B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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冒険者ギルドと職業について

 冒険者ギルドに来るのには、本来なら道案内は必要なかった。何せ、通りを挟んで第一駐屯地の目の前にある建物こそが、冒険者ギルドだったからである。正規軍に継ぐ戦力もある訳だし、ならず者も多少集まるであろう場所で治安的な問題もあるのだろうから、正規軍の目の前、正門のすぐ近くに冒険者ギルドがあるのも納得の立地だった。

 

 とはいえ、場所的な案内は必要なくとも、冒険者としての作法や登録方法を知るのには、分かっている人がいるのはありがたい。少女の背中を追って自分もスイングドアをくぐると、目の前に掲示板があった。恐らく、ここに依頼が貼られているのだろう、小さな文字の書かれたボロ切れ――紙ではなく、恐らく使わなくなった繊維――が所狭しとピンでとめられているのが見える。

 

「アランさん、こっちですよー」

 

 掲示板の左手の方で、ソフィアが手招きしている。ちなみに、右手は食堂兼酒場といった趣になっており、たくさんの机がある。しかし、埋まっている椅子はまばらにしかいない。恐らく、まだ午前中の比較的早い時間帯であり、そして冒険者は朝に弱いせいで空いているのだろう。

 

 さて、手招きされたほうに行くと、お役所的なカウンターがあった。こちらにはソフィアと自分、そして受付で眠そうにしている壮年の髭男しかいない。

 

「なんだ大将、討伐の依頼か?」

「准将ですよ、バーンズさん。それで、今日は依頼ではなく、冒険者の紹介に来ました」

「なんだい、大きいの方が景気がいいだろう……それで、後ろの坊主か?」

 

 バーンズと呼ばれた男は、髭を擦りながらこちらを見た。しばらく品定めするように眺められ、若干の居心地の悪さを感じる。

 

「おい、ここでやっていくには、全然強そうには見えないがな」

「でも、ワーウルフを一体、倒しているらしいです」

「ほぉ……んじゃ、完璧な素人ってわけでもないわけだな」

「それが、記憶喪失らしく……」

「……はぁ?」

 

 再び、髭男がいぶかし気にこちらを見た。

 

「俺も長いことギルドで冒険者を見てるがな、記憶喪失ってのは初めてだぜ……んでまぁ、戦えなくもなさそうで、難民になるのも嫌だから、冒険者になりにきたってことか」

「はい、その通りです。登録用紙、いただけますか?」

「はいよ、ちょっと待ってな」

 

 バーンズはカウンターの下から、羊皮紙を取り出した。羊皮紙というと一気にファンタジー感が強まるが、先ほどソフィアが使っていたのは普通のパルプ紙であった気がする。製紙技術は一部では進んでいるのか、それも軍の専売特許なのだろうか。

 

 ともかく、自分もカウンターへ向かい、羊皮紙に向かった。冒険者認定書と書かれており、途中は不思議と二段構成になっている。上は表語文字――簡易な文で、強盗してはダメとか、そんな基本的なことが書かれている。下は表音文字で、もう少し専門的なことが書かれているが、結局上下とも意味するところはそう変わらなかった。そして、最後に署名の枠がある。

 

 書面を一応眺めていると、横からすい、と碧眼が覗き込んできた。

 

「……先ほどから思ってたんですけど、アランさん、文字読めてますよね?」

「あぁ、こういうことに関する記憶は、無くなってないようで助かったな」

「それじゃあ、署名も自分でできますか?」

「多分、書けると思う」

 

 バーンズから羽のついたペンを受け取り、カウンターに置かれているインクに浸して、アラン・スミスと署名欄に書き上げた。

 

「ふむ……やっぱり、航海士だったんですかね。それなら、上位文字(セレスティック)の読み書きが出来ても不思議ではないので……ご家庭は、上級な商人の家柄なのかも」

「けっ、そんな品のありそうな感じはしねぇがな……ほれ」

 

 髭男は、腰から細身のナイフを抜き、それをカウンターの上に投げた。一瞬何をすれば良いのか分からなかったが、ソフィアが右手の親指の腹をツンツンしているのを見て察した。

 

