B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
クラウが帰郷したいと言ったのは、正確には村が滅ぼされてから預けられた孤児院の方だった。いくら方向音痴と言っても孤児院のある地名は覚えていたので、エルとソフィアに相談したところすぐに場所は特定できた。
問題は、その孤児院がある場所だ。王都に向かうには、ここから主要な道を北西に進んでいくのが最短だが、クラウが預けられていた孤児院に行くには南西に向かう必要がある。西という方角は一致しており、ちょうどここからなら距離も近いこと、また現在滞在している街からなら軌道修正ができること、さらに孤児院に立ち寄ったとしても一週間の差は出ないくらいの距離感ということもあり、クラウの故郷を訪れる事に決まった。
滞在中の街からクラウが住んでいた地方に抜けるには、一つ山道を通る必要があった。とはいえ、そこまで標高の高い道でもないため、一泊野営をすれば次の日の午後には目的地にたどり着くといった塩梅だ。すでに今日は移動を終え、夜を超えるための準備に入っている。
こちらの山道はあまり使う人もいないらしく、魔族や魔獣が多少はいるらしい。同時に、それらがいるような場所なので山賊はいないようだ。現にここまでたどり着くまで、数回は魔族や魔獣との戦闘もあった。もちろん、ソフィアが魔術で瞬殺したのであるが。
ともかく、一応は危険な山道ということもあり、薪を拾いに行くのは自分の仕事だ。自分なら戦闘を回避して藪の中を動き回れる――レムリア大陸は西に行くほど偏西風の影響で温暖で、最近は好天続きではあるものの、冬も近いこの時期に焚き火を絶やせば凍死する。そのため、一晩分の薪を雑木林の中から集めるとなると結構な手間になる。数回に分けて薪をキャンプ地に運ぶことにし、最後の分を取ってくる頃には、すでに焚かれた火を使ってクラウが料理をしてくれていた。
「……そう言えばちょっと気になってたんだが、教会の戒律か何かで豚とか牛は食えないのか?」
このような疑問が出てきたのは、クラウが作る料理には豚や牛の肉が入っていないからだ。クラウは少し申し訳なさそうに、鼻の頭をかいている。
「えぇっと、別に戒律とかはありませんよ。ちょっと私が、豚や牛のお肉が苦手なんです……なんというか、食感がダメで。
別口に作ろうと思えば豚や牛の料理も出来るとは思うんですけど、自分が食べられないものだと味見が出来ないので、美味しさはちょっと保証できないですね」
「あぁ、なるほど、そういうことならいいんだ。鶏肉とかは入ってるし、満足感はあるからな」
味がいいのは分かっているし、不満がないのも本心だ。とはいえ、自分が話題に出してしまったせいか、クラウは少し申し訳なさそうに視線を落としている。
そしてそれを察したのかただの本心なのか――恐らく後者だ――ソフィアが元気に手をあげた。
「なにより美味しいよ!」
「ふふ、優しいソフィアちゃんには食後のデザート、特別に一個追加しちゃいます」
「わぁ、ありがとうクラウさん!」
ソフィアのフォローが入ったことで、クラウも調子を取り戻してくれた。
夜も更け、ぼちぼちと寝ることになった。今日の見張りは、自分とエルがやることになっている。自分は早めに仮眠を取り始め、夜中になったらエルと交代する段取りになっていた。
寝始めは少女たちの談笑が耳に入り――クラウの孤児院がどんなところなのかとか、最近食べた美味しいデザートの話であるとか、たまの休憩で描いている絵の話など、何となく取り留めもない話を耳にしながら、しかししばらくしたらいつの間にか寝入っていた。
次に目を覚ました時は、エルが遠慮がちにこちらに近づく気配を感じた時だ。
「……流石ね、近づいた気配で起きた?」
「半分は正解……まぁ、おっかなびっくりって気配でずっとこっちを見てたからその気配で起きたって感じかな」
