B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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通称アラン・スミスと呼ばれる男の身元調査結果

「僭越ながら、君に興味があってね……僕の方でも、勝手に調査させてもらった。その調査結果が、先ほどの魔術で君に渡したそれだ」

 

 学長にそう言われて、初めて渡された資料に目を落とす――何枚かある資料は右下にページが振られており、真ん中には資料の番号である二三〇〇五と、以下の文字が見えた。

 

 通称アラン・スミスと呼ばれる男の身元調査結果。

 

「……君は記憶喪失の状態で、レヴァル海岸に打ち付けられていたと……しかし、暗黒大陸に流れ着いた時には、航海士の服を着ていた。そのことから、ソフィア君は君をセントセレス号の船員であったのではないかと推察したわけだ」

「しかし学長、私は難破したセントセレス号で船員名簿を見ましたが、アランさんの名前は……」

「そう、無かった。しかし、アラン・スミスという名前が本当の名前だという確証は? 無いだろう。もしかしたら、知人の名前だったのかもしれないし、なにせ名無しの権兵衛君だ。記憶が曖昧な当時のアラン君の脳裏にたまたまその名が浮かんだだけかもしれない。

 だから本当は、アラン・スミスと自称する何者かは、ソフィア君の推察通りにセントセレス号に乗っていたのかもしれないと思ってね。それで、船員名簿から、君の身体的特徴に合致するものがいないか調査してみたのさ」

 

 言われるがままに紙をめくる――歯車が回る音が妙にうるさく聞こえだす――そこに記載されている名前はジョン・ドゥ――髪の色や背丈格好は、確かに自分のものと合致する。

 

「……ジョン・ドゥ、その彼の経歴もなかなか面白くてね。調査を進めてみると、実はそれも仮名であると判明した。本当の名はジャド・リッチーといい、一匹狼の暗殺者であるということが分かった」

 

 もう一枚、紙をめくる――がち、がちと歯車の回る音が響く――リッチーの最後の依頼人は、セントセレス号の上級航海士の妻。浮気相手と再婚したいがために、家を空けがちな旦那を殺して財産を受け取り、そのまま未亡人となろうとしていたことの証言はすでに取れているらしい。

 

「……つまり、リッチーは自分の仕事のため、連絡船セントセレス号に航海士と偽って乗っていた。依頼は達したのか達さなかったのかは不明だが、レヴァルに向かう途中で魔獣に船が襲われて、リッチーは海へと投げ出され……そして海を漂流する間の酸欠か何かの要因から記憶を失って、レヴァル海岸へとたどり着いた。

 暗殺者は、自身の身分を隠すため、また世間に溶け込むために仮の顔を何個か用意していると言うね。そのうちの一つの名前がアラン・スミスだったんじゃあないかな?」

 

 もし、もしこの報告書が正しいとするのならば――確かに辻褄があうことは何点かある。自分が航海士の服を着ていたこと、暗黒大陸に流れ着いたこと、そして、自分が一匹狼の暗殺者であったとするなら、ある程度の索敵能力や短剣の扱い、投擲能力などがあってもおかしくはない。

 

 ふと、レヴァルの武器屋でエルに言われたことを思い出す。

 

『……私はアナタのこと、暗殺者だと思ったのよ。記憶喪失は本当だとしても……もしかしたら、船の中にアナタの標的がいて、航海士に偽装して潜り込んでいたんじゃないかしら?』

 

 そう、この報告書は、エルの推測がまるまる当てはまるのだ。

 

 だが、それではまだ、この報告書を信じるだけの根拠にはならないはず――自分は実際に女神レムの声を聞いていたのだ。彼女は龍を討伐した後に、自分の手に文字を刻んで見せたし、また彼女の声が聞こえるというアガタだって、自分をレムが転生させたことを理解している。それに、自分の前世を知るべスターだって、ADAMsだって、確かに存在するはずなのだから。

 

 だが、妙に口が乾く――何かおぞましい真実の一部が、この報告書には隠されてるている気がする。歯車の音がうるさい――定まらない視界の中、隣で誰かが立ち上がった気配がした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。それは学長の推測ですよね?」