 ナイフを取り、その先端で右手の親指を刺し、少し抉る。そして拳に力を入れ、血が出てきたところで、署名の横に押し付けた。そして血判状をバーンズの方に差し出すと、男はもじゃもじゃな口元を引き上げて笑った。

 

「ようこそ、血を分けたくそ野郎。てめぇが元貴族であれ、元犯罪者であれ、今からお前はただのクソッタレの冒険者だ。歓迎するぜ」

 

 バーンズは羊皮紙を受け取ると、今度はカウンターの下から金属製のバッジと、同じく金属製のカードを一つ出した。

 

「ほれ、これが冒険者の証だ。バッジでお前の身分が一目で分かるようになる……ただ、普段から付けておくかは判断に任せるぜ。居住地区とかで付けておくと、良い顔はされねぇからな。カードはギルドで仕事を請け負ったりするときに出す身分証だ。後で名前は入れておきな」

 

 成程、一応身分が保証された身と言えども、荒くれものには変わりない。一般人が忌避するのも仕方ないだろう。ひとまず、渡された二つの身分証はポケットにしまった。

 

「あとは、金が欲しいなら依頼を受けるんだ。入口の所に掲示板があっただろう?」

「あぁ、了解だ。それで、なんというか、職業とか、そういうのってないのか?」

 

 冒険者とは冒険するものの総称で、その中で戦士とか魔法使いとか色々分類されるイメージであるため質問してみた。まったく見当違いだったのか、バーンズは「はぁ?」と言って眉をひそめている。一方、横からソフィアの助け船が入った。

 

「冒険者は冒険者という職業ですよ、アランさん。でも多分、アランさんが知りたいのは、武器を持って戦う戦士とか、そういった冒険者としての役割的な物ですよね?」

「あぁ、うん、その通り!」

 

 この子は察しが良くて助かる。

 

「えぇっと、そういう意味では、別段細かく分類されているわけではありません。大雑把に言えば、戦闘系と非戦闘系に分かれますが、もちろん戦闘系の冒険者は非戦闘系の依頼を受けることもあります」

「ふむふむ!」

「す、凄い食い気味です……! えとえと、折角なので、適性を見てから色々話しましょうか」

 

 適正、なるほど、そういうやつか。御多聞に漏れず、バーンズが奥から水晶玉を持ってきて、それをカウンターに置いた。

 

「まぁ、適正なんぞ無視してる奴が多いがな……ほれ、これに手をかざしな。お前さんの持って生まれた才能ってやつが見れるぜ」

「あぁ、分かった」

 

 水晶玉に右手をかざすと、結晶の表面に以下の文字が浮かび上がった。

 

 力:5

 生命力:10

 素早さ:8

 賢さ:6

 恩寵:1

 

「……これっていいのか?」

 

 冷静に考えれば、この数値の判断基準を自分は知らなかった。ソフィアがそれに対し、パッと笑顔になって応える。

 

「かなり優秀って言っていいんじゃないでしょうか。十段階評価なので、生命力は最高値ですね。とくに前衛に一番重宝される能力です。五が人並なので、前衛職なら何をしても人並以上に活躍できると思いますよ」

「でも、恩寵ってやつが一だぞ?」

「まぁ、ここだけは文字通り運というか……恩寵は、神にどれほど愛されているかの指標です。これが八以上ないと、そもそも神聖魔法が使えません。他にも、日頃の運の良さにも絡むようですが……神官職の人以外はあまり重視されませんので、冒険者としては問題ないかと」

 

 自分は女神によって蘇生されたはずなのだから、恩寵は十でも良い気がするのだが。まぁ、それ以上の不運が足を引っ張ったのかもしれないし、そもそも前世の感覚でいうと普段から神様を信じているほど信心深くもなかっただろうから、妥当なのかもしれない。

 

 しかし、贅沢な悩みとは思うが、それでも普通に優秀は面白味には欠ける気もする。転生したら一個凄い能力があるのが――あぁ、それが生命力か。まぁ、何も出来ないよりは良いだろう、素直にソフィアに褒められたことを喜ぶことにしよう。

 

「ちなみに、ソフィアもこの適性検査ってやったことあるのか?」

「はい、冒険者以外でも、正規軍では実施しますからね」

「どんな結果だったか聞いてもいいか?」

「はい。私は力が三、生命力が四、素早さが八、賢さが十で……恩寵が一です」

「いくつかの数字が俺とお揃いだな」

 

