B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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夢の中の夢

 気が付くと、真っ暗な空間に居た。

 

「……ここは……」

 

 女神と会合する空間に雰囲気は似ているような気がするが、それでも明確に違いを感じる。その違和感の正体は、恐らくレムと会うときはほの暗いというか、辺りに星の様な輝きが見える水の中のような場所なのに対し、ここは本当に真っ暗で、一条の光すら刺さない空間だからだろう。

 

「……アラン・スミス」

 

 背後から名を呼ばれて振り返ると、そこには四つ足の椅子の足が見えた。足元部分から発する光で、どうやらその椅子は背もたれをこちらに向けているようであること、そしてそこに何者かがそれに座っている気配までは分かるのだが、こちらの名を呼んだ者の顔までは暗さのせいで視認できない。

 

「……お前が話しかけてきたやつの正体か、何者だ?」

「ふむ……やはり、記憶がないようだな」

「あのなぁ、俺はお前が何者だって聞いてんだよ」

「くっくっく……名乗るのは二度目だな。オレはべスター……エディ・べスター。正確に言えば、エディ・べスターだった者だ」

 

 エディ・べスター――何故だか自分事を知る存在、そう思えば、コイツは自分の前世と何か関係のある人物かもしれない。しかし、なんとなく記憶の片隅にその名はあるような気はするものの、やはり思い出すことは出来ない。

 

 せめて、顔でも見えれば思い出すかも――視認できる椅子の足元部分を注視すると、うっすらとだが、べスターと名乗ったものの下半身が見える。どうやら、白衣を纏った科学者風の男だという事だけは分かった。

 

「……こうやって俺の脳内に直接語りかけてくる奴は皆こうだ。煙に巻いて核心を話しやがらない。なんなんだ、だった者とか」

「そこのところだがな、自分でも良く分からん。べスターなる者は死んでいるはず……ただ、自分の執念が、T2の中、ADAMsのサブ回路に残っていた……それが何の因果か、再び原初の虎に引き寄せられた、そういうことなのだろう」

「はぁ……なんだよ、その原初の虎ってのは」

「貴様が生きていたころには無かった言葉だし、そのうえ記憶喪失なのならば、知らずに当然……まぁ、お前が死んだあと、皆が便宜上、お前のことをそう呼んでいたんだ」

 

 煙に巻きやがると文句を言った直後なのに、全然わかるように話してくれない。

 

「色々と聞きたそうな顔をしているな、アラン。だが、状況を把握したいのはこちらも同じ……だが、ひとまずあまり時間もなさそうだ」

「あぁ? 俺の体が起きそうってことか?」

「大体そんな所だ。なので、取り急ぎの報告だけ済ませることにする。まず、こちらからは常にお前の状況を確認できるが、お前からはオレと会話を出来る時間は限られる……お前の精神が昂った時、アドレナリンが規定値を超えた時のみ、オレの声を聞くことができるはずだ」

「はぁ?」

「今のオレは、お前の脳内に埋め込まれている蛋白性のマイクロ通信機を利用してお前に話しかけている……だが、オレという存在がイレギュラーである故、非常に微細な交信しかできない。

 アドレナリンが大量に出ている興奮状態なら、その微細な交信をキャッチできるようになるという事なのだが……」

「良く分からんが、俺の脳が戦闘モードになった時だけ声が聞こえるってことだな?」

「あぁ。しかも、かなり危険な時でないと……と思っておいてくれ。ついでに、加速装置も同様だ。オレの制御が必要だからな……まぁ、本来は生身で使うものでもないし、切り札として活用するのがいいだろう」

「……そうか」

 

 加速装置が常に使えるわけではないと聞いて、少し落胆してしまった。魔王を倒した直後なのだから、そう厳しいドンパチをやることもないかもしれないが、それでも何かあった時に少女たちの役に立つ力を手に入れたと思ったのだが。

 

「……誰かに頼まれてもいないのに、勝手に危険を背負いこむのは相変わらずのようだな。それこそ、仲間の少女たちを頼ればよいのではないか?」

「俺は……」

 

