B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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勇者の故郷

「……やぁアランさん、久しぶり」

「あぁ、久しぶり……相変わらずすかした顔をしているな、お前は」

「ははは、ご挨拶だね」

 

 あまりにさわやかにシンイチに挨拶されたせいで、なんとなく嫌味が出てしまったのだが、また華麗にかわされてしまった。

 

 部屋に通され、各々椅子に座り、改めてシンイチがこちらに視線を向けてきた。

 

「エルさんとクラウさんも、長旅お疲れ様……そうだ、ソフィアは?」

「ソフィアは……」

 

 今朝がたあったこととアレイスターに説明されたことをかいつまんでシンイチに説明する。話が終わるころには、シンイチは考え込むように視線を下ろしていた。

 

「……なるほどね」

「そうだ、シンイチ。お前に良い案は無いか?」

「ソフィアに関してかい?」

「あぁ」

 

 シンイチはかなり頭がいい。ソフィアと同じか、それ以上――いや、少し頭の良さのベクトルは違うか。ソフィアは論理的で、状況証拠などから真理にたどり着くタイプ。シンイチも近いことは出来るが、コイツは人の感情まで加味する――目に見えない部分すらも見透かして、本質を突くタイプだ。

 

 そんな彼に相談すれば、建設的な意見も出るかもと期待しての質問だったのだが――シンイチは少しの間考え込んで、小さく首を横に振った。

 

「一言で言えば、無い、かなぁ……」

「……そうか」

「いや、正確には……結局、着地点をどうしたいかによって取るべき行動は変わってくるってだけさ。目先のソフィアの気持ちを汲むのなら、それこそオーウェル邸に物申しに行けばいいかもしれない。でも、それでは根本的な解決にならないだろう?」

「あぁ、そうだな」

「だから、アランさんは困っているわけさ。何処に着地するのが正解か、分からないから。もっと踏み込んで言えば、正解なんてないのかもしれないね……あっちを立てればこっちが立たない。皆が長期的に幸せになるだなんてことは、中々あり得ないことだからさ……」

「……そうかもしれないな」

 

 そう言われて、今朝からずっと自分を覆っていた靄(もや)が晴れたような気持ちになった。今回の件は、何が正解か分からないから――もちろん、気分が晴れやかになったわけではないが、それでも少し気持ちの整理は出来た気がする。

 

 そうなれば、より良い答えとしては、結局ソフィアがどうしたいのかを知る必要があるように思う。最近、何がしたいかと聞いて、誰かを助けている人を支えたいとは言っていたが――それは抽象的すぎてソフィアの本音が読めないし、親との関係性についての結論ではないから、結局どうすればいいのかは分からないのだが。

 

「……強いてを言えば、人というものは共通の敵がある時だけ強く結束する。マリオンがソフィアをレヴァルに滞在させていたのは、もちろん軍で影響力を持つという実践的な課題があったにせよ、それ以上に人類の窮地に立ち向かううえで最善の策を考えたからだ。

 そうなれば、また何か強大な脅威が出て来れば、オーウェル親子も結束するかもしれないね」

 

 自分が考えをまとめている横で、シンイチが独り言のようにつぶやいた。そして、それに合わせるようにテレサが苦しそうな表情をしながら小さく腕を振ってシンイチの言葉を切った。

 

「止めてくださいよ、シンイチさん。その、ソフィアさんには申し訳ないかもしれませんが、せっかく魔王を討伐したばかりなのですから……」

「あぁ、そうだね。ごめんよテレサ……不謹慎だった」

 

 シンイチは自虐的に笑って後、すぐにいつものすかした笑顔になって顔を上げる。

 

「ともかく、アランさんたちもしばらくは王都に滞在するんだろう?」

「あぁ、そうだな。ソフィアの件もあるし、しばらくは王都に滞在しようと思っている」

「それなら、祝賀会にも一緒に参加してくれよ。知ってる人が多いほど、気まずい時間が減るだろうし」

 

 その気持ちはわかる。人が多く集まる場所では、コミュニケーション能力がモノをいう――気がする。あまり積極的に自分から人に話しかけに行くタイプでない場合、パーティーなどは結構居心地が悪いものになる――ような感じだったように思う。

 

 なので、知っている人とくっついておけば、なんとか気まずい時間を乗り越えやすくなるというのがシンイチの算段だろう。前世の記憶もないので自分が果たして気まずい思いをしてたかは分からないが、きっとそんな感じだったような気もする、きっと。