 一応、お互い神には見放されてるんだな、何て言うのは控えておいた。恩寵を言う前に少し溜めていたことを考えると、ソフィアはそこが低いのを気にしているのかもしれない。こちらの言葉に対して、少女は「えへへ、お揃いです」とはにかんでくれた。

 

「それでは、冒険者の中の大まかな役割について詳しくお話ししますね。まず、アランさんは基本的に戦闘を請け負うことになると思いますが、非戦闘系も説明しておきます。非戦闘系は大まかにワーカーとクリエイターに分かれます。ワーカーは先ほど言っていたよう、農耕や採掘など、労働力として日雇いの仕事を請け負います。

 一方、クリエイターの人は何か物を作成する人のことですね。日用で使える薬品や戦闘用の武器など作るものは様々で、これを冒険者ギルドに卸したり、自分で販売したりしてお金を稼ぎます」

「ふむふむ」

「中には、危険な場所にある素材を集めるクリエイターさんもいますけれど、その場合は戦闘系と兼任することになります。それで次に戦闘系に関してですが、大まかにスペルユーザーとそれ以外に分かれます」

「ちなみに、俺はスペルユーザーにはなれるか?」

「正直、難しい、が結論ですね。人間が扱える術の類は、学院で学べる魔術か教会で学べる神聖魔法か、どちらかです。

 学院には勉強すれば入学できますが、学ぶには王都に行かなければなりませんし、幼いころから専門的な教育を受けなければ入学自体が難しいです。神聖魔法に関しては、先ほど言ったように恩寵に恵まれている人でないと使えませんから」

 

 実際、魔法を使うというのには憧れもあったが、確かに現状ではどうすることもできなさそうだ。

 

「なるほどなぁ。それなら、スペルユーザー以外の戦闘系はどんな感じだ?」

「はい。三通りのポジションがあります。まず、ディフェンダー。これは盾と長剣、ないし長槍を持って敵の進行を止め、スペルユーザーを守るのが役割です。地味と言えば地味ですが、非スペルユーザーの分類の中では一番需要がありますね。次にアタッカー。これは攻めの前衛で、得意の武器を使って敵と戦います」

 

 そこまで聞いて、昨日のことを思い出す。エルは剣で戦っていたし、しかも一人で複数体を相手にしていたのだから、アタッカーという分類で間違いなさそうだ。しかし、詠唱のようなものをしていた気もするが――。

 

「遮って悪いんだが、アタッカー兼スペルユーザーってのもありうるのか?」

「そうですね、とくに神官職の方は、魔法と武器による攻撃、両方こなすケースもありますし、一部物理攻撃をサポートする魔術もあります。

 ただ、神官職の方は多くないですし、魔術師は後衛に専念したほうが火力が出るので、あまり見かけない組み合わせではありますね」

 

 そうなると、エルはそのあまり見かけない組み合わせを持つ一匹狼なのか、それとも別なのか。しかし、この場では答えが分かりそうもない。

 

「ありがとう、続けてくれ」

「はい、分かりました。それで、アタッカーは二重の意味であまり人気のない役割です。最前列で、人間より遥かに力の勝る敵と打ち合わなければならない危険性から、アタッカーになりたがる人は少ないです。また、魔術師の攻撃魔法との相性も悪いので、パーティーには誘われにくい傾向にあります」

「前に出てると、攻撃呪文に巻き込まれるから?」

「はい、そうなります。冒険者パーティーの基本が、魔術師の呪文での攻撃になるので、自然とディフェンダーと魔術師が組むことが多くなりますね。

 ただ、アタッカーが輝く場面もあります。それは、上位魔族と戦う時です。上位魔族は、魔術をディスペルしてくる他、強力な魔術抵抗を持っているケースがあります。そのため、上位魔族を倒すには、物理のスペシャリストに頼る必要がある訳ですね」

「切り札って感じだな」

「そうですね、でも、冒険者の方が上位魔族と戦うケースはほとんどないはずです。最上位の魔族や魔王は勇者様が……」

 

 勇者、という名前を出した瞬間、顔が一瞬陰った気がするが、ソフィアはすぐに続ける。

 