 あの子たちを護るために、と言いかけて止めることにした。自分が少しばかり力を得たからと言って、彼女らを護るというのは傲慢だったかもしれない。それにべスターの言う通り、ここまでだってあの子たちを頼ってきたのだ――自分が彼女達の役に立ちたいのと同様に、きっと彼女たちも自分を助けたいと思ってくれている、などというのは自意識過剰だろうか。

 

 しかし、それは間違いでもないように思われた。だから、コイツの言う通り、当面は彼女たちを頼りにさせてもらうのも良いのだろう。

 

「いや、そうだな。俺には……仲間がいるんだ」

「ふっ……そろそろ時間だな」

 

 こちらの返答に対して、べスターは自嘲気味な声で笑った。そして、そろそろ起きる時間らしい――自分の足元に白い光が伸びてきており、段々とその明かりに自分の体が飲み込まれて行っている。

 

「なぁ、べスター」

「……なんだ?」

「お前ほど胡散臭い奴も中々いないが……多分、前世で世話になったんだろうな。それで、きっとこれからも世話になる……だから、よろしく頼むよ」

「……誰かさんのおせっかいが移ったらしくてな。言われずともそうするつもりだったよ」

 

 視界が真っ白に包まれる時に聞こえた男の返事は、少し嬉しそうな声色をしていた。

 

 ◆

 

「……アランさん、アランさん!!」

 

 少女の声が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。きっと、綺麗な碧眼が倒れている自分を見つめている――いや、それにしては妙に暗いというか、明かりを遮られているような――。

 

 目が完全に開くと、合計六つの瞳がこちらを見つめていた。エル、ソフィア、クラウがそれぞれ頭を合わせて、こちらを覗き込んでいたために、明かりが完全に届いていなかったのだ。

 

「……やっと起きたわね」

 

 呆れ調子で呟くエルは、優しげに笑みを浮かべている。

 

「まったく、結局無茶苦茶なんですから」

 

 クラウは溜飲が下がったように、ほっと息を吐き出している。

 

「アランさん! 良かったぁ……!!」

 

 ソフィアはやっぱり涙を浮かべているが、同時に満面の笑みでこちらを見つめていた。

 

「あ……ぃ……ぅ……」

 

 安心させるために何か返答しようと思うのだが、戦闘のダメージによる失血で、思ったように喋ることができない。

 

「はいはい、肉ですね」

「私、取ってくるね!」

「ふぅ……まぁ、もう外傷は問題なさそうだし、一安心かしらね」

 

 こちらが起きたことに安心したのか、少女たちは各々自分の所から離れていった。少し首を回して周囲を見る――時間としてはそんなに気絶していたわけではなさそうで、魔王城の屋上まで引き返して、そこに寝かされているようだった。

 

「……アランさん、お疲れ様です」

 

 声とともに、アガタ・ペトラルカの顔が視界に入ってくる。なかなかエキセントリックな彼女だが、静かにしていると綺麗な顔をしている――その顔がどんどんとこちらの視界を占拠し始めてドキッとするが、どうやら耳打ちをするために近づいてきたらしい、口をこちらの耳元に近づけてきたようだった。

 

「……女神レムからの伝言です。通信機をジャックされたため、こちらから話しかけられなくなりました……修正できるように努めますが、ひとまず私の側からは変わらず見守っていますので、頑張ってください、と」

「……ぁ……」

 

 一瞬、アガタが何を言っているのか理解できなかった。しかしそう言えば、ジャンヌが言っていた記憶がある――ごく稀に、神の声を聞くことのできる聖職者が居ると。アガタ程の高位な聖職者ならば、自身の信仰する神の声が聞こえてもおかしくはないのかもしれない。

 

「……あとついでに、私がレムの詔《みことのり》を聞けることは、クラウには黙っておいていただけると助かります」

 

 アガタは口元にそっと人差し指をたててウィンクすると、そのまま立ち上がって去っていった。

 

