B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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ソフィア・オーウェルと不良行為

 学院の敷地を出ると、すぐに人だかりに巻き込まれた。ソフィアは自分とはぐれない様にするためか、こちらへぴったりくっついて来ている。

 

「さて、お祭りに参加したいって言っても、何か特別にやりたいこととかはあるのか?」

「うーん……特にないかなぁ。こうやって、親しい人と、わぁって一緒に周れれば満足というか……」

 

 この子は学院を出るまでは、同世代の友達もおらずに缶詰めで勉強をしていた訳で――それでも普通なら親とこういった催しに参加してもおかしくないのだが、この子の両親の場合はそれも望めなかったのだろう。ともなれば、確かにソフィアはお祭りに参加するだけで満足なのかもしれない。

 

 しかし、せっかく参加するのなら、より楽しめるほうが良いだろう。この子はお菓子が好きだから――。

 

「……よし、色々と露店のお菓子を買い食いしてみるか?」

「えぇっと、買い食いって何……?」

 

 なるほど、不良行為とは無縁の子なのだから、買い食いという言葉を知らなくてもおかしくはない。純粋無垢な子に悪い遊びを教えるのは何だが、それはそれでイケナイことをしているようで、自分としては背徳的な遊びができる――いや、お菓子を食べるだけだが。

 

「買い食いっていうのはだな、学校の帰りなどに、食べ物を買ってその場で食べちゃうことのことだ」

「わぁ……楽しそうだね!」

「よし、露店を制覇するつもりでいくぞ!」

「あはは、それはちょっと難しいかもだけど……でも、私頑張るね!」

 

 ソフィアは笑った後に両手をぐっと握って、気合を入れた表情になった。

 

 その後、露店にあるお菓子を買って食べて周った。制覇するのは冗談にしても、なるべく色々食べられるように、分けて食べられるものは二人で分け合いながら食べ歩いた。とくにソフィアが一番気に入ったらしいのはクレープで、トッピングを決めるのに数分悩むほど露店の前でうんうんと悩み、一口食べた時には感動して表情がとろけていたほどだ。

 

 ともあれ、結局五種類も食べたら限界が近くなり、ジュースを片手に噴水の縁石の上で休むことになった。

 

「ふぅ、おなか一杯……でも、制覇は全然できなかったね……」

「ははは、まぁまだ時間もあるから、あとで余裕が出来たらまた買って周ったっていいし……それに、結局こういうのは、同じお菓子のお店が何個もあったりするから、五種類も食べたら大体制覇って言っていいと思うぞ」

「うん、まだまだ時間はあるもんね!」

「あぁ、そうだな」

 

 自分の方から言葉を切って、噴水を取り巻く広場の方をぼぅっと見てみる。この世界の人々は暗い顔をしていることが多い印象だったが、流石に祭りともなれば、行き交う人々の表情は明るい。

 

「……皆楽しそうだな」

「うん、そうだね……でも、これもレヴァルに居た皆が頑張ってくれたから……アランさんが頑張ってくれたから。みんなこうして笑顔でいるんだよ」

 

 横を見ると、この広場で一番明るい笑顔をしている少女の顔があった。その視線があまりに真っすぐで照れくさくなり、自分はまた広場の方へと視線を逃がす。

 

「いやぁ……言っても俺は最後の一か月間だけ参加したくらいだ。ソフィアやシンイチの頑張りには及ばないよ」

「時間に換算すればそうかもしれないけれど……アランさんがいなかったら、今回の魔王征伐は人類が負けていたかもしれない。そう考えれば、アランさんはシンイチさんと並んで、英雄って言っていいと思うけど」

「あはは、止めてくれよ、そんな英雄なんて柄じゃないしさ」

「そんなことはないと思うけど……」

 

 ソフィアは考え込むように少し視線を上げ、しかしすぐにじっ、とこちらを見つめてくる。

 

「……確かに私としては、アランさんはあまり有名にならないほうが良いかな。皆のアランさんになったら、寂しいもん」

「お、おぉ……?」

 

 ソフィアがあまりに艶っぽい目で真っすぐに見つめてくるので、こちらとしても少々どぎまぎしてしまう――いかん、このまま行けば事案だ。衛兵さんこちらです案件だ。というか、今だって実は周囲から変な目で見られているのではないか。よくよく周りを見てみると、チラチラとこちらを伺っている連中は確かにいる。

 

 その連中に対して心の中で違うんですと言いかけたが、止めておくことにした。ともかく、今は危ない奴のレッテルを張られてでも、祭りを知らない少女に楽しみを教えなければならないのだ。自分の使命に心を奮起し視線を戻すと、ソフィアは少し俯き、何やら真剣に考え事をしているようだった。

 

「……ねぇ、アランさん。ジャンヌさんはどうして、私たちが突き止めるまで魔族の側についていることがバレなかったんだろう?」

「そりゃ、上手くやってたからだと思うが……」

「うぅん、人は欺けても神様は見ているから、ジャンヌさんはきっと特別なことをしてたんだと思うんだけど……アランさんはジャンヌさんが何をしていたか、聞いてないかな?」