「あぁ、その通り。別に事実とは限らない……だけどね、一個だけ確実なことは存在する。それは、アラン・スミスと名乗る男が、今この場に確かに存在しているということだ。

 魔術で造られた物体は、元の世界へと還る……質量保存の法則に則ってね。そう考えれば、必ず彼のルーツはあるのさ。無から有を生み出すのは、七柱にすら不可能なのだから」

 

 無から有を生み出すことは、七柱にすら不可能。つまり、何もない状態からレムが自分を転生させることはできないということか? 実際に、先ほど魔術で消えた石を見た――対する自分の体は、いつまでも消えない。

 

「……もし無から彼が唐突に生まれ出でたとするのなら、それはこの世界の創造神の力さえ凌駕した、何物かが作用したことになる。それこそ主神が? 馬鹿ぁ言っちゃあいけないよ、彼らは僕たちに対して原則として不干渉なんだからさ……。

 そうなれば、君は一体全体何処から来たんだい、アラン・スミス」

 

 名前を呼ばれて、俯いていた自分の顔が自然と上がる。そこには、時計の反対側から差し込む逆光で影になっている老人の、怪しく蠢き光る灰色の瞳があった。そして、口角が上がり――老人のわりに綺麗に生えそろっている白い歯が、こちらをあざ笑っているかのように見えた。

 

「僕ぁね、単純に、魔王征伐に急遽現れた正体不明の男の真実を知りたかっただけ……そして、それらしい結論は一応得た。だから満足しているよ」

 

 そして学長は終わり、と言わんばかりに手をポンと叩いて見せた。

 

 対する自分は、思考がぐるぐると回っている――自分は女神レムに蘇らされた、旧世界の何者か、それがクローンであってもいいと、そう思っていた。

 

 しかし、この話は相当に荒唐無稽だ。もちろん、先ほど考えたように、自分とレム、また旧世界との繋がりを指し示す証拠もあるのは確か。一方で、無から有は生み出せず、自分がレヴァルにたどり着いたことはエルの推測に当てはまり、そして船にいた自分らしき人物は自分が自然と出来た技術を持っていても不思議ではない。

 

 いや、自分はレムに蘇らせられたんだ――そう思っても、あの夕暮れに沈むセントセレス号の甲板が思い出される。あの時感じた既視感は、自分がジャド・リッチーである証左なのではないか? 女神の声が聞こえるのも、べスターの声が聞こえるのも全て妄想で、自分は一介の暗殺者であった可能性もあるのだ。

 

 がち、がちと、歯車の回る音が自分の思考をかき乱す。仮に自分が本当は暗殺者であったとするのなら――決死の想いで、隣に座るソフィアを見ようとする。ダメだ、膝から上を、顔を見ることは出来ない――彼女は今、自分を蔑んだ目で見ているかもしれない。自分が人殺しであるとするのなら、もう彼女と共に歩む権利など無いのかもしれないのだから。

 

「……仮に俺がジャド・リッチーだったとして、そうしたら捕まるのか……?」

「いいやぁ、先ほども言ったように、君が確実にジャド・リッチーだと立証するのは不可能だ。それに、仮に君がリッチーだったとしても、世界を救ってくれた立役者を裁判にかけるなんてとんでもない……恩赦の一つでも下るさ。あくまで、もしかしたら君の正体はその人かもしれない、という可能性を伝えたかっただけだよ。

 さぁ、僕からの要件は以上だ。もう下がっていいよ。僕は研究が忙しいからね……そうだ、帰りの駄賃に飴ちゃんはいるかい?」

 

 そういう学長は、変わらず口元に笑みを浮かべて、飴を一つ差し出している。

 

「いや、遠慮するよ……」

「そうかい? 美味しいのに……それじゃあ、お疲れ様アラン君、もう二度と会うことはないだろうけど……ついでに、夜にディック君にここに来るように伝えておいてくれるとありがたい」

 

 本の奥から手を振られ、自分とソフィアは学長の研究室を後にした。

 

 エレベーターに戻っても、自分はソフィアの顔を見ることは出来なかった。それどころか、自分を支えていたアイデンティティが改めて崩壊したような心地になり――階下へのボタンを押す気力すら失せてしまっていた。

 

「……アランさん、私の研究室に行こう?」

 