恐らく、こちらが寝入っているのを起こすのが少しためらわれたのだろう、遠慮がちなエルらしい話だ。ともかく、見張りを交代してぼぅっと焚き火を眺めながら、時折薪を炎に投げ入れつつ考え事をして少しすると、エルの方からも寝息が立ち始めた。
そしてそれと入れ替わるように、また別の一人が眠りから覚めたのに気づく。
「……アラン君」
てっきりクラウかと思ったのだが、声の調子がいつもより落ち着いている。声のしたほうを向くと、上半身を起こして毛布を膝にかけてこちらを見ている深紅の瞳があった。
「ティアか、珍しいな」
「ふふ、そうだね、こうやって二人きりで話すのはレヴァルの宿の時以来だ」
「そうか、そう言えばそんなに時間も経ってるんだな……」
レムリアに着いてからの道中では、たまにティアも顔出しをしていた。とはいえ、それはソフィアやエルも起きている時であるし、こうやって二人きりで話すのは実に数か月ぶりくらいになるのか――そう思うと、思った以上に少女たちと過ごす時間も長くなってきたんだなと、そんな感慨を覚える。
「しかしどうしたんだ、寝れないのか?」
「いいや、ちょっとアラン君と二人きりで話したくてね……エルさんが寝入るのを待ってたのさ」
そう言いながら、ティアは焚き火の周りで毛布にくるまっているソフィアとエルを見る。
「一応、内緒の話にしたいから……少しだけ場所を移さないかい? もちろん、アラン君が索敵できる範囲で」
「そうだなぁ、まぁ俺も一人で暇だったし」
「それじゃあ決まりだね」
二人で立ち上がり、移動を始める。しかし、本来はクラウとティアは意識を共有しているはずだから、話したいことがあればクラウを通してだってできる。そうなれば――。
「……内緒の話って、クラウにも?」
「あぁ、その通り……今はクラウもぐっすり眠っているよ」
そう二言三言交わして後、月の照らす拓けた場所に出た。丁度良い感じに倒木があり、ティアがそれを椅子代わりに腰かけたので、自分もその隣に座ることにする。
「……それで、内緒の話ってのはなんだ?」
「うーん、まぁ色々とあるというか、話したいことはてんこ盛りでさ……何から話そうか……しかし、寒いね……ふぅ」
ティアは手に息を吹きかけて暖を取り、天上に浮かぶ月を見上げ、ゆっくりと口を開く。
「……実はこの辺りは、クラウの故郷……本物の故郷も近いんだ」
クラウの本物の故郷、それは彼女が幼いころ、魔族に襲撃されて滅んだ村。それが、この付近にあるという事らしい。
深紅の瞳の向く先が、天上からこちらへと流れてくる。
「なんというかな、ボクはアラン君に知っておいてほしいんだよ。クラウという子のことを……いいや、クラウディア・アリギエーリという子のことを」
そこまで言って、ティアは再びぼんやりと月を――いや、きっと遠い記憶を見つめながら、またぽつりぽつりと語りだした。
「クラウディアの故郷は、山奥の小さな村だ。畑仕事と猟でその日暮らしをするような、そんな小さな小さな村……そんな小さな村にも、領主に戸籍は管理されて税は取られるし、教会だってある。
戦時中は男手が外に出がちだし、魔族もひっそりと住むこの辺りの山々で猟をしていれば、自然と人は減っていく……それでも税は収めないといけないから、食糧もどんどん減っていく、そんな貧しい貧しい村だったんだよ」
確か、そのようなことはクラウも以前に言っていたと記憶している。ただし、ここまで詳細ではなかったはずだ。幼少の頃の記憶は、クラウよりもティアの方がしっかりと覚えているのかもしれない。
「……同時に、クラウディアの両親は熱心なルーナ神の信者だった。それが彼女の信仰の源泉でもあるのかもしれないけれど、それは少々度が過ぎていたように思う。
日々が苦しいのは神の試練であり、神々は祈る者を救ってくれる……そんなの、小さいクラウディアには分かる訳もない。ただ祈らないと、神様を信じないと、両親が怒るから、怖いから……彼女は一生懸命、分からないなりに神を理解しようとして、そして祈る様に努めていた」