 

 尋ねてくるソフィアの表情は真剣そのものだ。それならば、なんとか彼女の期待に応えられるようにと、記憶をほじくり返してみる。

 

「……そう言えば、レムが何か言ってたな。二重思考《ダブルシンク》だとか……」

「それ、詳しく教えてほしい!」

 

 口にしてしまっておいてなんだが、これをソフィアに伝えてしまって良いものか――ようは七柱を欺くための手法な訳で、これを伝えるのはソフィアを危険にさらしてしまう恐れがある。

 

 ともあれ、かなり食い気味にこちらに顔を近づけているのを見ると、今更知りませんとも言いにくい。声は聞こえなくなっているものの、自分のことはレムが常に見ているはずだから、言ったらまずいことならレムが止めるだろう――そう思い、覚えている範囲のことを伝えてみることにする。

 

「えぇっと……少し聞きかじっただけだから、ちゃんとは覚えてないが……矛盾する事柄でも同時に考える、だったか。あのレヴァルの地下で、レムの眼が届かないとき以外は、きちんとルーナ神を信仰をしているように自分すら欺いてたとか、そんな感じかな」

「なるほど……」

 

 レムの邪魔が入らなかったということは、言って問題が無かったという事か。ともかく、ソフィアは正面に向きなおり、顔を俯けながらしばらく沈黙を続け――そしてこちらに向きなおってケロっと笑った。

 

「……すっごい大変そう、私には出来ないかなぁ」

「そうか? なんかソフィアなら出来ちゃいそうだが……まぁ、普通は難しいよなぁ。俺なんかは絶対に無理だ」

「あはは、うん、アランさんには絶対に無理だと思う」

「お、言ったなぁ?」

「うん。だって、アランさんは純粋で、真っすぐだもん。矛盾する事柄を抱え込むなんて、出来ないと思う」

「俺はそんなんじゃないと思うが……結構ひねくれてるぞ? 俺から見たら、ソフィアの方が純粋で真っすぐだ」

「そんなことないよ。私は結構悪い子なんだから……」

 

 ここで、いいや俺の方が、とか言い出すといつもの問答になってしまう。まぁ、それも悪くないのかもしれないが――ソフィアとはなんやかんやで水掛け論をする仲、これがこの世界に来てからのお決まりになっているのだから。

 

「ま、純粋で真っすぐなだけじゃ窮屈だからな。息抜きもちょっと悪いことも必要さ。それこそ、買い食いとかな」

「買い食いって悪いことなの?」

「あぁ、俺の知識じゃ、やる奴は悪い子ってことになっているな……自分でやってたかは覚えてないが、まぁ多分やってただろうと思う」

「そっかぁ……うん、それならもっと悪いことしないと!」

「いや、率先して悪いことするのはまた違うかもしれないが……しかし、買い食い以外のことをしてもいいかもな。周っているうちに、何か興味のある屋台とかなかったか?」

「そうだなぁ……」

 

 ソフィアは視線をキョロキョロと動かし、気になる屋台を探し始めたようだ。何なら投擲の屋台とかあったら、商品総なめにしてやるなどくだらないことを考えている横で、ソフィアが首を動かすのを止め、一点先を見つめ始める。

 

「……アランさん、あれ……」

「うん……?」

 

 ソフィアが指さす先には、ソフィアと年齢の近そうな一人の少女が居た。その子は、周りの景色からあまりに浮いた存在で――白に近い銀の髪に、ヒラヒラのフリルのたくさんついた黒い服に身を包んでいる。周囲を不安そうにきょろきょろと見ていることから察するに、アレは迷子か。

 

 そう言えば先日、迷子を救うのにクラウが迷子になっていたっけ――ともかく、そんな深入りせずに、祭りの管理委員だとか、それこそ軍の詰め所などの適当な場所に連れていくくらいはしてもいいかもしれない。

 

 しかし冷静に考えれば、これ以上に少女の連れ合いを増やすと、あれな危険度が加速度的に上昇するのでは――というかそもそも、誰か知り合いを探しているだけかもしれない。祭りに参加しているのなら、この街の子でもおかしくはないな――などと考えているうちに、ソフィアがぽつりと呟く。

 

「……誰かとはぐれたのかな?」

「あぁ、そうかもな……でも、この街の子なら大丈夫じゃないか?」

「うーん……でも、あの身なりだと身分も高いかもしれないから、商業区は馴染みが無いのかもしれないし、祭りに参加するために他所から来た子かもしれないよ」

 

 確かに、そういう考え方もあるか。それなら、先ほど考えたように迷子を解消できそうな場所まで案内してあげてもいいかもしれない――そう思っていると、暫定迷子のその子とバッチリ目があった。そして、少し表情を明るくし、少女はこちらへと近づいてくる。

 

「……あの、アナタ……私とどこかで会ったこと、ない?」

 

 日の光を遮るように自分の前に立った少女は、髪を明かりに輝かせながらじっとこちらを見つめていた。

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