 そういうソフィアの腕には、先ほど自分がいつの間にか手放していた資料が抱えられていた。これについて、詳しく聞きたいということかもしれない――情けなくも若干逃げ出したい気持ちもあったが、それ以上に不安が渦巻いており、断る気力も沸かず――気が付けば手を引かれるまま、ある一室へとたどり着いていた。

 

 そこは、他の教授たちの部屋と違い、伽藍とした部屋だった。奥に大きな机があり、横には本棚が並んでいるが、どこにも本は無い――使われていない研究室なのだろう。

 

「……アランさん、ソファーに座って?」

「……あぁ」

 

 言われるがまま、中央にある来客用のソファーに腰かける。埃が少し上がり、鼻孔を刺す――だが、それもすぐになくなった。自分の顔が何者かにすっぽりと覆われたからだ。

 

「……ソフィア?」

「大丈夫だよ、アランさんはアランさんだから」

 

 そう言いながら、ソフィアは自分の頭を撫でてくれている――そのおかげか、少しだけ安心できた。この子は、まだ自分のことを信じてくれているのだと、それだけは伝わってきたから。

 

「報告書に書かれていることは、アランさんのことじゃないよ。ジャド・リッチーって人が居た、までは本当なだけ。

 アランさんは女神レムに異世界から呼び出されて、この世界を見て周る様にお願いされたんだよ。だって、この世界に無いシンイチさんと同じ知識を持ってたんだから……ここではないどこかから来たのは、間違いないはずなんだ」

 

 そのシンイチが持っている知識だって、七柱に植え付けられただけのものかもしれない。人格が破綻しないように、自分が居た世界と時代の備え付けられた知識――そうだ、自分の知識だって同じかもしれない。仮に自分がレムに蘇らされたのが事実だとしても、前世の倫理観や知識が本物という確証はない。

 

 そう思い始めると、再び先ほどの不安が舞い戻ってきてしまう。自分を形成したと思っていたものの何もかもが嘘かもしれないのであるならば、まだジャド・リッチーが記憶を失ってここに居るという方が現実的な考えだからだ。

 

「なぁ、ソフィア。もし、もしもだ……転生してきたなんて俺の妄想で、本当の俺はジャド・リッチーという名の暗殺者だとするなら……どうする?」

「うーん……呼び方だけは変えるかな? そっちが本名になる訳だもんね」

「そんな、呑気な……」

「うぅん、呑気じゃないよ。私が見てきたアランさんは、無為に人を殺す様な人じゃない。……仮にアナタがジャド・リッチーであったとしても、きっと本性は変わらないんだから」

 

 少女は自分の髪を撫でながら、ゆっくりと――優しい声で話し続ける。

 

「私にとっては、私が見てきたアランさんが全部なんだよ。誰かのために一生懸命で、私を……うぅん、私やエルさん、クラウさんのことを何度も護ってきてくれた、優しくて強い人……それが、私にとってのアランさんなんだ。

 それに、ジャンヌさんのこと……アランさんは一度は敵対した人を助けるために、躊躇なく自分も飛び込んで見せた。それは、一つでも多くの魂を救うため……そんな、優しい人なんだから」

 

 そう言われて、なんだか少し救われた。仮に自分が元々暗殺者であっても、自分の性根は悪いものでない――少女にそう肯定されたのだから。

 

 それにしても、なんだか段々とボーっとしてくる。ソフィアが子供をあやす様にしてくれているのが心地いいのか、それとも少女の胸の鼓動が、自分に安心感を与えてくれているのか――。

 

「……正直に言えば、アランさんが異世界から来たって聞いた時、私はすごく嬉しかったんだ。シンイチさんと一緒にいられなくなった私に、もう一度チャンスが来たんだって思って……。

 でも、もうそんなことはいいの。仮にアナタが本当はこの世界の人であっても……アナタが何者であっても、私はアランさんのことを尊敬していて……とっても大切に思っているから」

 

 そこで今一度、ソフィアに頭を強く抱きしめられる。しかしこれは、想像していたよりも――。

 

「……柔らかい」

「ふふ、アランさんはお胸が好きだもんね?」

 

 顔を耳ごと抑えられている関係で、その嬉しそうな声は少女の腕と胸を伝ってこちらに聞こえてくる。心なしか鼓動も少し早くなったようだ。

 