ティアの口調は淡々としたものだった。しかし、ここから先は今以上に重い話があるのか、ティアは視線を落としてしまう。
「そんなある日のこと、とうとう村の食糧が尽きてしまった。正確には尽きかけていた、なんだろうけれど……仔細はどっちでもいい、ともかく餓死者が出るまでに村の事情は切迫し始めた……ただまぁ、そうなると、食糧が僅かばかりに出来上がるじゃないか」
骨と皮ばかりのヤツがさ、とティアは伏し目がちで呟いた。そうなると、先ほどのクラウの肉が食べられないのも納得できるものがある――幼いクラウディアにそれが何かは理解できなくても、おぞましいことがあったと直感では分かっていたのかもしれない。
「……両親の虐待にも似た教育と、そのような村の事情が重なって、クラウディアの心は限界だったんだよ。それこそ、まだ片手で数えらえるような歳の子が……いいや、アレには大人だって耐えられるはずがない。
そうして、クラウディアはその環境を耐えられるだけの自己防衛を始めたんだ。クラウディアは、内から聞こえるもう一人の声を歓迎した。そして、彼女を取り巻く厳しい状況は、もう一つの人格が引き受けるようになった……」
それは、逆を言えば、村での不遇を全て自分の隣にいる赤い目の少女が引き受けていたことを意味する。自己防衛のために作り出された魂だったとしても、それでも――その受けた仕打ちは、あまりにも過酷だ。
「……そんな顔をしないでおくれよ。その内なる人格は、別に本来の人格を恨んでなんかいないさ……そもそも、耐えられるだけの強さを持った人格を、彼女自身が生みだしたんだからね」
言葉を切って、ティアは星を見つめた。その顔には曇りはない、穏やかな表情だった。
「その内なる人格とは、クラウディア・アリギエーリの祈りそのものなんだ。どれ程の逆境にも耐えられる精神を持ち、同時に克服できる判断力と機転を持った強い魂……それを自分の中に作ることで、彼女は自分の心を護ったのさ。
同時に、幼いクラウディアは、内なる魂に対する罪悪感があった……全てを押し付けてしまうその償いに、何もあげられるものが無いから、せめてと……自身の半分を、内なる魂に差し出したんだ。そうして、クラウディアという少女は、自身をクラウ、もう一人の人格をティアと呼び始め……二つの魂は、それぞれ別の名を持つことになった」
「……なるほどな。そこから、今の二人になったと」
「あぁ、そういうこと……とはいえクラウの両親は、ボクのことを大変気味悪がった。同時に、村の食糧事情はどんどん悪化していき……次第に、生きている者すら、その対象となった。そうなると、ボクの様に気味の悪い存在は、真っ先にやり玉に挙げられる」
ティアはそこで一呼吸おいて、再び空に浮かぶ月を眺め始めた。
「……とある晩のこと、ボクは村の奥の祠に連れていかれた。そしてそれが、最後の夜になるはずだった……でも、それはクラウディアの終わりでなく、村の終焉となった。祠の扉から僅かに除く隙間から、村が煌々と燃ゆるのが見えた……あの魔族の襲撃が無かったら、ボクは、クラウは、この場にいなかったはずなのさ」
「皮肉なことに、人類の仇敵たる魔族が、二つの魂の救世主となった、か」
「そういうことだね……そしてあくまでもボク達にとってのみ幸いなことに、魔族はボクを発見できなかった。そして滅んだ村の調査をしに来た者に、クラウが発見され……山を下った先にある小さな孤児院へと預けられたのさ……ここまでのことは、クラウ自身は詳細には覚えていない。ただなんとなく、心の奥底に、自分の生まれ故郷の景色がボンヤリとあるだけのはずだ」
「……なるほど、それでクラウが寝てる間に話しておこうと」
「うん、そういうこと」
クラウが過酷な記憶を覚えていないことは、まだ良かったのかもしれない。村で行われた行為を残虐だ、非道だというのは簡単だ。しかし時代が、環境が――それを許してくれなかったと思えば、やるせないものがある。
