B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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両手に花

 少女の質問に、こちらとしては唖然としてしまった。何かの悪徳商法のような切り口で警戒してしまったのが最初だが――それ以上に、先ほど時計塔であったことを思い出して若干気分が悪くなってしまった。もし自分がジャド・リッチーであるとするのなら、今の自分には記憶がなくとも、実はこの子に会ったことがあるのかもしれないからだ。

 

「……どうしたの? 渋い顔してる」

「いや、すまん、こっちの事情だ……それでこちらとしては覚えが無いんだが……もしかすると会ったことがあるのかもしれない」

 

 自分の返答に、少女はキョトンとして首をかしげた。それもそうだろう、自分だってこんな返答をされたら、コイツは正気かと疑いにかかるに違いない。

 

「こう見えて、俺は記憶喪失なんだ。だから、どこかで会ったことがあるのかもしれないが……肝心の記憶が無くってね」

「そう……それは大変」

「いやぁ、慣れたもんさ。それで、そういう君は誰かを探しているのかい?」

 

 先ほどの推察していたことを口にすると、少女は小さく頷いた。

 

「半分はそう。正確に言えば、待ち合わせをしている……その場所が分からなくって」

「なるほど、その待ち合わせ場所はどこだ?」

「聖王像がある場所。そこで、知り合いと落ち合う予定……でも、王都に来るのは初めてで、迷ってた」

 

 なるほど、他所のこというソフィアの推察は当たっていたわけだ。

 

「ソフィア、場所は分かるか?」

「うん、分かるよ! 私とアランさんで案内するね……私はソフィア、アナタは?」

「私はセブンス……そう呼ばれている」

 

 そう呼ばれている、という少女の表現が格好良くて吹きかけてしまった。冷静に見れば、この子のファッションや額につけているサークレットは実にそれらしい感じ。眼帯でもつけてれば、女の子版の思春期のソレだ。七番目、なんていうのも実にそれらしくていい。一番目から六番目は何なのか小一時間ほど問い詰めたいくらいだ。

 

 ソフィアはそんな思春期特有のアレなど知らないので、笑顔でセブンスと名乗った少女に向き合っている。

 

「セブンス……うん、よろしくね!」

「うん、よろしく、ソフィア」

「それじゃあアランさん、行こうか!」

 

 ソフィアが先に立ち上がり、自分もそれに合わせて立ち上がる。ちょうど二人の少女に挟まれる形になり、まさしく両手に花なのだが、周りからの視線はそれに比例して倍は痛くなった気がする。

 

「えぇっと、聖王像って、歩いてどれくらいだ?」

「えと、普段ならここから十分くらいだけど……ちょっと人が多いから、もっと掛かっちゃうかもね」

 

 なるほど、自分はどうやらこの視線にあと十分以上は耐えなければならないといけないということらしい。それまでに衛兵さんに捕まったりしなければいいのだが。

 

 しかし、学院寄りから商業区の中心地に近づいているせいか、先ほどよりも人の往来が多くなっている。これは下手すればはぐれてしまいそうだな――そう思っていると、自分の左手が何者かに握られた。

 

「……えぇぇ!?」

 

 自分が驚きの声を発するよりも、何故だかソフィアの反応の方が早かった。状況としてはセブンスという子に自分の手が握られ、それをソフィアが驚いた顔で見ていると、そんな感じだ。

 

「……? 人も多いからはぐれたら大変だし、この方が合理的だと思うけど……?」

 

 セブンスと呼ばれている少女は、またキョトンとした顔で驚くソフィアを見ている。

 

「え、え、でもアランさんがその、嫌がってるかもしれないし……!?」

 

 別に生理的にイヤとかは無いのだが、衛兵さんリスクが上がることを考えると、総合すると嫌かもしれない――手を放してもらおうか、そう言おうと思って左隣を向くと、吸い込まれるような瞳でセブンスは真っすぐこちらを見ていた。

 

「……アランさん、イヤ?」

「い、いや? 別に、イヤじゃあないぞ?」

 