「……私、どんどん大きくなってるんだよ? エルさんとクラウさんと並べるかは分からないけど……すぐに大人になるんだから」 

「……そうだな……ソフィア、ありがとう……ふぁ……」

 

 先ほどまでの疲労感にプラスして、今の状況の安心感が加わったせいなのか、妙に眠くなってきてしまった。

 

「少し眠る?」

「そうしようかな……ひと眠りしたら、思考もすっきりするかもしれないし」

「うん、それじゃあアランさんは横になってて! 私、毛布を取ってくるから!」

「あぁ……頼むよソフィア」

 

 少女はゆっくりと体を放すと、自分の上半身をソファーに横にしてくれる。そして扉が閉まった音が聞こえて少しすると、いつの間にか意識が落ちていた。

 

 ◆

 

 毛布を取って部屋に戻ると、彼はソファーの上で寝息を立てていた。しかし、表情が固いような気がする――何か悪い夢でも見ているのかもしれない。

 

 何か自分にできることはないか、そう思ったが、すぐにやるべきことが思い浮かんだ。というより、自分がやりたいという方が正しいのかもしれないが――でもきっと、硬いソファーで横になっているよりは良いだろう。

 

 彼の体に毛布を掛け、ソファーの上に空いている隙間にそっと座り、頭を自分の膝の上に乗せる。そして、彼のおでこから頭をそっと撫で続ける――良かった、少し表情も柔らかくなったようだった。

 

 先ほどの学長の話を思い返す。実際に、アラン・スミスは彼自身が言っていたように女神によって転生したのか、それともジャド・リッチーという名の暗殺者が記憶を失っているだけなのか。

 

 もちろん、ジャド・リッチーの報告も無視することは出来ないように思う。アラン・スミスが現れたこととの因果関係は、ジャド・リッチーという存在がいることで、綺麗に筋道が立つように思われるからだ。

 

 とはいえ、一介の暗殺者としては、アラン・スミスはあまりにも出来すぎるのもまた事実。彼の索敵、隠密スキルは一般的なレベルを遥かに凌駕しているし、それなら要注意の暗殺者として、軍にマークされていてもおかしくはない。

 

 何より、シンイチと共通の知識を持っていることと、ADAMsという謎の力を扱うことを考えれば、やはりこの世界の人間でないと思う事の方がしっくりくる。もちろん、さっき彼に言ったことは嘘偽りない本心――仮にアナタが暗殺者であったとしても、アナタに対する信頼は揺るぎない。

 

 それよりも――。

 

「……私はね、アランさん。アナタが何者かであるよりも……アナタが遥か遠い所に行ってしまう事の方が心配だよ……」

 

 アラン・スミスは自分たちに何かを隠している。それは、この世界の裏に存在する、おぞましい何か――それをあまりに突き詰めると、きっとジャンヌの様に記憶を改竄され、解脱症に罹って自分が自分でなくなる、だから彼は自分たちに話せない何かを背負いこんでいるのだ。

 

 一人で悩んで、一人で傷ついて、一人で抱え込んで――いつか、自分の前から消えてしまう、そんな焦燥感。彼の正体が何者かであるより、彼が抱えている何かと、その先に待ち構えている未来の方が、自分にとっては余程怖いのだ。

 

「……でも、今は……」

 

 自分の手の中にいる。その事実が、不謹慎と分かっていても自分を高揚させる。強くて、迷いのないはずの彼がふと見せた弱さが、自分を狂わせる。

 

 あぁ、やっぱりこの人を一人にしちゃいけないんだ。私が支えなきゃいけないんだ――と。尊敬する気持ちと同時に、庇護欲があふれ出て止まらない。

 

 同時に、仲間の二人に対する優越感が出てしまったのも事実だ。弱った彼を知っているのは自分だけだと。元々、自分は子ども扱いされていて、異性として見られていないのは自覚していた。それ故、自分は二番でも、三番でもいいと思っていた――ただ、この人の側にさえいられれば、それでいいと。

 

 しかし、今日のことで独占欲が出てきたのもまた事実。二人とも大切な仲間ではあるけれど、彼のことに対しては明確にライバルでもある。そしてそんな中で自分だけが見た彼の顔がある。

 