そんな風に思っている間に、気付けばティアは身をこちらに乗り出し、覗き込むように下から自分の瞳を見つめてくる。
「……アラン君、ボクは以前、君とボクは似ているんじゃないかと言ったね。それは、肉体に対し、魂が後から定着した形だからだ。本来、肉体と魂は不可分で、同時に発生するもの……それがアラン君に関しては、転生なんて言うとんでもない理由だとは予想だに出来なかったけれど……でも、実は一つ違和感があるんだ。本来、転生というからには、赤子から始まるべきなんじゃないかな? それなら、魂と肉体とが一体になっているはずなのに……どうして君は、成長した姿で現れたんだろう? 君のそれは、肉体に対して魂を無理やり定着させているようだからね……」
「……確か、レムもそんなことを言ってたな。無理やり定着させてるって。だけど、成長した姿で現れたのは、レムが俺をこの世界に立たせた瞬間から、すぐに世界を回ってほしかったらからじゃないか?」
「うん、それはそうだね……でも、レムは何故、そんなに急いでいたんだろうか? もっと前から計画的に動くことだって出来たかもしれないのに……」
「まぁ、緊急なことがあったのかもしれないし、そもそも俺に世界を見てほしいんなら、わざわざ赤子からやらせることもないんじゃないかな」
実際、レムが念を押していたのは、前世の倫理観でこの世界を見てほしい、だったはず。生半可にこの世界でゼロから生を受ければ、この世界の倫理観に染まり、本来レムが欲しかったはずの違和感にも気付けなくなる可能性がある。
ただ、それをどこまでティアに言おうか――悩んでいるうちに、ティアは諦めたように小さく嘆息した。
「……そうだね。判断できる材料はボク達にはない。まさしく、神のみぞ知るってやつかな」
そして、ティアはこちらから身を離し、再びぽつりと話し始める。
「さて、話を戻そうか。まぁ、孤児院にたどり着いてからの話は、以前にクラウが話した通り。優しい院長先生の下、やっとクラウは人のぬくもりや、思いやりの大事さを学ぶことが出来た。本来は過酷な村の環境に適応するために存在していたボクは、平和な孤児院ではお役御免……とはならなかった。クラウがいつもボクを気にかけてくれて、話しかけてくれて、周りの優しい人たちにも紹介してくれて……」
ティアはそこで一旦話を切って、嬉しそうに微笑を浮かべた。
「だから、ボクはクラウが好きなんだ。大切で誰よりも優しい、もう一人の私《ボク》……器用に見せかけて不器用で、一生懸命なクラウ……だから、ボクはクラウに幸せになって欲しいんだよ……クラウがボクを大切にしてくれたことで、ティアという人格は一時しのぎの人格でなく、明確な自我を持った。同時に、彼女の祈りとしての役目を、また別の形で背負うことになったのさ」
「……うん?」
「元々、ボクはクラウの祈りや願いが具現化した存在だ。それが故に、ある一つの特性を持っている……それは、クラウが思い描く理想の自分、それがボクに反映されているんだ。たとえば凄く強くなりたいってクラウが思ったら、その強さはボクに反映される。魔法が上手くなりたいと思えば、またボクに反映される……手前味噌かもしれないけれど、ボクの戦闘力の高さは、つまりはクラウが思い描く理想なんだ……もちろん、彼女の想像力の範囲と、肉体の限界までだけどね」
それならば、ティアの異常な強さにも納得がいく。瞬間的な爆発力ならADAMs、単純な火力ならソフィアの第七階層や二剣を持ったエルの方が上かもしれないが、個としての総合力なら自分たちの中でティアが一つ頭が抜けている強さがある。もちろん、彼女の言い分を鵜呑みにするのも滅茶苦茶ではあるのだが――要は妄想の範囲まで強くなるという事なのだから、そんなとんでもないことは普通は――。
「ふふ、あり得ないって思っているのかい?」
「まぁ、体現者が目の前にいるからな……滅茶苦茶だとは思うけれど、納得はするしかないだろう」
「……こんな話があった。子供向けのおとぎ話で、ニンジャというヒーローがいた。クラウはそれに憧れて、自分もそういうのが出来たらいいのにと願った」