 

 とはいえ、祝賀会に参加したいかと言われれば、どちらかといえばノーだ。一応、魔王征伐の立役者といえども、自分は此度の戦役の後半にちょっと参加したくらいで知り合いも多くないし、貴族が集まる華やかな場所は居心地が悪そうだ。シンイチを困らせてやるのも面白いかもしれない――そう思っていると、テレサがポン、と笑顔で両手を叩いた。

 

「……そうだ! お義姉さま、クラウさん、祝賀会に参加するのに、ドレスを見繕っておきませんか!?」

「え、ドレス、ですか……?」

 

 こちらが参加するとも言っていないうちに、お姫様はすっかりその気になっているようだった。しかし、返事をしたクラウは苦笑いをしている。

 

「はい! 夜は王城で舞踏会がありますし、そこに参加するにはドレスコードがあるので……城の中にあるドレスをお貸しいたしますよ!」

「はぁ、ドレス……一回も着たことが無いので、ちゃんと着こなせるか不安ですねぇ」

「クラウさんはスタイルも良いですし、きっとどんなドレスも着こなせますよ!」

「そ、そうですか? うーん、そう言われると、ちょっと着てみたいような……」

 

 最初こそ乗り気でなさそうだったのに、テレサに乗せられたおかげか、クラウも満更ではなさそうになってきている。一方で、エルの方が露骨にイヤそうな顔をしていた。

 

「……私は、この前の一件で懲りたから、当分ドレスを着たくはないのだけれど……」

 

 なるほど、先日の結婚式の件を気にしているのか。確かに、動きにくそうにしていた――とはいえ、毎度ドレスを着ているタイミングで襲われるわけでもないだろう。そう突っ込もうと思ったが、テレサが何やら身振り手振りを一生懸命している事の方が気になった。

 

 そのオーバーな感じは自分には分からなかったが、どうやらクラウが何か察したらしく、テレサに向かって頷いて、そのままエルの方に向き直った。

 

「まぁまぁエルさん、実際に着るかは置いておいても、ひとまず見に行ってもいいんじゃないでしょうか?」

「……そうね。見るだけなら、ね」

 

 エルの返答を聞いて、テレサはほっと胸を撫でおろしたようだった。そして、女子三人が立ち上がり――そのタイミングで、自分にシンイチを説得してほしいと頼まれていたことを思い出す。ドレスを見に行くというのはそのための言い訳か。

 

「それでは、シンイチさん。私たちは少し席を外しますので……」

「あぁ、僕はアランさんとお話して待っていることにするよ」

 

 シンイチは出ていくテレサたちに手を振って、少ししてから大きく息を吐き出した。

 

「ふぅ……女の子は元気だね。普段から三人の女の子に囲まれてるんだから、先輩も大変なんじゃないかな?」

「先輩言うな……まぁ、みんな可愛いからな。役得くらいに思っているぞ」

「ははは、そうかい」

「……それに、そういうお前だって、隅にはおけないだろう?」

「……テレサに頼まれたのかい?」

 

 隅に置けない、その一言でここまで察するのだから、シンイチは流石だ。とは言っても、テレサに依頼されたことは最初から正直に言うつもりだった――どうせ、下手な隠し事が通じる相手でもないからだ。

 

「あぁ、この世界に残ってくれるよう、俺の方から提案してみてくれないかってな」

「あはは、それじゃあ先輩は残って欲しくないみたいだ」

「そんなことはないさ……」

 

 そう、自分だって残って欲しくないわけではない――帰らないほうが良いと思っている、がより正確か。

 

「……なぁ、シンイチ。あくまでも、仮にの話だが……お前の帰るべき世界が、もうないとするなら、どうする?」

「……唐突な質問だね。どういうことだい?」

「だから、あくまでも仮の話だ……そうだな、この世界に転移するのに何千年も経って、また帰るまでに何千年も経つとして……もう、自分の存在していた世界が無くなっているとか、少なくとも自分を知る人が一人も居なくなっていたとして、だ。それでもお前は、元の世界に帰りたいのか?」

「なるほど、そういう設定かい」

「あぁ、そういう設定だ……それで、どうだ?」

「そうだなぁ……」

 

 シンイチは腕を組みながら少し天井を見上げて考え始めた。だが、それも束の間、すぐに視線を下ろしていつもの笑顔を向けてくる。

 

