

 

 それなら、それでいい。自分だってがむしゃらにやってみるだけだ。

 

『私、やってみる……そのためにティア、力を貸して』

『あぁ、喜んで! 何をすればいい?』

『ゲンブに襲い掛かるふりをして、天井に刺さっている短剣まで跳んで……そして、第六天結界を仕込んで』

『ふむ、その後は?』

『敵を欺くにはまず味方から……相手の裏をかかなきゃいけないから、ティアにも内緒』

『ふふ、楽しみだ!』

 

 ティアは嬉しそうな声で答えて後、足元に陣を出して飛び上がる。もちろん、単純な軌道だと敵に読まれるから、周りのガラスの柱に飛び移りながら頭上の人形に肉薄する。最終的な角度はほとんど正面、高さを一致させて迫るティアに対して、人形も正面から結界を展開させる。

 

「アナタも、何度も落とされているというのに……」

「今度は舞い上がるよ……そして、次に落ちるのはお前さ」

 

 ティアとゲンブの陣がかち合うとすぐに、ティアのほうが結界を弾いて、更に上へと上昇した。ティアが伸ばした手の先には、彼の短剣が刺さっており――それを自分の体の右手が握りしめると同時に、仕込みは完了した。

 

『……行くかい?』

『うん、行くよ!』

 

 意識を強く持つのと同時に、体のコントロールが戻ってくる。ティアが動き回ったのと先ほどの出血の影響だろう、体には疲労感がありありとあるが――今は、それも心地よい気がする。

 

 短剣を天井から引き抜く反動で上半身と下半身を入れ替え、下を見る。ちょうど、ゲンブもソフィアの魔術に対応するために、先ほどの場所にいるままだ。そこに狙いを定めて、足元に陣を出し――持てる力で思いっきり天井を蹴った。

 

「……何!? くっ……!」

 

 ゲンブが反応すると、相手は驚きの声を上げるとともに七星結界を展開した。ティアの予想通り、自分が出てくるのが想定外だったのだろう。そして、聡いコイツのことだ、こちらに何か策があるとまでは読んだのだろうが、動きは早くないので避けるには間に合わなかったようだ。

 

「……うわぁぁああああああああああッ!!」

 

 相手が先ほどの畏敬とやらを出す前に、いや、出してもなお心を折られないようにするために、思いっきり声を出して自分を鼓舞する。そして、短剣を逆手に持ち替え、殴り下ろすように相手の結界にそれをぶつけ――同時にティアが仕込んだ結界が発動する。

 

「……何度やっても、アナタの力が私に届くことは……!」

「いいえ、届かせて見せます!!」

 

 七つに一つ足らないなら、私が一つ足せば良いだけ――ティアの紡ぐ六枚の結界に、私のがむしゃらが一枚増えて、短剣から七重の結界が発生した。

 

「これが私の一生懸命……これが私たちの、七星結界・贋(フェイク)!!」

 

 叫びながら、彼の短剣を押し込む。紛い物であっても、その質と量は本物。同質量の結界がぶつかり合うのだ――結界は波の様なもの、同じだけの大きさがぶつかり合えば、互いに対消滅する。

 

 そして後は、天井を蹴ってきた勢いがあるだけ、自分の方に分がある。

 

「そんな、無茶苦茶な……!?」

 

 一枚、また一枚とガラスが割れるように消滅していく陣を見つめながら、人形は今までで一番の驚愕の声をあげてくれた。それに、自然と口角があがるのを感じ――最後の一枚が割れるのと同時に短剣の刃をそのまま人形の頭に押し付け、そのまま重力に任せて地上に共に落ちていく。

 

 落下の勢いをそのまま、地面に叩きつけるのと同時に人形の体を縦一閃。特別の体であったのわけではないのだろう、確かな手ごたえで人形の体は両断され、こちらは地面に衝突する寸前に地面に結界を出し、その斥力で後ろに飛んで着地した。

 

「くっ……だがまだ……!?」

 

 相手は不思議な力で物体を飛ばせるのだから、それの応用で二つに割れた体を結合しようとしていたのだろう。紐や綿が絡み合い、元に戻ろうとしていた――のだが、ゲンブの復帰は叶わなかった。自分が着地するのと同時に、炎の魔剣で、今度は横一文字に薙がれ、その体が燃え始めたからである。

 

「……いやぁ、これは私の負けですね」

「アナタにはまだ話してもらわないといけないことがあるわ……エルフの男はどこ! お義父様の仇の!!」

「やだなぁ、私、燃えてるんですよ? 喋る余裕もありません……おぉ、熱い熱い」

 

 食ってかかるエルに対して、ゲンブの声にはまだまだ余裕はある。確かに相手の裏はかけたし、倒すことは出来そうなのだが――アレは仮初の体と本人も言っていたし、単純に依り代を失うだけ、そうなればこの余裕も納得か。

 

「まぁ、十分に時間は稼ぎました。後は魔王様に頑張ってもらうことにしましょう」

 

 燃える炎の中で首を回し、人形は改めて、私やソフィアの方を眺め見た。

 

「……アナタ達の力は本物だ。負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、アナタ達の力は旧の神と言われている私に届いた……これが事実です。

 そして、それは素晴らしいこと……アシモフの子供たちは、偽りの神を乗り越えていく力があるのです。どうか、それをお忘れなく」

「待ってください、アシモフの子供たちとは……!?」

「……それに関しては、知らないほうが身のためですよ。まぁ、もう一度会うこともあれば、分かるかもしれませんね……それでは、失礼します」

 

 ソフィアの質問を煙に巻いて、一方的に言いたいことだけ言って後、人形から気配が消え、後は布で出来た人形の残滓が熱に任せて灰になっていくだけ――エルは瞳に炎を反射させ、しばらく人形が跡形もなくなくなるのを眺めているようだった。

 

 そして人形が燃え切るのと同時に、建物全体が大きく揺れ始めた。

 

「お、おぉ!? なんですなんです!? 何事です!?」

「……多分、魔王との戦いの余波ね。私たちも急ぎましょう」

 

 すでに気持ちを切り替えたのか、エルはそう言いながら、昇り階段があった場所に目を向けている。

 

「しかし……アレをどかすのは手間ね」

「瓦礫、上手く魔術で壊してみるね!」

「そうね……ヘカトグラムも上手く使えば、どうにかなるかも……」

 

 ソフィアは瓦礫の方へと歩み出した。エルはその背中を追う前にこちらに振り向いて微笑む。

 

「……アナタは休んでいなさい、クラウ。それに、ティアにもお疲れ様……良かったわよ、アナタたちの一生懸命」

 

 そう言い残して、エルも瓦礫の方へと向かった。確かに、自分の力では瓦礫をどうすることもできないし、暴れまわったからかなり疲労もある。お言葉に甘えて少し休ませてもらおう。

 

 しかし、先ほどの出来事のおかげで、不思議な充足感がある。それは、エルとソフィアと、そして――。

 

『……ティア、ありがとう』

『ふふ、どういたしまして』

 

 自分の大切な友達に礼をした後、もう一人、自分に頑張る力をくれた彼のことを思い浮かべる――脳裏に浮かんでくるのは、不思議と後ろ姿だった。

 

(少しは、あの背中に追いつけたかな……)

 

 ふと視線を落とすと、自分の右手には彼の短剣が握られていた。一回、短剣を持つ手をもう片方の手を重ね、柄を両手でぎゅっと握り――それをお守り代わりにすることに決め、こっそりと鞄の中へとしまい込んだ。

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