「あー! アガタさん、アラン君に何してたんです!?」

「別に、労いの言葉をかけていただけですわ」

「まったく……アラン君、変なことされませんでした?」

 

 アガタの声が離れていくのと反対に、クラウの声が近くなる。別に変なことをされた訳でもないので、頑張って首を横に振っておくことにする。

 

「ふぅ……まぁ、アガタさんはそんな変な人でもないですからね。いや、変な人ですけど」

 

 そこに関しては否定はできないが、肯定するのも怖いので、首は動かさないでおいた。

 

「……アラン君、よく見ると、なんですけど……」

 

 先ほどのアガタと同じくらいクラウが顔を近づけてくる。そして、しばらくじーっとこちらの目を覗き込んで「オッドアイになってる!!」と叫んだ。

 

「ぬぁーなんですか、眠っていた力が目覚めたとかそんな感じですか!? オッドアイなんて、そんなかっこよ……そんなの隠しておいて! それであんな高速移動が出来るように……と、すいません、今はお話できないですよね、後で鏡、見てみるといいですよ」

 

 と、クラウは一人でエキサイトして一人でカームダウンしていた。クラウが落ち着いた後、バタバタと小さくあわただしい足音が近づいて来る。

 

「アランさん! はい、あーん」

「ぁー……」

 

 ソフィアが干し肉を口元に運んできてくれる。小さくちぎってくれているおかげで、体に力が入らない現状でもなんとか咀嚼することができる。

 

「ふふ、たくさん食べてね」

 

 ソフィアは満面の笑みだが、これは傍から見たら餌付けされている犬の様な絵面であるだろうから、ありがたいやら悲しいやら絶妙な気持ちになる。

 

 その後、エルから水を受け取り、クラウから鏡を手渡されて目を確認してみた。確かに右目の瞳孔に少し模様のようなものが出来ており、色も若干だが左右で非対称になっていた。とはいえ、注視してみないと分からない程度の違いだから、眼帯や髪で隠したりする必要もないだろう。いや、眼帯は少し憧れもするが。

 

 ともかく、今は壁に背を預けて、左右非対称になった眼でぼんやりと空を眺めていた。天井の穴が開いたデッキからは、先ほどの激戦が嘘かのような能天気な青空が広がっている。

 

「……アランさん、改めてお疲れ様」

 

 声をかけられて視線を戻すと、先ほどまで他のメンバーに指示を出していたシンイチが――指示を出されたテレサとアレイスター、アガタの三人が、動けない自分のために下の兵を呼びに行ってくれている――自分の前で膝をついて目線を合わせてきている。

 

「あぁ、お前もな」

「ふふ、アランさんほどじゃないさ……それで、アランさん、これからどうするつもりなんだい?」

 

 恐らく、シンイチが聞いているのは目先のことでなく、魔王を倒した後に自分が何をするか――それを聞いているのだろう。

 

「……アランさんさえよければ、それこそ魔王を倒した功績があるから、僕らと一緒に王都へ来るのはどうかな?」

「そうだなぁ……」

 

 別に、その提案自体は悪くはないだろう。どの道、やらなければならないことなどない――レムからの依頼、世界を周って、創造神達が作ったこの世界を見て、これが良いものなのか見てほしいという物があるが、これは内容がふんわりしていて、何処に居たって観察できる物とも言える。そう思えば、別に真っすぐに王都に向かったって問題ないはずではある。

 

 そんなことを思いながらもう一度、馬鹿みたいに澄み渡っている青空を見上げる。

 

「……俺は、少し世界を見て回りたい……何か記憶の手がかりになる物があるかもしれないしな」

 

 先ほどの激戦のさなかで、べスターが言っていたことを思い出す――クローン人間、もし自分がそうであるのなら、本当は記憶などないのかもしれない。何かを探し出そうとか、思い出そうとすることがナンセンスな可能性すらある。

 