「それでも、僕は帰ろうと思うよ」

「……どうしてだ?」

「そこに、僕が好きだった人が眠っていると思えば……かな」

「……なんだ、やっぱり隅に置けないじゃないか」

 

 こっちにはテレサ、そして故郷にも良い人が居るとなれば、コイツ中々のやり手である。とはいえ、確かにシンイチは目鼻立ちも整っているし、性格も穏やかなのだから、仮に正確は陰の者寄りであっても、それがむしろミステリアスさになってモテるのも頷ける。

 

「しかし、お前引きこもりがちだって言ってただろう? その癖に、ちゃっかりしてるところはちゃっかりしてたんだな」

「あはは、そんなことはないさ……ただの片思いだよ」

「へぇ、でも、その子はどんな相手なんだ?」

「そうだなぁ……」

 

 シンイチはそこで立ち上がり、再びテラスの方へと出た。それを追って自分も外に出て少年の隣に並ぶ――シンイチは何やら遠い空を見つめていた。

 

「真面目で、優しい子だ。でも、同時に中々面白い子でもある……ただ、体が弱くてね。僕が最後に見た時には入院をしていたんだ」

「なるほど……そういう子だから、側にいてあげたい……そんな感じか?」

「あはは、アランさん、それじゃあ前提が崩れているよ……アランさんが聞いたのは、その子が居ない世界であっても戻るのか、だろう?」

「あぁ、そうだったな……」

「確かに、アランさんが言うように、その子がいないのなら戻っても虚しいだけかもしれないね……しかし、それはあくまでも空想の話だろう?」

「それは、そうだが……」

 

 そう、実際には自分にだって根拠がある訳でもない。しかし、漠然としたモノだが、それでもなんとなくだが確信してしまっている――それに、そもそもシンイチが持っている記憶だって、本物ではないかもしれないのだ。

 

 もしかしたら、異世界から来たという勇者が人格の整合性を保つために、仮の記憶が埋め込まれているだけで――本当は、シンイチを取り巻いていた過去など、存在しないのかもしれない。

 

 もちろん、これが真実であったとして、そもそもこんな手の込んだことを七柱がやる意味も不明だ。最初から現地民の中から勇者を選定すれば良いだけの話なのだから。確かに異世界から来た、となると一定の神秘性があるようではあるが、わざわざこんな手の込んだ茶番にする意味があるかと言われれば疑問が残る。

 

 そう考えれば、自分がここまで考えたことなど、何の意味もないのかもしれない。べスターやゲンブが本当のことを言っているとも限らないのだ――シンイチは本当に異世界から召喚されて、そしてその使命を果たして帰る、それだけの可能性だってあるのだ。

 

「……アランさん、大丈夫かい? 神妙な表情をしているけれど」

「おっと……悪い、考え事をしていた」

「ともかく……もしアランさんがいう事が事実であったとしても……僕は帰ろうと思うよ。もちろん、テレサの好意に気付いていない訳じゃないし、それはありがたくも思うけれど……僕が居るべき場所はここじゃない、そう思うからさ」

 

 ここまで言い切られてしまえば、もうこの路線で引き止めるのは無理だろう。テレサには残念だが、自分は恋のキューピットにはなれなかった。まぁ、自分のような奴がキューピットというのも違う気もするし、そもそもここまでシンイチが強い想いを抱いているのなら、最初からつけ入る隙が無かったというだけの話でもあるのだが。

 

 もちろん、帰るべき世界があるのなら、シンイチが戻ること自体には賛成だ。とはいえ、まだその確証もないし、自分としてもシンイチに残ってほしい理由はある――今度はそちらから攻めてみることにするか。

 

「……こっからは本当の話だ。魔王城にゲンブってやつが居ただろう? 旅の道中で、そいつの仲間に襲われた」

「……穏かじゃないね。理由は?」

「アイツら、何故だかエルを狙ってるんだ……理由は分かるか?」

「いや、それは流石に、ちょっと分からないね……しかし、魔王並に厄介な奴が、まだこの世界に存在しているのは事実……そういうことだね?」

「あぁ、そういうことになる……もちろん、お前は魔王を倒すって理由で、この世界に連れて来られているのは分かっている。それに、アイツらの狙いが分からない以上、お前の力を借りるべきなのかどうかもだが……」

「……アランさんは、ゲンブたちと戦うつもりなのかい?」

 