 そんな純真な目で見られてしまったら、流石に離せとも言い難い。

 

「む、むぅぅぅううう……!!」

 

 逆側から呻くような声が聞こえてきて、何事かと振り向く前に「えいっ!」と声が聞こえ、今度は右手がソフィアによって握られてしまった。

 

「こ、こっちの方がはぐれないし、合理的だから!!」

「お、おぉ……そうかもしれないが、あんまり大きな声を出すとさ、ほら、周りの皆さんがビックリしちゃうだろう?」

 

 顔を真っ赤にするソフィアを尻目に、改めて周囲を見回すと、あからさまに自分たちの方へと視線が集まっている。先ほどは撤回したが、今度ばかりは違うんですと言い訳したい気分になった。

 

 ともあれ、半分死んだような心地になりながら、半ばソフィアに引っ張られる形で人ごみを掻き分けて進む。ソフィアが妙に早歩きなおかげか、予想よりは早くセブンスの待ち合わせ場所に到着することが出来た。最初こそは視線が痛かったが、人ごみで良い感じにつないでいる手が見えなかったのだろう、途中からは周りのことも気にならなくなっていた。

 

 左手が離され、セブンスは像の前へと移動し、こちらを振り返って小さく会釈をしてきた。

 

「……二人とも、ありがとう」

「いやいや、俺は何もしてないさ……ここまで案内してくれたのはソフィアだからな」

「アランさんも、手を引いてくれた」

 

 何も言わずに握ってきたのは君だが、と言うのは引っ込めておいた。ともかく、セブンスはソフィアの方へ向き直り「案内ありがとう」と微笑んで見せた。

 

「そ、そんな……困ったときはお互い様だよ」

「ソフィアは優しい……でも、いつまで手を握ってるの?」

「はぅ……!!」

 

 ソフィアの上擦った声と同時に、右手も解放された。しかし、割と頭は切れるがマイペースで、時おり天然気味な我らが准将をここまでかき乱すとは、思春期特有のアレな子もなかなかのやり手である。

 

「……アナタ達は良い人だから教えてあげる。明日の夜、時計塔と王城には近づかないほうが良い」

 

 その声が聞こえた瞬間、人ごみを掻き分けて突風が走り――気が付けば、セブンスの姿はどこにも見当たらなくなっていた。

 

「……消えた!?」

 

 驚いて、周囲を見回してみる――ついでに、先ほどまで感じていた少女の気配も手繰ってみるが、視界にも入らないし気配も忽然と消えている。

 

「な、何が起きたんだ……?」

「分からない……もしかしたら不透明化する魔術かもしれないけれど……」

「いや、それは違うな。もうあの子の気配が全くない」

「そっか……でも、気になることを言っていたね……?」

「あぁ……」

 

 明日の夜、時計塔と王城には近づくな。良い人だからと理由がついていたことを察するに、あまり良い意味ではなさそうな気がするが――。

 

「……アランさん、明日は王城の舞踏会に出るのかな?」

「あぁ、テレサに誘われてる」

「そっか……アランさん、どうする?」

「どうするも何も……予定通り参加するさ。何もなければそれでいいし、何か危険なことがあるなら、多少荒っぽいことに覚えがある奴がいたほうが対応できるかもしれないしな」

「うん……やっぱり、アランさんだね」

 

 ソフィアはそう言いながら微笑んだ。

 

「そういうソフィアは? さすがに准将殿だ、明日の祝賀会自体には参加するんだろ?」

「うん、でも祝辞を読んだら家に帰って来いって言われてるから、舞踏会は欠席する予定だったよ」

「そうか、それじゃあ自宅で待機……」

「うぅん、私は夜間に学院の方へ行くよ。幸い、外に出る名分はあるから」

 

 ソフィアはコートの内側に手を入れ、先ほどウイルドから渡された封筒を出して見せた。ソフィアの実力を疑っているわけではないが、万が一ということもある――出来ればあまり無茶はしないでほしいのだが。

 