 しかしそれでも、改めてゆっくりと、この世界を歩いてみたいという気持ちがあるのも確かだ。シンイチに着いて行けばまっすぐ最短で王都にたどり着けるとは思うが、今は回り道をしたい、そんな気分だった。

 

 シンイチの方も「そうかい」と頷き返し、こちらを見据えながら微笑んだ。

 

「そう言うお前はどうするつもりなんだ?」

「……僕は、元の世界に戻るつもりだよ。この世界も好きだけど、もう一度……この世界で成長した自分でもって、あっちで頑張ってみたいんだ」

「そうか……まぁ、それもいいんじゃないか?」

 

 きっと、他の皆は寂しがるだろうが――自分としてはシンイチと同郷というのもあるせいか、シンイチの選択も理解できないものではない。上手く言葉には出来ないが、あちらでは当たり前で気付かなかった大切な事が、こちらに来て体感されて、もう一度あちらでやり直してみたいと――そんな気持ちになっているのではないか、という風に感ぜられたのだ。

 

 もし、自分が逆の立場ならどうなのだろうか? 女神の依頼を果たした時、元の世界に戻れるというのなら、どうするか――いや、自分の場合は元の世界では死んでいるのだし、もう戻るところもないのかもしれない。更に言えば、自分がクローンであるとするなら、そもそも故郷なんてものもないのかもしれない。

 

 そう思った瞬間、一抹の寂しさを覚えたが――。

 

「……アランさん、私も着いて行っていいかな?」

 

 シンイチの後ろから、ソフィアがこちらを見つめていた。

 

「ご、ごめんなさい、聞き耳立てるつもりじゃなかったんだけど……でも、聞こえちゃって」

「いや、気にしないでくれソフィア。別に秘密の話をしていたわけじゃないからね」

「ありがとう、シンイチさん。それで、アランさん、旅して周るっていうのなら、私も一緒に行きたいんだけど……」

 

 その調子は、遠慮がちで――最初に出会ったころと同じような雰囲気だった。そう言えば、今まではソフィアの依頼で自分たちが少女に着いて行っていただけだから、魔王を倒した今となっては契約は終了になる。それで一緒に行くとなれば、今度は逆にソフィアが自分に着いて来る正当な理由もないので、遠慮がちになっているのかもしれない。

 

「……そりゃ、ソフィアが着いて来てくれるっていうのなら、めちゃくちゃ頼りになるしありがたいんだが……色々と大丈夫なのか?」

「多分、大丈夫だと思うな! 私の准将っていうのも魔王がいる間の対応だし、ちゃんと引継ぎをすれば……うん、引継ぎの時間はお待たせしちゃうけど、特急でやれば数日で準備できると思う!」

「あのなぁ、そうやって無茶ばっかりするんだから……」

「むー……ボロボロになって動けなくなってるアランさんに言われたくないな!」

「……ごもっとも」

 

 自分はなんとか喋れるだけの状態なのだから、何も言い返すことも出来なかった。ぼんやりと頬を膨らませてるソフィアを眺めていると、その横にクラウが額に指を当て、不敵な笑顔を浮かべながら並んだ。

 

「ごほん……そうですねぇ、無茶ばっかりな人たちだと不安ですね……仕方ないので、この不肖クラウディア・アリギエーリも同行しますよ」

「ほぉ、不肖とか難しい言葉を知ってたんだな、偉いぞ」

「もー! 馬鹿にして!」

 

 そう言うクラウは、胸の下で腕を組んでそっぽを向いてしまう。少しして、クラウは唇を尖らせて、横目でこっちを見てくる。

 

「……約束したじゃないですか。武器作成のお礼してくれるって」

「あぁ、そうだな……クラウも居てくれると頼りになるし、助かるよ」

「なんだか取ってつけたような褒め方ですけど……まぁいいです、アラン君、今日はお疲れでしょうから」

 

 こちらの言い分が満足だったのか不満足だったのかどちらかは分からないが、ひとまずクラウも笑みを浮かべてくれたので良しとする。

 