 そう言われて、今更ながらに気付く。そもそも、自分はアイツらとことを構えるつもりだったのか――実践的な意味合いで言えば、べスターとは旧知のようだし、ゲンブたちと戦うのも少し違うのかもしれない。

 

 そして奴らが本質的に目の敵にしている七柱、確かにこいつらも胡散臭い連中だ。そう考えれば、ゲンブたちと手を組むべきなのかも――幸い、向こうは自分のことは歓迎してくれるだろう。

 

 しかし、現状では手を組めない理由はある。それをシンイチに伝えることにする。

 

「それは分からない。ただ、一つだけ言えるのは、エルを狙うのなら容赦はしない」

「……なるほどね」

 

 そう、奴らがエルを狙う限り、ゲンブ一行は自分の敵だ。同時に、七柱を違うと断ずるにも、まだ材料が集まり切っていないとも思う――ジャンヌの件やブラッドベリの言っていたことを考えれば、七柱は相当におぞましいことをしている。だからと言って、敵対行動を取っているゲンブたちと手を組むべきかといえば、それもまた違うはずなのだ。

 

 なんにしても、自分にはもっと情報が必要だろう。ゲンブとエルの養父を襲ったエルフが一緒に行動をしているのなら、捕らえて色々吐き出させれば一挙両得出来る――。

 

「先輩は、この世界を護りたいのかい?」

「……あん?」

 

 考え事をしている時に予想外の言葉がきたせいで、また変な声で返事をしてしまった。

 

「だってそうだろう。自分の記憶だってないのに、誰に頼まれたわけでもなく、暗躍している連中と戦うことを考えている……そうなると、先輩の行動原理は良く分からない。この世界を護りたい以外に、思い浮かばなくってね」

「そうだなぁ……」

 

 自分の行動原理か、そう言えば先ほど着地点の話をしたな――自分はどこを目指しているのか。そもそも、レムからの依頼はこの世界を見て回ること、七柱のやっていることを見定めて、この世界が正しいのか、間違っているのかを判断すること。ただ、それはあくまでも依頼であって、自分のやりたいことではない。

 

 シンイチと同じように、テラスからその世界を見やると、そこには美しい空と山々と、そして眼下に見える区画が綺麗に整理された街並みが目に入った。ハインライン辺境伯領で見た美しさとも、海都ジーノで見た美しさともまた違う、ソフィアの故郷――この世界は、何処に行っても心惹かれる風景があって、自分の胸を打つ。

 

 そうなれば、この世界を護りたいというのも嘘ではない。だけど、自分にできることはたかが知れている――この身一つでは、走って手を伸ばせる範囲など限られているのだから。そう思った時に、自分なりの答えが見えた。それは以前、魔王城でレムに告白した内容と変わらないものだったが、この旅を通じて改めて強固になったものでもある。

 

「俺は、この世界が好きだよ。でも、色々考えるのは、そうだなぁ……俺はあの子たちに、恩返しをしたいんだよ」

「……恩返し、かい?」

「あぁ……記憶がない状態で暗黒大陸をほっつき歩いているときに俺を救ってくれたエル、牢からすぐに出してくれて、冒険者の道を提示してくれただけじゃなく、一緒に行動してくれたソフィア、俺が大怪我したときにその傷を癒してくれたクラウディア……」

 

 三人の少女たちの名を呼んで、シンイチの方へと向き直る。彼はいつもの笑顔でこちらを見つめていた。

 

「だから、そんな世界を護りたいなんて、御大層な理由じゃないさ。ただ三人が、真っすぐに明日を生きられるように、手助けしたくってね」

「なるほどね……僕はアランさんが、そのうち刺されないか心配だよ」

「……あぁ? 誰にだ?」

「それは、自分で考えてみるんだね、先輩……まぁ、刺されたところで翌日にはピンピンしていそうだけれど、ははは」

 

 シンイチはテラスに腕を置きながら大きく笑った。そしてひとしきり終わった後、真剣な表情になる。

 

「それで……少し考えさせてくれないかい。元の世界に戻る気でいたから、この場で安易に返事をするのはちょっと、ね」

「あぁ、それでもかまわない。お前が居れば心強いからな、シンイチ」

「そう言ってもらえてありがたいけれど……でも、もう聖剣もないからね。戦力的に役に立つかどうか」

「おっとそうだったな。それなら帰ってくれて問題ないぞ?」

「あはは、そうやって僕の反骨心を煽る戦法かい?」

「ふぅ……クラウ辺りならムキになって乗ってきてくれるんだがな、お前はそう甘くはないか。だけど、お前の戦略眼や作戦が圧倒的に優れてるのは間違いない。とくにゲンブとやり合うなら、お前が居れば心強い」