 そこまで考えて、ハッとなって首を横に振る。大切なのはそこじゃない――自分の気持ちよりも優先すべきことがあるはず。それは、この人を支えなきゃいけないという事。彼が自分のことをどう思ってくれるのかは、二の次で良いのだ。

 

「……ダメだな、私は悪い子だ……でも……今だけは……」

 

 今だけは、私の手の中で――彼の額を撫でて額を出し、そっと自分の唇を近づける。大丈夫、起きないから――そのまま額に口づけしてから顔を離し、気持ちよさそうに寝ている彼の顔をじっと見つめる。

 

「アランさん、アナタは私に、もう一度生きる意味を与えてくれました……アナタは、私の……私だけの勇者様なんです。ですから……ソフィア・オーウェルはアナタを支えるために生きます。生きさせてください……」

 

 そう思えば、もう迷うことなどない。覚悟は決まった。もちろん、優しいこの人のことだ、自分の決断をそのまま伝えると心配させてしまうだろう。だから、上手くやらないといけない――彼らが出立する前に、上手いことを考えなければ――。

 

 ◆

 

 目が覚めたはずなのに、視界が暗かった。そんなに寝てしまったのか――しかし、ソファーで寝ていたのに、自分の左耳にはなかなか弾力のある何かがある。

 

「……アランさん、起きた?」

 

 優しい声が右耳の真上から聞こえてきて、事態を察する。首を曲げて上を向くと、案の定ソフィアの顔がそこにあった。

 

「えぇっと……おはよう?」

「うん、おはよう! ごめんね、寝苦しそうにしてたから、枕があるといいかなって……勝手に膝枕しちゃった、えへへ」

 

 そう言いながら、ソフィアは悪戯っぽく笑った。起きがけに天使がいたこととひと眠りしたおかげか、先ほどの悩みも結構どうでもよくなった。どうせそのうち、レムの声が聞こえるかもしれないし――べスターでもいい、ともかく奴らに事情をちゃんと聞けばいいのだ。

 

 それに、仮にあれらの声が自分の妄想であっても、自分がやるべきことはそう変わらないはずだ。ゲンブたちからエルを護り、ソフィアとクラウが生きる世界が良い物なのか、七柱がやっていることを解明する――それだけなのだから。

 

「いや、おかげでぐっすり寝れた……気分も良くなったよ、ありがとうソフィア」

「いえいえ、こちらこそごちそうさまでした」

「お、おぅ……? ちなみに、どれくらい寝てたんだ……?」

 

 上半身を起こして周りを見ると、まだ窓の外は明るい。とはいえ、時計が無い部屋なので、時間がどれくらいかは分からない。

 

「んーと、多分そんなに経ってないよ……一時間くらいかな?」

「一時間も!? そんなに膝枕してたんじゃ、足も痺れただろう……大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ! むしろ、もっと寝てても良かったくらい?」

「ともかく、ソフィアには結構情けない所を見せちゃったな……心配もさせたし、なんかお礼をしないと」

「そんな、好きでやったことだから全然いいんだけれど……」

 

 ソフィアは口元に指をあてて少し考えた後、パッと笑顔になって両手を合わせた。

 

「そうだ、それじゃあ一個お返しをしてほしいな!」

「お、なんだ、俺にできることならするぞ?」

「うん、あのね……外で祝賀会の前夜祭をしているでしょ? それを一緒に周って欲しいんだ」

「なんだ、そんなことで良いのか? それは楽しそうだし、俺にとってもご褒美になっちゃうなぁ」

「アランさんが楽しいなら一石二鳥だよ!」

 

 そう言いながら、ソフィアは立ち上がり、来客用の低いテーブルに置かれていた資料を持って立ち上がり、勉強机の方の引き出しの中にそれを仕舞った。

 

「あの資料、いいのか?」

「うん、ここに置いて行こう? 多分、エルさんたちに見せても混乱するだけだろうし……」

「まぁ、そうだな。ソフィアの言う通りだ……それじゃあ、行こうか」

「うん!」

 

 自分に掛けられていた毛布を丸め、ソフィアの背を負いながら部屋を出た。その後、同じ階にあるアレイスターに学長が呼んでいた旨を伝え、備品室に毛布を戻して学院を後にした。

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