「……ふぅ、これで一人にならずに済みそうですね」

「……そう言えばお前、方向音痴だったな……」

 

 額の汗を拭う仕草で嘆息を吐くクラウを尻目に、視線を少し横にずらすと、腕を組みながら床を見つめているエルが目に入った。

 

「……エルも一緒に来ないか?」

「えっ……」

 

 勝手に彼女の気持ちを解釈するのも失礼だが、恐らくソフィアとクラウも来るのなら一緒に来たいと思っているのでは――とはいえ、俺が何というか分からないから、エル自分からは言い出せなかったのだろう。

 

 その証拠に、反応した彼女の眼は不安と期待とに揺れているようだったが、不安側を打ち消すように、ソフィアとクラウが笑顔をエルに向けた。

 

「うん、エルさんもいると心強いよね!」

「それに、エルさんが居ないと誰も突っ込んでくれませんし」

「いや、アナタたちがボケてるのに呆れているだけなのだけれど……」

 

 そういうのが、ボケる側としては一番気持ちいいんだぞ、という言葉は飲み込むことにした。

 

「まぁともかく、ここまで四人で来たんだ。エルさえよければ、これからも一緒に行動できると嬉しいんだが」

「そう、そうね……まぁ……どうせ、お義父様の仇が何処に居るとも分からないから……私は、何処へ行ったっていいしね」

 

 言い訳のように呟くエルは――いや、もちろん半分は本心なのだろうが――口元を緩ませながら呟いて後、こちらを向いて笑った。

 

「いいわ、アナタたちに着いて行くことにする」

「わーい、エルさーん!」

「エルさーん!」

 

 同意の意向を言った瞬間、クラウとソフィアが嬉しそうにエルの方へと駆け寄った。エルは「暑苦しい……」などとぼやいてはいるが、顔は嬉しそうだ。

 

 そして、少女たちが離れていったことで、自然と再びシンイチと自分との二人になる。

 

「……とりあえず、今後の方針は決まったようだね」

「いやぁ、決まったかどうかはかなり怪しいが、ひとまず一人にはならずには済んだみたいだ」

「はは、そうだね……おめでとう、アランさん」

 

 シンイチの顔にも、屈託のない笑顔が浮かんでいる。それは、一人にならずに済んだことを――少女たちが自分を慕ってくれていることを、本気で祝福してくれているようだった。

 

「でも、遠回りでも構わないから、一応王都には来てほしいんだ。此度の戦後処理にしばらくかかるから、恐らく向こう数か月は、僕は王都に滞在していると思うからさ……出来れば向こうに戻る前に、アランさんとはもう一度話がしたいんだ」

 

 シンイチがそう切り出すと、三人の少女たちが近づいてきて、ソフィアが顎に指を添えながらこちらを向いた。

 

「そうだね、私も一度実家に顔を出さないといけないし、エルさんのことも改めて報告したほうがいいと思うから、王都には一度は立ち寄った方がいいと思う……アランさん、エルさん、いいかな?」

「あぁ、別に王都に行きたくなわけじゃないしな」

「まぁ、仕方ないわよね」

「うん、それじゃあ細かい方針はまた今度決めるとして、ゆっくりと王都を目指すことにしようか」

 

 今後の方針も決まってひと段落すると、気が抜けたのか急激に眠気が襲ってきて、大きなあくびをしてしまう。悪い感じの眠気ではなく、単純にやり切った後の充足感から来ているものだろう。

 

「アランさん、眠るかい?」

「あぁ……そうするかな」

 

 シンイチの提案を受け入れることにして、瞳を閉じる。

 

「……お休み、先輩」

 

 その声が聞こえたのが最後に、すぐさま意識が落ちる。

 

 眠りの中で見たのは、女神でも科学者風の男でもなく、暗闇の中にいる一匹の虎の姿だった。虎は傷つき、疲労しているように見えるが、その瞳には強い闘志を宿し、ただ今は静かに、来るべき時のために体を休めている――そんな風に見えた。

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