「……その結果が、カンナギ流とかいうトンチキ体術だった訳か?」
「ふふ、その通り。でも、彼女の思い描くカッコいい流派だから、実態なんかお構いなしさ。それで、光線なんか出ちゃったりするわけだけど……まぁ、ボク自身が預かり知らぬ間に、カンナギ流とやらを使えるようになって、彼女の曖昧さを具体化して、彼女に伝授したと……そんなわけだね」
以前、クラウが忍者の技を知り合いから教えてもらったと言ってたはず。その相手はティアだった訳だが、そもそもその忍者の技自体が彼女の妄想の産物であったと――そう思うと、なんだか少しおかしくて噴き出してしまった。
「はは、そう言えばだが、この前教会を襲った魔族、まだあっちの方が忍者味があったな」
「あはは、そうなんだ……いや、襲撃されたことを笑うのもなんだけれども。しかしアラン君、前世の記憶に正しいニンジャの記憶はあるのかい?」
「いやぁ、どうだろうな。忍者なんて、俺の生きてる時代でも既に無くなっている職業で、おとぎ話の中で語られるだけの存在だったから……本当は隠密とか、スパイとか、そういう役割だったみたいだけどな」
「なるほど……それならボクより、アラン君の方がニンジャっぽいね」
「そうだなぁ……そうかも……」
そう曖昧に返事を返しながら、ティアが話していたことと実際にクラウを見ていて気付いたこととの差異が頭をよぎった。
「話は戻すが、アレだろ? ティアはクラウの理想……でも、クリエイターとしての技能は、クラウには無いよな?」
「うん、そうだね……まぁそこは、アガタの存在が大きかったのかもしれないね」
ティアは今度は、鬱蒼としげる林の方をぼんやりと見つめながら話を続ける。
「孤児院という暖かいゆりかごから、教会の総本山へと連れていかれ……院長先生の言いつけ通り、ボクは人前で姿を表すことは無くなった。でも、クラウにも本当は凄い力があって、どんどん頭角を表していく……そんな中で出会ったのが同期の天才、アガタ・ペトラルカだった」
そこで切り、ティアは意地の悪そうな笑顔でこちらを見た。
「アラン君から見たら、アガタはちょっときつそうな性格に見えたかもしれないけれど……」
「いや、お笑い側の人だろ、彼女は」
「あはは、そう、その通り……うん、誤解がない様で良かったね。ともかく、彼女もまた一生懸命で、真面目で、優しい子さ。同時に、クラウと同じだけの……いや、下手すればそれ以上の才覚があった……そうする中で、クラウは初めて他人を強く意識したんだよ。自分が優れている、劣っている、そういう比較対象が出来てしまったんだね。そしてそれが原因で、肉体を同一にするボクをも、クラウは比較対象にした。それは、どちらかと言えば悪い意味で……自分は全部、ティアには勝てないって。そして同時に、切磋琢磨できるアガタは、ライバルでもあるけれど、クラウにとって大事な存在だったんだ」
言葉を紡ぐたび、ティアの表情は段々と寂しげなものになっていく――口調は淡々としているが、それでも自分の大切な友達が、自分と比較して落ち込んでいること、同時に自分を卑下してしまっていることは、ティアにとっても哀しいことなのだろう。
「……要するに、クラウは自分の存在意義を探しているんだよ。自分にしか出来ないこと、自分にしか価値を出せないもの……それを一生懸命に模索している。ボクがクリエイターの技能を持たないのは、クラウがそれまで持つことをボクに望んでいないからさ。幼少のころから教会に入ってしばらくは、ボクはクラウの理想のままだった。そしてアガタと出会って、自己と他者を強く認識する中で、自分の役割を強く希求し始めた……こんな感じかな」
そう言われて、レヴァルの地下でクラウと二人きりになった時のことを思い出す。自分にしかできないこと、ティアやアガタにもできないこと――正確には、きっと自分だけの何かを、クラウは探しているのだろうと思われた。