「……勇者様が戦いますし、その一つ下の上位魔族でも正規軍が相手することが多いです。冒険者の方には基本、下級の魔族の討伐を依頼しますので、そういう意味で冒険者間ではアタッカーは不遇な扱いになってしまいますね」

 

 切り札という感じでアタッカーには憧れるが、一般の冒険者に需要がない理由もよく分かるし、何よりエルと同じくらいの切れ味がないといけないのなら、ひとまずアタッカーなど無理そう、ということもよく分かった。

 

「それで、最後の一つは?」

「最後は、スカウトですね」

「スカウト?」

 

 普段、あまり聞き馴染みのない職業だったので、つい聞き返してしまう。

 

「はい。スカウト、歩哨ですね。偵察や罠の設置、解除などがメインの役割です。中には、弓矢や投擲などで戦線を援護するスカウトもいますが、どちらかというとパーティーが健全な状態で戦えるのを維持するのが目的です」

 

 なるほど、シーフとかレンジャーとか、そういうイメージか。こちらが頭の中でスカウトの役割を整理している横で、ソフィアが続ける。

 

「ただ、スカウトもレヴァルの冒険者の間ではそんなに需要のある役割ではありませんね。スカウトはダンジョンを攻略する際などは重宝されますが、レヴァルでの依頼は基本的に野戦が多いです。

 もちろん、スカウトとして活躍されている方もいますが、魔族に感づかれないように敵地を調査する必要があるので、頼りにされるには高等な技術が必要ですし、スカウトで即戦力というのは難しいかなと」

「まぁつまり、俺が冒険者を始めるならディフェンダーほぼ一択ってことだな」

「そうですね。アランさんは適性的に素早さと賢さも高めなので、スカウトも向いていると思いますけど、特殊な訓練が数年は必要です。

 対してディフェンダーなら、もちろん武器や盾の扱いなど簡単ではありませんが、ひとまず自分の身を守って敵を後ろに進ませなければ良いので、やることはシンプルです。アランさんは生命力も高いので、ディフェンダーならすぐに活躍できるようになると思いますよ」

 

 まぁ、戦闘中はどこのポジションでも生命力は重宝されますが、と付け足された。ソフィアが話し終わった後、バーンズが髭を撫でながら笑った。

 

「それに、ディフェンダーは一番多く欠員が出やすいポジションだ。パーティーの穴も空きやすいから、どこかに潜り込みやすいってメリットもあるぜ。まぁ、それもお荷物じゃねぇって証明できれば、の話だがな」

「それ、裏返せば俺も死にやすいってことだろう?」

「はは、ちげぇねぇ!! なるほど坊主、なかなか面白いやつだ」

 

 壮年は大きく笑った後、白い髭を握りながら目を細めた。

 

「……特に駆け出しが一番死にやすいんだ、注意しな」

「あぁ、ありがとさん」

 

 現状では、偶々かもしれないが、この世界の住民は心が擦れてないのか。良い人ばかりに会っている気がする。バーンズも口は悪いが、根は良い人という印象だった。

 

 さて、今までの話を少し頭の中で整理する。やるなら非スペルユーザーは確定そうだが、ディフェンダーと言われてもピンとは来ない。それでもまぁ、他に道が無いならそれでも仕方ないのだが、一応色々試してみたい。そこまで考えて、杖を抱えてこちらを見ている少女のほうへ振り向いた。

 

「別に、ポジションってすぐに決めなくてもいいんだよな?」

「はい、問題ありません。兼任する場合だってありますし、転向する方もいます。便宜上、私はコレが得意ですよーと、パーティー内で共有して役割分断しておいたほうがスムーズ、というだけの話ですからね」

「それじゃあ、ディフェンダーメインで考えてみることにするよ」

「はい、それでは……」

「あぁ、ソフィア、世話になった……うん?」

 

 諸々手続きと説明が済んだので、私はここで、と言われると思ったのだが。ソフィアは掲示板の方へ向かって、じぃっと依頼を真剣な表情で吟味し始めた。

 

「……アランさん、これにしましょう!」

 

 少女が良い笑顔で板から外して掲げた紙には、巨大蜘蛛型魔獣の討伐、報酬五千ゴールドと記載されていた。

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