「いや、しかし……」

「あのねアランさん、私だってアランさんが無茶しないか心配なんだよ?」

「う、むぅ……」

「それに、あくまでも万が一に備えるってだけ。さっきのはちょっとした悪戯みたいなモノで、何事もないかもしれないし……それに、学長には相談しておくよ。あの人は祝賀会でも外に出ないだろうから」

「学長って強いのか?」

「うん、少なくとも、私とディック先生よりは……二人で束になっても敵わないかも」

 

 魔王征伐に参加していた、この世界の最上級の魔術師が束になってもかなわない人が近くにいてくれるのなら、確かに少しは安心か。

 

「……あの子、私たちのことを知っていて近づいて来てたのかな?」

 

 ソフィアはセブンスが消えた場所を見つめながらポツンと呟く。

 

「……いや、本当に偶然じゃないか? 楽観的すぎるかもしれないが、俺は置いておいてもソフィア・オーウェルにテロ予告なんかしたら、自分の首を締めるだけだぞ」

「確かに……でも、アランさんのこと、知ってるみたいだったから……」

 

 そう言われても、自分としては文字通りに記憶にない――まさかレヴァルに居た訳でもないし、あの痛烈なファッション、そうでなくとも人目を引く綺麗な子だったから、見たらもう少し記憶にあると思う。

 

 それならば、やはりジャド・リッチーが見た少女であったのか、それとも向こうの完全な勘違いだったのか。どちらかは分からないが――。

 

「……何事もなけりゃ良いんだがな」

「うん、そうだね……」

 

 ソフィアも自分も、どこかうわの空でセブンスが消えた場所をじっと眺めていた。そして、これはきっと杞憂ではない――どこかそんな確信もあった。

 

 ◆

 

 先ほどまで会話していた青年と少女が目の前から消え、気が付けば建物の屋上に居た。むしろ、現在自分は誰かの腕に抱きかかえられているというほうが正確か。

 

「……セブンス、あの二人が誰だか知っていて近づいたのか?」

 

 その声は、自分を抱きかかえている男の方から聞こえた。

 

「うぅん、知らない。でも、アランさんの方は、何となく見覚えがあった」

「ふぅ……そうか。しかしとんでもない相手に予定を知らせてくれたものだ」

「そうなの?」

「あぁ、あの二人はハインラインの器の仲間……アランの方は、原初の虎と推定されている男だ」

「原初の虎……あの人が……」

 

 原初の虎というのはゲンブから聞いていたが、あの人がまさかその張本人だったとは。想像していた人とあまりに雰囲気が違ったから、そう言われて少々驚きが隠せない。

 

「……ねぇ、T3」

「なんだ?」

「原初の虎って、人殺しなんだよね?」

「あぁ、そうだ」

「そうなんだ……そんな感じはしなかったけど……」

 

 むしろ、どこか温かみと懐かしさを覚えて声を掛けた次第なのだが――しかし、重要なことをもっとも知らせてはいけない部類の人たちに言ってしまったのだ、これは問題かもしれない。

 

「……計画は変える?」

「いや、街の被害を抑えるには、人々の動きをある程度コントロールしやすい明日しかない……決行は揺るがない」

「そう……ごめんね、T3」

「いや……」

 

 銀髪のエルフは、顔を背けながら黙ってしまう。長い髪で眼が隠れ、どんな表情をしているか読み取れない――彼は自分に対しては常にこういった態度を取る。

 

「……私のこと、嫌い?」

「そうではないが……あまりお前と話すつもりもない……しかし妙だな」

「何が?」

「セブンス、お前は人里に出たのは初めてだろう。それなのに、何故見覚えがあるなどということがあるんだ?」

「さぁ……オリジナルの記憶かな」

 

 魔王城で感じた胸のざわめきは、自分のオリジナルがあそこを知っていたから――いや、しかしアランのことに関してはオリジナルの記憶でもあり得ないはずだ。

 

 なぜなら、自分のオリジナルが生きたのは三百年前――エルフやドワーフならまだしも、人間は生きながらえているはずなどないのだから。

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