「なるほど、僕は頭脳担当かい。まぁ、一生懸命走り回るより、疲れなさそうでいいかな……ともかく、前向きに検討しておくよ。僕もこの世界のことは……特別に思っているからさ」

 

 自分の救った世界なのだから、特別に思うのも自然だろう。しかし、シンイチが残ってくれるのなら二重の意味でありがたい。心強い味方なのも確かだし、戻る世界があるのか確認するまでの時間稼ぎも出来る。

 

 テレサの気持ちには添えた訳でもないが――その辺りは、テレサ本人の今後の頑張り次第だ。シンイチが一時でも残ってくれるなら、まだコイツをこの世界にずっと残す努力は出来るはずだからだ。

 

 一通り話が終わった後、ちょうど部屋の扉がノックされ、テレサたちが戻ってきた。テレサとエルが入ってきたが、クラウが中々入ってこない。

 

「……ほら、誰かさんに見せるんでしょう?」

 

 エルが腕を組みながら、扉の外に声を掛ける。すると、おずおずといった調子で、クラウが中に入ってきた。見繕ったドレスを着てきたのだろう、服装が違うのもそうだが、髪も綺麗にセットしてあり、いつもと結構雰囲気が違う。

 

「えと……どうです?」

 

 そう言いながら、クラウは恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見てくる。だが、正直に言えば、そこよりも強調した胸元にどうしても目が行ってしまう――肩も出ているセクシーなドレスの中央に位置する豊かな双丘から目を離せずにいると、クラウは庶民らしく手を振りながら笑い出した。

 

「ぷっ……あはは! まったくアラン君はスケベですねぇ……まぁ、美少女がこーんなセクシーな格好で来たら、そりゃじろじろ見ちゃうのも仕方ないですよね?」

 

 そう言いながら、クラウは腰に手を当てて胸を大きく突き出した。よくよく見れば、腰も細いし、テレサも言っていたようにクラウのスタイルの良さは凄い。

 

「あぁ、毎日一緒にいるのに、衣装一つでここまで雰囲気が変わるんだな……髪型も衣装にあってると思うし、いいんじゃないか?」

「なかなかお上手じゃないですか、アラン君……でも、素直に嬉しいです、ありがとうございます」

「しかし、ドレスを着るのは良いとして……お前、踊れるのか?」

 

 嬉しそうにスカートのすそを掴んでクルクルしていたクラウは、自分の言葉を聞いた瞬間にハッとした表情になった。

 

「……そう言えば、そこは全然考えてませんでした。アラン君は踊れるんです?」

「あのなぁ、俺が踊れるように見えるか?」

「そりゃ、アラン君が優雅に踊っている姿を想像するだけで若干気持ち悪いですけど……たまにアラン君、体が勝手に動いて妙な特技を披露しますからね。踊れるの可能性もゼロではないかと思って」

「お前は俺を何だと思ってるんだ……安心しろ、今回は見た目通りだ」

「ふふ、それじゃあ舞踏会では、私と一緒に後ろでお茶でも飲んでましょうか」

「あぁ、そうだなぁ……宮殿の真ん中で踊るなんて柄じゃないしな」

 

 後方で腕組待機で良いだろう。そう思っていると、エルが壁際で本物の後方腕組待機をしながらこちらに笑いかけてくる。

 

「……何ならエスコートしてあげてもいいわよ?」

「いやいや、いいって……というか、エルはドレスを見繕わないのか?」

「もう見繕ってきたわ。わざわざここに着てこなかっただけよ」

「なるほどなぁ。エルは貴族の出だし、やっぱり踊れるのか?」

「えぇ、そうね……でも、当日は躍る気はないわ。私もあまり人前に出るのは好きではないしね」

「そうかぁ。まぁ、それもエルらしいな」

 

 そうエルに返答すると、後ろからシンイチの笑い声が聞こえてくる。

 

「あはは、アランさん、本当に気を付けたほうが良いよ?」

「だから、何にだよ……」

 

 その後、シンイチの滞在している部屋を後にし、クラウのドレスを返しにいくがてらにテレサにシンイチが残ってくれるかもしれないことを報告すると、テレサは嬉しそうに笑って後、またビックリするくらい大きくお辞儀をしてきたのだった。

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